人は常に疑ってかかるべきで、省の人間などほぼ全員リドルの息がかかっていると見るのが妥当だろう。その点で、
「投票締め切り時刻からもう一時間! 前例どおりであればイングランド地区の票が届く頃です! 各投票所の小さい箱が地区単位の中ぐらいの箱に収まり、そして最終的にここにある最も大きな箱に格納される……実に美しいシステムだと思いませんか!」
「そうじゃの。素晴らしく洗練された仕組みじゃ」
しかし、今のところは……この小娘は中立のように振る舞っている。もっといえばレイブンクロー生によくいる目の前の知識に酔ってるクチに見える。それすら擬態かもしれんが……現状、最優先で警戒すべき相手ではなさそうだ。
選挙管理室にノックの音が響いた。
殺し屋が丁寧にノックして入るとは思わんが……油断大敵! 念の為、アルバスを入り口から遮るように立つ。
扉が開くと……ああ、こいつを儂は知っている。最も警戒すべき対象の一人だな。
男は浮遊した投票箱とともに入室した。
「イングランド担当立会人、アントニン・ドロホフだ」
「ああ、やはりイングランド担当が一番乗りでしたね。確認しますよ!」
アントニン・ドロホフ。リドル派であることを隠さない連中の中でも最も危険な魔法使いの一人だ。
一見、明確に中立でない人間に立会人というものを任せるのはリスクが伴うように見えるが……そこは色々と事情がある。
一つは魔法界において選挙はかなりのレアケースということだ。数年に一度あるかないかの出来事のために、中立な立場を維持するインセンティブを持つ
もう一つは……このシステムを設計したやつは魔法使いの言う「中立」とやらを一ミリも信じていなかったからだ。儂もその考え方を支持する。立会人は魔法契約によって拘束され、投票箱を届ける上で責任を負わされる。無論、その契約を部下に結ばせたわけで切り捨てる手はあるが。
だが、アルバスはしっかりと最大の票田と見込んでいるスコットランドの立会人にポッター一家をねじ込んだ。ゆえに、懸念すべきはあのジェームズがポカをしないかどうかというわけだ。
「ふむふむ……不正な事前開票や票の改竄はないですね。よろしい。イングランド地区立会人から確かに選挙管理局長が受理いたしました!」
不審な呪文など唱えないか注視していたが、手続きは問題なく進んだようだ。残る投票箱は3つ。ウェールズ、アイルランド、スコットランド……これらの地区からのものだ。
最も近かったイングランドに続いてウェールズの投票箱が届く。
少し遅れて、アイルランドも。
「こちらも確かに受理いたしました! しかし少し変ですね。例年、アイルランドから投票箱が届くよりもスコットランドからのほうが早いはずなのですが」
これを偶然と思うのは間抜けだ。
やりおったな? トム・リドルめ。大方直接繋がりのない手下にでも仕事を投げたのだろう。
ドロホフが機と見たか。口を開いた。
「仮にだが……このままスコットランドからの投票箱が届かなかった場合どうなる?」
「はいっ!? そ、そんな例外的事項は……えーっと……あ、ありましたね。『投票箱が24時までに届かない場合、紛失とみなしそれ以外の票を持って開票作業を行う。紛失された投票箱が見つかるか、1ヶ月経過するまで暫定の当選者は仮の魔法大臣とみなす』だそうです!」
「仮の魔法大臣、というのは魔法大臣と権限がなにか異なるのか?」
「いえ、なにも変わりません。票が見つかり逆転が起きた際に立場を失う以外は」
「なるほど。了解した」
確認する口ぶりだったが……奴らの連中の間でしっかりと共有されていた規則なのだろう。今、ここで選挙管理局長に口にさせたのは念押しであり、儂らへのプレッシャーだ。
仮でもなんでも魔法大臣になれば、儂らなどどうとでも扱えるからな。そして、よほどの間抜けを雇っていない限りは、24時を過ぎて届かなかった投票箱が二度と見つかるわけがない。
「おいアルバス。スコットランドの票なしで勝てる自信はあるか?」
「勝ち負け以上に重大なことは、スコットランドで投票した魔法使いの票がすべて失われるということじゃ。そうならぬよう、ジェームズは手を尽くしてくれるに違いない」
「それは願望だぞ、アルバス。今重要なのは勝てるか、負けるかだ。それが現実主義というものだ」
「現実主義という話なら、今更どんな予測を立てても何も変わらんじゃろう。待つだけじゃ」
「そうか? 敗北が確定する前にこの部屋に致死の霧を注ぎ込んで逃げたいというなら付き合うぞ」
「『マッドアイ』の噂はよく聞いていましたが、選管の前で対立候補もろとも殺す話よくできますね……」
とはいえ、一にも二にも必要なのはまずは勝利、そのための票だ。時計は23時半を指し示す……無情にも時は刻々と進んでいく。
「いやー、どうしたものですかねえ……通例でしたらそろそろ開票前の『お互いに選挙が終わっても2時までは仲良くしようね誓約書』の記入をお願いするところなのですが……ひとまず、先にサインしてもらっていいですか?」
「いいだろう」
「わしももちろん同意する」
「これサインしたら毒霧を注ぎ込むとかできなくなりますからね。ご理解いただけてるとは思いますが、念の為。非常に強い魔法契約ですから、基本的にサインした以後は相手に殺意を持って杖を振るという意思が縛られます。それでも無理にやった場合は死んだりしますので、どうかご遵守いただけますよう!」
チッ。
アルバスはもちろん、トム・リドルもおとなしく記入を始めた。
これでトム・リドルはもちろんだが、最強の戦力であるアルバスも自由に動けなくなる。負けたら偉いことになるのは間違いない。明日の朝には仲良くアズカバンなどという事態になったら死んでも恨むぞ、アルバス。
二人がサインを終えた時点で…‥バタバタと廊下で慌てた様子の足音が聞こえた。
「リドル様! ご報告したいことが……」
ノックもせずに入ってくるとは馬鹿者め。あんな慌てた様子の人間をよこせば、リドルに都合が悪いことが起きたのが儂らにも明白だ。まともな部下の教育もできないとはな。
トム・リドルは舌打ちし、不機嫌な様子を隠さずに入ってきた若手に怒りをぶつけたので、思わず笑ってしまうと……この程度のことでドロホフやら奴の忠犬どもが殺気を向けてきた。
そのズレた忠義心も含めて笑えてくる。儂の笑いのツボを的確に押してくるな。
「一旦離席する。問題ないな?」
「ええ。日付が変わる前には戻ってきていただければ」
「よろしい」
そう言って足早にトム・リドルが出ていく。
数分後……それと入れ替わるように、薄汚れた姿のジェームズと投票箱が届いた。なるほどな。これを報告しに来ていたのか?
「ジェームズ……! よく、よく届けてくれたの!」
「大遅刻すみません、ダンブルドア校長!
「いえ、時間上は問題ありません! よかったです! チェック魔法の結果……不正な事前開票や票の改竄もなし! オールオッケーです! ……というか、何があったんです? 魔法がかかってる投票箱は自動で動きますから、遅刻させるほうが難しいと思うんですけど」
「フェンリル・グレイバック、あとチンピラみてえな連中に襲われたんだよ。勝手に動かれると困るから
「はー。グレイバックですか。選挙自体が気に入らない、みたいな連中ですかね? ともかく了解です。受理いたしました!」
ふん。トム・リドルに選挙への敬意が一厘もないのがよくわかる。せめてもっとまともな人間を雇うべきだっただろうな。トム・リドル本人が雇って攻撃させれば魔法契約に違反する可能性があるだろうし、部下に詳細は伝えずに任せた結果……そいつに動かせるカネが大してなかったか、あるいはケチったか、というところか? どちらにせよ間抜け極まりない。
だが。ジェームズ。これは大仕事をやってのけたな。
「おい、ジェームズ」
「ひっ、局長! この失態、重ね重ねすいません!」
「いや。実に良くやった。お前一人でやったのか?」
「途中までは家族と、あとルビウス・ハグリッド氏に同行してもらいました。グレイバックはともかく、その他のチンピラは護衛につけてもらったスクリュートって魔法生物がだいたい蹴散らしてくれて。まあ、投票箱から引き剥がすのに死ぬほど苦労した結果この薄汚れたカッコなんですが……」
「ふん。褒めすぎたようだな、間抜けめ」
「そんな! もっと褒めていいんですよ!」
儂に褒められて図に乗ったジェームズの脛を軽く蹴り、再び椅子に座る。
先ほどまでの空気はガラッと変わり、儂の義眼から見てもトム・リドル陣営の連中の動揺が見て取れた。
まあ、こちらもジェームズが能天気極まりない挙動をしていて(選挙管理局長に向けて、部屋の由来だの歴史だのなんだのひたすら質問していた。それは本当に開票の15分前にやることか?)、アルバスはそれを穏やかに見つめているような有様だったから、向こうを笑えるほど統制が取れている状態ではないが。
「ええ! そうですね、ですからこの柱も実はドーバーから持ってきた700年ものの白亜のものでして……おっと! 大変楽しいお話でしたが、そろそろ開票の時間ですが……リドル様がまだ戻ってこられていない感じですかね?」
「いや。戻った。遅れて申し訳ない、選挙管理局長」
「いえいえ、とんでもない」
少し遅れて、意外にも先ほどよりはマシな機嫌に見えるトム・リドルが部屋に戻ってきた。
ふむ。ジェームズを止めきれなかった報告を受けたとみたが……開き直ったか? それとも別の話だったのか?
「先ほどまで仏頂面はどうした、トム・リドル? ずいぶんと楽しそうじゃないか、え?」
「黙れ、マッドアイ。貴様と話したくなどない」
「ほう。望んだ人間としか話したくないという人間がイギリス魔法大臣とは。笑止千万だな」
憎々しげに儂をトム・リドルが睨んでくる。
「それは賢明な言動とは言えんぞ、アラスター。いま舌戦などしては開票を始めたいビンズ氏が困っておる」
「い、いえ。とんでもない……まあ、その、全員いらっしゃるようですので開票を始めます! 格納された上から順ですので、最後に到着したスコットランド地区のものから!」
ともあれ、開票作業が始まる。
その中から投票用紙が飛び交い、二つの机に積まれていく。
もちろん、机の一つはダンブルドア支持を示し、もう一つはトム・リドル支持を示す。
スコットランドの票は……やはりというか。ダンブルドアが圧倒した。
細かい数字は現状あの
「うおっしゃあ! これは勝った!」
「ふん。スコットランドの田舎の票を集めただけで図に乗るな。票の大半はイングランド地区のものだ」
ジェームズの軽薄すぎる言動に、苛つきが隠せないドロホフが反論するが……ジェームズはそれに対する再反論をなにも思いつかなかったらしく、とりあえず舌を出して馬鹿にしていた。
ククク。あの手の人間はそういうシンプルな愚弄が一番苛つくだろうな。
「次はアイルランド地区です!」
「こっちも……悪かねえな!」
「ありがたい限りじゃ」
アイルランドの票も、スコットランドほどではないがダンブルドアに多めに流れていく。
その後に開票されたウェールズの票も同様。非イングランドではダンブルドアが優勢のようだった。
そして、最も魔法使いが多く住む地区であるイングランドの開票。正念場だ。
「票数も多いので少し時間がかかりそうですね。皆様着座してお待ちください」
今のところ五分五分程度には見えるが、票が多すぎるため細かな差はわからない。数パーセントの差であっても、他の地区の分をひっくり返すに足るかもしれん。
そのような開票作業が進む中で……突然、ドアが開いた。
とっさに身構えるが……見知った顔だ。わずかに警戒を解く。
わしの部下でもあったアリス・ロングボトムだ。
「開票中失礼……あら、ジェームズ。ここにいたのね。あんたのせいでフランクが遺留品捜査とかに駆り出されてこの時間まで残業よ」
「仕方ねえだろ! グレイバックだぞグレイバック。省に引き渡すのが善良な市民ってもんだろうが。それで、なんだ? 俺への事情聴取かなんかか?」
「私は別件よ。えー、奥の椅子に座っているのは……魔法省魔法法執行部部長、トム・マールヴォロ・リドルさんで間違いありませんね?」
「……そうだが」
「ウィゼンガモット法廷より、服従の呪文を使用した容疑で逮捕命令が出ています」
入室したアリスが、とんでもない爆弾を投下した。
ふん。スネイプの小僧か? どうやら上手くやったようだな。
リドルの陣営の人間に激震が走っており、さしもの当人もその動揺は隠せていない。
「事実無根だ。どうせダンブルドアの手先によるでっち上げだろう。あのセブルス・スネイプという輩だ」
「主訴、及び証言者はルシウス・マルフォイ様ですね。おやおや? もしかして純血名家の当主であるマルフォイ様もそうであると?」
アリスがルシウス・マルフォイの名前を出すと、更にリドル陣営の動揺が深まった。
なるほどな。状況はだいたい読めた。
「それ以前に、法執行部を通して起訴する原則が守られていないようだが?」
「法執行部の部長を逮捕するのに通すわけないでしょ。3分の2を超える賛成票のもと直接闇祓い局に命令したに決まってるじゃない。あんた馬鹿なの?」
「お、お待ちください!」
ひたすら煽るアリスとリドルの間に割って入ったのは意外にもリドルの手下ではなく、
「魔法大臣、およびその候補には不逮捕特権がございます!」
「ええ、存じております。なので結果が出るまで中で待とうと思いまして。お願いしてもいいですか、ダンブルドア校長?」
「もちろん。立会人の枠は空いておる」
アルバスが書類にサインをし、アリスを招き入れる。
一方でリドルの方は……実に愉快だな。激怒した様子を隠していない。
「貴様……私が負けるとでも思っているのか? 魔法大臣になった暁には、夫婦ともども省に席があると思うなよ」
「お生憎様。頼まれてもあんたみたいな極悪人の下で働くわけないわよ。クソジジイが」
「おっかねー……」
ジェームズがそうぼやいた結果、アリスに睨まれていた。あいつはいつになったら藪のバジリスクを突かないことを覚えるんだ?
「はい……ちょっと私自身も思わぬ出来事が続き少し動揺していますが、集票が終わりました。結果をお伝えします!」
全員の視線が中央に集まる。
ダンブルドアカラーの紫だ。
「得票率56%をもちまして、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア様がご当選いたしました!」
「うおおおお! やったぜ! 流石校長だ!」
「おめでとうございます、ダンブルドア」
ジェームズとアリスが喜色満面なのとは対照的に、リドルの手下どもは強くショックを受けたものが大勢いる。
そして、トム・リドル本人は……不機嫌な表情のまま黙り込んでいる。
「不正ではないか? スコットランドからの投票箱は明らかに不自然な遅れ方をした」
「そんなはずはありません! 私が直々に確認しましたから!」
「不正だ!」
「お前のところの立会人が悪さをしたんだろうが!」
そんな中、アントニン・ドロホフはそのような声を上げた。
すぐに局長が制すが、手下どもの怒号は止まらない。やつらも必死だろう。大半は儂から見てはっきり無能な連中だ。トム・リドルが負ければ自らの席はなくなると自覚しているのだろう。
「諸君。怒りを訴えたい気持ちはわかる」
それをよく通る声で遮ったのは、アルバスだった。
「わしが勝つことで得をする人間もいれば、損をする人間もいる。多くの支持を受けて当選を果たしたが、一方で得票率56%は、決してイギリス魔法界の全てとは言えぬ。投票所に足を運ばなかったものも多いじゃろう」
新たな魔法大臣となったアルバスにはしっかりとその格が伴っているようで、自らの反対者に対しても耳を傾けさせる力があった。
「だからこそ、まず君らの力もわしは必要とする、という事実を伝えたい。これは国に限らず、ホグワーツもそうなんじゃが、大きな組織の運営にはえてして自らに反対する人間も必要じゃ。この世界は決して、わしを支持する人間だけではないことを教えてくれる人間が必要……わしなんかは特にな。若い頃に、ずいぶんと痛い目を見た」
アルバスは遠い目をした。
おそらくは、グリンデルバルドのことを指しているのだろう。
「だから……まずわしが認めるべきは君なのじゃ。トム」
「……」
「4割以上の人間が君を支持した。これは決して少なくない数じゃ。全会一致の原則を考えれば、わしの政策をこの4割に対しても理解してもらう努力を全力でする必要がある。もちろん、君への逮捕命令に関しては真摯に対応しなければならない。じゃが、君と完全に決別したまま、大臣の座に就くのもまた間違いだと思っとる」
「ダンブルドア」
「なんじゃ?」
「僕はお前のそういう部分が嫌いだ」
リドルがそう言うと、アルバスはむしろ嬉しそうにけらけらと笑った。
「結構、結構。嫌いな人間とも付き合うのがまた社会というものじゃ。しかし、それでも相互理解というのは必要じゃ。わしの教員であるジェームズとセブルスのようにのう」
「校長、いま俺とスネイプが理解し合ってると言ってるように聞こえましたが」
「うむ。そう言った」
「大いなる誤解です。校長。というか大臣がそういうこと言うと、下手すると本気で新聞の一面に乗るんでやめてくれますかね!?」
ほっほっほ、とアルバスは愉快そうに笑う。
リドルは下を向き、表情は見えない。
「そうじゃの。今年は忙しくてまだ教員対抗ボウリング大会をやっとらんかったからの。あれにトムも招待しよう。魔法省の下にでもボウリング場を建設して、拘留中の人間を一人連れてくるぐらいは、大臣の権限で可能じゃろう」
「いくらなんでも最初にタッチする改革だというのに私利私欲がすぎませんか!?」
「言ったじゃろ。わしはこういうの向いていないと。とっとと次の候補を見つけるのが吉じゃ」
おどけてはいるが、一方で混乱しているリドルの手下どもに希望も与えるなかなか強烈な一言だ。
ダンブルドア政権が短期になることを示唆し、次の候補さえ当ててそこの下に付けば返り咲くことも可能、という見込みを与えたのだ。
アルバスとしては犯罪やホグワーツへの攻撃を繰り返すトム・リドルが政権の座に座ることが許容できないだけであって、決してスリザリン閥を望まないわけではないのだろう。
「もっとも公約ぐらいは果たす予定じゃがの。まあ、ちと急ぎになるから……わしが辞めるときには支持率は歴代最低になってそうじゃが」
「支持率をライフポイントかなにかと勘違いしてませんか!?」
先程までの剣呑な雰囲気はおさまり、リドルの手下どもは無理筋の告発を収め、すでに次を探り始めた。もっとも、忠犬のようなドロホフは不服であることを表情だけで雄弁に語っているが。
その時、動いたのは……トム・リドルだった。
「僕をボウリングに誘うだと?」
「そうじゃ。昔、魔法界でも流行ってたじゃろ? わしほどではないが、トムもなかなか歳を重ねとる。世代的には流行の真ん中のはずで――」
「ふざけるな。笑わせるな。愚弄は十分だ。もういい……ここまでだ。やはり僕の部下どもは無能にもほどがある……僕自身で保険となる計画を立てておいてよかった」
油断大敵。
儂はそれを信条として掲げているはずだった。
言い訳がしたいなら理由はいくらでもある。
大臣候補の殺し合いを阻止するはずの誓約の効果はまだ十分に残っているはずだった。
これだけ目撃者がいる部屋の中で、表沙汰にできない邪悪な魔法を振るうとは思わなかった。
そしてなにより……いま、目の前に立っているトム・リドルという男が……大英雄アルバス・ダンブルドアをしのぐ魔法の腕を持つなどとは、まったく想像さえしていなかった。
だが、今挙げた理由はまさしく儂が忌み嫌う油断というものに他ならなかった。
「死ね」
トム・リドルは突然、一流の決闘者とも遜色ない速度で杖を抜き、ダンブルドアに向けた。
アルバスは面食らったようだが、動いた。杖を抜いていては間に合わぬと見て、杖なし呪文で対抗する。
だが、ダンブルドアの放った抵抗を……トム・リドルは軽く杖を振るうだけでいなした。
そして、呪文を唱える。許されざる呪文を。
「アバダ・ケダブラ」
トム・リドルの杖先から緑色の閃光が放たれた。
儂もジェームズもアリスも杖を出し、やつに向けたが……トムは胸元からアクセサリを取り出し、儂らが遮る障壁を叩き割るよりも遥かに早く、そのアクセサリについた砂時計を6度、回した。
「それでは、御機嫌よう」
その砂時計とともに奴は消え去り、倒れたアルバスの体だけが残された。