呪い満ちるこの空を -flying MIKO- 作:甲乙兵長
日常回その4。
連日投稿最終です。
出番が少ないのでキャラがあんま掴めてない新田弟の回。
捏造設定アリ。
「ちょっと面貸しなさい」
「えぇっ」
高専京都校の廊下でばったり遭遇した先輩に、
有無を言わさぬ圧力を感じ、身を翻す巫女服少女にとぼとぼと続く。
新は霊夢とそれほど交流がない。いくら高専の生徒数そのものが少なくても、学年の壁などないに等しくても、相手は特級、自分は雑魚。猛悪な呪霊と日々命を削りあうまぎれもない絶対強者と、サポートしかこなせない後方支援。役回りも違えば活躍の場も違う。もっと言えば、霊夢のこなす任務は危険すぎて並みの術師が同行できないのがほとんどだ。
五条悟と同様、特級ともなれば単独のほうがフルポテンシャルを発揮できる。足手まといが付き添っても、敵に有利を渡すばかりで、味方のメリットは無きに等しい。
孤高の強さ。ゆえに生じる孤立。集団から外れた存在への、不理解と拒絶。
そんな世の不条理もなんのその、マイペースにずかずかと距離を詰めたり、置物のように無関心だったり、気まぐれな態度で他者と接する。癖が強く、少し話せば喧嘩腰になりかねない京都校面子において、いつしか霊夢は中立的な席を獲得していた。
ある種の図太い神経持ち特有の思考回路が、新は苦手だった。
ただまぁ、そういった輩に振り回されるのには案外慣れていたり。
元ヤンで東京校の補助監督をやっている姉とか。
知り合った男に第一声女の好みを堂々訊ねる先輩とか。
自分の前を凛と歩く規格外とか。
(おれ順調に苦労人道を邁進してる気がするんよなぁ。ってか今さらだけど博麗先輩めっちゃ背筋ピンとしてるやん。だらけてるように見えて歩き姿が綺麗とかいうギャップ)
死んだ面相をさらしながら半自動的に足を進めていると、いつのまにか霊夢のリボンが間近にあった。
「おわっ」
「なにぼーっとしてんの。目的地はここよ」
ジト目で新を咎め『目的地』の扉を開く。校舎裏ではなかった現実にやや安堵。
入室する霊夢を横目に新は頭上の表札を見た。
「『理科準備室』?」
宗教系専門学校である呪術高専にも、普通の教室や保健室、職員室や準備室といった設備が一通り揃っている。それに加え、呪物を保管する部屋や捕えた呪詛師の拘留所、遺体安置所などの一般的な学校施設にそぐわない特殊系統が存在している。
高専の理科準備室とはすなわち呪霊の特徴や性質の課題だとかに用いる、呪物、受肉化、ミイラ化したホルマリン漬けなどが置いてあったりするあまり近寄りたくない場所だ。
無論、こういった部屋へ雑多に収められるのは封印といった処置が必要ない類の呪物である。もっと危険なものは、警備が厳重な忌庫へ送られる。
カーテンで封をされた薄暗い密室で、二人は向き合った。
「博麗先輩、いったいなんの・・・・・・」
「あんた、反転術式使えたわよね?」
「え? あ、はぁ、一応。でも得意ってほどじゃ」
「ちょっとコイツに術式かけてくれる?」
(聞いてないし・・・・・・)
霊夢は背後の水槽からまな板サイズはある一匹の魚を臆することなく掴み上げ、それを机に乗せた。
その魚はなにやら目が複数眼窩にひしめき、エラやヒレとは別に透明感のあるクラゲの触手のようなものが生えている、端的に言ってかなりキモい奇形魚だった。
「これ・・・・・・呪霊っすか?」
「正確には呪物を取り込んだ受肉体の魚。安心なさい、
言うや否や、どこからか取り出した封魔針を呪魚の頭に突き立てる。
当然、ビチビチと暴れ狂い飛沫を散らす魚だが、やがてだくだくと卓上を血で汚しながら微動だにしなくなる。
「この『
「不死身、ってわけですか?」
「それに限りなく近くはある。だから『特級番外呪物』として、忌庫に保管されてた。けど言った通り、実際に害をなすレベルの力をほとんど持たず、かといってアメーバみたいに分断した分だけ無限増殖するってわけでもないし、交配もしない。ただ一個で完結した不死身。高専の記録上、捕獲されてから約四百年はずっとコイツだけなのよ」
「そらまた、奇妙な話っすね」
さりげなく露呈した特級区分の受肉呪物を平然と持ち出してくるあたり、やはり特別なんだなと少女を遠い目で眺める。再生するからといって躊躇なく殺す感性に若干引いた。
「で、この魚がおかしいのは分かりましたが、コイツに術式をかけるんですか?」
「そ」
「でも放っておいても再生するんですよね?」
「だから、練習に持ってこいなの。・・・・・・反転術式のね」
ここにきてようやく、霊夢が新に声をかけた理由を把握した。
放置しても無限に再生し生き返る特殊な呪物を使って、反転術式を学ぼうというのだ。
元来、呪いとは負の感情より発生する。それは戦術的に扱われる呪力とて同じ。そのマイナスエネルギーをかけ合わせ、プラスのエネルギー、つまり他者を害するのではなく癒す力に転ずる技法を、呪術師の間で反転術式と呼称する。
ただ、現状、高専内で反転術式を他者に施せる人材はかなり稀少だ。新も確かにその一人でもあるが、端的に言って東京校に駐在する教師とは比べ物にならないお粗末さ。
「硝子は忙しいからね、あんまこっちの都合で圧迫したくないのよ。あんたは硝子に比べりゃヘボもいいとこだけど、仮にも一線で活躍してるわけだし、さすがに独学でやるには限度があるのを痛感したわ」
それにあんた暇でしょ。と素で失礼なことを宣ってくるが、基本誰かに頼るという真似を厭う霊夢がこうして教示を求めたのは、なかなか深い葛藤ありきの選択だったのだと思う。
「とは言われても、おれのは生得術式のついでで会得したものなので、参考になるかは」
「するわよ。何がなんでも役立てる。一を見て十を学べばいいだけだもの」
天才発言、と戦慄した新は少女の妙な貪欲さに疑問を抱く。
「なんでそこまで・・・・・・」
「別に。ちょっと、自分の不足でついたケチを潰しとかないと気が済まないってだけ。・・・・・・再生治療まで目指すのは、果てしない道のりだけど」
独り言を卓上に落として、
少し、意外だった。
彼女は初めからなんでもできて、根本的に自分とは魂から出来が異なるのだとどこかで抱いていたから。ふと垣間見せた人らしい『後悔』に、新は曇っていた視界が拓けた気分だった。
「まあ、そこまで深く捉えなくてもいいわよ。苦手分野を、いつまでも苦手で終わらせたくないってだけだから。ほら、ぱぱっとやってひゅーんひょいってして」
「なんですかその擬音表現」
「昔硝子から聞いた反転術式のコツ」
「絶対いい加減ですって」
あるいは教えるのが致命的に下手か。
反論しつつも、渋々新は奇形魚に手をかざし、術式を発動させる。
淡い燐光が照射されて、微動だにしない魚の傷口に群がった。
集中力のいる作業ゆえ、対面の霊夢は完全に意識外に追いやられる。
(傷の治りが早い・・・・・・目に見える速度で塞がっていってる。擦り傷の治療でもここまで分かりやすくないのに。この魚が特殊だからか? 反転術式の呪力を糧にして、自己再生も同時にやってるからこそだからかも。確かに、コツを掴む練習台としてはなかなか・・・・・・)
奇形魚の特殊性に感心すら抱いていると、やがて、ピチピチと卓上で元気に跳ね始めた。
こんな短時間で生き返るなんて、と新が驚き固まっていると、対面の少女がふむふむとばかりに顎に手を当て思案していた。
「・・・・・・・・・、こう、か」
おもむろに両手を胸の前で構え、呪力を放出。
初めはただ通常の呪力をもやもやと漂わせているだけだったのが、徐々にその性質が変化していくのを、新は敏感に感じ取っていた。
(マジですか。たった一回間近で実践しただけでもう? やっぱ天才なんやな)
基礎的な知識などは土台にあったのかもしれないが、それを加味しても異常な飲み込み。
とはいえ、新から見てもまだ反転には至っていない。だが、取っ掛かりは掴んだようで、先ほどまでよりは表情が晴れやかに見える。
「うん。掴みは理解した」
「さすがっすね。じゃ、おれはお役御免で―――」
「なに勘違いしてるの?」
「ひょ?」
ダン! ・・・・・・再び急所を抉られ絶命する奇形魚。
さらに、ウナギの解体のごとく刺されたままあらかじめ用意されていた包丁で捌かれていく。
「とりあえず次はぶつ切り状態からの回復。あんたがもっかい試したあと、あたしもやってみるわ。それが満足いったら切り身分け、次に微塵切り。いまのところの最終目標は粉々にした状態から再生させること。あんたもさっきので理解したでしょうけど、コイツは呪力を与えてやるだけでも自分で自分を勝手に直していくわ。だから、欠片状態から元に戻せてようやくある程度形になったレベルの習得と考えるべき。そのあとはまぁ、自分か、訓練後の誰かの治療でもやってみて、ようやく及第点かしら」
「・・・・・・・・・・・・えーっとぉ」
「あたしの気が済むまで付き合ってもらうから、今後スケジュール調整よろしく」
ちゃんと拘束時間分賃金は払うから、という霊夢の声を遠くに感じながら、新はこれから先の苦労に思いを馳せた。
読了感謝!
この小説内で新田弟は保存術に加え若干反転も使える設定。
他の候補がいなかったんですよ・・・・・・京都校側の話に硝子を絡ませるのはなんか違うし、乙骨は海外だし。
だいたいなんでもできてしまう天才肌霊夢ですが、たまには行き詰まったり。
盛り上がりどころ手前ですが、交流会で霊夢をどう動かすか悩んでるので、
次回はちょっと遅れるかもしれません。