呪い満ちるこの空を -flying MIKO-   作:甲乙兵長

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日常回その3。

京都校の生徒はとりあえず一回出演させるつもりだったので、今回は加茂回。

こんな感じでいいのかな? 自分で書いててよくわかんねぇ。




【第漆話:紅白巫女は共有する】

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 質素な和風の一室にペンの走る擦過音。

 男子寮の一角に割り当てられた三年・加茂憲紀の部屋である。

 本来、御三家の嫡男たる彼が高専に通う必要はない。そんなことをせずとも、加茂家の相伝術式を継いだ彼の将来は約束されているも同然なのだ。

 だが、呪術界のみならず高専関係者にも加茂家当主としての名を知らしめるため、ないしは、爛れた側妻(そばめ)と呼ばれ家を去った母の名誉を取り戻すため、幅広い者たちに己の実力を認めさせる必要があった。ただ本家の内側で燻っていたのでは到底賄えない。

 そんな彼は、もっぱら自習の最中である。

 高専は、その名の通り体裁は学校。呪術以外の教科がないわけではない。

 高専生は呪術師として幾度となく現場に駆り出される。割り振られる仕事量、難易度は個々人の等級などに左右されるが、ゆえに一般的な学校のように画一的な座学スタイルは実質不可能。授業をしようにも出席のバラつきが出るし、進行速度にも差が出てしまう。教師とて自分の任務もあり暇ではない。

 よって、各学年の担任が個人の学力に応じた課題を与えている。提出までの期間や量も任務との兼ね合いが考慮されたもので、生徒数が少ない高専ならではの措置とも言える。

 これは決して義務ではない。課題をこなさなかったからといって退学なんてことには滅多にならないし、代わりに討伐任務などを請け負えば評価点はプラスされる。ようは、勉強するかはそれぞれの自由なのだ。

 加茂は、そんな中でも進んで勉強するタイプ。すでに学校側から与えられた課題は終えており、いま行っているのは自分のための研鑚だ。

 かれこれ二時間ほど。任務も特にないオフにも関わらず無言で字を書き連ね、余人にとっては面白みの欠けた時間を一旦打ち切る。分かりづらくも達成感ある顔つきなあたり、加茂にとっては、充実したひと時であったようだが。

 

「ふぅ。・・・・・・こんな時間か」

 

 興が乗ってそれなりに遅い時間までのめりこんでいた。

 頭を冷やしがてら、学内の自販機に飲み物を買いに出る。

 自室には旅館などにあるような小型冷蔵庫が置いてあるが、そちらは輸血パックを入れておくためのものだ。相伝術式、『赤血操術(せっけつそうじゅつ)』は術師当人の血液を操るゆえに、こうした事前準備は必須である。自戒も含め、外出時は任務外だろうと学内だろうとパック三つは持参する。

 入れる業者が限られているため自販機のレパートリーが少ないが、加茂自身大量生産飲料に大して贅沢を求めたりしない。

 電飾が暗闇に映える中、購入したボトルを持ち遠回りの帰路に就く。

 手入れの行き届いた庭木や芝、小池など。奥まったところなら学長お気に入りの枯山水もある、伝統豊かな京都らしい色を感じさせる敷地内。

 かなり見慣れた風景だが、夜間にみるそれはまた昼とおもむきが異なる。

 もうじき男子寮に到着するかというタイミングで、加茂は正面に小柄な人影を見咎める。

 

「・・・・・・博麗?」

「あ? ゴー☆ジャスか」

「加茂憲紀だ。時折ふざけるがそれは誰のことだ」

「レボリューションっ! って一発屋芸人。いまや立派なようつばーでしょうけど」

「テレビはそれほど嗜まない」

「だからようつばーだって。ネットの動画コンテンツ・・・・・・ま、どうでもいいか」

「こんな時間に何をしている」

「まさしくおまいうでしょ。あんたこそ、うろついてるじゃない」

「私は飲み物を買った帰りだ。自習が思ったよりはかどってな、頭を冷やしがてら遠回りをしていた」

「うっわ、ガリ勉。運動できる糸目むっつりのガリ勉委員長だ」

「自己研鑽は悪いことではないだろう。あと、糸目はともかく、むっつりは心外だ」

「えー、だって加茂見るからにマザコンそうな顔してるし」

「どんな顔だ。しかもむっつりとマザコンは無関係だろう」

「そうでもないわよ。女がイケメン好きなように、男は母性を求めるからね。最近流行りのバブみってやつ? 彼女とか恋人とかは、極論、男にとっては条件付きで世話を焼いてくれる母親代わりって聞いたことあるわ。母親は、おおよそ無条件で子供の世話を焼くでしょう?」

「本当に極論だな・・・・・・」

「でも、少なくともあんたの動機はソレでしょ? 親孝行な息子ね」

「―――・・・・・・真依か」

 

 余計なことを、と毒を漏らす加茂。

 表向き、加茂憲紀は嫡流の男児として知られているが、実際は妾の子。秘匿されているが、ヒトの口に戸は立てられない。内情はある程度、他の御三家にも伝わっている。

 相伝の術式を継いだ宗家の男児が生まれなかったからこそ、加茂は受け入れられ、けれど母親は排斥に追い込まれた。

 真依の家、禪院は良くも悪くも男社会で才能主義。妾腹であろうと資格があると認識されたならおおらかな一面もある。それが全体共通というわけでもないが。

 

「いいんじゃない? 別に、親を大事にするのは悪いことじゃないわよ」

「・・・・・・君は」

 

 諦観を込めた寂しい横顔に、加茂は少女の事情を察する。

 同じ高専の仲間とはいえ、あまりプライベートな部分で親交が深かったわけでもない。身内の不幸も、この業界ではあり触れている。だから平気だろう、と言ってしまえるほど冷血漢ではない。

 

「ま、あたしの親はいまもピンピンしてるでしょうけど」

「・・・・・・・・・」

 

 非難の目つき。具体的には『思わせぶりな態度しやがって』というニュアンス。

 

「折り合いが悪いのは本当よ。あたしってほら、突然変異といって差し支えないレベルの才覚持ちだったから、一時は、親戚一同にも怪物扱いだったし。逆に現人神(あらひとがみ)とか讃えられたりしたし。そんときはまだ、両親も愛情持って守ってくれてたんだけど。・・・・・・五歳のとき誰かに拉致されてね。なんとか五体満足で帰ってきたら、なんか、今まで以上に性格が凍えちゃっててさ。ぶっちゃけ、一切可愛げのないロボットみたいな感じだったのよ」

「それは・・・・・・」

「あたしには、攫われてたときの記憶がない。医者によると、拉致されたショックでってことらしいけど。でも、なんていうか、一気に心だけ時間が進んだっていうか? 身体は子供でも脳みそが不自然に年食ってたっていうか。行方知れずだったの、たった二日ぐらいだったんだけどね」

「・・・・・・・・・」

「そんなわけで、48時間足らずで子供らしさがいつの間にか消え去って、その上異能も極端に成熟しちゃったからさ。両親も怖がって、あたしを避けるようになった。露骨に怪物扱いするわけじゃないんだけど、あの怯えた目――自分の子供を見る眼じゃなくなってた瞬間、親との間に不可侵の一線が引かれた。あの人たち自身、あたしを怖がってしまったことに引け目を感じてるみたいだし」

 

 別にあたしは気にしちゃいないのにね、と語調は明るく振る舞う霊夢。そこには、やはり寂しさというより、諦めの色が濃く残っている気がした。

 呪術師は、人ならざるモノに立ち向かう、一種の超人だ。呪力で強化した身体は、一般人のそれを凌駕し、固有の術式は世の条理を超越する。当たり前だ。呪霊という怪物を祓うなら、こちらも同等以上の領分に踏み込まなければならない。そうしなければ、ただ害され、呪われ、殺される。

 だが、呪術師もまた、大衆にとっては怪物なのも事実。守る者に(おそ)れられるのは、きっと何よりも心に刺さる。感謝や報酬を欲するつもりはないのに、救う行為から意義と意味を切り離して振る舞うのは、容易なことではない。

 善行は報われてほしいし、些細な悪行は許されてほしい。矛盾した観念だ。

 だから、彼女たちは一方的で身勝手な想いで戦う。甲斐がなかろうと、不平等だろうと。己がそうしたいからそうする。誰にどう思われるかに囚われるのではなく、自らの初期衝動を原点にして。

 

(だから、博麗や東堂は強いというのか。まず何よりも、自分の意思で、自分のために戦っているから? 私は・・・・・・)

 

 加茂家嫡男として――定型文じみたこの言葉は、空虚なものでしかないとでも? 伝統や規則を重んじるのが、ただの枷でしかないなど、あまりに不憫ではないか。

 自由と混沌は別物だ。かといって、秩序と戒めが、可能性を狭める窮屈なだけの囲いである世界は違うと加茂は思う。

 しかし、その境界を見極め、人々に当てはめるのはあまりに困難。

 少なくとも、独力で叶えられるものではない。

 

「ま、そのあと知り合った人に、色々と人間らしさを教え直してもらったんだけど――お詫びはこれでおしまい」

「お詫び?」

「勝手にあんたの事情だけを知ってるのはフェアじゃないわ。だから、あたしの昔話も一部教えてあげたの。これで等分。後ろめたさはなーし」

「・・・・・・勝手な話だ。自分からまくし立てておいて」

「いいじゃない。乙女の秘密よ。真依たちにも話したことないんだから。あ、だからって、『コイツ俺のこと好きなんじゃ』とか、気持ち悪い勘違いしないでね」

「するわけないだろう。こっちから御免だ」

「あたしも。ってなわけで、もう手は打ってるけど、あんたからも見合い話はなかったことにしといてね」

「なに? 見合い?」

 

 霊夢に渡ってきた縁談について聞き、家の人間が許可なく仕組んだことを察する。取り返しがつかなくなる前に火消しを行わなければ、と頭痛を抑えた。

 

「で、結局君は何をしていたのだ」

「ちょっとした自主練」

「なんだ。私と大差ないじゃないか」

「一緒にすんな」

 

 特に、これといって仲良くなったわけでもない。

 認めがたい部分は多々あるし、自己中心的ばかりなのはどうかとも思う。

 ただ、この晩から、加茂は少しだけ、霊夢と秘密を共有した。

 

 

 





読了感謝!

学校の授業体系なんかは完全に妄想で、こんなのあるか? という疑問や矛盾を抱かれる方もいるかもしれません。まぁ、そこのあたりはフレキシブルで。

霊夢のバックグラウンドを一部開示。どこに攫われて何をしてたんでしょうね(すっとぼけ)。

次回で連日投稿をまた区切ります。最近娯楽のインプットがおろそかすぎて諸々の小説制作に行き詰まってきた感があるので、ちょっとクールタイムを置くかも。

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