呪い満ちるこの空を -flying MIKO-   作:甲乙兵長

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話、進んでる? 進んでない?

なんか説明文で結構食われてるかも。

いまだに、バトルシーンってどれくらいの長さが
ちょうどいいかわからない。

あと、今回も会話文の重なる場所は改行してます。
今後、そういう方向になっていくかもしれません。




【第拾肆話:紅白巫女は剣の鬼と鎬を削る】

 

 

「ところで、もう一人の脅威はどうするのだ?」

 

 火山頭の呪霊が、隣の男に訊ねた。

 肌焦がす日射。延々と続く煌びやかなブルーオーシャン。時おり海面に顔を出す、デフォルメされたタコのような愛嬌ある生物。

 南国の砂浜に並ぶビーチチェア、パラソルの陰で寛ぎながら、四人の人物が話し合っている。

 

「もう一人?」

「五条悟と同格とかいう小娘の話だ」

「あぁ、博麗霊夢。そっちは放置でいい。そういう縛り、契約でね。僕らが干渉すると事態がややこしくなる。下手すれば、彼女らに全滅させられかねない」

「彼女ら?」

*****(全滅とは、穏当ではないですね)

 

 フランケンシュタインの怪物のような、半裸の身体に縫合痕が走る男が疑問を呈し、両目から木を生やした白兜(しろかぶと)の異形が不可解な言語で続ける。

 すべからく、彼らも呪霊だ。

 火山頭――みなから漏瑚(じょうご)と呼ばれる特級呪霊は、その大きな単眼を怪訝に細める。

 

「・・・・・・夏油、貴様我々呪霊以外の『何』と繋がっている」

「彼女らも呪霊だよ。まぁ、中にはそんな秤に収まらない化け物もいるけどね。アレも、その内の(しもべ)だよ」

 

 飄々と応じるのは、この場で唯一の人間だ。撫でつけた黒髪の額に縫い目のある男、夏油傑は、一行とはほど離れた木の日陰に座り穏やかな水平線を眺める、一匹の猫を視線で示す。外見的には、尻尾の先が白いという以外、特徴らしいもののない普通の猫だ。

 

「いつの間に迷い込んだのかと思ったら、夏油の客だったんだ。愛想全然なくてさ」

「で? その彼女らとやらはなんの集団なのだ」

「『異境(いきょう)』」

「・・・・・・っ!?」

 

 名を紡がれた途端、漏瑚は眼球が飛び出んばかりの衝撃に見舞われる。

 

「その反応だと、漏瑚は知っているようだね」

「馬鹿なっ。あんなもの、現実味のないただの言い伝えに過ぎんものだろう!」

「事実だよ。異境は実在する。僕たちの過ごすこの世とは異なる、『隠世(かくりょ)』にね」

「ねー、異境ってなんなの? あの世?」

 

 ツギハギ面の呪霊、真人(まひと)は湧いた疑問を親に訊ねる子供のように問いかける。

 

「それに近しくも遠い場所さ。この世とあの世の狭間、本来誰も干渉し得ない別位相の次元とでも言えばいいのかな。そこにある小さな隠れ里を、俗に異境と呼ぶ。俗に、というのは、正しい名をほとんどのモノが知らない、あるいは、忘れられたからさ」

「夏油も?」

「いや。僕は異境の真名を(おさ)たる存在から聞いているよ。でも、話せない。これも契約」

「ふーん。話せないって、何も言えないのかい?」

「そうだな・・・・・・まぁこれくらいなら大丈夫か。

 異境に過ごす彼女らは、そのほとんどが現世から姿を消した有名無名の神霊・呪霊。その総戦力は僕らをはるかに凌ぎ、侵攻したなら高専でさえも容易く壊滅させられるほどだ。

 現代最強の呪術師、五条悟でも、苦戦は免れない」

「そんなヤバイ奴らがいるんなら、全部そっちに任せちゃえばいいのに」

「無理だよ。異境・・・・・・というか、異境を統べる存在は、現世の趨勢(すうせい)に興味がない。自分の築いた箱庭の管理に腐心しているからね。

 呪霊が勝とうと、呪術師が勝とうと、対岸の火事。ある意味、そのお陰で、呪詛師(ぼくら)呪術師(かれら)も自由に振る舞えている面もあるんだけど」

「飛び火しないなら無関心か。つまんな」

 

 しらけたと言わんばかりに深くチェアへ背中を預ける真人。

 隣から、白兜の呪霊、花御(はなみ)が聞き取れないが意味だけ理解できる独自言語を発した。

 

「【そも、異境の者らは何を目的として異空に潜んだのですか?】」

「理想郷を作るためさ。人間と呪霊が共存できる社会体制・・・・・・そのモデルケースを、自分の箱庭で創造しようとしている」

「は? ・・・・・・ジョーク?」

「大真面目だよ。少なくとも、異境の長はね。何せ千年以上前から試行錯誤を繰り返しているんだ。

 信仰は薄れてゆき、人間という霊長がこの星で台頭する時代――それをずっと昔から予見し、そして神霊や精霊、呪霊の行く場所が現世からなくなる日も遠くないことを察していたんだろう。だからこそ、人から忘れられた神々が拠り所とする楽園を構築しようとしている」

「ふん。噂通りの文句だが、胡散臭くてしかたないな」

「呪霊の楽園なら、人間いるのおかしくない?」

「彼女はね、確かに神々の威光が堕すことを憂い、呪いがただの害獣としてしか受け入れられない世界を(いと)った。

 だけど、同時に異境の長は人間も同じく愛し護るべき種として存続させようと目論んでいる。ひとえに、彼女自身の趣向だけど。

 ゆえにこそ、ヒトと呪霊、両者がバランスを保ち共存できる理想を追い求めているのさ」

「そんなのできるの?」

「さぁ? なんとも。ただ、時間も手間も惜しんでないしね。今後何百年と賭けて、精巧なジオラマを造るようにひたすら調整を続けることだろう。己の大願が現実となるまで永遠に・・・・・・少なくとも、異境の長が我々に牙を向くことはほぼない。むしろ手助けすらしてくれる。

 彼女の執着はあくまで、博麗霊夢ひとりだ。こちらが不要なちょっかいをかけなければ心配はない」

「・・・・・・向こうから首ツッコんできたら?」

「おススメはしない。君らは縛りの対象外だから、やろうと思えばやれるだろうけど。眠る竜の鼻先で銅鑼を鳴らすくらいの覚悟がないとね。

 それに、言ったろ? 異境の長は博麗霊夢にご執心だ。過保護なほどね。

 だから、あっちはあっちで、僕らと博麗霊夢が接触しないよう場を整えるだろう。とにかく、僕らは僕らの作戦に集中すればいい」

 

 

「目標はあくまで、宿儺の指と保管された呪物だ」

 

 

***

 

 

「儂の術式(タネ)は《等活鎖獄(とうかつさごく)》というての。効果を一言で評せば、とにかく儂を()()()()()()()

 幾度刀を砕かれようと、躯体(カラダ)を屠ろうと、儂が望めば健常な状態へケロリと戻る。呪力での再生とどう違うのかと言われれば、単純明快、一層死にづらいというだけじゃ。

 呪いでも急所を抉れば祓えもしよう。じゃが儂は例外。殺したくば、呪力が尽きるまで殺し続けるしかない」

「なんで急に・・・・・・」

「お主にだけ手の内を語らせたのでは不公平じゃろう。それに、こうした方が術の効きが良いことを思い出したのじゃ」

 

 声に壮健な張りと生命力が満ち、頭髪は黒く変異、いや、若返っている。

 両手に大小をゆったり握り、準備運動のように両肩と首を回す。身なりは軽装。最初の鎧姿を思えば護りをほぼ捨てたと言っていい様子だ。

 だが、全身から立ち昇る呪力の陽炎はこれまでより遥かに巨大で、力強い。敵である霊夢を前にほどよいリラックスした態度は裏打ちされた余裕の表れか。誘いか・・・・・・。

 

「特段、強い類ではなかろう? お主のように絶対の回避力でもなく、敵を必殺できる系統でもない。直接的な攻撃力は皆無じゃ。が、儂には()()でよい」

 

 己の誇るべき宝のように、刀を誇示する剣鬼。

 彼が用いる手段は己自身。無骨でシンプル。刃鬼一体を成す修羅なればこそ相応しい。

 

「ちなみに、領域内では全ての者が術式の恩恵を受ける。呪力は己で捻出してもらうがな。まぁ、お主はそうやってすげなくしておるから伝わっておらんじゃろうが」

「敵にも回復効果を与えるってわけ? 随分大盤振る舞いね」

「そうじゃ。お主が生きたいと望めばそれで叶う。幾度でも。幾度でも――斬り合える」

 

 くつくつと、酷薄に(わら)う。

 心底愉しくて仕方がない悪童のような、人を奈落の底へ道連れにする悪鬼のような。

 

「儂はただそれだけが欲しい。その一念で刃を振るい、その一念で一線を越えたゆえな。さて、話はもうよかろう。ここからは剝き出しの刃物(わし)を見せてやる」

「・・・・・・っ」

(はや)く死ぬでない。(やす)く死ぬでない。儂を孤独(ひとり)にするな。幾度でもいつまでも、ただ()れかしと願い続けよ。儂の世界はそれを許す」

「構ってほしけりゃ小遣い寄越せやジジイ。巻き藁相手にだんびら振るってろ」

 

 噴出した殺意。赤錆の呪力が烈風を呼ぶ。

 一足で間合いを無為にした剣鬼の牙が霊夢に襲いかかった。

 

 

 

 剣鬼の武器は変わらず太刀の二本きり。腕が複数あるわけでもない。基本戦術は対人剣術の殺人剣。だがいかんせん、スピードが桁違いだった。

 躱し、防いで、凌ぐ。それでもなお間に合わない。

 前傾一択の攻勢。遺骨を巻き上げ、谷底を駆けまわりながらも、刃は着実に迫ってくる。

 

「【風化(ふうか)斬雨(きりさめ)】」

 

 白刃が閃く。

 瞬間、剣鬼の前方が斬り拓かれる。眼に映らぬほどの瞬速剣で足元の骨塚が塵となって宙を舞った。辛うじて霊夢の視力が捉えられるのは大気に残る斬衝のみ。蒼白い行灯に照らされる白刃の軌跡はダイヤモンドダストのように幻想的だった。

 斬滅の神風が霊夢を呑み込む。

 だが、刃の嵐のただ中であっても少女は五体健在だった。

 

(『夢想天生』は通用してるわね。・・・・・・なら問題は、なんの攻撃があたしに届いたのか検証する必要がある)

 

 すでに反転術式(じりき)で治癒された首筋を撫で、霊夢は己の靴底に『烈』を展開。反動で一息に敵との空白を踏破し、取り出した封魔針三本を相手の正中線に叩きこむ。

 しかし、針は空を切った。

 

「残像じゃ」

 

 背中を取った剣鬼の声。

 連なった大小が幾度も首と胴を横切る。

 

「・・・・・・っ。九重咲(ここのえざ)きっ!」

 

 わき腹に違和感。振り返らぬまま後方に『烈』をぶつけ、間合いから引き剥がす。

 空気が弾ける音と、一拍遅れた轟音。身を翻して左手にお祓い棒を握り、壁面まで飛んで行った剣鬼の残骸を注視しながら残った手で横腹を探る。

 生暖かい液体の触感と鋭い痛み。横目で見やった手のひらには血糊(ちのり)がべったり付着していた。

 

(さっきより傷が深い。内臓にまで及んでなさそうだけど、これではっきりした。あの呪霊は()()()()であたしの術式を突破してくる)

 

 剣鬼の術式は限定的な不死不滅。領域はそれを敵味方問わず平等に分け与える。開示された情報が真実であるなら、領域の必中効果は治癒のはずだ(『纏』に阻まれているので霊夢には影響しないが)。斬撃はただの呪力を込めた一撃に過ぎない。

 にも関わらず、その『ただの斬撃』が霊夢に傷を負わせている。

 普通なら考えられることではない。経験上、いかな呪霊、呪術師にも『夢想天生』を破られたことなど一度もないのだ。実際に確かめたわけではないが、五条の無下限も無効化できる計算である。

 それだけの不条理を、普通の一太刀が越えるとなれば、まさに奇想天外。

 けれど、霊夢は即座に目の前の事実を現実とすり合わせた。

 

(切り替えなきゃね。事実として、あいつの攻撃はあたしに通る。でも全てじゃない。調子の問題か不慣れだからか定かじゃないけど、最初から届くならこの程度で済まさないはず。ってことは、まだ上がある)

 

 反転の燐光を傷口に当てながら、大幣を収納する代わりに新たな針を取り出した。

 それは、これまで使用した封魔針に呪符や注連縄が追加された、太く物々しい様相の呪具だった。

 

「やれやれ。一体どれだけ袖口に忍ばせとるんじゃ。忍びも真っ青の収納術じゃのう」

 

 もはや驚きや呆れを超越し感心すらのぞかせて、剣鬼は何食わぬ顔で現れた。

 

「そりゃ種はあるわよ。なんのために邪魔くさい袖を別で付けてると思ってんの。

 ま、仕組みを知りたかったら、量子力学の勉強から進めないとね。シュレディンガーの猫って知ってる? コペンハーゲン解釈とか認識論とか。

 そういう、どちらでもあってどちらでもない、観測できないがゆえの確率操作による拡大解釈。簡潔に言えば、誰にも見えない袖の中には何が入っていて何が入っていないのか誰にも分からないじゃない? あたし自身、自分の持ち物がどれだけ入っていて入っていないか詳しくは覚えてない。

 だから、いくら使っても呪符は尽きず、針も絶えないってわけ。あくまで、袖に入れられるサイズしか入らないけど」

「なるほど分からん」

「ようは小物サイズはなんでも入っていくらでも出てくるポケットとでも思ってなさい」

 

 両者互いに、正面からの睨み合い。

 その気になれば瞬きの間に懐へ飛び込める、あるいは斬り裂ける手段を保持するからこその、一時的な膠着。

 話しながら、呪術師と呪霊は機会をはかっている。

 

「そっちこそ、どうやってあたしの術式を越えて実体を掴んでるのか教えてほしいわね」

「と、言われてもなぁ。ただ、ハザマを狙って太刀を滑り込ませておるに過ぎん」

「ハザマ?」

「お主流に言うなら『空』か? ほら、あるじゃろう。この世には、眼に見えておるつもりで、結局は捉えられん概念(モノ)が」

「・・・・・・空間ごと斬ってる、とでも?」

「惜しいが、まだ足りん。それだけならとうにお主の身体はバラバラよ。

 お主はもっと曖昧で、もっと形容しがたい場所に自身を置いとる。そこへ辿り着くのはおおよそ不可能じゃろう。儂とお主は、同じ部屋に立っているようで別の部屋におるような状態じゃ。距離では埋められん。

 じゃが、儂はそういうカタチ無きモノも断てるよう、修練を重ねてきたでな」

 

 もとより、(れい)を断つのは昔からやっておったことじゃ、と朗らかに笑う剣鬼。

 ・・・・・・詳細は不明だが、つまるところ、老練の修羅はその年輪相当の不条理を覆す方策を得ているのだろう。剣の極み。刃鬼の悟り。そういった術式などという付属物とは別種、ただ(ワザ)の研鑚を重ねた遥か果てに至ってしまっている。

 

「とはいえ、なかなか容易にはいかなんだ。お陰で仕留めどきを幾度か失したが、なぁに、()()()()()

 

 大太刀を肩に、小太刀を前に。前後に両足を大きく開いた、順当な姿勢とは程遠い傾奇者(かぶきもの)のような構え。

 少女は針を握る手がじっとり汗ばむのを自覚する。

 いつしか震えが這っていた。寒気が、怖気が、背筋を這いまわって脳髄を犯す。

 ――恐怖。

 必殺にはあまりに遠いこの間合いで、すでに刃筋を表皮に添えられている錯覚。

 確信があった。次から、剣鬼の刃は自分に届くという、疑いようのない確信。それだけの威迫と鬼気が敵から漂っている。気を抜けば、命に鋼が食い込むと。

 だからこそ、霊夢もまた心を深くに持っていく。

 

 息を吸い、吐く。

 それを一定のリズムで、絶え間なく。

 思考がぼんやりと薄らいでいく。

 

 負けないため。死なないため。外界にこの脅威を持ち越さないために。

 領域の手応えはいまだ戻らず、信頼する絶対回避も攻略されつつある。状況としてはこれまでにない窮地だ。しかし、それがなんだというのか。

 潜行する。沈降する。己の(うち)の深く暗い奥の奈落へ、意識を落としこんでいく。

 深海に光や音は届かない。余計な雑音、雑念を排し、凪の境地に没するのみ。

 

 そして、

 カラン、とどこかで頭蓋が転げ落ち。

 

 

『――――!』

 

 

 踏み込み、迎え撃つ両者の戦いはさらなるステージへ進んでいった。

 

 

 

 





読了感謝!

頭から表現捻りだす労力と実際の文字数が
伴っていない件について。

処女作より無駄な難解さや文章の分かりにくさみたいなのを
緩和しようとしていたはずが、結局似た形になっていくという。

中二病が治っていない証拠(する気もない)。


本編のおまけ解説
・等活鎖獄:
 モチーフはまんま、等活地獄。
 どれだけ傷つこうと、「活きよ、活きよ」と
 願うだけでたちまち癒され、何度でも苦痛を味わう。
 
・風化の斬雨:
 モチーフは、あえて言うなら朽木白哉の『千本桜』。
 それか、宿儺の『伏魔御厨子』みたく、絶え間ない斬撃で
 障害を細切れにするみたいな。

・霊夢の収納術:
 まぁ・・・・・・それっぽく装飾してるだけなので。
 一応調べた上で書いてますが、物理学の深淵は素人に深すぎる。


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