ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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75.夜間飛行(1)

「本年度の寮杯を獲得した寮は……グリフィンドール!」

 

 ホグワーツの大ホールでダンブルドア校長が高らかに宣言し、グリフィンドールのテーブル中で喝采が上がる。

 皆で祝い合っている中……ガシッと僕の腰は後ろから掴まれた。ジョージとフレッドだ。

 

「さあ、今年の優勝の立役者だ。3戦連続のゴールデンスニッチ」

「実に印象的! ポッター教授が用意した前評判のハードルを軽々超えていった」

「こんなときに飲むのはもちろんバタービールだ!」

「さあ飲め! さあ飲め!」

 

 双子は器用にも浮遊呪文まで使って僕の口にバタービールを何本も突っ込む。

 制服の襟元までバタービールびたしになったところで一本ひったくられ、そのまま抱きつかれた。

 キャプテンのオリバーだ。

 

「ハリー、愛してるぜ! 来年もこの調子で頼む!」

「おっ。熱々だなお二人さん」

「来年はハリーに任せてほどほどにするかな」

「なに! それは許さんぞジョージ、いいか、いくらシーカーが優秀でもビーター戦で負けていたら不利は否めず……」

「うわっ! 冗談、冗談!」

 

 軽口を叩いたジョージさんにウッドさんが本気のトーンで詰問を始めると、さすがのジョージさんも一歩引いて発言を撤回した。

 大騒ぎする僕らを、ダンブルドア校長は手を叩いて一旦鎮める。

 

「グリフィンドールの諸君。祝賀会は終業式が終わったあとに頼むぞ。さて、昨年から恒例になったポッター教授への無制限のイタズラ解禁は今をもって……」

「待て待て待て! いつから恒例になったんですか校長! それとフレッドとジョージ、杖を抜くな!」

 

 昨年の大騒ぎがそのまま公式行事として取り入れられようとしている。

 寮杯の負けの溜飲を僕のパパで下げたいのか、各寮のいたずら者たちが目を光らせ始めた。

 

「まあ、今年はジェームズはなにもしとらんからのう」

「そうですよ校長。なにせ今年は俺の息子ハリーのおかげでグリフィンドールの快勝、圧勝、歴史的大勝ですからね! 小細工をする理由もなし! せいぜい、念には念を入れて大ホールを複製して偽の会場を用意しようとしただけで……」

「……うむ。式の終わりをもって解禁とする」

「校長!」

 

 僕らの席からでもマクゴナガル先生がため息をついたのが見えた。まあ、随分と迷惑をかけてるもんね……

 つつがなく終業式は終え、追い回され始めたパパを尻目にスリザリン寮のある地下のほうへ近づく。

 何事もなければ今朝にはダフネさんに手紙が届いているはずだ。文面に関してはシリウスおじさんのアドバイスを受けて書いたものだから少し心配だけど……

 ぞろぞろと寮に向かって行進するスリザリン生たちに近づくと、トレーシーさんが手を振ってくれた。

 

「グリフィンドールおめでとう。うーん。この視線の集まりを一切意に介さないとかハリーくんやっぱり結構大物ね」

「え? なんの話?」

 

 言われてみると、スリザリン生は僕を恨めしげに睨んできている気がする。

 うーん……まあ、今年はちょっと目立っちゃったからなあ。仕方ないよね。

 

「ダフになにか用事? すぐ呼んでくるわ」

「うん、そうなんだ。ありがとう」

 

 そういったトレーシーさんが姿を消して数分後、地下のあまり人気のない脇道で手招きするダフネさんが見えた。

 どうやら手紙はしっかりと届いたようだ。ダフネさんの腕に留まったヘドウィグは耳の裏あたりを撫でられて心地よさそうにしている。

 開口一番、ダフネさんは封筒を取り出して僕に突きつけてきた。

 

「まったく、随分とキザな宛先ね。どこで覚えてきたのよ」

 

 そこには……「ホグワーツで一番美しい魔女に向けて」と書かれている。シリウスおじさんのアイデアだ。

 ちょっと不安だったけど、言葉とは裏腹に不満に思っているわけではなさそうだ。

 

「ほら。ずいぶん目立ってるわよ。もっとこっちに来て」

 

 そう言ってダフネさんは僕をスリザリン生の群れから引き剥がし、脇道に引っ張り込んだ。

 

「え、そんなに目立ってる?」

「自覚ないの? ほとんど目の敵みたいなものなのに……まあ、私とかマルフォイとか、同学年のスリザリン生とも親しいのが周知されてるから睨まれる程度だとは思うけれど」

 

 そう言われても、多少張り詰めた雰囲気は感じるものの脅威に思ったことはない。

 パパとかシリウスおじさんとかに相当いろいろ吹き込まれ、入学前にいろいろ悪いイメージさせられてたから、むしろ現状は拍子抜けしている部分さえある。若かりし頃のスネイプ教授と半ば致死性の呪いを撃ち合ったとか武勇伝のように話してたけど、ホントなのかな?

 もし、今のホグワーツでそんなことをやったら……アルコールの持ち込みから不純交際まで取り締まっている警備局のアラスター・ムーディさんがどこからともなく現れて、喧嘩両成敗で双方フェレットに変えられそう。

 

「手紙でも書いたけれど、招待ありがとう。7月5日ってダフネさんの誕生日だよね?」

「あら。しっかり覚えててくれてたのね」

 

 忘れるわけがない。

 去年、僕の誕生日を祝ってもらったあと、ママに促されてしっかりとダフネさんの誕生日を確認した。

 もうそのときには過ぎてたから少しがっかりしたけれど、だからこそ来年こそしっかりと祝う姿勢を見せようと思ってしっかりと記録しておいた。

 ダフネさんから届いたグリーングラス邸への招待状には日付だけで詳細は書かれていなかったけれど、おそらく誕生日パーティーなのだろう。

 そう察した僕はできるだけ丁寧かつ魔法族の上流階級に対しても失礼にならないような文面で返事しようとシリウスおじさんに頼むことにした。(パパはあまり頼りにならなそうだったので。ママも『魔法界のプロトコルは正直あんまり自信ないわね』と話していた)

 手紙で訊ねてみたところ、型破りを自らのアイデンティティにしているシリウスおじさんからは「こんなどうでもいいこと別に……まあ、役立つといえば役立つとは思うし、そういう儀礼に沿った所作を好む女性は一般的だから……でもなあ……あのクソババアから教わったことなんて忘れたいぐらいで」と複雑そうな顔がありありと見える返事が返ってきた。

 まあ、シリウスおじさんは僕に甘いから、コリンに頼んで撮ってもらったクィディッチ中の僕の写真を同封して再度お願いしたら、きっちりと返信に関わる礼儀作法を叩き込んでくれた。

 その勉強の甲斐もあってついに今朝、会心の出来と思われる文面ができたから(「寝不足と試験が終わった開放感でハイになってるだけだよ、それ」とディーンは言っていたけど気にしないことにした)今朝ヘドウィグに任せて届けてもらった。

 同じホグワーツにいるのだから口頭で伝えればいいんじゃないの? と思うんだけれど、手紙で伝えるのが正しい作法らしい。

 

「忘れられてたらどうしようかと思ってたわ。だから試しに日付だけ書いてみたんだけど」

「そんなことないって!」

「そう? 私、まだハリーくんのこと信用しきっていないし」

「うーん……言葉に棘を感じる」

 

 まあ、クィディッチ関連で危険なプレイをしまくるとか、今年はずいぶんと心配をかけてしまった。そんなに怒ってないように見えるけど、内心やっぱり思うところはあるのかな……

 

「棘というよりは毒ね。私の名前の由来は、ダフネ=ローレルって植物だそうだから」

「あ、ギリシャ神話のほうじゃないんだ」

「さすが魔法史オタクね。まあでも、間接的にそれが由来とも言えるけれど」

 

 ギリシャ神話には、ダフネと呼ばれるニンフがいる。

 アポローンを疎んでいるにも関わらず、彼に熱烈に求愛された彼女はその求愛から逃れるために自分を月桂樹に変えた。

 この逸話から、ギリシャ語で月桂樹のことをダフネと呼ぶそうだ。けど、どうやらダフネさんの名前の由来は神話の女性でも、月桂樹でもない様子。

 

「ロンドンの肌寒い初夏の日。私が生まれた日に、庭で遅咲きのその植物が綺麗に花をつけてたもんだから、母が勢いで命名しちゃったらしいの」

「へえ! じゃあ、今年も見れるかな?」

「かもね。でも触れたりしないようにね。うちの庭にはそんな植物が山ほどあるけど、例に漏れず猛毒だから」

 

 そう言ってダフネさんはニコリと笑った。ちょっと怖い。

「ところで、ホグワーツ特急の帰りの便はどうする? 今年は一緒に帰ってもいいかしら?」

「ああ……お誘いありがとう。でも、今年は僕、ホグワーツ特急に乗らないんだ。パパがホグワーツに残って、あとママもこっちに来てダンブルドア校長の手伝いをするみたいだから、僕も少し残って家族で帰るんだ」

「そう。残念ね。来年の選択科目、どれを取るかとか話そうと思ってたんだけど。でもすぐ会えるしね。そのときに話しましょうか」

「そ、そうだね。うん。すごい楽しみ」

「私もよ。それじゃあね」

 

 そう言って。手を振ってダフネさんは去っていった。

 うん。やっぱりお世辞抜きに彼女がホグワーツで一番美しい魔女だと思う。

 僕のところに戻ってきたヘドウィグを労う気持ちで一首元を撫でてあげた。特に指示を出さずともダフネさんに届けたみたいだし、さすが僕のふくろうだ。

 

 

「じゃあなハリー。また9月にな。来年は負けないぞ」

「はっ。言ってろマルフォイ。ハリー、夏休み暇なら隠れ穴に来いよな! クィディッチの試合でも見に行こうぜ」

 

 ホグワーツ特急に乗り込んで去っていくみんなを見送って手を振る。

 ロンとその隣の車両に乗っているドラコはわざわざ窓から顔を出し、駅のホームを通して言い争いをしていた。そこまでやるなら同じ車両に乗ればいいのに。

 僕だけが残されるのは寂しい気持ちもあるけど……実は、少しワクワクしてる。

 だって誰もいないホグワーツだよ! 「ホグワーツの歴史」に載っていた伝説を検証する格好のチャンスだ。

 

「おうハリー。俺の事情でホグワーツに残してすまんな……と思ったが、むしろ楽しみのほうが大きいか? そりゃそうだろうな、格好のホグワーツ冒険日和だしな!」

「いや。そんなこと考えてなかったよ」

 

 乗り遅れている生徒やトラブルがないか見回りをしていたパパが隣に来て、僕の内心を当てたもんだから、ドキリとしたものの否定してみせる。

 

「ホントかー? 嘘つくなよ、俺がお前を育てたんだぞ、手にとるようにしてわかる……例えばそうだな、ミス・グリーングラスの一番好きなチャームポイントは……ズバリ髪、綺麗な金髪の直毛だろ!」

「……さあ。どうだろう」

 

 パパはズバズバと言い当ててくる。

 いや、別に髪だけが好きなわけじゃなくて、全体を通して好きだから当てられたわけではないし。

 

「そうやって俺に反発してもお前は俺の息子なんだよ! 真面目なフリしてるが、俺がいなくなってリーマスとシリウスとピーターだったらシリウスに懐くタイプだ!」

「し、シリウスおじさんなんかそんな好きでもないし! パパに輪をかけてのトラブルメーカーだったってママもスネイプ教授も言ってたから!」

「ふっふっふ、お前も直に……俺たちトラブルメーカー一族に近づく! フレッドたちからイタズラ好きの血を受け継いでいる旨しっかり聞いてるからな! アイム・ユア・ファーザー!」

「わあああああ! もう、あの双子ったら!」

 

 どうやら透明マントを使って双子、ロン、ネビルやディーンなどグリフィンドール生で散々遊んでた件はしっかりと伝わっていたらしい。

 ジョージもフレッドも口が軽いんだから……

 これ以上掘り返されると不都合な話がどんどん出てきそうだ。話題を変えてみよう。

 

「ピーターってのはペテュグリュー魔法医のことだよね。リーマス、ってのは?」

「ああ。あいつは……ハリーの友達で言うとミス・グレンジャーっぽいタイプかな。一見、線は細いけど芯は太い。成績も良くてかなりの科目で面倒見てもらってたな」

「へえ。今どこにいるの?」

「わははは! リーマスの話をしとるのか、お前さんたち?」

 

 パパの友達であるリーマスさんがどんな人か尋ねてみたタイミングで……突然、後ろから大男に抱きかかえられた。

 うわっ! すっごいでっかい人だ。2メートルは軽く超えてそう……

 

「んで、お前さんが噂のハリーだな?」

「おお、来たかハグリッド。久しぶりだな。リーマスは元気でやってるか?」

「もちろん。うちの牧場の経営はリーマスのおかげでずいぶん上向いちょる。やり手だな、あいつは!」

「えーと、この方は……?」

 

 突如現れたハグリッドという男に面食らいながらも、顔を見て何者か尋ねてみる。彼は、ニッコリと笑ってゆっくりと地面に降ろしてくれた。

 

「俺はルビウス・ハグリッドっちゅうもんだ。牧場主でな、リーマスはそこで仕事しとる。今日、ここに来たのはちょいとした営業っちゅうやつだな。普段はリーマスに任せてるんだが、日曜に……まあ、ちょいとした病気の問題があってな。俺が来た」

「仕事って言うと……?」

「うむ。見せてやるからついてこい!」

 

 どうやらハグリッドさんが連れてきた何かは禁断の森の近くにいるらしい。

 確かにそこには普段はない柵で囲まれてるエリアがあって、中には……まったく見たことのない魔法生物が数頭走り回っていた。

 

「めんこい奴らだろう? うちが作った新種のスクリュート、『尻尾役立つスクリュート』だ! 役立つと名付けられてるだけあってな、人懐っこいやつで命令を聞かせられるんだ」

 

 そう言ってハグリッドさんは抱きかかえられたスクリュートという魔法生物の尾でビシビシと頭を打たれている。かなり強い勢いで叩いてるけど、ほんとに人懐っこいの……?

 

「お、おう。確かに、前牧場で見た尻尾が爆発してるやつとか酸を撒き散らすやつらとかよりはフレンドリーに見えるな……」

「そうだろう! 魔法生物の牧場っちゅうのは儲ける手段は結局素材ぐらいしかなかった。しかし! こいつらは違う。ちゃんと躾けりゃあ、荷物の護衛ぐらいできる見込みだ。リーマスが言うところの()()()って仕組みで都度貸し出すようにすれば、高い回転率で高収益、っちゅうのが計画だ。今回はそのテストで、出発点がスコットランドでな。ついでといっちゃあなんだが、ホグワーツにも寄らせてもらった」

 

 見る限り、あまり知性とかそういうのを感じる魔法生物じゃないけど……ほんとに荷物の護衛なんかできるの?

 

「えーと……これが荷物の護衛を?」

「そうだ。今回はテストっちゅうことで俺もついてくが、将来的には無人にする予定だな。命令するときに居合わせた人間の顔を……まあ、3日ぐらいは覚えてられるんだ」

「知らない人間が近づくとどうなるの?」

「こいつらなりの形で荷物を守ろうとしてくれる。まあ、うっかり近づいたやつも死にはせんだろう」

 

 物騒すぎる気もするけど、まあ魔法使い相手にはそれぐらいの抑止力がいるのかな。

 

「でな、ハリー。その荷物ってのは週末に使う投票箱でな。俺とリリーは選挙の手伝いをする予定なんだ。それにハリーもついてきてくれないか? そのまま魔法省の選挙管理室に合流したら、ハリーも中を見ていいとダンブルドア校長はおっしゃっていたぞ」

「え! 選挙管理室の中を!?」

 

 イギリス魔法界の歴史的建築物で、中世を代表するものがホグワーツだとしたら近代の代表は魔法省の建物だ。

 一般に公開されてる場所もあるし、僕もいくつか見せてもらったことはある。けど、その中でも一番歴史が古く、貴重な部屋の一つが選挙管理室だ。

 魔法大臣(の前身)を選出する仕組みができたころにはもうあった部屋だそうで、魔法省を動かすための魔法契約の仕組みがこの部屋に詰まっていると言われている。

 たとえ大臣の交代があっても対抗馬がいなければ選挙はなく、この部屋が開かれることはないから……中を見れるとなれば本当に貴重な機会だ。でも……

 

「えーっと、手伝いってのは投票箱と一緒に行くの?」

「そうだ。まあ、ちょっと長い距離だが箒を使ってのピクニックみたいなもんだな。前日はちゃんと早めに寝とけよ!」

「この……スクリュートって生き物と?」

「……そうだ」

「安心しろハリー。俺もちゃんとついていくぞ! このめんこい奴らがちゃんと仕事できるか見ないと行けないからな!」

 

 はっはっは、とハグリッドさんが笑う。

 

「えーと……先に省に行って待っててもいい?」

「あ! ズルいぞハリー! 俺だってそうしたい……いや、家族仲良く箒ドライブ、楽しみだな。天気のいい満月の夜みたいだしな、はっはっは」

 

 そう言ってパパは身を翻して去っていた。もー。こういうとこがよくないんだよ。

 そんな風に考える僕もパパも実に気楽なもので――投票箱の護衛という任務で、危険にさらされるなんて露ほども思っていなかった。

 

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