ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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79.ベイビー・ドライバー(2)

「解決策があまりにも荒すぎる。この数年でグリフィンドールに染まってしまったのではないか? 取り返しのつかぬ損失だな」

「開口一番皮肉ですか、ルシウス。まったく……まったく!」

 

 服従の呪文から解き放たれて、最初に放つのがこれだ。まったく、このスリザリン贔屓の先輩と来たら。

 ルシウスは私の顔を見て、口角を上げながらこうのたまった。

 

「涙ぐむぐらいならば私など見捨ててしまえば良いものを。ここまで入り組んだ手はとても狡猾とは言えんぞ」

「涙ぐんでなどいませんが?」

「そうやって無駄な意地を張りおって」

 

 服従の呪文が解けたルシウスは体を起こす。

 感動の再会……と言うには随分締まりが悪い状況ではあるが。

 グリップフックは我々の様子を見て、どうやら私の目的がなにか察したようだった。

 

「……プリンス、いえスネイプ様。この『盗人落としの滝』が本来の目的でしたか。もしや、ゴブリンの護りの技術を無断で盗み去るおつもりでしたか? なるほど、スネイプ様ほどの魔法薬学の知識があれば、現物さえあれば複製できると見込むのも無理はないでしょうが」

 

 グリップフックは、当初の目的である副頭取への対応が済んだにも関わらず私に怒気を向けてきた。

 やはりゴブリンに前払いなどするべきではない。

 

「そのような意図はまったく持ち合わせていない。事実、見てみると水そのものではなく滝に呪文を落とす効果があるようだ。とはいえ、グリップフックの権限はこの銀行内部にまで至っていなかっただろう。副頭取をここまでおびき寄せて服従を解くことで、よりよい取引ができると考えるのはゴブリンの価値観としても許容できる範囲と考えるが」

「……まあ一旦はそれで良いでしょう。利益に勝る弁明なし」

 

 グリップフックの予想は概ね当たっている。私の目的はルシウスを服従下から取り戻すこと。

 そのための道具があると聞いた私は作戦を練り、その滝を調べる機会を伺うことにした。グリップフックに伝えたヤックスリーの金庫にトム・リドルの犯罪につながる証拠がある……というのは嘘ではなく、可能であれば引き出すつもりではあったが、本命ではなくグリップフック向けのカバーだった。

 

「服従下の私はヤックスリーの金庫が目的と踏んでいたぞ」

「ふむ。せっかくですから奪いに行きますか?」

「不要だろう。なにせ、より大きな証拠が今ここにある。純血名家当主の証言付きでな。ドビー!」

「ご主人様! ど、ドビーはここにいます……!」

「……随分怯えているようですが」

 

 ルシウスの屋敷しもべ妖精は、かつての様子は見る影もなくルシウスに呼びつけられただけでビクリ、と体を震わせた。

 ルシウスはため息をつく。

 

「典型的な飴と鞭だ。私に虐待させることで通常、屋敷しもべ妖精には種族的に不可能な殺人という命令をリドルはこなさせていた。それだけ過激な手段を使っても任務を受けることができたのはドビーだけのようだったがな。ドビー、ヒトを害する任務はもう終わりだ。お前は再びマルフォイ家の雑務を取り仕切ることになる」

「……! ほ、本当! ドビー嬉しい!」

「手始めにウィゼンガモットへの緊急招集を行え。派閥のカテゴリ分けは覚えているか? 偽名派(インコグニート)紙虎派(ペーパータイガー)を除いた全員に送る手紙を可及的速やかに用意せよ。礼は失するがお前自身で届けるように。今から傍受されないふくろう高速便を用意するのは手間だからな」

「偽名派と紙虎派? 聞いたことのない派閥名ですな」

 

 わざわざ避けるということは、トム・リドルの周辺の人物なのだろうが。

 そう問いかけるとルシウスはニヤリと笑った。

 

「たまたま耳に挟んだお前のような者が勝手に意味を推測するような名前にしている。実際は無意味な単語……かもしれんな? そして、その二派は審議に三十分遅れるように手配しろ。場が温まった頃に到着するようにな」

「相変わらず悪辣な……」

「法執行部を飛び越えて、ウィゼンガモットから直接闇祓い局に逮捕状を出すには3分の2を超える賛成がいる。トム・リドルに近しい人間からも賛成票をもぎ取る必要がある」

「ウィゼンガモット内のリドル派の規模としてはどれぐらいですか?」

「奴の伏せた札まで含めれば4割を超える。だが、勝算は十二分にある。私が服従の呪文にかけられていたことを知らない彼らからしてみれば、法廷の中心に私がいるだけで随分と動揺してくれるだろう」

 

 服従下でほぼ側近として動かされていたのだから、内部の情報にも明るいのだろう。どうやらウィゼンガモットにおける現状の勢力図もしっかりと把握しているようだ。

 

「さて、セブルス。お前にも来てもらうぞ。法執行部に務めた経験のあるお前が準備すれば、ウィゼンガモットのお面々ならしっかりと私の証言に証拠能力を認めるだろう。ナルシッサとドラコの顔をいち早く見るためにも、急いで奴を潰す」

「御意」

「奴はマルフォイ家の資産をずいぶんと勝手に売り払った……家財だけならまだしも私の貴重なコレクションも片っ端から二束三文で、だぞ? 庭の孔雀まで手放すとは。信じられん、孔雀など誰が買うというのだ」

「あなたのような人間では?」

「……まあいい。兎にも角にもマルフォイ家の当主として復讐は果たさねばならない」

 

 悪態で返すが、しれっと聞き流す。これぞルシウス・マルフォイだ。

 

 気絶した副頭取を活力呪文(エネルベート)で起こすと、ルシウスに対して指をさし自らに邪悪な呪いをかけた男だと騒ぎ始め、ひと悶着あったが……彼自身がトム・リドルに服従させられていたことを話し、リドルへの対応策の話をかいつまんで説明すると笑みを浮かべて同意し、ホグワーツとの協力関係を認めるとともに、ルシウス・マルフォイ個人に対する復讐は補償金なしで取り下げることを認めた。

 

「よろしい。では、極めて例外的な対応ですが……副頭取の立場に基づき、セブルス・スネイプとルシウス・マルフォイ両氏の行動をグリンゴッツ銀行への悪意を持った攻撃と認めず金貨の支払いなしで地上に出ることを認めましょう。寛大さに感謝することです」

「……私は、今しがた貴様の服従の呪文を解いてやったはずなのだが?」

「セブルスやめろ。付き合うだけ時間の無駄だ。そのうち利子がつくぞ」

 

 やはりいけ好かない連中だ。感謝の一言すら貰っていないぞ。

 副頭取が指を鳴らすと宙空に浮いたレールが曲がりはじめ……ゆっくりとこちらに降りてきた。

 それとともにトロッコが2台。私は乗り込もうとしたが、ルシウスに制止された。声を落として私に囁く。

 

「今から我々を攻撃するとはあまり思いたくないが……念の為だ。どちらに乗るかあの副頭取に選ばせろ。そしてそちらに我々は乗り込み、もう一つのトロッコにドビーともう一人のゴブリンを乗せよう」

「なるほど。流石に手慣れている」

「連中との付き合い方を覚えねば上流階級には上がれんぞ? セブルス」

「お気遣いなく。それに、財産と人脈をリドルに浪費された貴方はまだ上流階級の人間だとお思いに?」

「人が気にしていることを……!」

 

 グリンゴッツの内部ではさすがの屋敷しもべ妖精も姿あらわしなどはできない。ひとまず表に出る必要がある。

 ルシウスの指示通りにトロッコに乗り込み、地上に到達した。(直後、副頭取が浮かべていた笑みがどのような意味のものか私には読み取れなかった)

 再び私は残していたポリジュース薬を呷り、顔を変える。ルシウスの屋敷しもべ妖精は姿を消した。先程の命令に取り掛かったのだろう。

 

「懸念事項は一つ。スコットランドの投票箱だ。グレイバックやチンピラどもの攻撃は私が指示して行ったが、辿られないよう中止する連絡系統すら残していない。どうする?」

「我々が向こうに手をかければウィゼンガモット法廷での準備の時間がなくなります。独力で攻撃を凌ぐことを祈るしかない」

「だろうな。マーリンに祈るしかない。立会人は誰をつけた?」

「ポッターです」

「……グリフィンドールの? 念入りに祈るしかないな」

 

 まあ、あの間抜けなポッターがピクニック気分でもない限り……グレイバックはともかく有象無象のチンピラどもぐらいはなんとかするだろう。

 

 これで準備万端だ。私とルシウスは再びあの因縁の場所へと舞い戻る。

 向かうは、魔法省。

 

 

 ―――

 

 

「さてアラスター、もう入ってもいいかの?」

「まだだ。電話ボックスは調べたが、その下の受付に罠があるかも知れん。逃げやすい地上にいるうちに調べておくに越したことはない」

「うむ……熱心で実に助かるの」

「当選した暁にはグリフィンドール生の皮肉は法律で禁止すべきだな。あまりにも下手すぎる」

 

 魔法省の入り口となる地上の電話ボックスで、アラスターはしゃがみこんで入り口を調べていた。

 別にこの周辺はマグルも通らぬ道というわけではなく、人通りもそれなりにあるから周囲の視線が痛いのう……

 

「とりあえずは問題なさそうだ。行くぞ。ただし百パーセントではない……油断大敵!」

「わかっとる、わかっとる」

 

 アラスターがわしを制止して先に足を踏み入れ、問題が見つからなかったらしいのでわしを招き入れた。

 ボックスの中はエレベーターのように下っていき……魔法省の地下8階、アトリウムに着いた。

 

「お待ちしていました、アルバス・ダンブルドア様! 本日選挙を取り仕切らせていただく選挙管理局長、アデル・ビンズです。どうぞよしなに」

「ビンズ……? あのゴーストの血縁者か?」

「アラスター・ムーディ様、その通りでございます。もちろん、ホグワーツに親族がいるとしても公平中立が選挙管理局の局是でありますので、どうかご承知のほどを」

 

 アデル・ビンズ氏は、ホグワーツの講師でありゴーストでもあるカスバート・ビンズ教授の血縁者じゃ。たしか大姪だったかの。

 ホグワーツの卒業生であり、無論わしとも面識はあるのじゃが、選挙管理局の長らしくそれには触れずに案内を続けた。

 省内を移動するエレベーターに乗り込む。行き先は地下1階じゃ。

 

「こちらが、選挙管理室です。通常、大臣室とその関連部署しか置かれない、最も浅い階である一階にあるのは、この部屋が魔法省設立当初からあり魔法契約に使われていた由緒正しい部屋であり、実は私もお目にかかったことがないのです! 午前中覗きに来たのですが、リドル様の部下が『余計な人間になにか仕掛けられないよう監視している』と入り口を固めていましてね! それで……」

「ようやく来たか。ダンブルドア」

 

 部屋に入る手前で説明するビンズ氏のセリフを遮ったのは……既に中に座っているトムじゃった。

 もちろん、一人ではない。トムと親しいであろう人間が周囲を固めていた。

 

「わあ! トム・リドル様、もう到着していたのですね!」

「一週間ぶりじゃな。先日のダイアゴン横丁での演説はわしから見ても実に技術に富むものじゃった」

「……お前と話すことはない。結果は決まっている」

「確かに。わしらがこの部屋でできることはもうあまりないの」

「あー……部屋と手続きの説明、しちゃってもいいですか?」

「僕は不要だ。知っている」

 

 トムはこちらを少し睨んだのち、そっぽを向いた。

 

「選挙前の手続きなんてマイナーな規則ですのに、流石ご存知なのですね! では、ダンブルドア様にだけ。まず、この部屋の目的から! 選挙管理室はイギリス魔法省の前身である魔法使い評議会委員長の選出にあたって、3回に1回は不満に思った者と選ばれた者で殺し合いが発生した反省から設立されました!」

 

 淀みなくビンズ氏は話し続ける。うむ。ちょっと彼の面影を感じるの。

 

「この部屋には大臣候補者、および各候補者が認めた選挙管理局員、各候補者が認めた8名までの立会人のみが入室できます。現状わたくしも入室できない……つまり、私も今から入るのが初めてというわけでワクワクです! さ、契約用の書類です。確認の上サインを!」

 

 さっ、と書類と羽根ペンが手渡される。

 そこには局員欄にビンズ氏の名前がある。

 どうやら、同じ書類をトムは既に用意していたらしく、すぐにそれをビンズ氏に差し出した。

 

「選挙管理局長。僕のサインした書類だ」

「ありがとうございます! でもリドルさんは省にお勤めなのですから、こんなギリギリで提出する必要なかったんですよ! 例えば、立会人入室用の書類と同じタイミングでこれも提出するとか」

「法執行部局長はそれなりに忙しくてな」

「なるほどな。候補両者の同意がなければ選挙管理局員ですら入室できないわけか」

 

 アラスターが鼻を鳴らし、義眼でジロジロとその書類を確認している。

 

「もちろん、これは強力な魔法契約として部屋に認識され、拘束されます。魔法契約というのは著名なところで言えば炎のゴブレットの選出や破れぬ誓いなどで使われる古く強力な魔法体系でして……おっと! ダンブルドア校長にこのようなことを話すのはマーリンに説法ですね!」

「念の為だが……油断大敵だぞ、アルバス。迂闊にサインするな……この女が信頼できるかもわからんのだからな」

「アラスター、当人の前で言う必要はなかろう」

「いえ、正当な反応かと思います! 1752年にヘスパイスタス・ゴア氏は部下の闇祓いを使って選挙管理局員を脅迫していたと推測されていますので! ですがご安心ください。こちらをどうぞ!」

 

 そう言ってビンズ氏はやや古い証文のようなものを持ち出した。

 これも、先程差し出された書類同様……魔力の流れを感じるの。

 

「私が選挙管理局に就任したときの誓約書になります! この誓約書はゴア氏が退任した後に反省として作られたもので、まあ端的に言えば業務上の権限を私が悪用する意思を持った場合、死にます!」 

 

 ビンズ氏はニコニコとした表情から軽い様子で話した。まあ、古い魔法契約というのは得てしてそういうものじゃ。命を奪ったり、そうでなくとも当人から魔法の力をすべて奪ったりする。

 だからほとんど廃れたとも言えるのじゃが。

 

「おおーっと、みなさん。そんな湿っぽい空気にならないでください。当に覚悟済み、むしろこの程度の制約で歴史ある選挙管理室に立ち入ることができるなら大歓迎です! もし死んだ場合は当選した方に省付きのゴーストとして雇ってもらうつもりですのでよろしくお願いしますね! さて、サインを……はい、ありがとうございます。では中にどうぞ」

 

 書類にサインを加え、選挙管理室に入室する。

 部屋の中は2つのエリアに分かれておった。今いるエリアの奥はゲートで遮られ、椅子が2つ置かれている。

 

「はい。そしてここからが重要、いや今までの話が重要ではないという意味ではないんですけれどね! さてさて、この部屋は2つのエリアに分かれており、今いる手前側が立会エリア。奥側の領域は大臣候補エリアとされています。出入りは自由ですが、24時から開票が始まりますので結果が出揃うタイミングではあそこに座っているのが望ましいですね! ゲートは先月の公示日から稼働してまして、あそこを通過できるのは立候補したトム・リドル氏とアルバス・ダンブルドア氏だけです。替え玉は不可能ってわけです!」

 

 ゲートはそれ以外の部分を薄い透明な壁のようなもので遮っておる。相当に強力な魔法の護りじゃ。わしでも、いや有史以来存在した、ありとあらゆる魔法使いでも……あれを貫くのは相当に手間がかかるじゃろう。これだけ他の人間がいるこの部屋でとなると、それは不可能じゃ。

 早口で部屋の説明を行った彼女は、新たに書類を出した。今度は2部。わしとトムに差し出す。

 

「この契約が重要です……まあ、シンプルですね。これにサインした人は対抗する候補に対して悪意を持って攻撃することが禁じられます。部下に命じてやらせるのもダメですよ! 開票が始まる直前に確認して受理しますから、それまでに記入をお願いします! だいたい2時ぐらいまで効果を維持されますから、落選候補が殺気立っているのを感じた場合は1時間以内に安全なところまで逃げるか、その頃には開放されているであろう大臣室に籠城してくださいね!」

 

 うむ。魔法省を設立した魔法使いは実に賢かったことと、魔法使いの倫理観を一切信じとらんかったことがよくわかる仕組みじゃ。

 

「オススメは後者です! 長い歴史の中で、大臣室の中に逃げ込んだ魔法大臣が殺されたケースはなんとゼロ! 出てきたところを殺された、または服従させられたケースが3件あるだけです! 念の為ですが、魔法大臣が殺害された場合の臨時代理は前大臣になりますので……現大臣のクラウチ氏の攻撃にもしっかり警戒してくださいね!」

 

 ……まあ。トムが法執行部のトップにつき、おそらく現大臣のクラウチを傀儡にしている現実からもわかる通り闇は深いと思っておったが。

 さすが魔法省の中でも極めて独立性の高い選挙管理局。それだけ詳しいのは実際に局員が目にしてきたからなのじゃろうな。そして職務中に知った事柄は例え犯罪であろうとも見過ごす、と。

 

「では、しばしお待ちください! ワクワクドキドキですね! あと、呪いの撃ち合いはできればお控えくださるよう!」

 

 そう言ってビンズ氏はペコリと頭を下げると……いつでも抜けるよう、杖ホルダーに手をかけたままのトムの立会人たちとの睨み合いとなった。

 もちろん、わしとアラスターも同じように対応する。さすがに向こうもここでドンパチを本気でやる気とは思わんが……まあ、快適な待合室とは言いづらいの。

 

 

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