呪い満ちるこの空を -flying MIKO-   作:甲乙兵長

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UAがもうじき 30000 行きそう
(投稿する頃には行ってるかも)。

追ってくださってる方、新しく読み始めた方、
改めてありがとうございます!

※一部の台詞が説明で長ったらしく重なっているので
 例外的に改行しています。

本編どうぞ。




【第拾参話:紅白巫女は開示する】

 

 苛烈な踏み込みから敵手が肉薄。横一文字を大幣(おおぬさ)で受け止め、紙垂(しで)で小太刀を絡めとる。

 右手の大刀が袈裟斬りに振り下ろされるが霊夢は構わず、拘束した太刀ごと相手を引き寄せながら蹴りを放つ。

 

「むぅっ?」

 

 防御も回避もしない攻勢一択に剣鬼(けんき)が唸り、すぐさま意味を把握した。

 刃は少女の露出した肩口へ食い込み、そのまま裂断の手応えなくスルリと身体を()()した。まるで霊夢の形をした蜃気楼であったように。

 だが、勢いのある蹴撃はまぎれもなく本物で、腹に叩き込まれた衝撃は剣鬼のガタイを退かせる。大太刀二本半分ほどの距離が空いた。

 (シャ)っ、と血振りするようにお祓い棒を振る霊夢を、老人は胡乱げに見つめる。

 

「はて・・・・・・面妖。確かに刃の真中(まなか)で捉えたと思うたが、気のせいか? いま、お主の身体を刀が通り抜けたように見えた」

「なら、あんたの見たものが真実なんじゃない? 検証の時間は上げないけど、ね!」

 

 ハンドボールサイズの陰陽玉による牽制球。いともたやすく両断され、しかし次から次へと次弾投擲。陰陽玉のみならず、いつもながらの奇術師も真っ青な規格外収納量を誇る袖口から退魔符が竜巻のごとく乱舞する。中・遠距離技のオンパレードで、剣鬼を近付かせない思惑だ。

 けれど、自ら修羅となった狂人の妙技は物量による弾幕を一蹴する。

 

「【雨後(うご)(かさ)】」

 

 ほんのわずか、相手の両手がブレたと同時に、殺到する全ての術符が粉微塵に消え去った。

 一拍遅れて吹き抜けた巨蟲の羽ばたきのような風切りの音。何が起こったか見えはしなかったが、推察はできる。

 

(このジイさん全部一瞬で刻みやがった! 残像すら見えない。虫の羽ばたきみたいな音はたぶん何重にも重なった斬撃の余波。音が遅れてくるとかどんだけよ・・・・・・っ!)

 

 そも、二刀流である意味とは何か。

 基本的に、刀剣を用いた戦術は一本を両手持ち、あるいは片手剣と小盾の組み合わせが王道だ。武士が腰に二本差しているのも、破損したときなどの予備として脇差を所持していたにすぎない。

 敵の攻撃を防ぎたいなら、それこそ盾を使うか身を躱すことを念頭に置く。刃物を刃物で受け流すには偏った技量が必要で、まともに鍔ぜり合ったら刃こぼれする。端的に言って、真っ当な剣術士からすれば二刀流はロマン兵装、実戦的ではないのだった。

 そう、防御のためではない。

 二刀流の意義とは、手数の多さ。攻撃性の高さにある。

 守りを捨てて、攻めに重心を置いているのだ。

 とはいえ、まさか音より速い剣撃なんてもの、当然想定したことはないわけだが。

 

(ま、悟や、最速の術師で知られる真依のジジイも速度関連では筆頭だけど)

 

 内心の焦りを冷淡な面で覆い隠し、霊夢はすでに設置した封魔針を起動。だが、鬼縛陣の呪雷が禁ずるより先に剣鬼は次手を振りかぶっていた。

 

「【虚間(こげん)(つじ)】」

 

 裂空が少女を突き抜けた。

 斬波(ザパ)ァッ! と、霊夢の背後に巨大な十字傷が刻まれる。

 岩壁に深い裂溝を穿ったそれは、剣鬼の両刃が撃ち放った虚空を切り裂く斬撃のしるし。少女の身体を四分割するはずだった十字衝は、なぜか彼女を素通りし、スリ傷ひとつ残していない。

 遅れて鬼縛陣の枷を受けながらも、涼しい顔で剣鬼は得心いったとばかりに頷いた。

 

「なるほどの。やはりすり抜ける現象に偽りないか。それが、お主の術式(タネ)じゃな?」

「・・・・・・ま、バレたんじゃしょうがない」

 

 確信持って見抜かれたからには、隠し立てる意味はなかった。

 

 

「あたしは二つの術式を持ってる。先天的なものと、後天的なもの。

 まず後者は、これまで使用し、いままさにあんたを縛ってる緊縛術や結界を作り出す『博麗呪法』。

 そして、前者があたしが生まれながら持つ生得術式、『夢想天生(むそうてんせい)』。あんたの剣技がすり抜けるのは、この術式による効果で、あたしが何モノに影響されない『(クウ)』に身を置いているから」

「空?」

「そ。仏教的な概念だと、我体・本体・実体がなくむなしい状態。般若経にも『空』の概念は記されていて、何がしかで一度は聞いたことある文言なんじゃないかしら?」

 

 諸法は幻のごとく、焔のごとく、水面の月のごとく、虚空のごとく、響きのごとく、ガンダルヴァの城のごとく・・・・・・などなどと続く、十の比喩が列挙されたものだ。

 

「『空』っていうのはつまるところ有と無、二つの両極どちらからも()()()()()状態。不偏(ふへん)にして不変(ふへん)(まぼろし)でもなく、(うつつ)でもなく、どちらでもない・・・・・・ゆえにこそ、()()()()()()()()()

 通俗的に知られる悟りの概念とは結構違うけど、まぁそういうのに似た術式を持ってるってだけだから関係ないわよ。難しいなら、もっと簡単に表現すると、あたしに物理的、呪術的、精神的な脅威は一切届かず()()()()()

 どんな強烈な一撃も、あたしに傷を負わせられない。

 どんなに悪辣な術式であろうと、あたしに影響を及ぼさない。不透明な透明人間ってところね」

「ほぉ。それはまた、埒外な」

「でしょ? けどまぁ特級なんてレベルは大概そんなもんよ。どっかの人格破綻にしろ、純情一途にしろ、ね」

「カカ・・・・・・にしても、『空』、か。なるほど、まっこと霊妙。なかなか乙じゃな。斬り甲斐があるわい」

 

 開示された術式の正体に、絶望どころか喜々と微笑する老人。

 実際、霊夢に攻撃は一切通用しない。しかし、逆は違う。

 敵の攻撃、術式の最中でも霊夢は反撃を行えるのだ。理不尽と言わずなんという。

 しかも術式情報の開示によって、さらに術式効果が補強されるというのに。

 

「ついでにもう一方の結界術についても講釈しましょうか。

 単純に結界と一括(ひとくく)りに言っても、使い方は色々よ。元来は、ある場所を起点に境界を定め、隔てる術。古く語られる妖怪、怪異、呪霊などの異形から、人間の暮らす世界を守護するための手段。

 だから基本的に、結界術は『守る』『封じる』ってことに重きを置いている。『祓う』『滅する』はまた系統が別ってわけ」

「ぐぬっ・・・・・・!」

 

 語りながら、じりじりと手足を動かそうと抗う剣鬼を、円環状の結界が拘束する。さり気なく追加されたしがらみによって、彼の四肢は身じろぎすら叶わなくなった。

 剣鬼の術式はおそらく刀の斬撃を基礎としたものだろう。見えないほどの瞬速剣も、虚空を裂く飛翔剣も、必ず武器の振りが必要だった。ならば、そもそも振らせなければ必中付与された斬撃でも無力化できる。

 

「じゃあ結界は守り主体の使い方しかできないのかって言われれば、そうでもないわ。

 たとえば、二つの結界壁を同じ面、同じ軸に同時展開した場合、どういう現象が起きると思う? 答えは単純、籠めた呪力量の強いほうが術として成立し、弱いほうは消えてしまう。

 ならまったく同等の呪力だとどうなるか・・・・・・弾かれ合う。磁石の反発みたいに。同等の結界術が同じ座標に存在すると、競合して反発作用が生じるのね。

 で、あたしはこの仕組みに有用な使い道がないか考えた」

「・・・・・・・・・」

「あたしって()()()()

 呪力強化で身体能力を向上させる方法は呪術師では一般的だけど、あたしの呪力総量って現存する特級の中では下から数えたほうが早い。一級に毛が生えた程度なのね。

 そんな呪力量での身体強化じゃ、特級クラスの呪霊に対抗できない場面もきっとある。

 あたしは悟みたいに呪力コスパ最強な目は持ってないし、乙骨みたいな短所を補って余りあるほど莫大な呪力量もない。けどだからこそ、自前の突破力というか、攻撃力を補う方法を模索した。

 その結果として生み出したのが、同等結界の同時展開による反発を複数枚で行うことで、敵にぶつける技」

 

 その名も。

 

 

「《八衝(はっしょう)(れつ)――八重咲(やえざ)き》」

 ズドン!!

 

 

 凄まじい轟音が領域の渓谷を震撼させた。

 八つ重なった結界壁がそれぞれの結界と押し合い()し合い、爆発的な反発力を生み出し囚われの呪霊を吹き飛ばす。陣の呪縛から解放されたのもつかの間、剣鬼は巨人に殴られたと錯覚するほどの衝撃に総身を粉砕され、本体である大小すら砕け散り、岩壁に大きなクレーターを作った。

 手を構えたまま残心した霊夢は、息を吐き、続けて陰陽玉を生成。

 その眼には、まだ強い警戒が宿っている。

 

(念には念。不用意に近付かず鬼神玉(きしんだま)で・・・・・・)

 

 陥没に埋まり、ひしゃげ潰れた腕で柄のみとなった刀を未練がましく握る項垂(うなだ)れた剣鬼に、止めの一撃を放つべく呪力を高め―――。

 

 

「【時元(じげん)(たち)】」

 

 

 (シュン)っ――走った剣閃が霊夢の細首を通過した。

 (むくろ)はまだ断崖に埋まっている。だが、霊夢のすぐそばには両手に刀を握った()()()が立っていた。

 

「っ、《陰陽鬼神玉(おんみょうきしんだま)》っ!」

 

 陰陽玉の発展形。直径15メートルにもなる呪力玉を至近から叩きつける。

 

「ぐ、ぬぉッ、止めきれんっ・・・・・・がぁぁああああっ!?」

 

 相手の骸骨は刀をクロスし防御姿勢を取るも、その呪力質量に圧倒され骨塚に沈む。

 巨大なスプーンで掬われたような地形に変貌した破壊跡を前に、霊夢は妙な呆気なさへの違和感を覚えた。

 

(さっきの骸骨・・・・・・あの呪霊よね。刀持ってたし。岩壁の骸はもう消えてる。隙を見てその辺の遺骨に入れ替わってた? なんか釈然としない・・・・・・アイツの術式、斬撃由来かと思ってたけど違うのかしら?)

「っ?」

 

 首筋から走る不意の痛み。患部に触れた手のひらを見れば、ぬるっと赤い液体が付着している。切れている――幸い、そこまで深くはないようだが、それよりも霊夢は己が負傷している事実に愕然とする。

 なぜなら、『夢想天生』はいまだ発動されたままだからだ。

 

(『空』の状態であるあたしに斬撃を届かせた・・・・・・術式が中和されてる。でも、『(てん)』のカウンターは起動してない。どういうこと?)

 

 必中の攻性術式には領域対策用結界、《八衝(はっしょう)(てん)》によるカウンター。

 それ以外には『夢想天生』による攻撃無効化が作用する仕組みになっているはず。

 からくりを考察する少女。すると、手前の地面から傷一つない大太刀と小太刀が骨の瓦礫をどけて現れる。

 次に起こった現象は、いわば動画の逆再生のようだった。

 その辺に散らばっている遺骨が独りでに動き、集まり、人体の形に成形される。呪いの妖刀を始まりに、指、拳、前腕、上腕、鎖骨、頸椎、肋骨と組み合わされていき、やがて学校理科室に飾られるような人骨標本が出来上がる。

 それだけにとどまらず、骨から筋肉の束が張り付き、血管、神経、脂肪、内臓とグロテスクな生々しさを傍目に見せつけながら文字通り『肉付け』されていく。

 発達した男の裸体に衣服の着流しがまとわりつき、なぜか最後まで再生されなかった骸骨面(がいこつづら)の顔面へ、虚空から出現した面具が締めとばかりに取りつけられた。

 面越しの虚ろな眼窩に、蒼い鬼火のような光が灯る。

 後頭にまとめた()()()()を冷たい風になびかせ、黄泉返(よみがえ)った剣鬼は張りのある声で告げた。

 

 

「さて、仕切り直しと行こうか。幻だろうと『空』だろうと関係ない。この世界で、刃鬼(わし)に斬れぬモノなどないことを教えてやろう」

 

 





読了感謝!

今回は本文書くのよりも、
文字大きくしたりフォント変えたり動きつけたり、
といった慣れない作業が大変でした。
頑張った甲斐はあったと思います。

あとしれっとじいちゃんを剣客から剣鬼呼び。それっぽさは増した。


本編おまけ解説
・雨後の暈:
 モチーフは富岡義勇の『凪』。
 目に見えないほど速い無数の斬撃。またの名を空間殺法。

・虚間の辻:
 モチーフは黒崎一護の『月牙十字衝』。
 飛ぶ十字の斬撃。またの名を七十二煩悩鳳(ポンドほう)

・時元の断:
 特定のモチーフはなし。
 なんかすごい斬撃。亡霊や概念化した存在にも通用する。

・夢想天生:
 本編のヤツそのまま。小難しく理屈付けしてるけど、
 結局は原作通りの『空を飛ぶ程度の能力』の拡大解釈。

・八衝・烈:
 モチーフは新劇エヴァの破で
 『最強の使徒(ゼルエル)』が使ってた積層型ATフィールド。
 ようは壁飛ばし。枚数が増えるほど威力が上がる。
 またの名を『ファランクス』。

・八衝・纏:
 モチーフは呪術廻戦の『落花の情』。
 裏話、霊夢は禪院の領域対策を知らない。単に発想がかぶっただけ。
 またの名を『炸裂装甲(リアクティブアーマー)』。

・陰陽鬼神玉:
 本編の通り。デカい陰陽玉。

・剣鬼の術式:
 待て。しかして希望せよ。お願い。

長文失礼しました。

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