呪い満ちるこの空を -flying MIKO- 作:甲乙兵長
交流会の後日談。
連日投稿はこれで一旦打ち止めです。
カイーン!
白球が高く跳ね上がった。
打者・三輪のピッチングを見て、走者一塁・西宮が迷わず出走する。
「西宮っ、まだ走るなー!」
京都校ベンチから歌姫監督が叫ぶがすでに遅く、山なりのボールは構えていたセカンド・狗巻のグラブに吸い込まれ、一塁に送球。パンダがこれを受け取り、めでたく2アウトのダブルプレーとなってしまった。
「え、なんで?」
競技ルールに広くない金髪少女が訝しんで、監督に説教されている。
霊夢は、両チームどちらにも参加せず、フェンス向こうの木陰でのんびり観戦していた。
「・・・・・・平和ねー」
呪霊・呪詛師の襲撃から一日空けて、
学生たちはいま、野球に興じていた。
謎の一行による姉妹校交流会襲撃事件。
負傷者は出たものの、幸い、学生の中で命に関わるような怪我を負う者はいなかった。
代わりに、東京校で駐在していた、五条や学長たちとは別行動の術師たちは数人帰らぬ人となった。身体の異様な変形による殺され方からして、以前報告にあったツギハギ面の特級の仕業と見て間違いはない。
学生への襲撃に際して、別働であったツギハギ面の目標は忌庫の特級呪物。
結果奪われたのは、二種類。
・両面宿儺の指、六本。
・
『指』を取り込むことによる虎杖悠仁の強化阻止、自陣の戦力強化・・・・・・可能性としては挙がるものの、決定的とは言い難い推測だ。
ひとり、五条の働きで捕縛した呪詛師を尋問するも、要領得ない解答ばかりで手掛かりには繋がらなかったという。
「高専の襲撃・・・・・・去年の夏油のときから考えれば二度目だ。防衛システムを見直す必要があるな」
「こうも易々と侵入を許していては、仕方なかろう」
「守りも、天元様のものとは別の結界を用意する必要があるかもしれん。あとで霊夢に相談を―――」
「いいけど、手間賃は弾んでね」
「霊夢、怪我は・・・・・・」
「回収された時点でほとんど治ってたわよ。一部、消えにくいのもあったけど、死ぬような類じゃないし。それよか、こっちの用事が先でしょ」
歌姫の隣に座り、袖口から、何やら模様が刻まれた手のひらサイズの立方体を取り出す霊夢。畳に置かれたそれが何かを察した夜蛾が声を上げた。
「それが、例の呪霊を閉じ込めた『
「ほぉ。
前髪を分けて、冥冥が興味深そうに匣を眺める。
極ノ番・《夢想封印》。
霊夢の術式、『夢想天生』と結界術を組み合わせた奥義だ。
その力は、相手との呪力差、力量差に関係なく、問答無用で敵を封印する術。
一度封印された相手は、呪霊であろうと呪詛師であろうと、術式が綻ばない限り永久に小さな立方体へ閉じ込められる。どんな術式や暴力をかざしても、中から破壊することはできない。しかもこれは、仮に霊夢が死亡したあとでも継続する。つまり、術師を倒しても、一度囚われたら解除できないということ。
成功してしまえば、五条であろうとも自力での脱出は理論上不可能とされている、領域を除いた霊夢の切り札。
とはいえ、完全無欠では決してない。
まず発動の儀式として、特殊な封魔針で敵を囲い、そこに一定時間相手を留める必要がある。ただこれは『寂静』のトランス状態で、ある程度短縮させられる。さらには領域使用に匹敵する集中と呪力もなければならない。儀式が失敗すれば使った呪力はパアとなり、ほぼ戦闘は行えなくなる。
確実に捕らえられる場面を構築して、ようやく踏み切れる奥の手なのだ。
基本的に、『夢想封印』は
そのあたりの事情が、霊夢に使用を躊躇わせる原因となっている。
「分かった。
「無駄よ。これ、もう
「どういうことじゃ?」
楽巌寺の問いかけに、霊夢は黙っていくつか印を結んでいく。それは、匣を開けるためのパスワードのようなものだ。
ここで解くつもりか――にわかに騒然とする一堂に、五条が手をかざし場を制した。
匣型の外装が溶けるように消えていく。が、そのまま全てが消失しても、囚われていた存在は部屋に現れなかった。
「あらかじめそういう仕掛けを誰かにされてたか、あるいは自分からか・・・・・・気づいたら中の呪霊が消滅してたのよ。あの呪霊は不滅の術式持ちだったけど、封印状態じゃ術式はほぼ発動させられない。閉じた領域みたいなものだからね。つまり、証人になりえる人物が亡くなって、迷宮入りしたってわけ。とんだサスペンスだわ」
肩を竦めて皮肉げに語る。だが内心は、不覚を取らされたことを誰より悔いていた。
(・・・・・・アイツは何か知っていたかもしれないのに。あの影と、あの場所について)
思い起こすのは、領域を阻害しに来た異形の影。
前兆も何もなく、いきなり空間を裂いて現れた正体不明の存在。記憶を辿れば、剣鬼の妖刀が出現したのもまったく気配はなかったはずだ。そして、剣鬼をサポートするかのようなタイミングと立ち回り・・・・・・当人はとぼけていたが、無関係とは考えられない。
(あの女の顔、確かに見覚えがあるはずなのに思い出せなかった。やっぱり、あたしは記憶になにがしかの蓋がされている)
約十年前、誘拐された時期に、自分は何を経験したのか。
何を目的としてそのような行動に出て、自分は無傷で解放されたのか・・・・・・。
誰と、どこで、何を。
貴重な機会を失った後悔はでかい。が、なくなったものは仕方がない。切り替えなければ。
「なんにせよ、今年の交流会は中止せざるを得ませんね」
「うむ」
考え込んでいる間に、話は交流会の進退を決める場面となっていた。
学長二人が意見を一致させる中、待ったをかける目隠し男。
「ちょっとちょっと、それは僕らが決めることじゃないでしょ」
不審げな視線に囲まれながら、五条はニヤリと唇を歪めた。
――かくして、両校生徒の意見を尊重し再開された交流会。
二日目の種目は個人戦・・・・・・のはずが、五条の計略で『野球』となり、珍しく歌姫が便乗したことで、呪術高専夏の甲子園が開催される運びとなった。
霊夢はどちらのチームにも入らず、さすがに野球で個人プレーは不可能なので普通にパスし、試合を観戦する立場を得る。
ぼーっと、白球を追い青春する若人を遠巻きに見ながらも、少女の意識は少し前の対談に飛んでいた。
翌日の野球が決まったあと、霊夢は五条に呼び出された。
「それじゃ、約束の報奨を払わせてもらおうかな」
「ああ・・・・・・あたし別に勝ってないけど」
「いいんだよ。トラブったんじゃ仕方ない。どっちにしろ、話すつもりではあったしね」
勝敗関係なかったのかよふざけんなこの
理不尽な憤りを表情筋のヒクつきに留めて、霊夢は先を促す。
「結論を言えば、『何も分からなかった』ってのが分かったくらいかな」
「はあ?」
「ま、聞きなよ。きみが知りたがってた情報――『異境』については、五条家当主の力を使っても、ほとんど解明できなかった。五条の蔵書や言い伝えなんかも全部洗ったんだけどね。何せ神隠しという現象自体、色んな事象とごっちゃにされがちだし、新鮮味のありそうな話は、どこにもなかったよ。これ以上となれば、他の御三家調べるしかないだろうけど、そんなのに協力してくれるわきゃないしねぇ」
「そ。別に、そこまで期待してなかったわ」
「ただね、御三家だってそれなりに古くから色々な呪術関連の知識を蓄えていたはずなんだ。何せ年季だけは立派だからね。けど、分からない。仮にも一家系の当主権限で探ってみても、だ。ここから推測されるのは、ひとつの事実の裏付けだ」
「・・・・・・誰かが意図的に隠した、ってこと?」
「可能性の話だけどね。でも、埃が全く舞い上がらないとなると、事前に掃除したやからが必ずいる。そうでなきゃ説明がつかないよ。しかもそいつは、御三家より先んじて手を打ち、なおかつ現状でもイニシアチブを握り続けている。怖い相手だ」
「けど、尻尾は見せたわ」
「そうだね、きみの前に現れた特級と、影。これが新たな手掛かり。・・・・・・だけど、気を付けなよ」
ひっそり沈めた声音で、五条は独り言のように告げる。
「何も尻尾を出さなかった相手が突然露骨になった。これは、隠す必要がなくなったという意味だ。または、知られたところでどうとでもできる、という支配者側の思想。・・・・・・すでに、きみも僕らも、誰かさんの描いた計画の内に組み込まれてる。後手に回ってる限り、勝ち目はない」
「天下の最強呪術師が、弱気?」
「まさか」
五条は椅子から立ち上がり、端正な顔に悪ガキのような笑みを刻んだ。
「自分が上だと思いこんで、調子に乗ってる傲慢バカに『分からせる』のは、最高に気分がいいだろう? 楽しくなるのは、これからさ」
カイーン!
少女を現実に引き戻したのは、金属の快音。
打者・虎杖。天与呪縛の真希に匹敵するフィジカルパワーを持った快男児が、スペアメカ丸(ピッチングマシーン)の投球を空高くへ打ち返した。
術式使用を許可されている西宮が、箒で球を追うが、間に合わない。
このホームランが決定打となり、試合は終了。
姉妹校交流会二日目甲子園は、2対0で、東京校が勝利を収めた。
読了感謝!
次回以降はまだ未定です。
小話挟むか、渋谷に行ってしまうか。
マイペースに頑張ります。