呪い満ちるこの空を -flying MIKO-   作:甲乙兵長

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霊夢VS宿儺の場面。

どっちも本領ではないのでそこまで出たらめにはなりませんが。

なかなか霊夢が特級である証明になるような強敵を出せないのが辛いなー。





【第参話:紅白巫女は見送る】

 

 ――言うまでもないでしょ。

 男の軽口を思い出す。

 ――たぶん、上の連中の差し金だね。邪魔な僕がいない間に、身に余る呪霊討伐に行かせて体よく悠仁消そうって魂胆だろうね。場合によっちゃ、受け持ちの一年に累が及んでも嫌がらせになる。

 あのクソ詰め袋どもめ♪ と、妙な口調の軽々しさとは裏腹にこもった呪詛は本物だった。のぞかせた怒りの上澄みは、五条の募らせた鬱憤の深さをこちらに伝えてくる。

 ――こっちもなるだけ早く片付けるようにするけど、微妙なとこかもしれない。工作で緊急性の高い面倒な任務を寄越してるから、無視もできないしね。ハハッ、ヒトの足引っ張る努力ばっか上手いんだから。

 鹿原にうかがったところ、霊夢にもすでに次の派遣先が来ているらしい。ご丁寧に東京からほど離れた辺境だ。助けに向かえる特級、ないし一級を遠ざけるためだろう。こうも露骨だともはや失笑。五条に同意をせざるを得ない。

 ――あー、そっちもか。ま、できればで構わないよ。君にとっちゃ、顔もろくに知らない姉妹校の学生たちだ。必死こく理由もないだろうしね。

 言われなくてもそのつもり。

 そう。少なからず見知った者たちなら考えなくもないが、例の一年たちに面識のない霊夢がそこまで頑張る理由はない。

 たとえ、被害が一般人に広がろうと、それは差配した上層部のせいだ。特級の発生はまだ未来の出来事。誰かを向かわせる、あるいはすぐに避難誘導させようにも、どこでいつ起こるのかハッキリ分からない以上、情報を握り潰される可能性が高い。網を張るにも東京という情報だけでは範囲が広すぎる。

 通話を切り、溜め息をつく。上層部と五条のバチバチに巻き込まれるのは勘弁してほしい。

 呪霊と戦っている刹那に見えたのは、二人の男子。入れ墨ような紋様を身体に走らせた学生と黒髪のツンツン頭。どちらも高専東京校の制服だった。次に、入れ墨と方陣を背に抱えた異形が争っている情景。無数に積み重なった死体。流れる血河。瓦礫と化した街並み。

 垣間見た光景はおよそ穏当とはかけはなれていて、霊夢の気分を急降下させている。外れているに越したことはない。

 でも、もし、この未来が杞憂でなかったなら・・・・・・。

 

 

 

「美里が勤めてる学校の近くで助かったわ。お花摘み中に座標に使っちゃったのはさすがに悪かったけど」

 

 あとでフォローいれなくちゃ、と暢気に呟く。

 

「ってか、よりによって雨? 新しい服がまた濡れたじゃない―――」

「危ない前!」

 

 呪霊を前にゴネ出す霊夢に伏黒の絶叫が飛ぶ。

 直後、矮躯に叩き込まれる宿儺の拳。幾度となく伏黒を宙に舞わせた重い打撃だ。

 しかし。

 

「ほぅ」

「礼儀がなってないわね、呪いの王様。女の準備は待ちなさい。急かすのは無粋よ? それとも、指数本分の魂じゃ理知もろくに備わってないのかしら?」

 

 剣指を立てた霊夢の手前で、拳が止まっていた。透明な壁に阻まれているように。くしくも伏黒から見たその姿は、五条の無下限と既視感のある状態だ。

 

「さて、どうかな。女、お前は覚えがあるぞ。いつぞやか、俺の(一部)から俺の魂を見ていたな」

「覚えてないわね」

「そうか。ならば構わん。貴様のせいでいま俺は機嫌が悪い。せいぜい末期(まつご)まで良い悲鳴(こえ)で楽しませろ」

 

 漲る呪力。五指を広げ、風を斬る裂爪が、行く手を阻んでいた不可視の障壁を打ち砕く。

 即座に間を詰め横薙ぎに振るわれた腕をスウェーし、続けて絶え間なく突き出される拳撃を最小限の動きで躱す。術で壁を作る暇を与えないつもりかと分析しながら、宿儺の剛腕をまともに受け合わず、中国拳法の八卦掌を思わせる円軌道主体の体捌きでひたすら打ち込まれる打撃の威力を流し、殺していく。

 

「面白い動きだ」

 

 宿儺の姿が掻き消え、少女の背後からつむじへ踵を落とす。

 リボンに足が触れる直前で霊夢は背中から宿儺に体当たり、同時に軸足を刈って腕を掴むと一本背負いをかます。自分より大柄な男子の身体がアスファルトに沈み、形成されたクレーターが威力のほどを思い知らせた。

 だが、戦ってる霊夢に油断はない。

 

(一発一発がクソ重いわね。並みの特級よりよっぽど厄介。これでまだ指二本ってんだから、元の化け物加減が知れるわね)

 

 バックステップで距離を取りつつ構えていると、様子をうかがっていた伏黒が声を上げた。

 

「気を付けてください! そいつは少年院の特級から奪った指を食っている!」

「情報ありがと。でもそれ以上近付かないでね。邪魔だから」

 

 辛辣な警告に二の句が継げなくなる伏黒を尻目に、埃を払った宿儺がゆったり立ち上がりながら口端の血を拭う。

 

「なかなかやるなお前。そういえば確か、あの男と同格だったか」

「あの男? ああ悟か。まぁハンデありだし。やる気出すなら、さっさと反転術式なりで心臓直したら? そのくらいは待ってあげる」

「その手は食わん。小僧の中の俺が消えても大本に問題はないからな。とはいえ、少々今の世に興味も出た。あとで手を打つとしよう」

「あっそう。ま、期待はしちゃいなかったけど。だからって、素手縛りでいつまで抗ってられるかしら」

 

 宿儺はこれまで術式を使っている様子はない。伏黒ならいざ知らず、五条と同格と認めている霊夢に対しても徒手空拳。単純に使えないのか、あるいは使えない理由があるのか。呪力を惜しんでいない気配からして、燃料不足という感はない。

 

(領域でも使って術式が焼き切れてるとか? クールタイム中なら叩くチャンスだけど。宿儺の術式自体知らないから、対処法もないけどね。まさに出たとこ勝負か)

 

 歌姫に色々聞いとくべきだった、とやや後悔していると、宿儺も何やら透徹した視線で霊夢を射抜く。

 

「縛っているのはそちらも同様だろう? 俺を結界補強の片手間に倒そうとは無礼な女だ」

「なんのこと?」

「とぼけるな。目の前のお前が本体でないのは分かっている。人形(ひとがた)の式神といったところだろう。上手く擬装を施しているが、俺の目は欺けん。大方本体は、空に展開している結界術の補強中といったところか。万が一、結界外に影響が出ないように。念入りなことだ」

「大した慧眼ね。ミレニアムものの腐敗具合だけど、腐っても元・呪術師か」

「ほざけ。人形で俺を足止めなど思い上がりもはなはだしい。その躯体(カラダ)で扱える術は限られているはずだ。早めに片を付けて本体を探さねばな」

 

 獣のような前傾をとった宿儺を牽制するように、袖から呪符を三つ取り出し投擲。

 難なく飛来したソレを鷲掴み、引き千切る。だが、呪符に触れた宿儺の手には火傷跡のような爛れが残っていた。

 

「受肉した呪霊に符など効かん。が、なかなか強い術だ。肉体にも影響が出るとはな。結界術にも長けているようだし、貴様は存外術師としては俺の生きた時代に近いらしい」

 

 呪霊の言に取り合わず、霊夢は再び両袖から呪符を紙吹雪のようにバラまいた。外見の収納性に反した異常な物量の符は独りでに宙を舞い、宿儺の周囲を取り囲む。螺旋を描いて呪力の火花を弾けさせる呪符群は、指揮官の号令を待つ銃口の群れと同じであった。

 これで仕留めきるのは不可能だろう。だが先の反応を見る限り、損傷を与え動きは止められる。

 

「中の男子には悪いけど、もろともあんたはここで祓う」

 

 両手のひらで印を組み、術を発動させる間際。

 

「言ったはずだ。思いあがるな、と」

 

 斬! ――見えない刃物に切り裂かれた霊夢と宿儺を隔てる呪符。

 自ら切り拓いた活路を突破し、颶風(ぐふう)と化して宿儺は少女へ踊りかかった。

 咄嗟に印を組み換え一重(ひとえ)結界を張る霊夢だったが、

 

「『(ハチ)』」

 

 先ほどの再現、不可視の斬撃が展開した障壁を寸断する。

 当然、無防備となった霊夢へ向け、宿儺は槍のような手掌を繰り出し、急所を貫いた。

 

「かふっ・・・・・・」

「ぬかったな。少し前から術式は使えたのだ。俺の斬撃は人形の壁ごときに防がれる代物ではない。これほど精巧に編まれた傀儡術式、本体の五感をいくつか縛った上で、感覚の共有があればこその操作性だろう? 痛みは連動しているはずだ」

 

 貫通した腕には、一滴の血のりも付着していない。だが、呪骸(じゅがい)操作を行う術師には、感覚のフィードバックが存在している。心臓を貫かれた霊夢には、正しくその痛みが共有されていた。

 

「もう少し痛めつけて遊びたいところだが、どうせなら本体でしたほうが楽しそうだ」

 

 邪悪な嗤いをこぼして、腕を引き抜こうとする宿儺を、霊夢が掴んで止める。

 そして。

 

 

「博麗呪法・『八方鬼縛陣(はっぽうきばくじん)』」

 

 

 いつの間に設置されていたのか、呪骸の霊夢、宿儺を八角形に囲った全長40センチほどある針――封魔針が互いを結ぶ楔となって、特級呪霊を捕縛する。

 空を奔る呪力のスパーク。その内側で感電したように藻掻く宿儺。抜け出そうにも、呪骸が全身を使って宿儺にまとわりつき容易にはいかない。

 さらに、彼の背後に現れた()()()()()が、その背中にそっと触れる。

 

「あんた、自由になったからってお喋りと油断が過ぎるわよ。お陰で仕込む時間はいくらでもあった。ちなみに、術式を使おうと呪力を練っても、余計に陣が抑え込もうと躍起になるから、苦痛が増すだけよ」

「キっ・・・・・・さま・・・・・・!」

「今のあんたじゃ、この陣を抜けるのは骨でしょう。その間に、決着は着く」

 

 触れた指先から、宿儺の内側に意識の糸を伸ばす。肉体の奥底で宿儺に押し込められ、足掻くもうひとつの存在を知覚し、呼びかけた。

 

「起きなさい寝坊助。待ってあげるのも限度があるから、迎えに来たわ。道筋を作るから、覚悟があるなら出てきなさい」

 

 応えるように、すぐさま浮上してくるもうひとつの魂。

 肉体の主導権が宿儺から元の持ち主である虎杖に置き換わり、半身に走っていた紋様が消えていく。

 

「・・・・・・あざっす。ご迷惑、おかけしました」

「本当にね」

 

 虎杖が復帰したのを確認し、溜息を吐きつつ鬼縛陣を解除。式鬼(シキ)も破れた紙に戻る。

 霊夢に向き直った虎杖の胸には、暗い孔が穿たれたままだった。

 

「反転術式は得意じゃないから、出血と痛みを一時的に封じるのが精一杯。あたしの術式なら肉体の損傷を少しの間無視してられるけど、高専に戻っても、さすがに無くした心臓を再生させるなんて真似、並みの術師には難しいと思う。悟でも、自分ならいざ知らず、他人に対して術かけるのは専門外らしいし」

「わかってる。それは、仕方のないことだと思う」

「そ。なら、行ってきなさい」

 

 虎杖は礼を言って、少女の横を通っていった。

 振り向いた先で、虎杖と伏黒が言葉を交わしている。

 ほどなく、二人は語り終え、術の手応えが消えたと同時に、虎杖は流血を落として、地面に倒れ伏した。

 天を仰ぐ伏黒と、学生たちを見送る霊夢。

 勢いを増す冷えた雨音だけが、葬送の場に響いていた。

 

 




読了感謝!

おおよその筋道は変わらず。

捕捉設定
・霊夢の傀儡操術:骨子になる式鬼そのものは博麗呪法に含まれていたが、身の回りの世話をさせるならいざ知らず、戦闘に活用できるほどのレベルではなかったのを、夜蛾学長に師事して囮戦術に昇華させた。
 囮用は霊夢に似せたヒトガタ。家事とかやってくれるのは某アクションホラゲーの三角様みたいな烏帽子で頭を覆った神主みたいな恰好のヤツ。

時おり、こうして本編で発揮できなかった設定を載せたりするかも。読んでも読まなくても自由です。

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