ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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83.太陽なんてとうの昔に死んだよ

 ロンドンを発ったのは深夜だった。

 だが、ホグワーツの到着した今はもう日も昇りかけている。

 俺たちを載せて400マイルもの距離を駆け抜けたマグルの道具である自動車、数時間とはいえ頼れる相棒として無事役目をほぼ果たした愛車は……

 今、俺たちの後ろでバキバキにへし折られている。

 

「なにが禁断の森も抜けれるだ、マンダンガス! ぜんぜんダメじゃねえか!」

「いやあ……暴れ柳のところまで来れたんですから、十分じゃないですかね?」

「無駄口を叩くな。走るぞ」

 

 もともと禁断の森のドライブが快適でないとはいえ、ホグワーツ城が間近に迫って油断したか。

 マンダンガスがアクセルを踏んで一気に城の手前まで進もうとしたところで……突然車は宙にすくいあげられた。暴れ柳だ。

 

「くっそ! あのコブにさえ手が届けば……そもそも見えた段階でタイヤ? とかで押せばよかったんじゃねえのか?」

「無茶言わないでくれ、旦那! というかそんなコブ初耳でさあ」

「あー。あんま知られてないよな。俺らの間では常識だったんだが。なんなら仲間内でも『おいパッドフット、女の子の暴れ柳のコブはいつだってトライフルとか言ってたがリリーには通用しなかったぞ!』なんて会話も……」

 

 ほうほうの体で車から脱出しながらマンダンガスに有意義な話を披露していると、かなり強めにアラスター局長にドツかれた。

 

「痛え! 普通に痛え!」

「無駄口はよせと言っただろ、馬鹿者」

 

 これ以上短気な老人を怒らせると面倒なので大人しく黙っておく。

 一応、ただ意味もなく雑談に興じているわけでもなく……あまりにもアリスの雰囲気が沈んでいて気の毒だから、多少は雰囲気を明るくしようと思ってたとか意図はあるんだがなあ。

 

 ホグワーツ城の中へと入る橋にさしかかると……そこにはぽつんと一人、立っていた。フィリウス・フリットウィックだ。

 俺たちに化けの皮剥がれろ(スペシアリス・レベリオ)をかけ、少しほっとした様子で頷いた。

 

「歩哨役だな? 正しい措置だ。儂なら橋なんぞ落としてしまうがね」

「その決断はさすがにすぐにはできないでしょうな。さて、君たちが無事にもどってきたことをまず歓迎したい気持ちもありますが……この様子を見るにアルバスの死は真実なのでしょうな」

「ああ。アルバス・ダンブルドアは死んだ。遺体も持ち帰えれておらん。トム・リドルから死の呪文を受けて殺された」

「…………お聞きしたいことは山ほどあります。しかし、まずはミネルバへの報告を優先していただきましょう。彼女はいま、副校長として大広間で取り仕切っております。ああジェームズ、これは先に伝えておきましょう。ご家族は皆無事です」

「ああ……よかった」

「儂らが来たから安心とは思うなよ、フリットウィック。引き続き監視を頼む。上空も気をつけろ、怪しいやつはすべて撃ち落せ……油断大敵!」

 

 そう言ってフィリウスは俺たちを送り出した。

 城の中に入り大広間へと歩を進めると、ミネルバ・マクゴナガルを中心にホグワーツのスタッフが集まっていた。リリーとハリーもいる。

 

「パパ!」

「あなた!」

「リリー。すまんがアリスを頼む。フランクと連絡がついてない状況だ。かなりショックを受けてる」

 

 俺はリリーに近づき、声を落としてアリスの状況を手短に伝えた。

 憔悴した様子のアリスを見たリリーは頷いて、ハリーの手を引きながらアリスの肩を抱いて別室へと向かった。

 

「ジェームズ! 戻ったのですね。それにマンダンガスにアリスも。疲労困憊なのはよくわかりますが、なにが起きているかお聞きしても?」

「ダンブルドア校長は殺された。トム・リドルに」

「なんてこと……」

 

 俺の言葉にミネルバは絶句した。無理もないだろう……周囲のスタッフも同じように動揺を隠せない様子だ。

 

「ロンドンでは奴の手下に追われてな。逃げるので精一杯だったんで、状況をいまいち把握しきれてないんだがどうなってる?」

「……魔法ラジオネットワークニュースが深夜からリドルが大臣に就任した旨と、アルバスの死を報じ続けています。なんという恥知らず!」

「選挙で負けた結果が出た途端死の呪いをぶっ放しやがった。イカれてるぜ」

「手段はどうあれ、そのイカれた人間がイギリス魔法界のトップに立ったと主張しとるのだ。儂らとしても身の振り方を考えねばならん……アメリアは? アメリア・ボーンズから連絡は?」

「アメリア? 彼女がどうかしたのですか?」

 

 局長は現在、ホグズミード村の長を務めているボーンズ家のアメリアさんの所在を気にしているようだ。

 なにか繋がりがあったとは露ほども聞いたことねえけど……禁断の隠れた愛のお相手かなんかか?

 

「いくつか頼んでおいたことがあった。スコットランドに入った段階で姿あらわしが出来なくなったのは感じたから、しっかりと適切な対応を取ったようだがな」

「ああん? 姿あらわしができなかったのは奴らが仕掛けた装置のせいじゃねえのか?」

「儂も似たようなものをアルバスから譲り受けていた。人狼の家を襲撃するときにな。その時からちまちまと折を見てスコットランド全域に敷いておいた」

「何やってんだよマジで……」

「ついでにハドリアヌス城壁に沿っていくつか結界をな。あの古い城壁はかつて魔法の防壁として使われていた。再利用するのは大した手間でもなかったわ。まあ、万が一にも役立つ日が来るとは思っていなかったが」

「じゃあなんでそんなことを……?」

「万が一に備えたからだ」

「私もまさか預かった途端に起動することになるとは思っていませんでしたけどね」

 

 後ろから声がかけられた。女性の声……アメリア・ボーンズ氏だ。

 

「だから言っただろう、油断大敵だと。ホグズミードは安泰か?」

「今のところは」

「ならばよし。奴らの手が空く前に間に合って重畳だ。そのうち奴らの手下どもが飛んできて大威張りするところだったぞ」

 

 入ってきたアメリアさんに局長は無遠慮にも杖を向け、お構いなしに本物か調べている。いくら局長で調べるためでもボーンズ家の本家筋の人間に無言呪文バシバシ当てるってのはさすがにやめたほうがいいと思うんだが……

 

「そう思うなら止めればいいだろう、ジェームズ」

「うへえ!? な、なんのことだかさっぱり」

「そんな怯えた目で儂の一挙一動を見つめているのだから、何を考えているか筒抜けだ。たわけめ」

「構いませんよ。アラスターの猜疑心はよく存じています」

「そう思って油断してる新入りにある日突然ノーモーションでメチャクチャ痛い呪いかけたりしますよ、この人」

「馬鹿者。流石にそれをやるのは儂の下についとる人間だけだ」

「横暴が過ぎる!」

「うるさいぞジェームズ。役者は揃った、話を整理するぞ」

 

 目の前の女性がアメリアさん本人だとある程度納得したようで、局長は話を続けるよう促した。まず俺たちが今までに起きた出来事を話す。

 道中でフェンリル・グレイバックの襲撃を受けたこと。到着した省ではダンブルドア校長は選挙で勝ったにも関わらず、「逆転時計」を使ったトリックで奇襲を受けて殺されたこと。その後ロンドンで包囲を受けたが辛くも逃げ出したこと。その足としてマンダンガスを使ったこと……をかいつまんで話した。

 お次はこっちが今のホグワーツの事情を聞く番だ。

 

「まず、ジェームズのご家族はホグワーツで保護していました。ただし、ハグリッド氏は事態が急変する前にウェールズに戻っており、連絡は今のところ通じておりません」

「ああ、そうか……あそこにはリーマスもいるからな。無事だといいんだが」

「次に、ホグワーツのスタッフの状況です。レギュラス・ブラック教授は日中は城の中にいたはずですが、姿を消してしまいました。セプティマとも連絡がついておりません。そして、魔法ラジオネットワークニュースではセブルスにフランク、そしてマルフォイ氏の逮捕を報じています。なにかご存知ですか?」

「ブラック教授とセプティマのほうはわからねえが、スネイプは俺らが一悶着やっている間省の中にいた。報道通りとっ捕まってると見るべきだろう。あるいはそれより悪いか……」

「連絡がつかない人間が数多く出た旨、ホグズミード村の人達からも聞きました。親しい人の安否は確認しておいたほうがいいでしょうね」

 

 アメリアさんがそのように補足する。

 

「いいだろう。儂は使えそうな人間にフクロウを飛ばす」

「いったい何が起きてやがるんだ?」

「魔法ラジオネットワークニュースでは戒厳令を発表しています。基本的には今、イングランド全域で姿あらわしや煙突飛行ネットワークなどの移動手段は使えないものと思ってください。そして、これは噂にすぎないのですが……イングランドを離れる人間を捕らえる部隊がいると断片的にですが報告を受けています」

「アハハハ! それ、悪いけどマジのマジ、大マジよ! 魔法使いの手で魔女狩り? 爆笑ものね」

 

 大広間の片隅から暗い雰囲気にはそぐわない笑い声が聞こえた。

 うわ、「週刊魔女」のマートルのババア……編集長じゃねえか。

 

「あんたまで居たのかよ! いつのまに」

「最初から、何なら昨日の夕方からずっといたわよ! アハハ、暗い雰囲気にピッタリの女だから保護色で隠れちゃうのかしら? アンタ、私のことを地味だって言ってるも同然よ、傷ついたわねえ!」

「夕方から!? 何しに……いや、敬愛なるホグワーツのスポンサー様ですから、いついらっしゃってもいいんですが」

「なによ、その取ってつけたような態度は。うちの票読みじゃああんたんとこの校長が受かるって見込んでたからね、当選直後にインタビュー貰おうとこっち詰めてたのよ。予想は当たってたけど読みは大ハズレねえ!」

 

 ケラケラと笑うマートル・ワレン編集長に皆の視線が集まる。まさに魔女という風体のマートル編集長は、その冷たい視線も意に介さずニヤリと笑って話を続けた。

 

「うちの部下の報告が山ほど上がってきてね。編集部が吹っ飛ばされたとかバジリスクが放り込まれたとかメチャクチャな話ばっかりで……まあ、それは今は置いといて。やたら過激な集団が各地をうろついてるそう。ウェールズの州都カーディフでカリスマ的存在だった『狂気日食のフロイド』は突然発狂して全裸で表に出てきて、自分の目玉を、その次に脳みそを杖でほじくり返して死んだらしいわ、笑える死に様ね! その数時間前にガチガチのトム・リドル派の一人であるイゴール・カルカロフの目撃証言が上がってるわ。その後、ゴロツキどもが戒厳令を宣言して外に出ることもできない状態みたいね。まあ、内から出られないにも関わらず外からゴロツキが入ってくることはあるみたいだけれど」

 

 どこからか取り出した手帳のようなものをめくりながら人の死について異様なテンションで話している。俺は楽しいどころか吐きそうなんだが。 

 

「お次はアイルランドのダブリンね。学問の発展に寄与したとして多大な尊敬を受けていた『悪魔呪文のホーカス』の自宅が紫の炎に包まれてそのまま焼死。下手人はまず間違いなくリドル派最右翼のアントニン・ドロホフね。あ、犯人が違ってもうちの会社訴えないでね。カーディフ同様ゴロツキどもが流れ込んでるそう。んでもってルーンを刻んだ魔法具を設置して回ってるみたい。まあ『姿あらわし/くらまし防止呪文』かなんかじゃない?」

 

 マートル女史はノリノリでどこからか引っ張ってきたキャスター付きの黒板にブリテン島とアイルランド島を描き、ダブリンの位置に紫色で炎を描き込んだりカーディフの位置に裸の男を描いたりしている。

 そして、その魔法で操作されているチョークは……ついにスコットランドの位置へ動いた。

 

「ボーンズさぁん? そこのマッドアイに感謝しておいたほうがいいわよ、この流れだと間違いなく標的はアンタだったわね。賭けてもいいわ。リドルの手下だけが知っている姿あらわしができるポイントがあるんでしょうね。スコットランド国境のそこに飛んできて……そこで、ホグワーツやホグズミードっていう主要拠点に姿あらわしできないことに気付いたのかしら? マヌケね! だから妥協案として侵入が容易なハドリアヌス城壁に沿って待機して、通行料を貰った上でボコボコにして追い返したりしてるみたい。楽しそうね! どうやら主要なまとめ役は二人で、一人はベラトリックス・レストレンジ。説明いる? いらないわよね。もう一人はフードをかぶってて誰だかわかんないみたいだけど、ベラトリックスと同じぐらい残虐……ってそんなこと可能なのかしら? 無理でしょフツー! アハハァ! ま、私が受けた情報は今の所こんなとこね」

 

 そう言って満足した様子のマートル女史は再び、大広間の片隅のとりわけ暗く遠いところに引っ込んでいった。

 彼女の話を聞いて……当然、マトモな脳みその人間は全員ショックを受けていた。そりゃそうだろう。スネイプみたいな陰気なやつでもない限り友人や親族が至るところにいるんだ。例えば、シリウスやトンクスはこんな状況に大人しく従うようなタマじゃない。間違いなく無茶しやがるはずだ。

 

「わかりました……まずは皆さん、親しい人の安否を確認するように! 緊急の受け入れ先が必要でしたらホグワーツの活用を許可します、存分に!」

 

 ミネルバ副校長のその指示で会議は締めくくられ……皆、愛する人に向けるフクロウ便の準備を始めた。

 

 

 ―――

 

 

 マグルの交通手段ならばバレずに脱出できる……そんな風に考えているマヌケが跡を絶たない。

 広域用に改造されたかくれん防止機(スニーコスコープ)の反応を見て、ベラトリックスは喜々として飛び出し……列車に載っていた魔法使いの男を一瞬で拉致した。

 当然だが、マグルの劣った道具には魔法使いの呪いに対する保護などかかってはいない。例えば列車であればかくれん防止機(スニーコスコープ)の反応で乗っている車両はすぐにわかる。そこにマグル避けや耳塞ぎの呪文をかけた上で姿あらわしで飛び込み、即座に無力化するだけでいい。魔法使いと悟られたくないためかご丁寧にも杖をすぐに取り出せないところにしまっている場合も多く、あくびが出るほどに簡単な仕事だ。

 

クルーシオ! アハハハハハハ! 爪を綿に変身させて火をつけてやったときとどっちが痛い!? 反応しておくれよ、返事をしないなら両方同時にやっちまうよ!?」

「ベラトリックス」

「なんだい? 私のお楽しみをお邪魔するつもりかい?」

「こういう手もある」

 

 私はそいつの髪の毛や皮膚の毛をすべてスチールウールに変え、そこに点火呪文(インセンディオ)をかけてやる。

 バチバチと激しく音を立てて頭皮や皮膚が燃え上がり、磔の呪文を食らっている間でさえ身悶えする反応を示すほどに苦しんでいる。

 

「アハハハァ! あんたやるじゃないか……前より随分と愉快な男になったんじゃあないか、ええ!?」

「さてな。だが、トム・リドル様への敬愛は深まったのは事実だ」

「ハ! 私は常に全力、1兆パーセントの力であの方を敬ってるけどねえ! まあ、態度を改めるのはいいことだ、あんたのことは虐めないでおいてやるよ、今のところは!」

 

 転がった男の脊椎を棘を纏った毒蛇であるブッシュバイパー(無論、生きている)に変身させたところで、男は激しく痙攣を始め……動かなくなった。

 

「ああ……なかなか面白いオモチャだったね。さて、次はいつ来るかな? 実に楽しみだ」

「念の為だが、相手はきちんと確認しろよ」

「アアン? あんた私を誰だと思ってるんだい? イギリス魔法界屈指の名家ブラックのご令嬢様だよ? 主要な純血一族なんて全員頭に入ってるに決まってるじゃない」

「外国人も少数ながらいる。確認はしておけ」

 

 そう言ってマグル避けのかかった列車のコンパーメントから姿くらましし、外の地上に戻る。

 ホグズミードを制圧するという任務は果たせなかったものの、今のところ新たに指示された仕事については期待されている役目は果たせていると見ていいだろう。

 ああ……我々がこうしてトム・リドル様から逃げ出すマグル混じりどもを殺すことで……私の念願が叶うのが近づいていくのが感じる。

 私の念願は二つ。トム・リドル様と、死喰い人(デスイーター)が永久に繁栄すること。

 そして……ホグワーツへの復讐だ。

 

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