ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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97.英国擲弾兵

「クソ爆弾を喰らえ!」

 

 ウェールズの中心地であるカーディフ。

 ロンドンにダイアゴン横丁が、エディンバラに"キャッスル・ロックの裏路地"があるように、カーディフにも魔法使いのための通りがある。

 そこの一等地に闇の印と呼ばれる図柄が描かれた旗を掲げようとした私の部下は、突然大挙して現れた暴徒たちのクソ爆弾の投擲を喰らいすごすごと逃げ帰ってきた。

 

「カルカロフ様! 連中、どんどん勢いを増しています! こんな中で旗一つ掲げるのに死ぬ思いする必要あるんでしょうか!?」

「上からの命令だ。我々のシンボルに使うらしい」

「これが……? もっとかっこいい図柄、選べなかったんですか? こんないかにも俺たちワルだぜみたいなドクロ使わなくても……」

「それは私もちょっと思っていた」

「ですよねー」

 

 前から思っていたのだが、私の部下はなぜか妙に気易い気がする……いや、当たり前か。なんせ比較対象はあのドロホフやレストレンジだ。あの連中に対して陽気に振る舞う人間はイカれている。

 そう考えると、あくまでこれは比較の問題であって私が舐められているわけではないことが結論付けられる。

 ダームストラングで教授職をやっていたときも、妙に生徒にナメられ……懐かれていた事実とはおそらく無関係だろう。

 

「もうこの通り、完全に制圧されちゃいましたよ。発端はおそらく制圧し損ねていた森の奥の連中ですが、たぶん都市部に進んできていたずらパーティを謳ってパフォーマンスするのを見て、面白がって加勢した連中が山程います」

「ううむ……もし、そんな醜態があの御方に露見したらえらいことになる……」

 

 現状、ウェールズの森の奥に反抗する連中がいる事実を私のところで握り潰して報告しているというのに、あろうことか連中にここまで制圧されたなど伝えたら、私のクビが飛ぶだろう。物理的に。

 なんとかして穏便に済ませ、バレないうちに事態を収拾するしかない。

 

「では、中心となる連中を見せしめに何人か捕まえて……」

「捕まえて?」

「……一日、牢にぶち込んでおけ! そうすれば頭を冷やすだろう!」

「そこで全員焼き殺せとかドロホフみたいなこと言わないの、マジで助かります」

「あの狂人と一緒にするな! さあ、とっとと魔法警察の連中に指示を出せ!」

 

 あいつであればこの現状を見て街に火を付けて参加者全員焼き殺すなどやりかねん。

 幸いにして、今のところ連中はせいぜいがクソ爆弾を投げてくるぐらいだ。こっちに駐在している魔法警察部隊を呼んで、少しお灸をすえてやれば明日には沈静化しているはずで……

 

「はい! ……あっ! あれは魔法警察部隊のオフィスのふくろうです、向こうから連絡してくれたみたいですね!」

 

 なるほど、連中は私の直属ではないため顔を合わせたことのある人間は少ないが……どうやら気が回るやつもいるらしい。

 私はふくろうから郵便物を受け取り、便箋から手紙を取り出す。

 そこには走り書きでサラサラと一行、彼らの状況が書かれていた。

 

「我々も参加します……だと……?」

「わははは。冗談……冗談ですよね?」

 

 マズい。これは死ぬ。死ぬというか殺される。あの御方に。

 だが……このような事態を予見していない私ではない。奥の手がある。

 

「これは使いたくなかったが……安心しろ。私はしっかりと最後の手段を用意しておいた」

「えっ!? そんな都合のいいものが!?」

「省でこっそりと作らせたものだ。かなり高度な魔法具(マジックアイテム)で、これを一人で作れるのはおそらくあの御方か、あるいは……アルバス・ダンブルドアぐらいのものだろう。専門の担当官が複数いてな、賄賂を渡して秘密裏に一つ依頼しておいたのだ」

「そ、そんな凄い魔法具(マジックアイテム)が省で作られていたなんて……読んでてよかったザ・クィブラー!」

 

 部屋の中にある隠し金庫を開け、中から一見して単なる空き缶にしか見えない魔法具(マジックアイテム)を取り出す。

 

「さあ、これに掴まれ」

「はい!」

 

 そう言って私と私の部下は高度な魔法具(マジックアイテム)である『移動(ポート)キー』を掴み、独特の感覚を味わいながら雪が降る広場に降り立った。

 

「こ、これは……移動(ポート)キー!? もしかしてカルカロフ様、逃げたってことですか!?」

「当たり前だ。死ぬまで付き合う義理などない」

「そ、そうなんですね。なんだかんだであの御方に心酔してるのかと……」

「魔法使いとしてのクソッタレ(ブラッディ)・リドルの力量と、闇の儀式の知識に関しては学ぶところが多くあると思っていた。そこで、イギリスまで渡って頭を下げ、リドル派に取り入って奴が死喰い人に施しているという貴重な闇の儀式の詳細について知る腹づもりで動いていたが……まあ、失敗したからには逃げるべきだろう。悪いな、何も言わずに貴様を巻き込んで」

「い、いえ。それはむしろ助かったんですけど……ここどこですか?」

 

 あの御方はどうやら身内にもスパイを放っているようで、目の前の部下がそうでない保証はなかった。

 今から移動(ポート)キーで逃げるなどと知らせれば、そのタイミングでなんらかの通報を行う可能性があった。

 

 しかし、今となってはこいつがスパイだろうがなんだろうがどうでもいい。

 なんせ、ここはイギリスから遠く離れた我が故郷(スカンジナビア)だ。「名前のセンスのないあの人」であっても手出しはできない。俺は自由だ!

 

「安心しろ、ここは勝手知ったる私のホームグラウンドで……」

「なにがお前のホームグラウンドじゃ、馬鹿息子」

 

 ガツン、と頭を太い樫の杖で殴られる。

 

「ち、父上!」

「学園の敷地になにやら侵入があったと思えば……まったく。まあ、お前みたいなのが所詮小悪党どまりなのはよーくわかっとったが、すごすご帰ってきてわしの前によくも面を出せたものじゃ」

「い、いや、あのですね、色々と収穫がないこともなく……」

「お前が馬鹿を言わずに儂の跡をとっとと継いでくれていれば、こんな校長職など退いて隠居生活を送れていたというのに」

「カ、カルカロフ様……この方は?」

「私の父で……ダームストラングの校長だ」

 

 私の部下は驚いた表情でこちらと父上を二度見した。

 まあ、私がダームストラングの出身であることは話していたが……父が校長だとかその辺の話は伏せていた。完璧な縁故採用を嫌って私は抜け出した手前、公言するのは憚られたというのもある。

 父上は私の頭を杖でポコポコと殴りながらニッコリと部下に笑顔を見せた。器用すぎる。

 

「ようこそ、イギリスからの客人よ。こいつの面倒をみとってくれたんじゃろ? まったく、こいつは自らが憧れる悪だのなんだのの才能はない代わりに、相変わらず妙な好かれ方をしとるのう……こいつが教授職についてたときもなんやかんやで生徒から慕われてて、それなりに向いとると儂は思っとったのに……」

「それわかります。カルカロフ様はイカつい見た目してますが、堅苦しくもなく尋ねれば口は悪いですが何度も説明してくれるので教員とかは確かに……」

「あ、あのう父上、それで、その、今しがた無一文でイギリスからほうほうの体で逃げ出してきまして、おそらく向こうでは手配などされておるかと思いますので、どうか保護と復職を……」

「アホ! もとの役柄に復職などさせるか、10年タダ働き、いちばん下からやり直しじゃい、ボケ!」

 

 一喝された私が平伏すると、隣の部下がポンポンと背中を叩いてきた。

 やはり随分と気易く振る舞われていないか、私は?

 

 

 ―――

 

 

 魔法省の俺様の執務室にノックが響いた。

 この時間であればバーミテウス・クラウチ・ジュニアの……いや、今はもうジュニアは不要だったな。彼の定時報告だろうな。

 俺様が就任して数ヶ月。魔法省の大臣室はどういうわけか上手く働かないままだ。とはいえ、もっとも浅い階である地下1階に大臣室があるのは前から気に食わないと思っていたのだ。いい機会だと思い、守衛室の下である9階に専用の部屋を用意させ、もっぱら省での執務はここで行うことにしている。

 加えて、同じフロアにある神秘部には死喰い人をまとめあげるために失われてはならぬものを運び入れてあった。それを監視するために隣室に移せたことを考えると一石二鳥だろう。

 

「失礼いたします、リドル様」

「仕事は順調だろうな? バーティ」

「はい。ロンドンのコントロールは順調に進んでいます」

 

 無能な部下ばかりの中で、イングランドの中心地であるロンドンを任せている彼はなかなかによい働きをしている。

 俺様がサラザール・スリザリンの後継者であるという知っているにも関わらず、俺様に従わず逃げ出す上流階級の連中が少なくない中で、彼はロンドンの支配において大きく支持基盤を転換するという大胆な施策に出た。

 それは今のところ、うまく行っているように思える。

 

「就学前のマグル生まれの魔法使いを家庭から離し、中流階級の家庭で育てさせる政策はおおむね好評です。主要な目的は、彼らを一刻も早く魔法族の一員としてマグルの親や政府ではなく魔法省に忠誠を誓わせることですが……こうしたタスクを引き受けたミドルクラスの人間の自尊心を高める機能を担っているようで、支持率の上昇に寄与し始めています」

「だろうな。彼らは今まで伝統的な名家とやらに常日頃から『魔法界を知らない』などと言われる立場だった。今や手取り足取り教える立場に立ったわけで、気分が悪いわけない」

 

 皮肉なものだ。純血主義のはずのスリザリン出身の人間の多くが逃げ出し始めた中で、マグル生まれの同化を快く引き受けているのは中産階級のハッフルパフ出身者がかなりの数を占めているとは。

 まあしかし、それも道理かもしれんな。俺様やバーティは例外だが、スリザリンの連中は軽薄で、思い通りに使うには恐怖や利害で従わせなければいけない連中ばかりだった。

 一方で、ハッフルパフの連中は「魔法族のため」というお題目さえ信じさせていれば小さなコストは度外視で貢献してくれる。末端の手足としてはまったく都合がいい。

 

「ただ、ロンドンの情勢というわけではないのですが……少しお耳に入れておきたいことが」

「なんだ? 言ってみろ」

「ウェールズ東部、およびスコットランド国境でやや動きがあります。どうも、なにやら騒ぎが起きているようで……」

「スコットランドのほうはともかく、ウェールズを担当しているカルカロフからは何も聞いていないが?」

「では、彼が握りつぶしているのでしょう。失態として知られることを恐れて」

 

 ありそうな話だ。

 カルカロフ……奴はそれなりに使える人間だが、あまりにも小心が過ぎる。現状、使えるかどうか見極める段階であり……例の死喰い人の儀式をやつに施すかはまだ保留しているのだが。

 とはいえ、バーティがあの男を嫌っているのはよく知っている。鵜呑みにするわけにはいかんがな。

 

「所詮、奴の祖国ではいい家の坊っちゃんとしてもてはやされていたのでしょうが、カルカロフも逃げ出した卑劣な連中に連なる者のようです」

「それを君が言うかね? クラウチ家のお坊ちゃんが」

「ええ。自戒も込めて。事実として、日和見的だった私の父はあなたにふさわしい人間ではなかった」

 

 既に秘密裏に死を迎えた彼の父を、バーティは未だに引き合いに出す。

 ベラがマグルへの憎悪、アントニンが支配欲で動いているならば、彼の原動力は父への憎しみだ。

 俺様の側近の中でも彼をこころなしか重用してしまうのは、俺様も……いや、もはや何十年も前の話だ。バーティは俺様にとって卸しやすい。それだけの話だ。

 

「ただ、ウェールズの勢力にせよ、スコットランド国境での騒ぎにせよ……あまりにも行動が散発的です。12月のマグルの祝祭を前にして浮かれているだけ、といった可能性もありますが、なにかの陽動のように見えます」

「なるほど。だが、となると本命がなにかが問題だろうな。僕の暗殺でも狙っているのかな?」

「可能性としてはありえます。万が一にもリドル様が遅れを取ることはないでしょうが、どうかお気をつけを」

「はっ。やつらに何が出来る? 毒殺しようにも奴らの『スニベルスくん』はとっくにアズカバンの奥底で生きた死体だ。破れかぶれで省に殴りかかってくるなら都合がいいぐらいだね」

 

 俺様はそう言って笑う。

 未だに抵抗を続ける連中は思いのほかしぶとく、目障りだ。潰す機会を与えてくれるならそれに越したことはない。

 

「確かに。率直に言ってホグワーツ、そしてダンブルドアは名前だけは大きいですからね」

「とはいえ、国際的な批判なんて大した影響もないがね」

「いえ、それが……その、若干の懸念はありまして……来年に控えるクィディッチの自国開催に関しては、死守しなければ相当な反発が……」

「なに? クィディッチだと? あんな箒遊びがどうしたというんだ」

「お、お言葉ですがリドル様。魔法使いのクィディッチへの熱意は決して軽視しては……」

 

 ああ、そういえば彼は在学時代から熱心なクィディッチファンだったかな。彼にもなかなか人間味があるじゃないか……などと内心笑いながら聞き流していた。

 そして、若干熱が入っていくバーティの言葉を……ポタリと落ちる水滴の音が遮った。

 

 水滴……それは、俺様の部屋の天井から垂れていた。

 

「なんだ? アトリウムの天候管理部がなにかやってるのか?」

「いえ、リドル様。私はなにも聞いて……」

 

 ポタポタと水滴が部屋に落ちていく頻度は増えていく。

 雨漏りだと……?

 

「ここは地下9階だぞ! 即刻調査させろ!」

「は、はっ!」

「お、お伝えします!」

 

 バーティに調査を命じたのとほぼ同時で、ドアの外から慌てた様子の男の声が聞こえた。

 イライラしながら杖なし呪文でドアを開けてやると、そこにはずぶ濡れの男が息を切らしながら立っていた。

 

「だ、大臣。守衛室のほうから……その……」

「なんだ!? はっきりとわかっていること話せ!」

「た、大量の水が入ってきております! 守衛室の奥アズカバン管理部門の移動キー管理室からです! 私見ですが、おそらくアズカバン側にある移動キーが不正に改ざんされたのでは、と……し、しかし! その管理室の下部に位置するこのあたりに部屋はここだけで、省の運営自体に影響は……」

「ふざけるな! 省の運営への影響などどうでもいい! アズカバンから水が流れ込んでくる、などということがなぜ起きるのだ!」

「げ、現在調査中です。しかし、今入った情報によると、どうも数ヶ月前から地下の収容室が囚人に乗っ取られていたという報告が所長から……」

 

 愕然とする。

 なんだ? なんでそんな重要な情報を上に上げない?

 カルカロフといい、アズカバンの所長といい……俺様の部下は間抜けしかいないのか!

 

「ぐああっ!」

 

 怒りに任せて杖を振り、報告に来た男を壁に叩きつける。

 

「バーティ、速やかに準備しろ! アズカバンへの移動キーだ!」

「は、はい! できるかぎり私の責任を持って事態の収拾を……」

 

 どうやら、バーティでさえもまだ自らの範疇で事態を処理しようとしている。

 もう遅い。俺様は誰も信用できん。信用できるのは……俺様だけだ。

 それに、隣室に運び込ませた神秘部の例のものも確認できるのも俺様だけだ。水没することでどうこうなるとは思えんが、どちらにせよ足を運ぶ必要がある。

 

「現場の人間に任せても埒が明かん! 俺様が行く!」

 

 

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