呪い満ちるこの空を -flying MIKO- 作:甲乙兵長
間が空きましたが続きやってきまーす。
毎度一回Wordで内容をひと通り書いてから
行間をあけたりルビ振ったり投稿用として調整してるのですが、
仕事終わりでめっちゃ眠い中やってるので、
おかしかったらご報告ください。
もともと、領域まで使用するつもりではなかった。
敵の呪力量は膨大でも、脅威らしい脅威性を一度も見せていないし、場合によっては必中効果を相殺しつつ相手の地盤で順当に倒すことも視野に入れていた。
けれど領域の発動を思い切ったのは、やはり相手の
どんな強力な技や術式があろうが、発揮できなければ関係ない。
これは経験的な直感だが、おそらく、この付喪神じみた呪霊は己にとって厄介な性質を有している可能性が高い。霊夢の術式を知った上で選出されていると仮定するならあり得る話だ。現在手を抜いている、または制限されている理由は不可解だが、下手に猶予を与えて反撃の芽を残しておく必要はない。
だからこそ、領域によって決着させる霊夢の判断に、誤りはないはずだった。
「領域展開―――!」
・・・・・・しかし。
振り返れば、このとき霊夢はガラにもなく焦っていた。
先手を許し、外界と遮断され、仲間の安否も掴めない孤立無援。
自分だけならなんとかなる。でも、自分の力が及ぼせない場所はどうしようもない。己の手が届かないところで、仲間がもし、死にかけていたら。顔見知りが傷ついていたら。なまじ力があるからこそ、霊夢は驕っている側面があった。それを未熟な性根のせいと言われれば、決して否定はできないだろう。
外には、最強の五条がいて、教員がいて、東堂のような殺しても死なないような奴がいるのも承知しているはずだったのに。
当時見ず知らずの
――優しくて、甘いから。
女医の語った分析は、的を射ていたわけだ。
英雄願望や救済使命感などではない。ただ、己の心に従った結果がそうであっただけ。身内と認めてしまった誰かに対して、必要以上に優しく甘くなってしまうような、無意識の傾向。
だからこそ、他人と深い親交は避けなければならなかった。・・・・・・自覚して、接していたつもりが、いつの間にか予想よりも深入りしてしまっていた。
結果。
真っ暗な向こう側に、無数の眼がぎょろぎょろとひしめき、生理的嫌悪感を助長する。
異形の眼を持った暗闇が、スライムのように外へと溢れ、長い髪の女に変容。
霊夢は、その輪郭、その顔立ちに既視感を覚えた。けれどなぜか、思い出せない。身体と心にブレーキがかかり、硬直する。
ニタリと成熟した女の上半身をかたどった形持つ影が、裂けた笑みを浮かべ、両手を呆然と固まる霊夢の頬に持っていくと、おもむろに異形の唇で少女のソレを塞ぐ。
「――――っ!?」
唐突な口付けが何を意味するのか。不明ながらも危険を感じて術式を発動させようとするも、半瞬、相手のほうが早かった。
【
・・・・・・領域使いの術師にとって、もっとも気を配らねばならない場面は二つ。
消失直後と、発動直前。
前者は、領域消失後は生得術式がオーバーフローし、一時的に行使できなくなるため。
後者は、領域展開前には呪力の溜めが必要で、強い集中力を要するため。
さらに、溜めの間、領域消失直後と同様、脳が多大なリソースを割かれることで術式の使用がおろそかになっていること。
切り札と言われるだけあって、確かに強力なのに疑いないが、相応のリスクもまた孕むものなのだ。
今回の霊夢は、まさしくその数少ない隙を
「っ!」
正気に戻った霊夢は袖から暗器のごとくお祓い棒を引き抜き一閃。影女の上半身を粉砕し、残った頭蓋を顔から引き剥がしてテニス打ちの要領で薙ぎ払う。
霞となって消える刹那まで、女の気味の悪い笑みが消えることはなかった。
「ちっ、あたしとしたことが・・・・・・あんなわけわかんないのに初めてをくれてやることになるなんて。別に誰って予定もなかったけど!」
ゴシゴシと気持ち悪いスライムの感触を乱暴に拭いつつ、自身の五体をあらためる。
一見、何も変化ないように思う。毒のような刺激物の味はしないし、手足の痺れや眩暈もない。呪力の流れも正常に回っている。なんらかのマーキング術式が刻まれた形跡もない。だが、何か工作を受けたはずなのだ、確実に。相手の口腔から何かが内側に干渉したのを感じたのだ。
(・・・・・・まさか)
ふと可能性に思い至り、霊夢は先刻と同じく合掌する。
「・・・・・・領域展開」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
変化はない。周囲の情景は渓谷から変わらない。
己の心象が世界を染め上げようと溢れ出る独特の感覚。領域使いにしか理解しがたいあの手応えを、まるで感じなかった。
原因は、言わずもがな。
(噓でしょ・・・・・・生得術式に異常はない。ちゃんと『
領域封じ。
あの裂け目から這い出た影がやらかしたのは、単純に言えばソレだった。
(彌漫方塞、だっけ。まさしく広がり満ちるのを塞き止めるってわけか。こんな封印術、あたしでも知らない。領域展開のみを封殺する術なんて聞いたことも―――)
そのとき、混乱の少女を新たに襲う謎の怖気。
大鎌を首筋に沿わせた、死神のビジョンを垣間見る。
反射的にその場から飛びのき、流れた冷や汗を頬に伝わせながら正面の『敵』を捉えた。
(神感・・・・・・じゃないわね。ただの剣気が見せた死のイメージ。どうやら、変なのに絡まれてたせいで手遅れになったみたい)
呪骸の頭を再生させた鎧武者。いや、すでに彼は甲冑をまとっていなかった。
戦装束を脱ぎ捨て簡素な着物と袴を身に着け、片膝を立て、面被りの顔を上げている。
だが、驚くべきは、霊夢の反応を見て武者だった呪霊が、声を発したことだった。
「おお。なかなか良い反応じゃのう。ささやかな殺気もよく感じ取れておる。これは女子供とはいえ、侮ってかかるべきではないようじゃ」
よっこらせ、とジジ臭い仕草で立ち上がりつつ、首や肩を回す年寄り口調の剣客。ほんの少し前まで感情のない人形同然であったはずが人間味を持った挙動を得ていた。
「・・・・・・あんた、喋れたの」
「うん? いやぁすまんすまん。さっきまではちょいと寝惚けておったようでな。何せウン百年ぶりに現世へ放り出されたもんで、なかなか意識がしゃっきりせんかったんじゃ。一度頭吹っ飛ばされたお陰で、眼が覚めたがの。夢見心地で刀を振り回していたような気もするが、大事なかったか?」
「呪霊が心配するの? 敵であるあたしを」
「応とも。気骨の入っとらん寝惚け太刀なんぞで負傷して本領を出せなんだら、快く斬り結べんではないか」
「戦うのは前提なのね」
「相対した時点で矛を交えるのは避けられぬ。何せ、儂はその一念のみのために、この末路を選んだでな。強いやからと、死ぬまで、死んでも、斬り合い殺し合い奪い合い・・・・・・一時は安穏を目指し、捨てようと考えた時分もあったが、もはや過ぎたこと。儂は剣。剣は儂。
「・・・・・・そういうこと」
気安い印象の老練な剣客。その本性は、まぎれもない気狂いだ。自らの愉悦のため進んで畜生道に堕ちている。言動の端々からにじみだす、純粋で血生臭い思考回路。この純度、複数の人間の感情が合わさってできる自然発生的なものでは決して再現不能な狂気性。
「あんた、
「正しくは、血肉から魂魄に至るほぼ全て、じゃがな。出来上がったのが、この大小よ」
文字通り、人の肉体を素材にして加工・製造された道具を指す。
古今、魔術的に人間の血肉を無機物と組み合わせることで魔道具化させるような実験・研究は数多く行われてきた。無論、呪術もそう。悍ましい行為ゆえ、嫌厭され、禁忌とされるも、それが己に有益とになり得るのならば外道となることも厭わない者は一定数存在する。外国のまじないでは、アルビノの身体が幸運を呼ぶなんてデマが近年まで信じられ、裏で遺体を売買するようなやからもいたほどだ。
呪具や呪物と呼ばれる類には、個人の怨念や呪いを宿す一品も確かにある。
かといって、死んだあとも戦い続けるために自分の遺骸を快く刀の材料に提供する狂人の感性など理解したくもないが。
「さて、では良いかの?
「あんたの仲間じゃないの?」
「はて。
「
「生憎年寄りなんで耳が遠くて――な!」
気炎一喝。
ほとばしった呪力が、刀身に巻きついた呪符を四散させた。
読了感謝!
最後のところ、微妙な終わり方なのは元の原稿が
長くなりすぎたのを二つに分けたから。
設定のおまけ解説(?)
・「領域の発動前も弱点」は独自解釈。
・彌漫→一面に広がり満ちること。
・方塞→モチーフは陰陽道の「
行くと災難に遭うとされる方角。
・キスの理由:
「口」は人間の内側に入るための入り口なので、
細工をするなら接吻による粘膜接触が適当とされた。
ファンタジー設定では契約だとか魔法的エネルギーの流入などに使われる。
あとは、好みの問題。味気なく術かけるとかよりはいいかと思った。
・鎧武者あらため剣客:
半オリジナルキャラ。元ネタは東方にいる。
ほんとはもっと無口で陰鬱な雰囲気のツワモノ感を出したかった。
結果がこれだ。
作者は葦名一心ではなく死なずの半兵衛を思い浮かべていたのに・・・・・・。
いやどっちかといえば一心のほうが猛者感は出るんだけど。
書いてる最中はなぜか金尾哲夫じゃなく
大塚芳忠がイメージCVで出てくる。なぜ?
鬼滅と転スラを引きずっているのか。