カムラの里を出たい少年と、少年に里に残って欲しい竜人族の双子姉妹の700日戦争   作:メリバ上等

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アプデ待ち切れないので初投稿です。




8話 晩夏の出来事

 例え誰かに抱え切れないほどの過去があっても。

 例え誰かに違えてしまった過去の選択があっても。

 例え誰かに踏み入ることのできない無力感があっても。

 

 時間は平等に、時に激しく、時に緩やかに流れていく。

 

 そんなこと、分かってたのにね。

 

 

 

 

 

 ツミキとヒノエ、そしてミノト。

 ツミキはハンターになったことでクエストクリアに邁進し、ヒノエとミノトは受付嬢を始めたことで、訓練生時代より共にいる時間は減った。

 それでも、3人の絆……というと爽やかな感じがするので、腐れ縁とでも言っておく。

 そんな3人の繋がりは変わらずにあり、タイミングさえ合えば、以前のように3人で時間を過ごすことも多々あった。

 今朝もちょうど、そんな日だった。

 

「あれ、ヒノエとミノト? 珍しいね、2人一緒に休みだなんて」

 

「ふふ、私たちもいつも受付嬢をやっているわけではないですから」

 

 そんなわけで、ぼんやりとヨモギの茶屋で朝ごはんを食べていたツミキと、竜人族姉妹が合流した。

 

 いらっしゃいませー! とにこやかに手を振るヨモギに挨拶を返し、うさ団子を注文する2人。

 

「ヨモギちゃん、私はサトウテキ大福をお願いします。ヒノエ姉さまは?」

 

「うーん、そうですね……」

 

 うさ団子とは、カムラの里の郷土料理である。

 何故うさ団子かと言えば、先端が二股に割れた串を団子に刺した時、串の先端がうさぎの耳のように見えるからだ。

 美味しいのはもちろん。そして味のバリエーションも豊富であり、毎日食べても飽きないとも。

 

 あと、デカイ。

 

 マジでデカイ。大の大人の握り拳ぐらいの大きさがある。

 3段重ねアイスといえば、大人から子どもまで大好きな夢のトリプルだが、うさ団子3段重ねはそのボリュームがもはや殺人的であり、食欲旺盛なハンターぐらいしか頼まない。

 なので、普通はミノトのようにうさ団子を1つ注文するものなのだ。

 

 なのだが。

 

「ワザモモ大福とサクラクラ大福とサトウテキ大福の3段を1つ、ふっか月見だんごとのけぞらずんだ餅、おなかいっパインもちの3段を1つ、バラバラ白玉とミツタラシ団子、あとあんに丸だんごの3段を1つ。あとは……そうですね、キビキビだんご2つとヨジノぼたもちの3段を1つをくださいな」

 

 うおお……。

 

「毎度思うけど、なんでヒノエはあんなに食べれるの?」

 

「さすがヒノエ姉さまです」

 

「ダメだ、姉のことになると思考停止するんだった」

 

「私の作るご飯を三食きっちり食べた上で、ヒノエ姉さまはうさ団子3段重ねを日に50串は食べるんです。今更何を言えと?」

 

「何回聞いても数がおかしいんだよね……」

 

 何度目かも分からない戦慄をするツミキをよそに、「注文入りましたー!」と元気なヨモギの声を合図に、うさ団子の調理開始。

 

 シラタマとキナコという二匹のアイルーが、ヨモギの陽気な歌に合わせてリズミカルに捏ねただんごをお手玉。

 かと思えば、しゃきん! っと両手いっぱいに複数本の串を広げたヨモギが、串をだんごにむかって投擲。

 一直線に飛翔する串が、見事に空中でうさ団子を三つ貫いてみせた。

 

 異次元のエイム力である。明らかに只者ではない。

 なんでこんな子が茶屋でだんご作ってるの? 

 

 ふと気になって、ミノトは尋ねてみた。

 

「ツミキ、あれ出来ますか?」

 

「出来るけど?」

 

「そうですね、訊いた私が馬鹿でした」

 

 鳥に飛べるかと訊く間抜けはいない。

 

 んぅ〜と出来上がったうさ団子を堪能するヒノエ。

 ぱくっと一口で食べているわけではなく、ガツガツと早食いしているわけでもないのに、瞬きの間にうさ団子が平らげられていく。

 

 ツミキとミノトからしてみれば見慣れた光景ではあるが、例え見慣れていても圧倒される食欲だった。

 

「あの体のどこにあんなにいっぱいうさ団子が入ってるんだろ……ミノトと体型変わんないのに……」

 

「変態」

 

「判定が厳しすぎる」

 

「ヒノエ姉さまと私の体をじろじろと品定めしていました。すけべ」

 

「や、でも実際ヒノエとミノトはそんな変わらない……はっ!? まさか、ヒノエが摂取している栄養は全部胸にいっていて、巫女服でよく分かんないけど脱いだらミノト以上の素晴らしいものが……!?」

 

「ヨモギちゃん、このケダモノの目も団子みたいに串刺しにして構いませんよ」

 

「ミノトのうさ団子も相当……! だけどヒノエのうさ団子がそれ以上の……だとすれば……!! もちもち特大着痩せうさ団子が2枚だと!?」

 

「えいっ」

 

「本当に串を投げる人いる!?」

 

「ツミキさんがあまりにも最低だったので、つい……」

 

 ヒュンっと風を切って飛来する串を人差し指と中指で挟んで止めるツミキ。

 挟んだ串を近寄ってきたヨモギに返す。

 ヨモギはそれを受け取って、そのままゴミ箱に捨てた。

 

「衛生面には気を使ってますから!」

 

「え? あ、うん、そうだね……」

 

 それが正しいのだけれど、お前汚いから! って言われたみたいで、少しだけショックを受けたツミキであった。

 

 さて。

 

「あ、そうだ。ツミキさん、それにヒノエさんとミノトさんも」

 

 ぱん、と手を叩いたヨモギに、3人の視線が集中する。

 

 ヨモギは、にこりと笑みを浮かべて、

 

「今日の夜、3人で集会所に来てくださいね! 特にツミキさん! クエスト行って遅れたー! とかなしですからね!」

 

 それは、カムラの里のみんなからの、3人へのサプライズだった。

 

 

 

 

 

 そして夜!!! 

 

 

 

 

 

 ヨモギに言われた通り集会所に向かった3人を待っていたのは、滅多に見ないようなご馳走と、いつも見てるカムラの里のみんなだった。

 

「なにこれ!?」

 

「驚いたか? お前たちの祝いの席だ、ツミキ」

 

「ああ……そういうことですか、里長」

 

 ツミキがハンターになって、約二ヶ月余り。

 ツミキから二ヶ月ほど遅れて、ヒノエとミノトもハンター訓練生を卒業した。

 ツミキのようにハンター専門というわけではないので、フィールドに出ることは少ないだろう。

 それでも、彼女たちはモンスターを狩れると認められた、ハンターになった。

 

 ウツシの元から、3人の訓練生が卒業した。

 そのタイミングでお祝いしようと、みんなが決めていたのだ。

 

 ツミキたち3人の胸の内に喜びが広がったことは、言うまでもない。

 

 そうして、3人を祝う宴会は始まった。

 

 始まってしまった。

 

 最初、ツミキはウツシとヒノエとミノトなど、馴染みのメンツで集まっていたのだが……いつの間にかフゲンとゴコクが加わり、ハモン、コジロー、ヨモギにイオリとどんどん人が増えていって……。

 最終的に、飲めや歌えやの里のみんなを巻き込んだ大宴会に。

 

 大人が宴に混じれば、当然そこに酒がある。

 これは全てのものが上から下に落ちるように、この世の中の絶対の法則なのである。

 

 そして、酒の席ではしばしばこういう光景を見ることが出来る。

 

「そういえばツミキ、お前酒飲んだことあったか?」

 

「や、ないよおっちゃん」

 

「なんだ、飲んでねえのかよ! お前もあと二年もしたら嫁さんもらうような歳になんだ、酒の味ぐらい覚えとけって!」

 

「臭いが苦そうだからなぁ……僕、回復薬も苦手だし」

 

「酒の味が分からねえガキンチョには女の味も分からねえ。お前の親父はこう言ってなかったか? 酒を飲める男は女にモテる」

 

「何してるんだよおっちゃん! 早くそのグラスを僕にちょうだい!」

 

 そうしてツミキは初めてお酒を口にした。

 結論から言えば、ツミキはお酒にめちゃくちゃ強かった。

 竜人族相手に飲み比べで勝つぐらいには強かった。

 なので、みんな面白がってツミキにどんどんお酒を飲ませていき……。

 

 さて、ここで一つ状況のおさらいである。

 

 カムラの里は今、里ぐるみで"ツミキが里から出ていかないようにしよう"という一つの大きな意思がある。

 そこに想いの大小はあれど、全ての里の住人がそういう行動を取っていることに違いはない。

 そして、里からツミキが出ていかないために現状効果的面だと考えられているのが、ヒノエかミノトとツミキが結婚することである。

 

 カムラの里のみんなは、そのための協力を惜しまない。

 

 幼少の頃から知ってる少年たちが、自分たちの里で家庭を持って幸せになっていくことに異を唱えるものなどいるはずがないのだから。

 

 次に、宴会ゲームというものをご存知だろうか。

 

 酒の席で行われるちょっとしたレクリエーションであるが……どうにも、これには少々えっちなものが多い。

 お酒の魔力は、男女の性を多少解放的にしてしまう。

 

 そして何より、ツミキという少年は潜在的にどすけべだった。

 

 何が言いたいかというと。

 ツミキが三本目の大樽を一人で空けたぐらいから、悪ノリが始まった。

 

「乳首当てゲェェェェンムッ!! イェーイ!!」

 

「イェ────イ!!!」

 

 男の一人がジョッキを天に突き上げ乳首当てゲームの開始を宣言! 

 周囲の男たちのスタンディングオペレーション! 

 半数の女たちのしょうがないなぁ……みたいな満更でもない顔! 

 半数の女たちの男ってホンットサイテーね、という冷え切った目! 

 気炎万丈! 

 多種多様な反応が会場に伝播する! 

 

 そんな中、ツミキは! 

 

「乳首当てゲーム?」

 

「なんだ知らないのかツミキ。乳首当てゲームは人差し指でツン♡と相手の胸をソフトタッチして、乳首をお互いに探し合うゲームだ」

 

「ごくり。それは……女の子のおっぱいを触れるということですか……?」

 

「勿論だとも。ドンドルマでは常識だぞ」

 

「ドンドルマ凄い!!」

 

「なあ、ツミキよ。──見ているだけでいいのか?」

 

「乳首当てゲームイェ──イ!!!」

 

「それでこそ"男"だぜツミキ!」

 

 酔ってても酔ってなくても変わんねーなこいつ。

 

 木製の大ジョッキを振り回すツミキを、ミノトが極寒の眼差しで見て……いや睨みつけていた。

 計画が頓挫した瞬間である。

 

 とはいえ、ツミキうんぬん抜きにしてもすけべな事はしたいのが人というもの。

 里の人口は少なく、ツミキの同年代は殆どいないが、若い女や男が全くいないというわけではない。

 若い男女を中心に、やん♡とかひゃん(野太い声)とか、若干ピンク色の空気が広がり始める。

 

 誰が見ても不機嫌だと一発でわかるミノトの隣に、女が座った。

 ミノトの前の集会所の受付嬢。つまり、ミノトの先輩にあたる人物である。

 

「久しぶりね、ミノトちゃん。楽しんでる?」

 

「……楽しんでいると思いますか?」

 

「あはは! ううん、まったく!」

 

「なら何故訊ねたんですか……」

 

 はあ、とため息を溢すミノトを先輩受付嬢はけらけらと笑う。

 ミノトは少しムッとした。

 

「こんな、女の体に触れるためだけのゲームを目の前でやらられば、誰だって不機嫌にもなります」

 

「えー、女が男の体に触るためのゲームでもあるんだけどなあ」

 

「気軽に触れるものではありません。貞操というものがないのですか」

 

「気軽に触れられないから、ゲームって形にしてるんだよ。自分にも、相手にも言い訳ができるように」

 

 それは、ミノトには分からない大人の理屈だった。

 男には性欲があって、もちろん女にも性欲があり、双方の"それ"を対外的に言い訳のきく範囲で満たす暗黙の了解。

 ミノトがこの先、理解はしても共感はできない理屈でもあった。

 

「……理解できません」

 

「あはは、そりゃあミノトちゃんは……ねえ?」

 

「……なんでしょうか、その顔は」

 

「まあ分かるよ、分かるよミノトちゃん。私も旦那が私じゃない女の乳首を触ってるのは嫌な気持ちになるもん。だから、ねえ……?」

 

「……何が言いたいんですか?」

 

「ツミキが他の女の胸触るの嫌なんでしょ?」

 

 がたん、とミノトの跳ねた足が机の裏に当たって、危うく机が割れかけた。

 

「そんにゃことっ!?」

 

「分かり易っ。いや……分かり易っ」

 

「違います! 訂正してください! 私はただ、男のすけべさに辟易として……!」

 

「うんうん、いいんだよミノトちゃん。私はミノトちゃんの味方だからね。……あの時からでしょ? ほら、背負われて帰ってきたあの……」

 

「違います!!!!!」

 

「あっはっはっ!」

 

 暖簾に腕押しとはこのことだろう。

 ミノトがいくら否定しても、先輩受付嬢は訳知り顔でミノトの肩をポンポンするだけで、それが絶妙にウザくてしょうがない。

 

 ミノトは激怒した。

 必ずかの邪智暴虐の先輩に何か一矢報いてやりたいと思った。

 ミノトには男女の愛が分からぬ。ミノトは、不器用な少女である。咄嗟の機転などとんとダメである。

 けれども、他人の機微には人一倍に敏感であった。

 なので、ミノトは最初からずっと気付いていたことを口にした。

 

「そういえば先輩の旦那さま、ゲームに参加していましたよ」

 

「ふーん殺そ」

 

 先輩受付嬢が旦那をボコボコにしている横で、この日一番の歓声が上がった。

 乳首当てゲームでツミキの番が来たのである。

 

「ふー! ふー! ふー!」

 

「鼻息荒いなこいつ」

 

「どんだけ期待してるんだ」

 

 ツミキは覚悟した。

 必ずや女性の乳首を探り当てるのだと決心した。

 ツミキは女体が分からぬ。ツミキは、十五歳の少年である。この歳まで清い体で過ごしてきた。

 けれども、すけべな事には人一倍に敏感であった。

 

 相手はツミキよりも一回り歳上な上に人妻だったが、だからなんだというのだ。

 人妻だろうと人妻じゃなかろうとおっぱいが柔らかいことに変わりはない。

 何より本人が良いと言っているのだ。そこになんの問題があろうか。いやない。

 

 絶対に今日おっぱいを触る。

 ツミキの胸中には断固たる決意があった。

 

 真っ直ぐに伸びた人差し指はまさしく一振りの剣の如く。

 モンスターの弱点を的確に捉えるツミキの観察眼と精緻な体捌きが、今宵女性の乳首を服の上から探り当てるためだけに発揮された。

 

 距離。

 方角。

 位置。

 高さ。

 角度。

 面積。

 オールグリーン。間違いない。全てを見通したツミキの口元が確信の半月を描く。

 

「ここだぁ!!!」

 

 美しさすら覚える流星の軌跡で、一寸の狂いなく乳首に向かって人差し指が邁進して、

 

「触るんですか?」

 

 ピタリと、その直前で止まった。

 

 ギギギ、とツミキがゆっくりと首を動かす。

 そこには、ニコニコと微笑んだ……酒の匂いがするヒノエがいた。

 

「触るんですか?」

 

 二度目の問い。発された言葉は同じものだ。

 声音は柔らかく、顔も笑っている。聞くものが聞けば、いつものヒノエちゃんか〜、なんて言いそうな雰囲気。

 けれど、分かる人には分かる。

 目がマジだった。

 

「ヒノエ……僕は今日、真の男になるんだ」

 

 ツミキはアホだった。

 

「ばっかツミキ! 何言ってんだお前!」

 

「おっぱいを触る」

 

「ちげぇ! 違くないけどちげぇ! 今言う事じゃねえんだよ!」

 

「おっぱい」

 

「ダメだこいつおっぱいのことしか頭にない!!」

 

 男たちがわちゃわちゃやっている間に、ツミキの対面に座っていた女性と一言二言話したヒノエは、入れ替わるように席についた。

 手にしていた酒の容器を机に置く。

 ダン!!! と強い音がして、中の酒が少し溢れた。

 居住まいを直して、少しだけ胸を張るヒノエ。

 小首を傾げながら、笑顔で言った。

 

「さあ、どうぞ」

 

 圧がなんかもうやばかった。

 

「……」

 

「やめろ、助けを求めるようにこっちを見るなツミキ」

 

 流石のツミキも、あれ? なんかヒノエ怒ってる? と気付く。

 

「ヒノエ……? 怒ってる……?」

 

「どうぞ」

 

「怒ってるよね?」

 

「どうぞ」

 

「じゃあ遠慮なく……」

 

 ヒノエの胸をガン見し始めるツミキを見て、こいつ勇者か? と里のみんなは思った。

 

 ヒノエの乳首の位置を予測していたツミキの脳裏に、一瞬だけ、ヒノエによく似た少女の裸体が浮かんでヒノエと重なる。

 カッとツミキの顔が酒とは別の理由で赤くなって、思い出してはいけないことを思い出したツミキがブンブンと目を瞑って首を振った。

 目を開けると、そこにはヒノエの顔が視界いっぱいに広がっていた。

 

「ひぅ!?」

 

「ねえ、ツミキ」

 

 そして、ヒノエはツミキにしか聞こえない声で、

 

「──実は私、ミノトより大きいのですよ」

 

 衝撃の告白にツミキの思考がフリーズ、妄想がビックバンを起こしている最中で、ヒノエが乳首当てゲームに参加している事に気付くミノト。

 

 二人の顔はとても近く、当然体も寄り添う距離。

 ツミキが少し腕を伸ばせば、いや、伸ばさずともヒノエの胸を触れる距離感。

 

「嫌」

 

 それは、どちらに対しての"嫌"だったのか。

 咄嗟に口をついて出た言葉の意味も分からないまま、ミノトは走った。

 

「ヒノエ姉さまに何をしようとしているんですかっ、すけべツミキのひゃぁ!?」

 

 そして、転がっていた酒瓶を踏んで躓く。

 

 足が地面から離れる浮遊感。

 このまま倒れれば顔から着地してしまう体制。

 咄嗟に反応したのは、やはりツミキだった。

 ヒノエのおっぱいからこの日一番の渾身を以て視線を引き剥がし、けれどすけべ心がツミキの異次元の反応力を著しく阻害した。

 地面とミノトの間に入ってクッションになろうと滑り込む。

 そのまま、ミノトを抱き止めようと腕を伸ばした、その手に。

 

 ふにょん。

 

「──え?」

 

 今まで触れたことのない未知の柔らかさを知覚した刹那、ツミキの上にミノトが倒れ込む。

 

 どたーんと音がして、しーんと静まり返る会場。

 

 もにゅ。

 

 安否確認とかそういうの全部すっ飛ばして、思考停止の末にとりあえず、あの感触をもう一度という脳の叫びに従ってツミキは手と指を動かした。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!?!?!?!?」

 

 声にならない声を上げたミノトのその真っ赤な顔が、ツミキの手がどこにあったのか、何よりも雄弁に物語っていた。

 

 

 

 

 

 ブチ切れたミノトはツミキの顔に真っ赤な紅葉を咲かせて、宴の会場を飛び出していった。

 しょうがない子だなぁ、と先輩受付嬢がミノトを追うように出ていって、同じくミノトの後を追おうとしたツミキは里のみんなに引き止められる。

 

「今はやめとけ、ツミキ」

 

 そんなこんなで、ツミキとヒノエの二人が残った。

 

「……」

 

 ヒノエはめちゃくちゃ不機嫌になっていた。

 

「どうすればいいの……」

 

 ツミキはめちゃくちゃ弱っていた。

 

 ツミキはアホではあるが、他人を慮れない人間ではない。

 

 一度時間をおいて冷静になれば、自分がミノトにした事、それがミノトが怒って当然のことであった事、そして自分が今やらなければいけない事が分かる。

 

「僕は……」

ツミキ「僕は……」

  • 「ミノトが気掛かりだ。追いかけよう」
  • 「ミノトも気になるけど、今はヒノエだ」
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