呪い満ちるこの空を -flying MIKO-   作:甲乙兵長

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お久しぶりです。

元々やっていたFate二次創作を差し置いて、また呪術投稿します。

だって筆がどちらかというとコッチのほうが乗ってるんですもの。

ネタは新鮮なうちに書き出しておきたいですし。

また区切りの良いとこまで、連日で出していきます。




【第壱話:紅白巫女は祈らない】

 

 

 木の香りが混じった薄暗がり。ぼぅ、とロウソクの灯りが闇を照らして、瓦屋根を支える支柱を浮き上がらせている。

 

「――誰だ」

 

 寺院か、あるいは稽古場のようなお堂の奥から、男の声が誰何(すいか)する。

 出入口の正面扉は閉じられたまま。しかし、隙間もないのに微風が生まれ、暗がりから人影が像を結び、歩み出る。

 

「相変わらず、似合わないセンスしてるわよね」

 

 灯りの下に現れた少女、博麗霊夢は不可解とばかりに片眉を上げて男を見据えた。

 いつもの改造巫女服ではなく、ロゴTシャツにパーカーを羽織り、ジーンズ生地の短パンとスニーカー、加えてリボン代わりに頭を飾る斜め被りの野球帽という、年相応の若者らしいラフなスタイル。

 霊夢の視線の先、羊毛フェルトに針を刺す作業中のグラサンをかけた強面(こわもて)男の周辺は、彼が制作したであろう様々な人形が軒を連ねていた。そのどれもが、暴力団組織のボス然とした雰囲気をかもす彼とはミスマッチな愛嬌を備えしカラフルなぬいぐるみばかりで、外野に凄まじい違和感をもたらしている。

 そんな少女の評価を今さら歯牙にもかけず、男は作業を止め、闖入者をサングラスの奥から睨んだ。

 

「博麗か。私が気配を悟れないとは・・・・・・さては術式で跳んできたな? あまりアレを使えば上がうるさいぞ」

「おひさー、夜蛾(やが)さん。別にいいじゃない。ちゃんと最寄りの駅前までは電車で来たんだから、誤差よ誤差。最終的な行き先は向こうも知ってるんだから、多少ショートカットしたって問題ないわよ」

 

 あっけらかんと応える霊夢に、男――東京都立呪術高等専門学校学長である、夜蛾正道(やがまさみち)は、やれやれといった馴染み深い風情の息を吐く。こういった輩の無軌道ぶりによく振り回されている苦労人の証拠だった。

 

「まったく。・・・・・・用向きは、例の特級呪物だな。京都の学長から話は聞いている」

「そ。ならさっさと受け取ってくれる? いつまでもこんなキショイのポケットに入れてたくないし。こっちも予定があんのよ」

「予定?」

「せっかく東京まで来たんだもの。竹下通りで買い食いしてから、色々都市部を観光して回るの。あたしあんまり東京来たことないしね。アキバにも行ってみたいわ」

「そうか。しかし悪いが、まだ呪物は受け取れん」

「は? ここに来て拒否(きょひ)られるとか意味わかんない。なんのためにご当地駅弁贅沢回し食いしながら来たと思ってんのよ」

「落ち着け。お前が移動している間に、状況が変わったのだ。実は―――」

 

 

「『宿儺(すくな)の器』になり得るかもしれない少年を保護しちゃってさー。検証のために呪物の『指』が急遽必要になったってワケ」

 

 

 先刻の焼き増しのごとく、音もなく空気が揺らぎ長身の人影が食い気味に答えた。

 夜蛾と霊夢の間に突如出現した白髪の男。見上げるような背丈だが体格はスラっと引き締まり、全身は黒づくめ、目元は目隠しで覆われている。唇は軽薄な弧を描き、顔は霊夢を向いていた。視界を閉ざされているにも関わらず、確かな視線を布越しに感じる。

 知らないはずはない。

 彼こそは、日本、否、世界的に考慮しても誇張なく最強の人類。

 

 

 特級呪術師・五条悟。

 

 

「そこでちょーど、見つかったばかりの指があるって話じゃない。すでに保管されてる呪物を忌庫(きこ)から引っ張り出すのって手続きが面倒だからねー。グッドタイミンっ、て具合で、こうして回収に来たんだ」

「・・・・・・あっそう」

「アレレー? 興味なし? ドライだなー。ウケるくらい上層部だっててんやわんやのチョー面白案件なのに」

「それはあんたの個人的な楽しみ方でしょうが」

「霊夢だって上の連中嫌いでしょ? 普段重鎮ぶって脚を腐らせてる奴らがオロオロしてるサマはめっちゃ笑えるよ」

「どうでもいいが、お前ら二人揃って普通に扉から入ってこれんのか、問題児ども」

 

 夜蛾の文句も素通りさせて、二人の特級は挨拶もなく会話する。

 五条は発言からも察せられるように、呪術界上層部が大嫌いだ。

 いわく、腐ったミカンのバーゲンセール。霊夢とてことあるごとにうるさい老害連中は鬱陶しいし、全員綺麗にくたばったら心なしよく眠れそうと考えてはいるが、あくまで考えるだけだ。ぶっちゃけいてもいなくてもどうでもいい。

 霊夢が無関心な現状維持派だとすれば、五条は改革派スタンス。呪術師、非術師など含め安寧と大義の名の下、己の益の犠牲に他者を切り捨てる思考停止爺たちを刷新(リセット)したいらしい。

 よって、時折なんだかんだ共感意識を煽る言動をしてくる。中立立場の霊夢を自分側に寄せておきたいのかもしれないが、そういう政争に巻き込まれること自体が面倒極まるので、基本無視。露骨に口説けば確実にこじれ戦争になる未来が見えているから、五条もあくまでそれとなくで済ませているのだろう。

 

「で、(コレ)はあんたに渡せばいいの?」

「うん。結果がどうなるかは、例の少年次第だけどね。上手くいけば、呪いの王を制御できるかもしれない。失敗しても、厄介な呪物をあるだけ取り込ませて呪力で祓えば、宿儺という脅威の可能性を目減りさせられる。どっちにしろ旨味はあるよ」

「ふーん。呪物取り込ませるってどうやんのよ」

「文字通り、飲み込ませる。少年――虎杖悠仁(いたどりゆうじ)っていうんだけど、彼が仙台の通ってる学校に保管されてた『宿儺の指』をやむなく飲み込んじゃったのがキッカケ。本来は回収するはずだったんだけど、(めぐみ)がしくじっちゃったみたい」

 

 ま、お陰で隠れた人材が見つかって結果オーライだけど、と前向きな五条。

 恵という名は、薄っすらとだが記憶にある。五条が受け持つ一年生で、自由人の勝手に巻き込まれる哀れな子羊だ。そういえば真依も、いつぞやそんな名を口にしていたように思う。

 

「隠れた人材ってことは、その虎杖って非術師(ひじゅつし)?」

「そーそ。呪いを見たこともないごく普通のパンピー学生だよ。興味出た?」

「んなワケないでしょ。強力な呪霊の器とかとんだ爆弾だわ。ビビリな上がほっとくわけない。いずれにしろ遠からず死刑は確定。知らずに目を付けられたその男子が人並みに可哀そうってだけよ」

「確かにね。でも、もしかしたらって、僕は期待してる」

「期待?」

 

 受け取った『指』を示しながら、五条は子供のような笑みを貼り付けた。

 

「キミと、去年の乙骨に続いて、大きな流れが来てる。宿儺の器という未知の到来は、なんらかの前触れじゃないかってね」

「それがいいこととは限らないのに?」

「かもしれない。けど、僕の生徒たちは優秀だからね。きっと、なんとかなるさ」

 

 妙に確信めいた楽観を述べて、五条はその場をあとにした。

 現れたときと同じく霞のように姿を消した虚空を眺めて、黙っていた夜蛾が嘆息する。

 

「だから普通に扉を使え」

 

 

 

 

 霊夢は宣言通り、用事を済ませてから竹下通りを練り歩き、アキバで時間を潰してからとある場所を訪れた。

 斜陽のオレンジが照らす中、区画ごとに小奇麗な灰の石がつらつらと並び、ひそやかな静寂が場を満たす。ここは死人が眠ると言われているのだから当然だ。もとより、人気は霊夢以外どこにもない。

 墓地に唯一立つ生者の少女は、一角に据えられた墓石の前で、手を合わせるでもなく、パーカーのポケットに手を突っ込んで黄昏ていた。

 石に刻まれた名は、『天内(あまない)』。

 天元という、不死の術式を有する存在が、五百年ごとに求める生贄――『星漿体(せいしょうたい)』であった少女――天内理子(あまないりこ)の墓。

 多くの者にとっては、ただの『星漿体』という記号に付属した人物でしかないが・・・・・・霊夢にとってすれば、若干おもむきが異なる、恩人。

 彼女がいたからこそ、霊夢は腐らず、人間らしい情緒を得られたのだから。

 

「・・・・・・東京に来たくなかったのは、別に墓を見たくなかったとか、死を認めたくなかったとか、そんなもっともらしい理由じゃないのよ。単に、どう向き合えばいいのか、わからなかった」

 

 ぽつりぽつりと、霊夢は心の風呂敷を広げるように語り出す。

 

「だって、コレはただの名前が入った石ころだもの。遺骨すらない。本物は高専のどっかで処理されて保管されてる。天元の器に選ばれた人間の遺骸、どんな輩が欲しがるかわかったもんじゃない。だから、ここは本当に形だけ」

 

 湿ったぬるい風が、木々を揺らす。

 グラデーションがかった空。太陽は地平線に吸われていき、逢魔(おうま)が時は終わりを迎える。

 明かりを灯す人々の営みを遠目に眺めて、霊夢はふと横を見た。

 

「なのに、後生大事に世話を焼き続けてるの? あんたは」

「それが、家族である私の役目ですから」

 

 博麗霊夢は祈らない。

 死者の魂が現世に残るなんて信仰はない。肉体が朽ちたら、人は終わりだ。かといって、墓石に独り言を落とすほど彼女はロマンティシズムに浸っていない。

 聞き手は、黒基調でまとめた私服姿の女だった。

 黒髪を肩まで伸ばす、使用人のような楚々とした立ち姿。直接顔を合わせるのは約十年ぶりになるだろうか。年齢に比して、あまり老いを感じさせない容姿をしていた。

 歩き、揃って墓地から場所を移しつつ、久闊(きゅうかつ)(じょ)する。

 

「お久しぶりですね。霊夢さん」

「昔みたいに、霊ちゃんって呼んでくれないの?」

「あなたは特級でしょう。それに、もうそこまで子供でもありません」

「別に構わないんだけどね。知り合いにも一人呼んでるのがいるし。あなた、高専の階級とか、気にする立場でもないじゃない。今、何してるんだっけ」

「一応教師を。一般の学校で保健室の先生をやってますよ。副業で『窓』も担ってます」

「あー。漫画で男子がエロいことする人って勘違いする役職ね」

「不名誉極まりないんですけど」

 

 くつくつと悪戯っぽく笑う霊夢と、苦笑する女性。

 懐かしくも、どこか寂しいやり取りだった。

 

「あなたこそ、活躍は窓にまで伝わってますよ。あの五条悟に並ぶ術師だって」

「なにその噂。戦ったこともないのになんで並ぶなんて分かんのよ」

「一度もないのですか?」

「組み手すらしたことないわ。だってめんどいじゃない。それに、悟とあたしじゃ殺し合いにでもならないと勝負着かないし」

「・・・・・・恨んでいないのですか? 彼を」

「なぜ? 確かに理子さんが死んだのは護衛のアイツらがへなちょこだったからよ。でも、最後に希望を与えた。あの人に『生きたい』って我がままを言わせた。それで、あたしとしてはトントン」

 

 殺した奴も悟が()っちゃったしねー、と、霊夢は軽く言ってのける。

 真意か、ハリボテか。外様(とざま)の女に心中は覗かせない。それでいいと、女は思う。それはきっと、他人が踏み入ってはいけない領分だろうから。

 

「そういうあんたは?」

「恨みます」

 

 即答だった。けれど、言葉と裏腹に、目つきには穏やかな光がある。

 

「守れなかった彼らを。殺した男を。天元を。お嬢様を奪った全てを、きっと私は、呪いながら死んでいきます。どれだけの徳を重ねたとしても、寸前で命を拾われたのだとしても・・・・・・恥知らずでしょうか?」

「いいんじゃない? そんくらいの呪い、アイツなら背負うでしょ。普段からフワフワと自由なんだから、いい重石だわ」

 

 公共機関を利用し、閑散とした風景から人騒がしい街並みに戻ってくる。

 思い出話に華を咲かせ、狭間の時間を気にせず過ごせた。

 

「あたし、この先のホテルだから」

「そうですか。私は明日も仕事なので、本日は失礼します」

「うん。わざわざお墓まで出向いてもらって悪かったわね。また暇だったら会いましょ」

「それって、会わない相手との常套句では?」

「かもね。まぁ、あんまあたしとは大っぴらに関わらないほうがいいけど。悪意を持つ連中が寄ってくるかもしれないし。知ったらタダじゃ済ませないけどね。気楽でいいわよ、気楽で」

「分かりました。覚えておきますよ、霊ちゃん。・・・・・・どうか、お元気で」

「ええ。じゃあね――美里(みさと)

 

 

 





読了感謝!

作者は東京の地理をよく知らないので、街並み描写の端折りや不足は見逃してほしいです。

あと、黒井美里(くろいみさと)がなぜ生きてるのか。これは本編でもなんか曖昧だったので、生き残ったと仮定して話にしています。間違ってたら、別世界線という解釈で、どうぞ。

それから東京に天内理子の墓がある理由。これも特になし。彼女が東京出身であるかは不明ですし、両親云々の出身地も不明なので、墓を出す場合どこに置けばいいのか判断つきませんでした。現状、東京なのは、一応逝去したのが筵山なので。

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