カムラの里を出たい少年と、少年に里に残って欲しい竜人族の双子姉妹の700日戦争   作:メリバ上等

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盟友クエストが楽しみすぎて初投稿です。




11話 えっちな本は大切な事を教えてくれる

 タマミツネ──呼称、泡狐竜。

 水の豊かな土地に生息する、海竜種の大型モンスターだ。

 

 海竜種の中でも独自の進化を遂げた種であり、特筆すべきは海竜種としては異常に発達した四肢だろう。

 発達した四肢が地上での活動を可能にし、さらに、その運動能力は牙竜種にすら引けを取らない。

 地上での運動能力であれば、現在確認されている海竜種の中で最も高いモンスターだ。

 

 さらに、タマミツネというモンスターを語る上で、外せない要素がある。

 泡。

 タマミツネは、その体表から泡を分泌することができるのだ。

 タマミツネの体液から作られた泡は非常に良く滑り、もしこの泡を大量に浴びたならば、ほとんどの摩擦を奪われまともに動くことすら困難になるだろう。

 タマミツネはこの泡を戦闘中、フィールドに大量にばら撒くことで相手の行動の自由を奪いつつ、自身は泡を纏って地面との摩擦係数を限りなくゼロにし高速機動を実現する。

 正しく攻防一体。

 発達した四肢と特殊な泡が、タマミツネのモンスターとしての“強度“を担っている。

 

 して、この泡。

 ある学者の説によれば、タマミツネが分泌する泡の成分は、そのタマミツネが餌(主に魚介類)などから摂取した栄養素が滲み出ることがあるという。

 実際に、ハンターがタマミツネの泡に触れた際に体力が回復したという報告も上がっている。

 

 しからば。

 

 もし、タマミツネに催淫性のある成分を含む餌を好んで食べるような偏食家の個体が出現すれば。

 

 そのタマミツネは──全身からえっちな泡を分泌する、媚薬泡をばら撒くタマミツネになるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

「──可能性の話をするのであれば、ないとは言い切れません」

 

 ベースキャンプに向かう荷馬車の荷台の上で、ミノトは思案していた。

 

「モンスターの生態系は未知数です。私たちの想像を、ヒトが積み上げてきた歴史を覆すような個体が時折現れることがあります」

 

 古龍などは、そのさいたるものだろう。

 大自然の嵐だと思ってたら実は古龍でした。

 なんて、普通の感性をしていればまず気付かない。

 スケールが大きすぎるのだ。

 伝承や記録で古龍が認知されている地域でもそれは変わらない。

 そもそも、何か大きな災害があるたびに「これはモンスターの仕業なんじゃないだろうか」と考えていれば、その人間は遠からず発狂するだろう。

 知性ある脅威と知性なき脅威。

 どちらがより恐怖を掻き立てるかなど、言うまでもない。

 

 まあ、そんなことはどうでも良く。

 

「ヒトの側にも、突然変異としか思えない規格外は生まれてきます。モンスターにはそれがないと考える方がおかしいでしょう」

 

 ちらっと、ミノトはツミキを横目で見た。

 書物を漁りタマミツネの情報を頭に叩き込んでいるツミキは、勉強しているとは思えない間抜けな顔をしていた。

 ほー、とか、おぉ……とか何やら感心しているようなので、まあ新しい知識は入っているのだろうとスルーした。

 

 ともあれ、ミノトはツミキという特大の規格外をよく知っている。

 なら、モンスターにもそういうのは生まれてくるだろうと納得することができた。

 普通なら「いや、こんなモンスター本当にいるのか?」という媚薬タマミツネを、驚きはしたもののカムラの里の誰もその存在を疑わなかった理由はここにある。

 

「緊急クエスト、タマミツネの捕獲。……ツミキを見ていると感覚が狂いそうになりますが、本来、大型モンスターは経験とキャリアを積んだハンターが、相対するたった1体のモンスターのためだけに入念な準備を行なって、初めて狩猟できる強大な生物です」

 

「ミノトは不安ですか?」

 

「いいえ、ヒノエ姉様。──私も、ヒノエ姉様も。ハンターとして研鑽を積んできました。狩れるかどうかは別として、タマミツネに挑む資格が、私たちにはあります。だから、里長もギルドマネージャーも私たちを同行させたのでしょう」

 

 ミノトには苦い記憶がある。

 忘れもしない。

 あの、マガイマガドに襲われたあの日から、ミノトは尋常ではない修練を己に課してきた。

 ツミキのように自身をおろそかにすることなく。

 大好きな人たちといる“現在“を大切にし、その上で己を強くするために叩き上げてきた。

 ……いや。

 マガイマガドに襲われた日よりも、もっと前から。

 ずっとずっと、ミノトは強くなろうと藻搔いてきた。

 見据える背中は遥か遠く。だからこそ、ミノトは何年も何年も全力で走ってきた。

 

 その研鑽は、ミノトの中に確かな形を持って結実している。

 

「しかし、苦戦を強いられるとは思っています。何せ、私もヒノエ姉様も……一応、ツミキも。タマミツネは初めて相対するモンスターですから」

 

「繁殖期にならないとタマミツネは積極的に人を襲うようにならないのでしたっけ。それに……この依頼のタマミツネは……少し、特殊なのでしょう、ミノト」

 

「はい、ヒノエ姉様。何より厄介なのが……情報では、このタマミツネはびや……催淫効果のある体液を泡として分泌する、という点です」

 

 ミノトは媚薬と言いかけて、催淫効果と訂正した。

 

「催淫効果……。ヒトの感情を昂らせる、高揚効果でしたよね」

 

「似たようなものです。純粋な高揚効果のみであればまだ有用な場面もあったかもしれませんが……催淫効果となると、話は変わってきます。クエスト依頼書を見る限りでは、催淫効果のある泡に触れたが最後、発じ……自由には動けないコンデイションになることは想像に難くありません」

 

 ミノトは発情と言いかけて、コンディションと訂正した。

 

「それは、狩猟中には致命的ですね……」

 

「間違いなく。ハンターが陥る状態異常の中では、麻痺や睡眠と同レベルの危険な状態異常と見ていいです」

 

「何か無効化する手段……そうでなくとも、その状態異常から回復する、または回復を早める手立ては必要そうですね。ミノト、何かいい案はありますか?」

 

「……お」

 

「お?」

 

「……すみません、ヒノエ姉様。現状では、何も……」

 

 ミノトは明確な案を思い描いていたが、言わなかった。

 ついでに、思い描いた案を実行している自分の姿を想像してしまって、両手で顔を覆った。

 

「もう嫌だ……こんなモンスター狩れるわけないです……もう帰りましょうヒノエ姉様……」

 

「ミノト!? さっきまでの強気なミノトはどこに!?」

 

「大体なんで私たちがこんな……里長がツミキと行けばよかったじゃないですか……ギルドマネージャーだって昔はハンターだったんですし、私たちじゃなくても絶対よかったはずです……」

 

「ミノト、ミノト。里長はもうおじいちゃんになる年齢です。流石にフルタイムの狩猟は……」

 

「わかってます、わかってるんですヒノエ姉様。でも、それでも……うううううううっ!」

 

 往々にして割り切れないものはあるということだ。

 というか、もし仮にフゲンとゴコクがクエストに同行していた場合……筆舌に尽くし難い……それはもう地獄としか表現できないような地獄絵図に……なっていた。

 

 唸るミノトを見て、お姉ちゃんであるヒノエは緊急クエストで緊張している妹を安心させないと、と思った。

 この姉、ミノトが催淫効果の詳細をあえて伝えず、ヒノエにも想像できるとにかくやばい状態異常として伝えたせいで、催淫というものの本質をまるで理解していなかった。

 なので、ミノトが危惧している“最悪“とは別の視点で、ヒノエにとっての“最悪“である、力およばずモンスターに敗れ誰かが死ぬ。

 そんな未来を一切寄せ付けないと絶対的にヒノエが信頼し、また安心しきっている人物を見て言った。

 

「ツミキがいるから、大丈夫です、ミノト!」

 

「むしろ全然大丈夫じゃないんですヒノエ姉様……」

 

 ヒノエの想像とは真逆に、ミノトの顔色はより悪くなった。

 ミノトの考える最悪とは、タマミツネの強力な媚薬にやられた結果、マジで行くところまで行ってしまうのではないか、という点だからだ。

 

 ツミキと、ヒノエと。

 そして……。

 

「……うううううっ! 頑張れ私、負けるな私っ! 精神力なら、誰にも譲りません……!」

 

「今度は急にやる気になりましたね!?」

 

「やってやります、私はやりますヒノエ姉様! 泡さえ避ければ何も問題はないのです! 例えそれがどんなに困難なことでも、私は絶対に諦めない!!!」

 

 媚薬を避ける覚悟の言葉じゃなければもうちょっとカッコよかったんじゃないかな。

 

「ツミキ! タマミツネの文献を渡してください!」

 

「え、うん」

 

 念のために、もう一度タマミツネの情報を頭に入れ直そうと、ミノトはツミキの手からタマミツネの文献を取った。

 さっと目を通す。

 

「ふむふむ。荒くれ者がタマミツネの泡から抽出した媚薬成分を拘束された女ハンターに垂らしいやなんですかこれ!?」

 

「ミノト……本当に恐ろしいのはモンスターではなくヒトなのかもしれないね」

 

「恐ろしいのはこれから狩りに行くのにえっちな本を読んでるツミキの頭です!!!」

 

「ふっ、甘いねミノト。この本にはかのタマミツネに関して有用な情報がたくさんある! 僕はその精査をしていたんだ!」

 

「この! 本の! どこに! 狩りに有用な情報が!! あるんですか!!!」

 

「あるさ! この69ページを見てみなよ!」

 

 ミノトからえっちな本をひったくったツミキは、パラパラっとすぐに該当ページを開く。

 お前全ページどんな内容か覚えてんの……? 

 

「本当ですか……? どれどれ……タマミツネの媚薬を塗られた女ハンターは気が狂いそうな衝動に突き動かされその指は快楽を求めて動ツミキぃいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」

 

「あぶなっ!?」

 

 ミノトの腰の入った正拳突きを、咄嗟に半身になってかわす。

 

「なんてもの読ませるんですか!? なんてものを読ませるんですか!? タマミツネの前にお前を狩るぞ……!」

 

「状態異常時の対策大事って言ってなかった!?」

 

「こういうことじゃないんですよ!!」

 

「じゃあどういうことだよ!?」

 

「ミ、ミノト! ここは狭いから暴れてはダメですよ。ところで、その本は確かツミキが里長たちに見せていたものではないですか?」

 

「ツミキのせいでまたヒノエ姉様が興味を持ったじゃないですか! どうしてくれるんですか……!?」

 

「うわ待って待って、のし掛かってきたら荷車のバランス崩れて横転するって!!」

 

 ツミキ相手にマウントポジションをとってぎゃいぎゃいキレ散らかしているミノトを見て、今話を聞くのは無理そうだなあ……とヒノエは思った。

 

「それにしても。ミノトもツミキも、いつも通りみたいでよかった」

 

 もしかして目か頭が悪いの? 

 と、誰かに聞かれたら言われそうな光景だが、この二人は割といつもこんな感じなので正しかった。

 もしくは、このちょっと前が酷すぎた、というのもある。

 

 ヒノエは1週間ほど前を思い出す。

 

『ツミキ。先に言っておきます。これは、捕獲依頼。……絶対に、タマミツネを討伐してはいけません』

 

『……そいつ、人襲ってるんだろ?』

 

『……断言はできませんが、おそらくは』

 

『僕に。──僕に、人を殺したモンスターを殺すなと。……そう言ってるのか?』

 

『そう言っています』

 

『ミノト──!!』

 

『貴方は言ったはずです。人を襲うモンスターを狩猟すれば、それは未来の誰かを守ることにつながると』

 

『だから討伐するんだろ!!』

 

『いいえ。狩猟とは脅威の排除です。それは、討伐でも捕獲でも変わらない。違いますか?』

 

『違う!! モンスターが生きている限り、そいつに誰かが殺される可能性はずっと残る!! だからモンスターは討伐しないといけないんだ!! だから討伐するんだ!!』

 

『言い方を変えましょうか。ツミキ。貴方は……ヒトを守りたいのですか? モンスターを殺したいのですか?』

 

『そんなの決まってる!! 僕はヒトを守りたいから、モンスターを殺すハンターになったんだ! ミノトだって知ってるだろ!? なのに、なんでこんなことを……!!!』

 

『……こっちの成長はまだまだですね。……これ、ずっと平行線ですね……。……ああああああっ、もう!!! 面倒くさいっ!! うるさいっ!!! 私の胸を揉んだこと、許されるためになんでもやるって言ったでしょう!? つべこべ言わずに捕獲しなさい!!!』

 

 なんてことがあったので、二人の間の空気はそれはもう最悪だったのだが。

 今、ヒノエの目の前で喧嘩をする二人は、その空気を引きずっていないように見える。

 もちろん、ミノトのメンタルケアにもツミキのメンタルケアにも奔走したヒノエの尽力もあっただろうが。

 

「ツミキ。一応、最後に確認しておきますが。……捕獲ですからね」

 

「分かってるよ。……ミノトに償いをするって言ったのは僕だ。ちゃんと約束は守る。……でも、ちゃんと止めてほしい。じゃないと、僕は自分で自分を止められないだろうから」

 

「……ええ。約束します」

 

 雨降って地固まる。

 実際は触れたら爆発する地雷をとりあえず別の場所に埋め直しただけなのだが、ツミキが“モンスターを討伐しない“という選択肢を選んだことは、普段のツミキを知る者からすれば異常なので、少しはツミキも前進しているのかもしれない。

 

 この前進の価値を理解している者は、今は里の大人たちしかいないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨人が強大な岩を抉って作ったような空間。まるで秘密基地だな、というのが、ツミキの第一印象だった。

 

 抉れた岩陰に隠れるようにベースキャンプが設置され、その奥にはハンターが休めるようにベットが設置されている。

 というより、ベットしかない。あとはギルドが設置した赤と青の納品ボックスくらいか。

 カムラの里でクエストをこなしていく中でツミキが利用していたベースキャンプと比較すれば、利便性はないに等しい。

 ここでは食事はおろか、装備の持ち込みすら難しいだろう。

 質素を極めたようなベースキャンプ。だが、逆にそれが秘密基地感を醸し出しているように感じられ、ツミキにはそれが好ましかった。

 

 なんて美しい景観のフィールドなのだろう、というのが、ヒノエの第一印象だった。

 

 高山地帯のど真ん中の岩肌を抉って作られたようなベースキャンプなため、そこからはフィールドを一望することが可能だ。

 遠方にはいくつもの山々が雲を貫き聳えており、どこか神聖な雰囲気すら感じる。

 透き通るような美しい水に豊かな緑は、人の手が加えられていないにもかかわらず調和を持った外観をしており、見るものに美しいと感じさせる美を備えていた。

 

 ここでえっちなことしたんだ……というのが、ミノトの第一印象だった。

 

 まずベットを確認した。木製の寝台に、休めるようにとシートがかけられている。しかし、見た感じちょっと固そうだ。

 これでは最中に背中が痛くなったりしないのだろうか……? と、さわりとシートに触ってみる。思ったよりは柔らかかった。

 そのとき、シートにシミのようなものを見つけて、「ひゃぁ」と変な声を出して、バッ! と手を離して目を逸らしてしまう。

 けれど気になるものは気になるので、徐々に首を向けつつ、薄目でしっかりと確認した。

 普通のシミだった。断じてセッ……のあれではない。

 ミノトはなんだかホッとした。常識で考えれば1週間も前の液体によるシミが今も残っているわけがない。

 次に、ミノトはベースキャンプ全体の外観を確認した。

 岩肌を抉った隙間に設置されているようなベースキャンプなので、当然扉のようなプライバシーを保護するような小洒落たものはない。

 これでは丸見えだ。圧倒的……丸見え……! 

 こんな誰に見られるかもわからないところでえっちなことをした依頼書の女ハンターの、その光景を想像して、ミノトは顔から火が出そうなほど熱くなった。

 しかしスリルがヒトを燃えさせるのだという概念があることを、ミノトは認識している。

 それに、丸見えとはいえ一応ここはフィールド。

 クエストを受けたハンター以外が来ることは流石にあまりないだろう。

 ならば、一応の秘匿性は保証されている状態。安全にスリルを味わえるという点は評価に値するのではなかろうか。

 いや評価ってなんだ。私はそんなえっちな女じゃない! 

 ここまでの思考、実に十秒である。

 

「こんな遠くのフィールドまできたのは始めてだ。ヒノエ、ここはカムラの里とは違うギルドが管理してるんだっけ?」

 

「そうですね。ギルドが管理している、という点は同じです。でも、支部が違う……といえば分かりやすいでしょうか。簡単にいえば、私たちが普段目にするギルドはカムラの里周辺の管理運営を行うギルドの支部、ここはユクモ村周辺の管理運営をするギルドの支部の管轄……と言った具合です」

 

「僕は気に入ったけど、おんなじギルドでもここまでベースキャンプの設営に差が出るもんなんだなあ……」

 

「ツミキもそう思いますか!? うさ団子が食べられないのはすぐにでも改善するべきですよね!」

 

「え。あ、うん。そうだね」

 

「話を聞いた時、ヒノエはショックでした。クエスト中にうさ団子を食べられない……そんなの、酷すぎます。移動時間が長いので事前に作っても日持ちの問題がありますし……。だから、日持ちする材料で作ったたった数種類のうさ団子しか持ってこれなかったんです!」

 

 十分では……? という疑問を飲み込める程度には、ツミキとヒノエの付き合いも長かった。

 

 ツミキの言った通り、ここは普段ツミキがハンターとして活動を行うエリアからは少しばかり離れている。

 とはいえ、一応近辺ではあるのだが、ギルドの管轄が変わる程度には、離れていた。

 大砂漠の中心にある大都市、ロックラックよりも遥か東の山岳地帯。

 普通なら、カムラの里で活動するツミキが訪れることのない場所だった。

 

「そういえば、なんでカムラの里に緊急クエストが届いたんだ? よく知らないけど、普通はそのエリアのギルド管轄の集会所にだされるんじゃないの?」

 

「それは、少しばかり複雑な事情があるんです」

 

 ギルドが、その管轄外の集会所へ緊急クエストを出すことが全くない、というわけではない。

 例えば強大なモンスターが出現して、そのギルドの管轄内にそのモンスターを狩猟できる腕をもつハンターがいなかったとしよう。

 当然、管轄外のモンスターを狩猟できる実力をもつハンターに緊急クエストを出す。

 しかし、今回はそのパターンではない。

 

「カムラの里に緊急クエストが届いた時、タマミツネは大社跡フィールドに向けて移動していました。しかし、どういうわけか……途中で、この渓流フィールドに引き返したんです」

 

「え、なんで……?」

 

「理由までは……。ともかく、そのような経緯で、クエストを請け負った私たちも急遽この渓流フィールドに行くことになりました」

 

 そういう事情があり、ツミキたちは渓流にいる。

 ……もし、神の視点を持つ者がこの場にいれば。

 “まるで逃げるようにカムラの里周辺のフィールドから引き返した“タマミツネを見て、何か気づくこともあったかもしれない。

 

「……ま、理由はなんでもいっか。やること変わらないし」

 

「ツミキ、捕獲ですよ」

 

「もう耳タコだよ。……じゃ、ちょっと行ってくる」

 

「あ、待ってください! ミノト、ミノト! ……ミノト? いつまで寝台を見てるんですか……?」

 

「はっ!? ち、違いますからねヒノエ姉様!? 私はここでゴニョゴニョ……なことを考えるようなはしたない女ではありません!!」

 

「何を言ってるの……? そんなことより、ツミキが行ってしまいます。私たちもフィールドに出ましょう」

 

 寝台を見つめてぽけーっとしていたミノトの手をヒノエが引っ張る。

 ツミキは、ベースキャンプから続く小道を歩きながら、後ろ背に手をひらひらと振った。

 そんなツミキに置いて行かれまいと、竜人族の双子姉妹が小走りで駆け寄った。

 

「今までの話の流れでよく一人で行こうと思いましたね?」

 

「二人がすぐに来てくれるって信じてたんだよ」

 

「女の準備を待てない男はモテないそうですよ」

 

「いや準備って、ミノト寝台を熱っぽく見てただけじゃん……」

 

「なぁっ。あ、あれは、そう! 休息はハンターにとってとても大切な要素です。誰しもが休みなしで動き続けることはできません。だから、私はあの寝台が休憩に最適かどうかを確認していました。……休憩ってそういう意味ではないですからね!?」

 

「これで誤魔化せると思われてるの、僕……?」

 

「でも、確かにあのベットは少し……固そうでしたね」

 

「質素すぎるきらいはありますね、ヒノエ姉様。私たちの知っているベースキャンプはもっと快適ですし。それも、地域ごとの特色と言ってしまえばそれで終わりですが……」

 

「ふふっ、でも、大きいから三人で一緒に寝られそうですね」

 

「ツミキのすけべ」

 

「何も言ってないし何かを考える余裕もない判定スピードなんよ」

 

 取り止めのない雑談を交わしながら、三人で歩く。

 これから大型モンスターを狩りに行くとは思えないほどの自然体。

 きっと。

 世界が終わるその時になっても、こうして彼らはくだらない雑談をしながら挑むのだろう。

 

 まあ、挑みに行くのは淫乱タマミツネなのだが。





狩猟パートが長くなり過ぎたので分割しました。
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