呪い満ちるこの空を -flying MIKO-   作:甲乙兵長

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アマング・アスの声マネ動画見漁ってて遅れました。


時系列的には、真人VSメカ丸の決戦。






【第拾漆話:紅白巫女は手向けを放つ】

 

 

 死が迫る。

 手のひらの形をした死が。

 

 

 コックピットに乗り込んできた異形の呪霊――真人(まひと)

 ツギハギの顔面を心底おかしそうに、心底愉快そうに、嘲りと哀れみと快感が混合した、なんとも気持ち悪い三日月を口に浮かべて刻一刻迫ってくる。

 自分の手には最後の切り札――簡易領域(かんいりょういき)を封じ込めた充填筒が一本。ボタンひとつで下部から針を突き出させ、眼前の化け物へ打ち込みにかかる。

 効果のほどは実証済み。当たれば勝てる。だが・・・・・・。

 

(・・・・・・くそっ)

 

 どこで、間違えたのか。

 何が悪かったのか。

 生まれついての呪いを忌み、自由の利かぬ己に憤り、そんな生涯を科した何者かを憎んだ。今ある力を差し出して、呪縛から解放されるなら、悪魔に魂を売っても構わないと夜ごと呪詛を吐いた。

 そして、大切なものができてしまった。

 彼らとともに、日の下を歩めるなら、見知らぬ誰かを蹴落とし、血に汚れることも厭わない。たとえその先が、大切な彼らの敵になる、本末転倒な未来だったとしても。

 罪を犯すことに正当性をあてがい、願いが叶うならどうなってもいい――自棄に近い刹那的で身勝手な渇望の報いがこの結果なら、はじめから、優しい光など与えてほしくなかったのに。

 どこまでも、度し難く歪んで、質の悪い境遇だった。

 おおよそは、自業自得でしかないわけだが。

 

(俺は、ただみんなと―――)

 

 両手と針が交錯する瞬間、与幸吉(むたこうきち)はいらぬ感傷に苛まれた。

 それが、切っ先を鈍らせたわけではないだろうが・・・・・・。

 

 

 半端者の結末に、救いはなかった。

 

 

***

 

 

『霊夢! メカ丸が呪霊一派に情報を流した内通者の可能性がある! 高専に記録された所在地はダミーだったわ! いますぐメカ丸の本体のところへ跳んで!』

 

 少女に入った歌姫の一報。

 全国を飛び回り、その最中で高専の結界防備増強を進める計画を夜蛾学長と打ち合わせていたのだが即座に打ち切り、霊夢は歌姫の要請通りに行動した。

 

 

 『夢想天生』による瞬間移動――己の存在を現実世界から『浮かせ』、他者の観測する意識下に自身を滑り込ませる方法。ようは、他人の認識を借りて自分があたかも初めからそこにいたように現実を誤認させる裏技のようなものだ。

 ただし、これには霊夢を知性ある他者が『観測していない』場合のみ使える。たとえば、ずっと視界に霊夢が映っていたら、霊夢がそこに存在している結果が現実で確定してしまうためNG。逆に、個室や木陰、あるいは視界外など・・・・・・観測する側が霊夢がそこにいる事実を断定化させられない、いるのかいないのかはっきりしない不確定さが介在する場合は、移動可能といった具合になる。

 また、博麗霊夢の実在を認知している既知の者でなければ、術式対象、『座標』としては成立させられない。代わりに、相手が実際どこにいるか知らなくても、登録された番号に電話をかけるような要領で認知している相手の場所へ問題なく跳べる。

 まとめると、

 『誰かに居場所を特定されていたら使えない』。

 『他者の観測結果を借りて移動する』。

 『障害や距離には影響されない』、瞬間移動法。

 

 

 名を―――

 

(《遍転(へんてん)》)

 

 フッ――身を隠した霊夢から、重力が消える。

 続いて身体の感覚が薄れていき、霊夢の存在が極限まで希釈される。自意識が漂白される一歩手前の、なかなかに危ういラインまで。概念化された身体は、わずかな浮遊感ののち、瞬く間に目的地であるメカ丸の下へと実体を移す・・・・・・はずだった。

 

「っ!」

 

 ぐにゃり、と『座標』としてメカ丸まで繋いでいた意識の経路が乱れ狂う。

 まずい、と乱れた海流のようにねじれた経路に引き込まれる寸前、術式を解除。

 途端、気付けば霊夢の身は空中に投げ出されていた。

 

(気が付いたら石の中、よりはマシだったわね。《遍転》は一歩間違うと結構あり得るから・・・・・・にしても、くそっ。なんかに術式を阻害、いえ、狂わされた。メカ丸が? アイツにこの手は明かしたことないはずだけど、対策打たれてたか。あるいは―――)

 

 危なげなく空中に浮かび、考察していた霊夢の意識を引き込む・・・・・・音。

 あえていうなら遠く響く花火に近い、散発的にやってくる大気の振動。

 多く修羅場を経験した霊夢は、直感的に察した。爆発音!

 空中に『烈』の足場を複数作って瞬間加速。弾ける空気を押しのけて、全速力で空を飛翔する。

 現れたのはどこかの山中。舗装された道が数えるほどしか見受けられない緑の丘陵地帯で爆発の原因など、そう選択肢は多くない。

 

(戦闘・・・・・・すでにことは起こってる。スタートで出遅れたか)

 

 歯噛みしながらも、飛行と加速を繰り返して爆心地をひたすら目指す。

 ・・・・・・別に、霊夢はメカ丸とそこまで親しかったわけではない。

 基本、女子三人組から他の男子の渡り扱いを受けていた不遇なヤツ。天与呪縛によって、生身で日の下を歩けないことを強いられた経緯には、多少なりとも同情はした。

 だから、メカ丸が容疑者として挙げられたとき、どこかで納得してしまったのは確かだ。己の恵まれない境遇を嘆いて、バカをやらかす可能性は大いにあると。あるいは、譲れない想いができてしまったのかもしれない。

 共感はできる。同情もする。だが、それとこれとは別の話。やりっぱなしで逃げるのは許さない。

 抗うにせよ、(あがな)うにせよ、仮にも同じ学校で過ごした身として、顔も合わせないままどこかへ都合よく消えてしまうなんてことは、決して。

 だから、

 

「あたしが着くまで生きてなさい、メカ丸・・・・・・っ!」

 

 こぼれた悪態は、切なる祈りのようだった。

 

 

 

 

「おつかれ。少し危なかったんじゃない?」

「術式の解放タイミングに合わせて自ら弾けた。あとは領域を解けば、まず死んだと勘違いしてくれる。全て計算。危なくなんてないさ。にしても、簡易領域か・・・・・・本番前にいいモノ見れたんじゃない?」

「そうだね。嘱託式の『帳』の調整もこれで済んだ。呪力や言霊を他者に託して問題なく発動させられる・・・・・・おっと。悪いが想定外のトラブルがやってきたみたいだね」

 

 真人と夏油。二人の人物が雑談を交わす頭上で、突如天蓋が砕かれた。

 メカ丸との戦闘に際して用意された、実験場込みのバトルフィールである『帳』が、ガラスのように破壊され辺りの色彩が元の姿を取り戻していく。

 二人は空に佇む小さな人影を見咎めた。

 手のひらでひさしを作り眼を細める真人が、その正体を看破する。

 

「赤と白の装束。あれが噂の博麗霊夢? ほんとに虎杖と変わらないガキなんだ」

「ああ。しかし、彼女ほどの結界術師ならこの程度は壊せてしまうか。やはり作戦決行では、彼女らの協力が必要不可欠―――」

 

 

「陰陽鬼神玉っ!」

 

 

 放たれた視界を覆いつくさんばかりの呪力玉に、地上の人影は森林ごと圧潰された。

 死体を確認する余裕もなく、霊夢は崩れ落ちた巨大な鋼鉄のカタマリに近寄る。

 とっくの昔に廃棄されたダムコンクリートの重厚な堤防に伏す、破壊された巨人。いわゆる巨大ロボットのようなその造形に、既視感を覚えたのだ。

 大穴が空いた頭部から、油のような、血液のような、濁った液体が零れ落ちている。

 砕けた淵に手をかけて、中を見下ろすと、そこはどうやらコックピット座席のようで。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ()()は、元の顔が分からなかった。

 けれど、霊夢は自然とその名を口にする。

 

「なにやってんのよ、メカ丸。バカね。呪霊なんかを当てにするから、痛い目見るのよ。そうまでして、健常になりたかった? あたしたちを、仲間を、霞を、裏切ってまで」

 

 嘲るような、抉るような毒を吐く。瞳は冷淡に凪いでいて、語調に乱れは微塵もない。

 けれどそれは、感情を水底に押し留めているようにも見えて、どこか、哀愁をまとっているような気がした

 あるいは、もっと熱く脈動する『何か』か。

 

「違うわよね。あんたは、あたしや他はどうかしらないけど、霞だけは、ずっと気にしてる感じだったわよね。ちょっとキモいくらい。下手すりゃあんた、ストーカーとかしてなかった? あの天然記念物いい子ちゃん、京都校の癒しなんだから、傷つけちゃ罰が当たるわよ。っていうか、あたし自ら人誅(じんちゅう)を下す」

 

 ざり、と背後で砂を踏む音。

 霊夢は音もなく左袖からお祓い棒を抜き、右袖から呪符を扇状に掴み広げる。

 

 

「どっちにしろ、あんたは許さない。裏切ったことにじゃないわ。秘密にして、背負いこんで、一人で罪も罰も引き受けようとした、その傲慢さに腹が立つ。

 だって、あんた弱いじゃない。あたしより、弱いじゃない。

 縛りだったのかなんなのか知らないけどさぁ、やり方、あったでしょ。・・・・・・色々引っかき回して、一方的に傷つけて、挙句、そうやって逃げた。

 ほんっと、最低。マジむかつく」

 

 

 だから。

 

「だから、許さない。あたし、根に持つの。・・・・・・覚えてるから」

 

 巨大メカ丸の頭から飛び跳ねて、霊夢は崩れていない天端道路に降り立った。

 正面には、ツギハギ面に軽薄な笑みをたたえた、半裸の呪霊。

 

「済んだ?」

「ええ。律義に待っててくれたのね。意外」

「まぁ、最後の別れくらい、言わせてあげるよ。途中で何度か吹きそうだったけど。よくわかんないんだよねぇ、死者への手向けとかってやつ。死んだらただの肉塊だろ? きみ、調理前の生肉にいちいちお別れ言って食うの?」

「いいえ。縁もゆかりもないモノに向ける言葉なんてないわ。死体に語っても、結局は自慰。自分を慰めるだけ。そんなのは、誰だって知ってる。けどね、無意味に意味を、無駄に意義を与えて糧にするのが、人間なのよ。明日を生きるために、今日と過去を、割り切らなきゃならないから」

「ふーん。やっぱ分かんないな。っていうか、別に分かりたいとも思わないや」

「そ。ところで、一応訊ねるわ。メカ丸をやったのは、あんた?」

「ああ。不自由な身体を直してやったのも俺だよ。再整形していいツラになってただろ?」

「そう・・・・・・じゃあ、多くは望まないわ」

 

 氷の殺意を眼光に宿し、巫女は両の得物をゆらりと構えた。

 

 

「いますぐくたばれ、クズ野郎」

 

 

 





読了感謝!


運命は、そう変わらない。

じゃあなんでわざわざここ描写するのって?
も、もうちょっとしたらそれっぽいフラグ立てるから・・・・・・。


おまけ解説
《遍転》:詳細は本編中の通り。分かりづらいなら、知り合いの下に即跳べる瞬間移動って認識でオッケー。

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