カムラの里を出たい少年と、少年に里に残って欲しい竜人族の双子姉妹の700日戦争   作:メリバ上等

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追加された最終章のお腹を鳴らすミノトがかわいかったので初投稿です。




6話 贈り物

 どうして母ちゃんは父ちゃんと結婚したの? 

 

 幼少のツミキの疑問に、ツミキの母は柔らかな微笑みを浮かべた。

 

「下半身の相性が良かったんだよ、ツミキ」

 

 ツミキの母はドスケベだった。

 

「いい、ツミキ。覚えておくんだよ。プレゼントはね、"大好き"の贈り物なんだよ。女の子が男の子に何かを渡したいってときは、100パーセントえっちなことなんだから」

 

「100ぱーせんと?」

 

「100パーセント」

 

「分かった、覚える!」

 

 ツミキの母は、息子にろくなことを教えなかった。

 

 だから時が経って成長した息子は、こんな事になっている。

 

「ねえ、ミノト。女ハンターの防具ってちょっとエッチすぎない……?」

 

「ついにハンターの装備品に欲情するところまで来たんですか……!?」

 

 おたくの息子さんの成長、本当にこれで良かったんですか? 

 

 

 

 それはさておき。

 

 何でもない日の、何処にでもあるような、微睡むような日差しがふわりと降りてくるような昼下がり。

 倒木をそのまま加工して作ったような長椅子に腰掛けて、少年と少女が語らっていた。

 

「違うってば。ミノトは誤解している」

 

「誤解……?」

 

 戦慄するミノトの誤解を解こうと、ツミキはわちゃわちゃと手を振ってジェスチャー。

 

「僕は女ハンターの防具がえっちだと言ったけど、それは防具自体がえっちというわけではなくて、えっちな防具を着ている女の人がえっちだってことを言いたくて……あれ? やっぱり防具はえっちなのか?」

 

「誤解の余地がないじゃないですか!」

 

「違うんだって! これは……そう! うさ団子は1つでも美味しいけど、ダブルにするともっと美味しいって意味合いでのえっちなんだ!」

 

「つまり……?」

 

「えっちな防具をえっちなものとして自覚して身につけてる女の子はとてもえっちだということを僕は言いたい」

 

「狩猟のための防具を命を守るために身につけてるんですよ!」

 

「そんなわけがあるか! アヤメさんのナルガ装備を見てよ! ナルガメイルの鎖帷子は百歩譲っても、ナルガグリーヴの内腿の切れ込み何のためにあるの!? あんなのえっちにしかならないじゃん!!」

 

「洗練されたハンターの防具には全てに意味があるんです! だからあの切れ込みも、そこに切れ込みがなければならない重大な理由があるはずです!」

 

「でも男用のナルガグリーヴには切れ込みないよ。切れ込みに防具として重大な意味があるなら、男用防具にも切れ込みがあるはずでは?」

 

「それは……。…………。……………………」

 

 ミノトは黙り込んだ。

 

「…………………………脚周りの動きやすさ、とか」

 

 たっぷり悩み込んだが、流石に苦しかった。

 本人も自覚しているようで、語尾は消え入るような声になっていたり。

 

「ふ……分かったかな、ミノト。女ハンターの防具には、防具として無意味な露出が散りばめられている。つまり、初めからえっちなものとして作られているんだ」

 

「い、嫌です……! こんな事絶対に認めたくない……!! だけど否定できない……!!」

 

 頭を抱えるミノトの隣では、真理を垣間見たツミキが、悟りを開いたような顔をしていた。

 

「ハモンさんはえっちな防具を次々と作り出す、神の腕と発想力を持ったエロスメーカーだったんだね……これからは師範と呼ばせてもらおう」

 

 ハモンがこの場にいたらツミキを殴っていただろう。

 後日、ツミキに師範! 師範! と付き纏われて困惑するハモンがカムラの里で目撃される。

 

「それで、一つ相談があるんだ、ミノト」

 

「……!? 私にどんなえ、えっちな防具を身に付けさせるつもりですか!? 絶対に装備しませんからね!」

 

「いや、そうじゃなくて。僕、ナルガ装備を作ろうと思っててさ」

 

「私にナルガシリーズを着せてどうするつもりなんですか!? このっ、変態! すけべ!」

 

「僕のだよ! 僕のナルガ装備を作るんだって!」

 

「あ、ああ、ツミキのですか……。早とちりしてしまいました……。でも、どうして急に?」

 

 ミノトの記憶では、ツミキがより良い武具を求めたことはない。

 モンスターを狩る事が出来れば何でもいい。

 そういった適当さがツミキにはあった。

 

「いやね。僕はあんまり必要性を感じてなかったんだけど……里のみんながさ、そろそろ装備を強化したほうがいいんじゃないかって」

 

「ああ、なるほど」

 

 その理由は、ミノトからしても納得のいくものだった。

 ツミキはハンター訓練生を卒業したばかりの、新米ハンターだ。

 けれど、ツミキが狩猟してくるのはいつも飛竜などの大型モンスターばかり。

 使用する武具と、狩猟するモンスターが全く釣り合っていないのだ。

 いくらツミキと言えど、あまり強いモンスターの装備でないもので大型モンスターを狩り続けていれば、万が一がないわけではない。

 村のみんなが装備の強化を勧めるのも、当然のことだった。

 

「それで、どうしてナルガ装備を? 他にも選択肢はあったと思いますが」

 

 ミノトの疑問に、ツミキは神妙な面持ちで答えた。

 

「これは噂なんだけど、ナルガ装備を付けるとナルガクルガの隠密性が宿って誰にも気付かれることなくエッチな事が出来るらしい」

 

「動機が不純すぎるにも程があるんですが!?」

 

「父ちゃんが言っていた……覗きは浪漫だと」

 

「ヒノエ姉さままで覗いたら一生許さない」

 

「ミノトはいいのか!?」

 

「良いわけないでしょう馬鹿なんですか!?」

 

 因みに、地方によってはナルガシリーズには気配スキルが付くが、カムラの里で精製するナルガ装備には気配スキルはない。

 

「あ、ツミキ」

 

 後ろから声をかけられて、ツミキが振り向く。

 そこには、ナルガ装備に身を包んだ元上位ハンター、アヤメがいた。

 

「……? どうしたんだい、2人とも。アタシをじっと見たりなんかして」

 

「……ミノト」

 

「……ツミキ」

 

 首を捻るアヤメをよそに、頷き合った2人はうん、と一度頷いて、

 

「ナルガ装備に隠密性があるなんて大嘘だね」

 

「近くで見ると改めて感じますね。隠密する気ゼロですよ」

 

「今もしかしてかなり失礼なことを言われてないかい?」

 

 ハンター防具の奥は深いのである。

 

 

 

 

 

 どうやら、アヤメはツミキに頼み事があるらしい。

 

「知り合いの新人ハンターへ、お祝いの贈り物をしたくてね。本当は自分で素材を取りに行ければ良かったんだけど……脚がね。だから、素材を譲ってはくれないかい?」

 

 アヤメは上位ハンターだった。

 過去の話だ。

 狩猟中に脚に怪我を負ったアヤメは、その怪我が原因で半ばハンターを辞めている。

 カムラの里へも、ハンターという人生の大部分を埋めていた生き方を失ったアヤメが、放浪の果てに辿り着いたという経緯がある。

 

 依頼内容は、ケルビの角と上竜骨の納品。

 

 ツミキは、気さくに引き受けた。

 

「いいですよ。上竜骨は何本ですか? 100本?」

 

「い、いや、1本だよ。……100本も持ってるのかい?」

 

「数え切れないから分からないかなぁ……。僕の家の倉庫、5割ぐらいモンスターの骨ですよ。大型モンスター狩ったらなんかついてくるんですよね、骨」

 

「オマケみたいな言い方」

 

「けど、ケルビの角はどうだったかなあ……ミノト、倉庫にケルビの角あったっけ?」

 

「前に、倉庫の整理に行ったときにはなかったですね」

 

「じゃあ取りに行かなきゃだね。……アヤメさんアヤメさん、雷狼竜の角じゃだめなんですか? ほら、色似てるし」

 

「ダメだけど……雷狼竜の角はあるのかい?」

 

「うん。いっぱい」

 

「ハンターに成り立てだよね……?」

 

 考えたら負けである。

 納品素材が手持ちにないのであれば、フィールドへ獲りに行くのがハンター。

 そういうわけで、ツミキはケルビの角を求めて水没林へと赴いた。

 

 赤焼けた岩肌がむき出しになった大地に、絡みつくように植物が生い茂る植生。

 膝下まで泥水が浸しているフィールドは結果としてハンターの視界を悪くし、移動のしにくさによって徒らに体力を浪費させてくる。

 移動しにくさ。視界の悪さ。要所で浪費してしまう体力。

 フィールドそのものが「生物を狩る罠」のような、自然が生み出した狩場。

 

「で、なんでミノトはついてきたの?」

 

「アヤメさんはお礼に、カムラの里では製法が伝わっていない強弓の作り方を教えてくれるという話です。なら、ヒノエ姉さまへの贈り物にどうか、と。それに、水没林にも行ってみたかったですので」

 

「ああ、そういう……。でも、良かったの? その装備で水没林にきて」

 

「どういう意味ですか?」

 

「どういう意味も何も……」

 

 じっと、ツミキはミノトの頭の上から足のつま先まで視線を往復。

 ミノトが纏っている装備は、いつもの巫女服である。

 依巫シリーズと呼ばれる防具であり、大部分が布で構成されている。

 そう、布である。

 そしてここは水没林。

 導かれるのは黄金の方程式!! 

 

「……そのエッチな視線で何を考えているのかはわかりました。はあ、いいですか、ツミキ。この巫女服は仮にもハンターの防具です。身を守る鎧です。それが、濡れた程度で透けるような薄い布を使っているわけがないでしょう。変な期待はしないことですね」

 

 その考えは甘い。

 

 二時間後、ミノトはそれを痛感することになる。

 

「か、帰りたいです……!」

 

 ミノトはずぶ濡れになっていた。

 ぼたぼたと髪の先からは濁った水がしたたり落ち、水を含んだ布の服は重く、体に張り付いてとても気持ちが悪い。

 そのうえ、温暖多湿な環境でじめじめとしている水没林は、非常に蒸れる。それはもう蒸れる。

 圧倒的な不快感。今すぐカムラの里に帰って風呂を浴びたい気持ちでいっぱいだった。

 

 そしてなにより。

 

「布には、透けなくても張り付くというえっちさがあるんだよな。それに、水が滴ってる女の子って普段見ることがないから、特別感があって素敵だよね。分かるかなあ」

 

「わからないですし、私の後ろを歩くのやめてください。視線がいやらしい」

 

「お尻をランスで隠しておいて何を言う!!!」

 

「お、おお……なんて感嘆を漏らされたら誰だって隠しますっ! ほんっとうにすけべで変態ですね!!!」

 

「僕の記憶より大きくなってたから感動した」

 

「さいっっっっっていっ!!!」

 

「父ちゃんは言ってたよ。女の子がえっちな格好してる時は、男として見ることが礼儀だって」

 

「あまりにも自分に都合のいい解釈!」

 

 モンスターが生息し、人が活動するには過酷なフィールドである。

 けれど、賑やかな道中だった。

 まあ、ツミキがいる以上「モンスターに襲われて全滅」なんてことは早々起こりえないので、その安心感が知らず知らずミノトの体から余計な力みを取り除いており、無為に体力を消費することもなくなっていた。

 

「狼には襲われそうですけどね!」

 

「狼? ジンオウガいたっけ。狩ってこようか?」

 

「そんなちょっと買い物行ってくるみたいなノリで狩猟できるモンスターじゃないんですけどね……今更感ありますけど」

 

 本当に今更である。

 なにせ、これまでにツミキが狩猟したモンスターは3体。

 その一部始終は、

 

「っ、ツミキ、あそこ、大樹の根元を見てください」

 

「リオレイアか。まあ、進路の邪魔になるわけじゃないし、襲ってこなければ無理に狩猟することもないんじゃないかな」

 

「わ、わわわわわっ!? ツミキ! なんか口から火の粉を吹かせながらこっちを睨んでませんか!?」

 

「狩猟してくるからここで待ってて」

 

 ワンカウント。

 

「きゃあああああああああっ!!!?」

 

「ミノトっ! 落ち着いて離れて! 背を見せたらだめだ!!!」

 

「げほっ、ごほっぉえ、ぁ、ぐ……ツミ、ツミキ! 逃げないと、あれは金獅子! 伝承の古龍に匹敵する災害クラスのモンスター!! 人が、人が戦ったらダメなモノです!!?」

 

「あいつ、僕たちを認識した瞬間に襲ってきた!! 人を完全に“殺すもの”として認識してる! 今ここであいつを逃がせば、いつかどこかで必ず誰かがこいつに殺される!!」

 

「でもっ!!」

 

「絶対に逃がさない。お前が誰かを殺す前に、僕がお前を討伐する」

 

 ツーカウント。

 

「ずぶ濡れになったね……」

 

「ずぶ濡れになりましたね……。さすがに気持ち悪いです……着替えたい……」

 

「水浴びてさっぱりする? 水がきれいなところあるよ」

 

「本当ですか? それはとても魅力的ですが……その間、ツミキはどこに?」

 

「フィールドって危険だからさ。それに、護衛って近くにいないと意味がないと思うんだよね」

 

「我慢します」

 

「どうして!?」

 

「自分の胸に聞いてください。行きますよ」

 

「ちぇー……。あ、ミノト待って……お、おお……桃……」

 

「ツミキ? 何を……ぇ、いやああああぁ!!?」

 

 小休憩。

 

「……」

 

「ツミキ? 何を見て……ぁ」

 

「行ってくる」

 

「……大丈夫ですか?」

 

「心配してくれてるの? 大丈夫だって。光るゴリラを討伐した後で疲れてるけど、アオアシラ相手に後れは取らないよ」

 

「……そうですね。でも、アオアシラなら私も一緒に戦えます。だから、一緒に行きましょう」

 

 以上が、ツミキとミノトの、水没林に到着してからの出来事である。

 

「特に何事もなかったね」

 

「その感覚は絶対に早死にしますよ」

 

 ケルビの角を獲りに来ただけなのに、ちょっとした大冒険である。

 ミノトは頭が痛くなった。

 

 あ、ケルビの角はこの後簡単に入手しました。

 まあ、当たり前だよね。

 

「あれ、ミノト。依頼されたケルビの角は1本だよ?」

 

「まあ、予備ですよ、予備」

 

 そして、帰り道。

 

「それにしてもさ。アヤメさんが贈り物をしたい新人ハンターってどんな人なんだろうね」

 

 ミノトは少し考えて、言葉にした。とても綺麗な声だった。

 

「私たちはその方の人物像を知らないので、わかりません。けれど、とても素敵な方なのだと思います」

 

 アヤメは、上位ハンターだった。

 けれど、狩猟中の怪我が原因で、実質的にハンターを引退せざるをえなくなった。

 それまでの人生の大部分を占めていたハンターという生き方が突然消えてしまって、アヤメの心境はどういうものだったのだろうか。

 事実はともかく、アヤメは今までの自分から離れるように、辺境であるカムラの里までやってきた。

 

「ハンターを引退された方が、引退後も防具を身に着けているのはよく聞く話です。ですが、アヤメさんの場合は、少し事情が違うように思います。怪我によって訪れた突然の引退。ハンターである自分から距離を置くように、それまでのアヤメさんのことを誰も知らないカムラの里にまで来た。……けれど、アヤメさんは、ずっとハンターの防具を身に着けていた。これは、どうしてなのでしょうか」

 

 ミノトは、それを未練だと思っている。

 

 よくある話だ。

 失くしてしまったものに拘泥することを、ある人は弱いと突き放すかもしれない。

 でも、ミノトは、それを弱さとは考えない。

 

 竜人族であるミノトは、これから生きていく長い時間のなかで、たくさんの大切なものをなくしていくだろう。

 それは物であるかもしれないし、名誉であるかもしれないし、絆かもしれない。

 少なくとも、今ミノトが大切に思っている人たちの中で、100年後もミノトと一緒にいられる人は、姉であるヒノエだけだろう。

 それも、きっと、いつかは失くしてしまう。

 

 どれだけ大切に思っていても、いつなくなるか分からないだけで、いつかなくなってしまうのだ。

 

「でも、だからといって、そう簡単に割り切れるものじゃない。アヤメさんがハンターとしての自分を簡単に受け入れられていたのなら、きっとカムラの里には来なかった。過去の自分から離れるということは、それまでの繋がりを断ち切るということです」

 

 けれど。

 アヤメは、過去の自分との繋がりを残していた。

 その理由は、未練だけだったのだろうか。

 

「私は、そうではないと思っています。いえ……そうでなかったら、いいと思います。かつての、ヒノエ姉さまが……私が、そうであったように。過去の自分を肯定できるような何かが……出会いがあったのだと」

 

 ヒノエが、竜人族である自分を受け入れられたように。

 ミノトにも、そういう出会いがあった。

 

「だって……そっちのほうが、ロマンがあると思いませんか?」

 

「本の中の物語みたいだね」

 

「物語よりも素敵な現在だって、きっとあるんです」

 

 モンスターが生態系の頂点に立つ、人の命が軽い世界だ。

 生きていくのは大変で、涙をこぼすような悲しいことだってありふれている。

 それでも、ミノトはこの世界は美しいのだと、そう信じている。

 悲しいだけじゃなくて、涙を笑顔に変えるような救いがあるのだと。

「だから。アヤメさんが贈り物をしたい新人ハンターの方が……アヤメさんにとっての大切な人だと思うから。きっと、素敵な人なのだと、私はそう思います」

 

 アヤメが贈り物をするその行為に込められた意味を想像して、ミノトはふわりとほほ笑んだ。

 心の内側が温かくなるような、そんな気持ち。

 優しさが心地よく体の内側ににじむような空気感。

 

 ツミキは、とても綺麗な目をして言った。

 

「じゃあ、やっぱりアヤメさんは新人ハンターの人とえっちなことするのかなあ」

 

 最低だよ。

 

「…………………………………………はい?」

 

「え? いや、プレゼントのあと、アヤメさんは新人ハンターの人とエッチなことするのかなって」

 

「………………え? どうして? なんで今言うの?」

 

 ミノトの頭がバグった。

 

「よく知らないけど、母ちゃんがそう言ってた。大人の世界では、プレゼントのあとにエッチなことするんだって」

 

「ろくでなし親子……!」

 

「待てよ……? ということは、プレゼントをすれば僕もエッチなことができる……?」

 

「できるわけないですし、そんな動機でヒノエ姉さまにプレゼントを渡しているツミキを見たら私は黙っていないですからね!!?」

 

「あ、そうだミノト。実はミノトに贈り物があってね」

 

「この流れでそれは冗談抜きで最悪ですから次やったら刺しますよ」

 

「えっ」

 

「えっじゃないですよしばきますよ」

 

 いい空気は台無しになりながら、夜は更けていった。

 

 後日。

 

 無事にアヤメにケルビの角を納品して、ヒノエの強弓を製造した後のこと。

 

「ツミキ」

 

「ミノト。おはよ、受付嬢は?」

 

「休憩中です。……その」

 

「……?」

 

 ミノトは、少しだけもじもじと何かを躊躇う仕草をみせたあと、ぐっと意を決するように一息を入れて、ツミキの眼前に腕を突き出した。

 

 手袋に包まれた四本指の手に乗せられていたのは、小さな赤い小瓶。

 いにしえの秘薬と呼ばれる、回復アイテムだった。

 

「ツミキはいつもいつも危なっかしいですからね! ツミキがとても強いのは知っていますけど、それでも、危険なモンスターばかり狩猟しているから、不安になってばかりです!! だから、もし万が一のことがあったときに、ヒノエ姉さまや私が安心できるように、これをずっと持ち歩いてください!!! 分かりましたか!!? 分かりましたね!!? それじゃあ私は受付嬢の仕事がありますので!!!」

 

「え、あ、ちょっミノト!?」

 

 ツミキが何かを言う前に、まくしたてるようにそう言い切って、ミノトは走っていった。

 遠ざかっていくミノトの背中をぽけっと眺めながら、渡された赤い小瓶を見つめる。

 ふわりと、舞い上がるような熱があった。

 

『プレゼントはね、大好きの贈り物なんだよ』

 

 遠い日の母の言葉が頭をよぎって、ぽりぽりと人差し指で頬をかいた。

 むずがゆさが、胸の奥から顔に上っていく感覚。

 なんだか叫びだしそうで、でも叫ぶとこの気持ちが漏れてしまいそうで、それがとてももったいないことのように思えて、でもこらえきれなくて、ほぅと、控えめに息を吐いた。

 

「まさか、ね」

 

 つぶやかれた声は、あくびをしているような白い雲に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 一方その頃! お留守番をくらっていたヒノエは! 

 

 

 

 

 

「うさ団子は今日もおいしいですね、うふふ」

 

「ヒノエさん、ヒノエさん、いいんですか?」

 

「なにがでふか、ヨモギちゃん」

 

「いえ、今、多分ものすんごい抜け駆けをされてると思いますよ。女のカンってやつです」

 

「ああ、そのことですか。いいのです。だって……」

 

 

「たった一人の大切な妹ですから。私が一方的に取ってしまうと可哀そうでしょう?」

 

 

 次回、ヒノエのターン。

 




モンハンストーリーが面白すぎました。
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