先月から暑すぎてやる気が何も起きず、新しく始めたやつも考えていた話は頭の中だけで一文字も入力する気力もなくて、ふとコーヒーを飲んだら何故かカフェのことが過ってこっちをベースにやっと書いた。
私はコーヒーを好んでよく飲んでいる。
それは別段変わったことではないし、ウマ娘でもコーヒーを飲んでいる子を見たこともある。それでも彼女達が飲んでいるのは砂糖やミルクの入った甘いコーヒーだ。
何が言いたいのかと言えば私は甘いコーヒーではなくて、何も入っていない俗にいうブラックコーヒーが好きな子だということ。
私はそれがとても美味しいと感じるし、豆によって味は違うのだということをよく語るのだが、中々それを理解してくれる友達は中々いなかったりする。……生憎友達はそんなにいないので語った回数など指で数えるぐらいですけど。
よく話をする友人と呼べるタキオンさんことアグネスタキオンにもそれを語ったことはあるけど、彼女は紅茶党でコーヒー嫌いなのである意味敵同士でもある……のだけれど、別に不仲ではないし数少ない友人なのは間違いない。
しかし、中々理解も同意を得られたことはないのです。
先にも言ったようにコーヒーも豆や淹れ方によって味は変わる。だからなのか、私の数少ない趣味が美味しいコーヒーを探すことだったりする。それはトレセン学園にやってきたからできた趣味で、それは意外なことに早く見つけることができ、今では休日には毎朝コーヒーを飲みにその喫茶店に行くのが毎週の楽しみ。
そこの喫茶店のコーヒーはどうしてか私好みの味で、ここを見つけたときは何ていうか人生でそうそうない最高の出来事であったことは間違いない。ここの味を知ってからは他のお店に行くことはなく、ここのコーヒー以外では物足りなくなったぐらいだ。
だけど、缶コーヒーは別です。あれは缶コーヒーというある種の別の存在なので、これだけはノーカウント。
そんな運命的な出会いをしたこの場所で、私はあの人に出会った。
「相席でよかったらすぐにご案内できますよ」
「じゃあそれで。キミもそれでいいか?」
「……え……あ、はい……」
その日はいつもより少し違う時間に喫茶店に向かったら、何故か普段混んだことがないお店が今日に限って混んでいた。私が入店して少し経って後ろから彼……トレーナーさんがやってきて、対応していた店員さんがそう提案してきたのだ。
この時はなんでそんなことを言ったのだろうと思ったけれど、トレーナーさんもここの常連で彼がトレセン学園で働くトレーナーだと知っていたから、ウマ娘であると私と相席しても問題ないと言ったのだと後になって知った。
「いつもの」
「……あ、いつものお願いします……」
テーブル席で向かう合うように座り、店員さんがお水を持ってくると互いにメニューも見ずに同じように口にした。向こうも向こうで私はもちろんのことトレーナーさんのことも知っているのか、『いつもの』と言えば通じてるぐらいには「はい、かしこまりました」と言って去っていった。
普通はここでそれが会話のきっかけになるんだろうけど、生憎と私は会話がそんなに得意な方ではないので、口を開くどころからただ黙ってメニューを壁にしながらちらちらとトレーナーさんを見ていた。
この時の私は目の前に座る人がトレーナーだとは知らず、ただ見知らぬ男性と相席しているだけと思い込んでいた。彼をトレーナーだと知ったのは向こうから私に尋ねてきてからだった。
「キミ、うちの生徒だろ」
「……え、うちって……学園の人、なんですか……?」
「教師兼トレーナーをやってるけど、流石に全校生徒まで覚えていなくてね。あ、俺の名前は木場だ。チームスピカのトレーナーを担当している」
「私は……マンハッタンカフェです。その……スピカって、あのスピカなんですか……」
「アハハ。恐らくキミが思っているスピカで間違いないよ」
と、トレーナーさんは複雑そうな顔をながらしながら笑って言った。
チームスピカとは恐らく現時点でトレセン学園で悪い意味で有名なチームの名前。所属しているウマ娘はみな成績もよく、今最も頭角を現しているチームリギルと張り合うほどと言われているけど、チームの強さより何故か悪いイメージが付いて回っている。
その原因はゴールドシップというウマ娘で、私は直接会ったことも会話もしたこともないけど、彼女に振り回されているウマ娘や学園関係者は多いと聞いている。それが原因でチームスピカは良い評判より悪い評判の方が知れ渡っている。
『……』
何度も言うが私は会話が得意じゃない。だからこうしてすぐに沈黙が訪れてしまう。対するトレーナーさんはそれを察してか、何か会話を振ってくるようなことはなかったし、かと言って私に対して何か戸惑うような素振りも見せてはいなかった。
はっきり言ってしまえば、それは私にとって非常に有難かったし気が楽になった。
変に気遣う必要もないし硬くなることもない。もっと言えば居心地がよかったとすら思っているぐらい。だっていくら学園の先生でトレーナーであっても担任でもチームに所属しているわけでもない。何より今回はたまたまこうなっただけで、次からはいつも通りで一人で静かにコーヒーを飲んでいるはず。
──と、コーヒーが来るまではそう思っていた。
「……美味しい……」
「キミもそう思う? 実は俺もここのコーヒーに目がなくてね。休みの日はいつも来るんだ」
「トレーナーさんもなんですか……? 私もここのコーヒーが大好きでよく来るんです」
コーヒーが来て一口飲むとつい口が緩んだのか本音が漏れてしまったが、まさか会話が発展して共通の趣味が見つけてしまった。
そこからここのコーヒーの味だとか、他のお店のはどうだとかコーヒー談義をして盛り上がった。ある意味で今後続くことになるこの関係において、一番会話をしたのがこの最初の時だったと思う。
それからコーヒーのお代わりをしながら二人でかれこれ1時間ぐらい喫茶店で過ごした。
「今日は楽しかったよ。なにより共通の仲間ができたしね。それじゃあまた学園で」
「……はい……あ、伝票……」
そう言って先に立ち上がってレジに向かったトレーナーさんの背中を見て、私は自分の伝票がないことに気づいた。恐らく彼が一緒に持っていたのだとすぐに分かった。
気を使わせてしまったと私は思って、もし今度また会うことがあれば今度は自分がお金を払おう。そうすればそれでスッキリする。
だけど、今度も会えるなんて保障ない。じゃあどうしようって考え出したときにはもう彼は店を出てしまった。
「……追いかければよかった……」
つくづく私はダメな子だと思った。
本格的にどうお返ししたらいいだろうかと寮に帰ってもこの悩みは解決することはなくて……。
結果から言えば、それは後になっても中々解決することはなかったのです。
「……あ、どうも……」
「やあ」
一週間後。いつもの時間に喫茶店に行ったらトレーナーさんが居た。別に違う席に座ればいいのに何故か店員さんに案内されてしまって。そこは断るなり別の席に行けばいいのに、生憎と私にはそれを言う勇気はなかったのです。
まあ今日はたまたまだから、次は大丈夫。
そう思って翌週また訪れれば案内された場所にトレーナーさんが先にいて、一緒にコーヒーを飲んで、一言か二言ぐらい会話をして、彼が先に席を立って会計を済ませて別れる。それが気づけば数週間、数ヶ月、なんと数年も続いてしまってお返しをする機会は一向に訪れることはなく、自然とそれを受けれている自分がいる。
いつかお返しをしようと理解はしていも、トレーナーさんは子供がそんな気を遣うんじゃないの一点張り。
さらに彼曰く。
「カフェとこうして一緒にコーヒーを飲む時間が好きだから、そのお礼だよ」
そう言われてしまえば、私はもう何も言い返すことはできなくなっていました。
何故なら私もトレーナーさんと同じ気持ちだし、何よりも共通の理解者というのは大事でもある。いつしか『カフェ』と呼ぶことを許すぐらいに私は彼に心を許しているし、何よりも私達はここにいる時だけはトレーナーとウマ娘という関係ではなく、ただよくある『友達』という関係だからそれが私達にとって居心地のいいものになっていたんです。
最初はそんな関係は喫茶店で会うときだったけど──
「カフェってBOSSとジョージアどっちが好き?」
「……私はジョージアです……あ、でもクラフトボスは好きです」
「あ、俺もそれ好きなんだよな」
普段学園では滅多に会う機会も会話することもないけど、たまたま自販機の前で会えばこういう会話をするようにもなっていました。
ある日のこと。
私はあまりトレーナーさんのことを知らないということに気づきました。といってもそれは学園にいる時の彼で、普段というかオフの日のトレーナーさんについては何となく理解というか、こういう人なんだなあと分かるぐらいには知っているつもり。
なので学園でのトレーナーさんはどういう人なのか興味本位で調べてみることにしてみたんです。
調べるのはそんなに難しいことじゃなくて、チームスピカは色々と有名だからすぐに情報は集まりました。他にも遠目で指導している所を見ればそれはよく分かりました。
何ていうかトレーナーさんは好かれている人でした。
担当のウマ娘からそれ以外のウマ娘からも妙な人気があって、私はなんでだろうって首を傾げるぐらいには。
彼は優しい人なんだということは当然知っているし、トレーナーとしての実力も担当しているウマ娘の成績から見ればそれは証明済み。
では男性としてはどうかと考えると、背は高くてガタイもいいから女の子受けしそうな身体をしている。私は思わないけど、初対面の人からしたらちょっと顔は怖い方だと思う。
これ以外には中々思いつかないなあと思った矢先、それを教えてくれたのは友人であるタキオンさんでした。
「やあカフェ。実はちょっと興味本位で作ったこの香水をキミにプレゼントしようじゃないか。おっとけしてやましい気持ちなんてない。ただ友達であるキミにただプレゼントしたかっただけさ。……本当だよ?」
「……」
タキオンさんにしてはあまりにも珍しい行動をしてきたので私はつい警戒していましたが、まあ香水なら平気だろうと思ってすぐに警戒を解きました。
しかし、タキオンさんが香水なんて作るなんて変わった事もあるなと思いながら私は試しに匂いを嗅いでみたんです。そしたら……
「……あれ、これって……」
それは知っている匂いに近いものでした。それもよく定期的というか嗅ぐ匂いというのも変な例えですけど、私はこれを知っていたんです。一体何だっただろうかと考えて、それはすぐに思い出しました。
これはトレーナーさんの体臭の匂いだったんです。
といってもそれに近い匂いといいましょうか。一言でいえば出来損ないみたいな匂いでした。
私はそれに気づくとすぐにタキオンさんがトレーナーさんに好意を抱いていると確信したのです。全くと言っていい程絡みがない二人なのに、どうやって彼女が彼に好意を抱いたのかは知りませんが私はその場で聞いたんです。
「タキオンさんってスピカのトレーナーさんが好きなんですか?」
「は、はあ!? な、なんでいきなりそんなことを聞いてくるんだい。別に彼のことなんて好いてなんてないよっ」
普段見ることない動揺しているタキオンさんを初めて見た瞬間でした。見るからにバレバレで、どうみてもトレーナーさんに好意を抱いているのが丸わかりでした。
ただ私は真っ先にあることが脳裏に浮かんだのです。
だって、タキオンさんは紅茶党でトレーナーさんはコーヒー党ですから、多分そこまで悪い方向にはいかないまでも、相性はそこまでよくないんじゃないかなって。
そんなことを思っているとタキオンさんが言ってきました。
「ところでカフェ」
「……はい?」
「なんでキミは、まるで何かを勝ち誇ったような顔をしているんだい」
別にそんな顔をしたつもりはないのですが、タキオンさんが言うからにはそういう顔をしていたんだと思います。
ただ、少なくとも私はタキオンさんよりトレーナーさんのことを知っているのでそう思われても仕方ないのかなって思いました。
色々とトレーナーさんや他の子達のことを調査していて思ったのは、私もトレーナーさんのことを気にかけているということだとようやく気づいたことでしょうか。
でも、私は他のみんなと違ってトレーナーさんとずっと一緒に居たいとか、恋人同士になりたいといった考えはあまりありませんでした。
また、他の誰かがトレーナーさんと付き合ったとしても、私は多分嫉妬とかそういった感情は抱かないという確信がありました。
だって私とトレーナーさんは他のみんなと違って友達です。トレーナーとその担当ウマ娘という関係ではなく、ありふれているけどちょっと変わった友達という関係ですからね。
だけど、強いて望むなら──
「……こんにちは、トレーナーさん。ご一緒してもいいですか……」
「やあカフェ。もちろんキミなら大歓迎だよ」
週に一度のトレーナーさんと一緒にコーヒーを飲むこの時間をこれからもずっと続けたい。
ただそれだけを私は望んでいるんです。
今連載している方は多分更新は難しく、結局のところこっちの設定の方が書きやすいというのも自分の中にはあってこちらで更新しました。
本当は今やっているのではなく、こっちのゴルシ関連の補完の短編を数話ほど考えていたのですが、その最後に繋がるまでの最初と途中の話を考えるのが難しくて断念しました。
なので多分こっちをリメイクというかトレーナー視点側で各ウマ娘の話を補完するか、或いは最終話の世界線ルートの世界観でちょっと何かやろうかなって考えてます。
こっちとは違いなにと言いませんが1対9の割合でやり直すつもりです。
ただ以前よりも書くスピードが落ちているので時間はかかると思います。もし連載することができたらその時はよろしくお願いします。