呪い満ちるこの空を -flying MIKO-   作:甲乙兵長

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アツがナツい!


くだらんこと言いましたごめんなさい。

お待たせして申し訳ないのですが、今回は少ないです。

また、視点とか人称とかも変えていますのでご了承ください。




【隙間話:不帰(かえらず)の廃線】

 

 

 自分の髪が嫌いだった。

 

 

 母親由来の授かりものだけど、不満を漏らさずにはいられない。

 巻き毛で、全然真っ直ぐならなくて、頑固で、ひねくれて、やたら派手で・・・・・・まるであたしそのものだ。

 いわれもなく注意されるし、遊んでると思われて脳みそがスポンジでできてるようなうざったい連中には引っかかるし。地毛なんだから仕方ないだろ。

 無難に合わせて染めたって、負け犬気分でみじめなだけだ。アクセとかはあたしの趣味だけど、他にだって平然と好き勝手やってる奴らはいるのに、なんで毎度あたしだけが槍玉に挙げられてるんだ。あのクソ教師。

 「好かれてんじゃない?」とか、ゾっとしないことを学校の知り合いは何気なくいう。冗談じゃねえ。サブいぼ立つわ。

 普段から思っていた。あたしは、どうにも周囲との温度がズレている。ぬるぬるでダラダラな半身浴を日常的にキメてる奴らと対照的に、あたしの空気は冷え込んでいる。テンションについて行けず、KY(死語だろこれ)扱いされるのも珍しくない。それをミステリアスとか、鼻にかけてるとか、好意的悪意的に好き勝手論評される・・・・・・煩わしい。

 原因はわかっていた。

 あたしには、普通じゃ見えないものが見えてしまうから、見えてない連中とは根本的に共感できない。

 幽霊、と呼べばいいんだろうか。

 いや、あれは、そんなフワフワとした存在には思えない。悪霊、とも違う気がする。あたしが特別見えすぎてるせいなのかもしれないけど、アイツらはとても生々しくて、おぞましくて、気持ち悪い。まるで人のはらわたから真っ黒な部分だけを抽出したみたいな、絶対にやばいと直感させる異形ども。

 だからあたしは外出したくない。外に行けば、否応なくアイツらを視界に捉えてしまう。

 いつも、目にしてしまったら絶対に意識を向けないよう努めていた。見えていることに勘付かれたら、何をされるかわかったもんじゃないからだ。

 けれど、家にいるのはもっと嫌だった。

 クソ親父・・・・・・あたしの親は、あたしを必要以上に縛ろうとする。

 やれ勉強しろ、やれ真面目に学校行け。

 かと思えば、放課後は寄り道せずまっすぐ帰れだの、小遣いろくに寄越さないくせに高校に上がってもバイトはするなだの、友達付き合いはちゃんと選べだの、知り合いの前でいきなりに文句つけてくる・・・・・・鬱陶しいなんてレベルじゃない。今時、門限とか、何でもかんでも価値観が古いんだよ。

 自分だってわけの分からない土産だの骨董品だの扱ってて、それ以外の素振りも妙に秘密的で怪しくて。

 実は女でも囲ってんじゃないかとすら思う。

 女――母親。

 今更、見知らぬ他人に母親名乗られても困惑するだけだ。

 あたしの母親は、結構前に死んでる。事故、だったらしい。

 遺体はひどい有様だったらしくて、あたしは葬式の最中も、ずっと真っ白な木の棺だけを眺めていた。中身は、一度も見せてくれなかった。

 ただ、棺の周囲に黒いモヤみたいなのが漂っていたのだけ覚えている。うっすらとだが、人のような形にも見えた。

 思えば、あれは母さんの残留思念とかじゃないのか。

 母さんは、あたしにお別れを言いに来ていたのではないか。

 ・・・・・・もはや、知りようもない妄想でしかない。

 以来、まるでなんかのフィルターがかかったみたいに、あたしは普通じゃないものが見える目になってしまった。

 親父にそれを一度だけ相談したことがある。

 アイツは血相を変えて、ひどく怯えたような面をしてから、どこかに電話をかけて、悲鳴みたいな怒鳴り声を通話口に放って・・・・・・それからのことは、なんでか曖昧だ。

 あたしへの束縛が増したのも同時期だから、無関係じゃないはずなんだけど。

 ともかく、あたしは外が嫌いだ。人波が雑多な場所はチャラいのやイヤらしい目つきのオッサンが声かけてきて無理。逆に、人気が無さすぎる場所も絶対無理。さびれたビルや建物の前を通るときは、息をひそめてすらいる。

 かといって、自宅も論外だ。何せ、現在進行形でプチ家出中なんだから。

 よって、

 

「だからといって、毎度うちに来るのもどうかと思うのだけど」

 

 この、冴えない眼鏡男の下に転がり込んでいる。

 

「現役女子中学生・・・・・・もうじき高校生だけど・・・・・・と接点持てるなんて、こーりんぐらいの歳なら金出してでもやりたがる贅沢じゃねえの。むしろ感謝しろ。指一本でも触れたら前歯全部へし折るけどな」

「うーん。この口の悪さとふてぶてしさ。なんでこんな可愛げない子に育っちゃったんだか」

「育ててもいないのにあたしを語るな」

「でも、おしめ変えたことぐらいは・・・・・・」

 

 余計な戯言をこぼしかけた男に黒歴史粉砕アタック、もとい読んでいた漫画雑誌の(かど)で殴りかかる。

 

「ちょっと、危ないからっ」

「うっさい、乙女の貞操と月刊雑誌の重みを知れ」

 

 ガンガンと打ち付ける攻撃を凌ぎながら、こーりん・・・・・・森近(もりちか)霖之助(りんのすけ)は苦笑しつつあたしを見て問いかける。

 

「で? 今夜はちゃんと帰るの?」

「やだね。一人で寝酒して不貞腐れてりゃいいんだ。クソ親父。そんで腎臓悪くして死ね」

「あまり嫌ってやらないで欲しいな。きみの親父さんも、ずっと寂しくて、不安なのさ。きみが、母親のようにならないかと」

「・・・・・・・・・」

「きみのお母さんも、きみのように、普通には見えないものが見えてしまっていた。それと同じになってしまったきみは、いつ、何に狙われてしまうか、わからない」

 

 こーりんは両親との昔ながらの友達だ。そして、あたしの見えてしまう体質についても、馬鹿にしたりせず、理解を示してくれた。香霖堂(こうりんどう)とかいう、親父と似たような系統の物品を扱っている、オカルト側の人間だったからだ。呼びやすいからあたしはこーりんってあだ名を付けた。

 こーりん曰く、道具を売っているというよりは作る側らしいけど。詳しくは知らない。

 母親があたしと同じだったっていうのも、こーりんから最初に聞いたことだった。

 こーりん、そしてたぶん親父は、あたしが見ているものが『何』か、その答えを知っている。でも、何度訊ねたところで、教えてはくれない。

 

 

「知ることは、決して良い方向に繋がるとは限らない。知恵や知識、もっといえば、名前や特徴・・・・・・そういう類いを知ってしまうだけで、『あちら側』と関わりを持ってしまう。だから、できることなら、何も知らないままが一番の安全なんだ」

 

 

 もっともらしい言論で、当時のあたしは言いくるめられてしまったが、かといってずっと蚊帳の外、部外者の扱いなのはたまらないものがあった。

 母親の『事故』。それが、世に溢れる平凡な『死因』でないのは、すぐに想像できる。

 隠されたまま、のらりくらりと、誤魔化されて。

 これじゃ、いつまでもあたしは・・・・・・。

 

「あ、そうだ。どうせ泊まるなら、また仕事を手伝ってくれ」

 

 ぼーっとしていたあたしは、こーりんの提案に呼び戻される。

 

「お得意先から、新品の注文だ。変更は特にないそうだから、前回と同じ仕様で作ってみて欲しい」

 

 こーりんから手渡されたのは、仕様書とデッサン図面の紙束。

 道具屋とかいう割に、オーダーメイドで服飾のデザイン、縫製まで請け負ってるらしい香霖堂では、こういった注文はそれなりにあることだそうだ。

 

 

「暇して時間を潰すくらいなら、バイト感覚で仕事を覚えてみれば? 無駄にはならないと思うよ」

 

 

 何度目かの家出中にそう説得されて、手伝い始めたのがきっかけ。

 ミシン糸の取り換え方法すら知らなかったあたしに、服を自分で縫うなんて全く経験のない無茶ぶりを強いてきて、けどいつの間にか、ズブズブと深いところまで関わるようになってしまったという腹立たしい経緯が、あたしを少しはマシな人間にしている。

 少なくとも、学校でのんべんだらり身体動かしてだりーねみー言って呼吸してるだけの連中との違いを、人知れず築けるのはやや誇らしい自信になった。

 

「またこの服か・・・・・・なんだ、この中途半端な巫女服みたいなの。完全コスプレじゃん。脇丸出しで、袖だけ別個で付けるとか、意味わかんないぞ。しかも何度も新しいの作るとか、イメクラでお殿様プレイでもされてんの?」

「デザイン原案は僕だよ。最初はもっと『らしい』感じだったんだけど、顧客の要望に答えてるうちにこうなったんだ」

「お前巫女好きなの?」

「魔法少女や魔女っ子も悪くないと考えてる。きみにも似合いそうじゃない?」

 

 変態の意見はゴミ箱へ捨て、あたしは慣れた作業に取り掛かる。

 なんだかんだいって、この過程は嫌いじゃない。

 ただの布が少しずつ形になって行くのは達成感があるし、いずれ本当に家を出て食っていくための下地にもなり得る有益な行為。

 何より、作業中は、嫌なものも、嫌なことも、見て考えなくて済む。

 あたしは無言で、布にピンや針を突き刺していった。

 

 

***

 

 

「はあ・・・・・・」

 

 いつにも増して、帰りの足取りは重い。

 こーりんの仕事手伝って、直接学校通って、帰って勉強やら作業やらに時間使って。

 そんな生活が一週間続き、さすがにこーりんからお小言をもらうようになった。

 

「そろそろ、うちに顔出したら? お父さん、電話で連絡だけは毎日してくるんだよ?」

 

 余計なお世話だ、と突っぱねたくはあった。今回の腹の虫はなかなか収まらない。

 学校行っての、帰路。夕暮れの道を、なるべく無心で歩く。

 顔はあまり上げない。下手に奴らを目撃したくないから。

 アスファルトの汚れや電柱、ローファの爪先を見下ろしている。はたから見たらさぞ暗いヤツに思われるかも。実際、表情が沈み切ってるのも自覚してる。

 会いたくない、のは確かにそうだ。

 気まずい、のもそう。

 毎度、このタイミングが一番憂鬱なのだ。在るべき場所に押し込められる瞬間。自分から箱詰めされに行ってる気分。なんていうか、昔病欠で学校休んだ次の日、自分のあずかり知らぬところで人と世界が回っているのを理解してしまった虚しさみたいな孤独感。

 家の近所に差し掛かった。あと数十メートル直進した角に、瞼に焼き付いた家の輪郭が見えてくる。

 ふと、明らかにするのを避けていた本音が、口から漏れた。

 

「帰りたくねえな」

 

 その瞬間―――

 

 

 あたしは、古びた駅のホームにいた。

 

 





読了感謝!

誰の視点なんでしょうね(すっとぼけ)。

いまのところ、『彼女』は呪術と関りのない一般人。
呪霊、見えてはいますけど、接触は完全に避けています。

どっかの『見える子』ちゃんみたいに。
アニメ早く見てえな。

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