呪い満ちるこの空を -flying MIKO- 作:甲乙兵長
世間一般は休日なので投稿時間いじってみました。
悪意、襲来。
交流会観覧席に広がった焼ける匂い。
壁の一面に張られた区画内の呪霊とリンクしている呪符が、一斉に赤く燃え尽きた。
「え・・・・・・ゲーム、終了? しかも、全部赤色?」
あまりに唐突な決着に一同が困惑する。
東京校が祓った場合は赤、京都校が祓った場合は青。燃焼反応の違いによってどちらの陣営がポイントを得たか、あるいはターゲットを仕留めたかを判別できるシステムとなっていた。
直近では一対一。学生同士の妨害という名の私闘によってゲーム進行は一時停滞気味であった。
それが、突然の幕切れ。不可解に過ぎる。
「おかしいな。カラスたちが何も見ていない」
白銀の長髪を三つ編みにまとめ美貌を半分覆い隠すように前へ垂らした女が訝しむ。
視聴覚室のような部屋にはいくつものモニターが設置され、冥冥が操るカラスが見た景色を映し出す細工がされている。これによって、各々学生がどこで何をしているのかを傍観していたわけだが、今や沈黙に黒く染まっている。
「
「未登録の呪力でも札は赤く燃える。つまり・・・・・・」
「外部犯・・・・・・侵入者ですか?」
「ふむ。天元様の結界が作用していない、ということかな」
「外部であろうと、内部であろうと、不測の事態に変わりあるまい」
「確かにね。ただ、不審なのは――霊夢に付けたマーカーまで消滅したこと」
はっとした歌姫が自身のスマホから電話をかける。が、無機質なコール音が響くばかり。
「ダメ、霊夢に通じない。少なくとも、連絡を取れる状況にないのは確かね」
「よほどの相手でない限り、特級の彼女がこの短時間で負けるとは考えにくい。なんらかの足止めを喰らっているか、それとも・・・・・・」
「あるいは、
夜蛾から継いだ冥冥の台詞が、場の空気を凍らせる。
途端、激情を露わに歌姫が反発した。
「そんなっ・・・・・・あり得ない! 霊夢が呪詛師と繋がっているっていうの!?」
「落ち着きなさい歌姫。私はあくまで考えうる可能性の話をしているだけだ。根拠はないし、証拠もない。博麗の少女が呪詛師側と組んでどんなメリットがあるかも分からない。だけど、明確な反証もまた存在しない」
「だけどっ」
「誰であろうと、闇に身を堕とすことは
「・・・・・・・・・」
その名を聞いて二の句を継げなくなる歌姫に対し、パン! と五条が軽い拍手で悪い空気を飛ばす。
「はーいはい。お喋りはそこまで。この場でアイツもコイツも疑ってかかってもしょうがない。まずは学生の保護が最優先。あとのことは終わってからゆっくりと解き明かせばいい。学長」
「うむ。私は天元様の元へ。悟、歌姫は楽巌寺学長と共に現場へ向かってくれ。冥はここから学生たちをモニターし、悟たちへ逐一報告を」
「委細承知。賞与、期待しますよ」
若芽を守るべく動き始めた呪術師たち。
暗躍する呪詛師、呪霊の脅威。
東京校、京都校の学生たちが総力を賭け事態の収拾に立ち向かう。
一方で―――。
***
――領域展開。
曰く、呪術戦の極致。深奥にして秘中の切り札。特級に匹敵する術師、呪霊は集約的にこの次元へおのずと手を伸ばす、呪術界隈における最高到達点のひとつ。
元来己の
大別した主な効果は二つ。
一、環境要因の拡大による基礎ステータスの上昇。すなわち己のホームグラウンドを形成することで術者の能力値にバフがかかる。
二、領域内で発動した術者の術式は、敵対者に
しかし、それでも圧倒的な脅威であることに違いはなく。
【 領 域 展 開 】
【―――
端的に表すなら、そこは名の通り深い渓谷だった。
まず体感するは、暗く、冷たく、魂すら凍る冥界のような悍ましい空気感。呼吸するだけで肺が爛れかねない腐敗の瘴気。晩夏とは程遠い季節外れの冷気が、吐息を白く染め上げる。
五車線道路ほどの亀裂幅しかなく、両脇を遥か高みまで覆い潰すネズミ返しの断崖に挟まれている。上から光はほぼ届かず、深海のごとき暗闇を、崖ぎわで均等に並ぶ不気味な蒼白い焔の灯籠が照らしていた。
空間としてはそれなりに開けているにも関わらず、息の詰まる閉塞感と圧迫感。領域全体が放つ、「お前を逃がさない」という絶大な執念が物理的な重圧となってのしかかる。
パキ、と踏みしめた大地の感触に違和感。一瞥すれば、足元で瓦礫のように見えていたのは全て人骨の群れだった。何百人何千人に匹敵する分量の朽ちた遺骸が、地面の代わりとなって辺り一面をびっしりと埋め尽くしている。
そして、少女から見て正面に、亡骸で築かれた小山で胡坐をかく影がひとつ。
しゃれこうべに突き立つ二振りの太刀を両脇に、傷つき、擦り切れたおんぼろな甲冑をまとう武者。経年劣化を経て老竹色にくすんだと思しき鎧は、数々の戦を潜り抜けた勲章傷を多く刻んでいる。ほぼ露出皆無な戦姿の中で唯一、伏せられた頭だけが兜をかぶらず、相貌に影を作っていた。
おそらく領域の主であろう相手は、背中を丸めて眠っているように、あるいは死んでいるように微動だにしない。
(呪詛師・・・・・・いえ。この気配、呪霊ね)
霊夢は相手の正体を分析しつつ、抜き放っていたお祓い棒と呪符を構えた。領域の対策である結界で自身も保護したため必中術式にも対応できる万全の態勢。
その音を聞き取ったか、霊夢のかもした戦意を察したか、ようやくのっそりと顔を上げた武者の呪霊。
幽玄な灯籠の明かりに照らされたかんばせ。総面具に隠され、素顔は分からない。ただ、つむじで結ばれ背中に流された白髪混じりな灰色の長髪から、ある程度老齢に至った人間体に近いことがうかがえる。
面具の虚ろな眼窩より向けられる眼差しは何色にも染まっていなかった。敵意も悪意も感じず、これといって含むものがない透明な視線。本当に霊夢が見えているのかすら怪しいほど、見られているという感覚が薄い。
けれど、まるでそういった動作をこなす機械のごとく、両脇に供えられた大小を掴み、抜き放ちながら見えない糸に引き上げられるように立ち上がった。
情緒がない棒立ち。ただただ、無機質で、不気味。
一見、立ちすくんだようにしか見えない自然体。だが、それが適度に脱力した『無構』という名の構えであることを、霊夢は肌で感じ取っていた。事実、隙だらけに見えて迂闊に踏み込めない。
(二天一流でも使うのかしらコイツ。宮本武蔵かっての。他は、天道流とか柳生なんたらとか。組み合わせが小太刀じゃなくて大刀と小刀だけど。目的がなんにせよ、邂逅一番領域に引きずり込んだことから考えて、最低でもあたしの足止め、ないし殺害ってところに違いはないでしょうね)
仮に、この呪霊に仲間が存在するならすでに活動を開始していても不思議はない。
以前、いつものどうでもいい近況報告に混じって、目隠しの最強がのたまっていた。
――どうにも徒党を組んで暗躍してる特級相当の呪霊がいるみたいだ。しかも高専に呪詛師と通じてるヤツがいる可能性もある。京都側は歌姫に頼むつもりだけど、霊夢も、どっかで怪しい素振りのヤツ見つけたら注意しといて。多分、この先良からぬ事態が起こるかもよ。
ウキウキと声を弾ませていたことからして、状況を楽しんでいるのがありありと想像できる。マジクレイジーなドSサイコ野郎。
(内通者がどっかにいるなら襲撃があえて交流会の日取りになったのは偶然じゃないと考えるべき。じゃあ理由は? 未熟な高専の学生を一網打尽にするため? 手薄になった京都で何かやる気? それとも・・・・・・)
よぎるのは領域に呑まれる直前に観えた神感の最後。ツギハギ顔の呪詛師か呪霊が宿儺の指を手にしている姿だ。
(未発見の呪物・・・・・・と捉えるのは楽観か。連続して観えたからには無関係なわけない。妥当なケースは、東京保有の呪物が奪われるパターン。あたしの前にいるコイツ以外にも囮を配置して、悟たちの意識を他へ移している間に忌庫へ侵入し強奪。外には真依たち学生がいる。人質扱いされたら教師陣が無視するわけにいかない。ちっ、いい感じにペース掴まれてるかもね。さっさとコイツ祓って外の状況知りたいけど)
五条が遭遇したという特級相当の呪霊たちは、人語を介し、意思疎通がはかれるレベルだったと聞く。対して、目の前の武者は空っぽだ。自我らしい仕草が欠片もない操り人形のよう。
(実は呪骸とか? でも領域を発動できるクラスの呪骸なんて聞いたことないわね。遠隔で誰かが操ってるような繋がりはなさそうだし。パンダみたいな核持ち呪骸の究極系と捉えるべきか・・・・・・)
意識を集中し、相手の呪力の流れを読む。
呪骸には呪いの源である核が身体のどこかに存在する。一般的に、より呪力の濃い箇所が核の配置場所だ。弱点を欺くためにブラフを張っている可能性もあるが、果たして。
(ん? これって・・・・・・)
霊夢が何かに気付いたと同時、今まで棒立ちだった武者が、突如動いた。
ゆらり、ゆらり。カチャリ、カチャリ。
夢遊病者か幽鬼のように、甲冑を擦り鳴らしながら揺れ歩く。安定に欠ける歩行なれど、見る者に言い知れぬ不安感を与え、着実に近寄ってくる姿は、さながらホラー映画の怪人だ。
(目的不明、正体不明、当然術式も不明。けど近接で鍔ぜりあうのは明らかに下策)
よって取るべき手段はおのずと決まる。
霊夢は手早くマーカーである帽子を外し、武者へ向けて投擲。
攻撃と判断したらしい武者の小太刀が反応し切り伏せるも、爆ぜた風船から赤い焔が燃え上がる。ダメージを負うような威力ではないがフラッシュバン代わりにはなる。
(間合いを維持して先行制圧!)
赤い焔幕を突き破り、五枚の呪符が武者の眼前へ。
これには大太刀を振り抜くが、呪符は切り裂かれず、風になびく紙のように刀身へ絡み付いた。にわかに刀が重くなり、動きを制限。加えて後続で放たれた呪符が残った小太刀も封殺する。
(――と思わせて)
間髪入れず
パァンっ! ・・・・・・風を切った紙垂が、武者の頭部を吹き飛ばした。
文字通り、欠片も残さず消滅させたのだ。
「近接一閃で確実に急所を滅する。・・・・・・ちなみにこの
聞こえてるか分かんないけど、と首をなくして倒れ伏す呪霊の背に告げる。
どれほどの強力な呪霊であろうと、頭である部位を破壊すれば基本死ぬ。呪力で形成されているからこそ、それを束ねる司令塔が消失すれば、あとは塵に帰るだけ。
本来なら。
「無事なのは分かってる。あんたの呪力は武者の身体じゃなくて
先ほど呪力の流れを透視したさいに気付いた事実を開示する。
そして、その性質を知ったゆえの弱点も。
「けど、扱い手を自己生成してまで必要としてたってことは、いないと不自由ってわけよね? じゃなきゃ意味ないし。呪骸といえど、再生中は無防備だろうし、呪符の効力で本体も拘束済み。時間は十分稼げるわ。そしてその間に―――」
霊夢は両手のひらを胸の前でピタリと合わせた。
まるで拝むようなその構えは、印相における堅実心合掌。
「全部終わるわ」
――呪術師の領域への対策としてもっとも効果的な方法。
己も領域を展開し、相手の領域を塗りつぶす。
より洗練された術師の領域こそが、その場を支配するのだ。
すなわち―――。
「領 域 展 開」
博麗霊夢の
一応解説
総面具:戦国武将が鎧や兜とともに装着してる仮面みたいなヤツ。
リリースされたゲームやりたいので連チャン一旦切ります。
続きは交流会の騒動を書き終わってからにしたいですね。