呪い満ちるこの空を -flying MIKO-   作:甲乙兵長

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連投の最終日。

評価を付けてくださった方々、大変ありがとうございます。バーに色がつきました。

話としてはそこまで進行ないかな?

サントラのREMEMBER、無限に聞いてられる。っていうかサントラほとんどカッコよすぎ。




【第肆話:紅白巫女は秘め抱える】

 

「おや」

「あ・・・・・・」

 

 ()くる日のこと。

 前日までの曇天は彼方へ消え目の冴える蒼が空を覆っている。

 夏に差し掛かった模様替えの季節、降り注ぐ熱波が順調に地上を焼いていた。

 自販機の前で炭酸を補給していた霊夢に、声を上げた白衣の女。

 

「やぁ。きみと会うのも結構久しぶりだよね」

硝子(しょうこ)も、変わりないみたいで。一応聞くけど、ソレ、濃いシャドーじゃないわよね?」

「ああ。これでも忙しい身でね。毎日ケガ人や死体と向き合ってばかりさ。きみたち前線で活躍する術師に比べれば、高専の中でぬくぬくとしているも同然だろうけど」

「なに、皮肉? 代わりがいないのも考え物よね。仕事人間なのも大概にしないと、カビかキノコが生えるわよ」

「確かにきみくらい適切適当な生き方をしていれば、ストレス抱えることもないかもしれないね。・・・・・・五条は?」

「補助監督の、意気地(いくじ)とかいうのと一緒に地下にいるわ。辛気臭い場所だから、あたしあんまいたくないんだけど」

伊地知(いじち)だね。あと、人の職場をこき下さないでくれよ。ならここで待ってるかい?」

「いえ、地下のほうが涼しいからついてくわ」

 

 少女と女は連れだって歩き、高専の地下に続く道のりを降りていく。

 私立の宗教校という擬装の寺社仏閣の下には、およそ普通の専門学校でもあり得ざる施設が目白押し。その中のひとつに、死体安置所、遺体の保管や検死目的のモルグが用意されている。

 並んでそこを目指す間、霊夢は女――家入硝子(いえいりしょうこ)に、ひとつ問いを投げかけた。

 

「硝子」

「なんだい?」

「仮に、虎杖に術式をかけて高専まで連れてきてれば、あんたは助けられた?」

「無理だろう。反転術式だって万能じゃないんだ。手足くらいなら、切断部位が綺麗に残ってればひっ付けて、リハビリ次第で機能を取り戻すかもしれない。でも、内臓、それも心臓くらい重要な器官を一から再生するなんていうのは、人間の所業じゃない。・・・・・・件の宿儺なら、可能だったのかもしれないけどね」

「・・・・・・そ」

「きみが責任を感じる必要はないと思うよ」

「感じてなんかないわ。どっちにしろ、どうしようもなかった。最初からあたしが被害度外視で本気で宿儺を徹底的に追い詰めて、無理矢理治癒させる手もあったのかもしれないけど、推し量った性格上、ああいうのは到底思惑に乗ってくるタイプじゃないわ。他人を虐げる行為に悦を感じる変態だもの。虎杖が復帰するまでに被害がでない保証もない以上、早急に倒してしまうしかなかった」

「きみは優しくて、どこか甘いからね」

「ちょっと、話が飛躍してない?」

「してないとも。きみはその気になれば虎杖くんごと宿儺を祓えた。そうせず、虎杖くん自身を呼び起こして選ばせたのは、きみなりの優しさで、甘さだろう?」

「・・・・・・そんなんじゃ」

 

 ない、とは断言できなかった。優しいかはともかく、甘いのは確かだろう。

 特級と呼ばれる規格外の位を持つ霊夢。けれど、彼女もまた他の学生と同じ未成熟な少女(こども)なのだ。達観したようでも、大人らしい振る舞いを要求されても、発展途上である限り、完成された型に(ハマ)らない。

 それが、霊夢の強みでもあり、弱み。ゆらゆらと揺れるヤジロベエのように、どっちつかず。(うつつ)(まぼろし)を行き来する、宙ぶらりんな存在なのだから。

 

「わたしは構わないと思うよ。一貫した強さは確かに頼もしい。けど、頑なさはときに悪癖に転じて、本人も、周囲も潰しにかかる場合もある。特に、この業界は恨みつらみ、嫉妬や欲望といった、人間の暗黒面と嫌でも向き合わされる。だからわたしは、きみくらい脱力して気楽なほうが、よっぽど長生きで、真っ当な道のりだと考える」

「フォローのつもり?」

「さてね。受け取り方は自由だ・・・・・・着いたよ」

 

 電灯すらほぼ皆無な、暗い廊下の続く区画に、安置所はあった。

 

「――いっそのこと上の連中・・・・・・全員殺してしまおうか」

 

 自動扉をくぐった先、壁面に遺体を収める引き出しがロッカーのように並ぶ白と銀色の殺風景な一室で、目隠しをした白髪長身男が、壁際に座りながら物騒な言を漏らした。

 

「珍しく感情的じゃないか。彼のこと、随分とお気に入りだったんだな」

「僕はいつだって生徒想いのナイスガイさ。あ、霊夢、ジュースは?」

「あ? ・・・・・・あぁ。忘れた」

「オイオイ、大切な生徒を失った傷心をわずかばかり癒すために糖分が要るって言ったじゃない。自販機行くっていうから小銭預けたのにさ」

「うっさい。大体、お金はそこの池寺(いけじ)とかいうのが出したんでしょうが」

「伊地知です」

「ほら、喧嘩しない。五条も、あまり伊地知をイジメてやるなよ。わたしたち現場組と上との間で苦労してるんだ」

(もっと言って!)

「男の苦労なんて知ったこっちゃないね」

「そうか」

 

 女医が発した慰めの言葉に恍惚とした(気持ち悪い)顔をしていた気弱そうなスーツの男は、続く硝子の台詞で突如梯子(ハシゴ)を外されたかのように呆然とする。

 そして、検察台に乗せられた虎杖の遺体からかぶさっていたシーツを外し、硝子は酷薄な医者の表情をのぞかせた。

 

「好きにバラしていいんだよね?」

「役立てろよ」

「誰にモノ言ってんの」

 

 二人の大人が繰り広げる何気ない会話を聞きながら、そういえばこの二人は同期だったと思い返す霊夢。

 美里からの話では、ここにもう一人、去年死んだ夏油(げとう)という特級の呪詛師が、かつての級友であったらしい。

 夏油は五条の学生時代の親友で、思想の違いから(たもと)を分かち、去年の呪術テロを起こした末、最後は五条によって(たお)されたとか。

 

(コイツがそんな重たい業背負ってるとはね。伊達に年食ってないわけか。普段の調子が明らかに見た目は大人、頭脳は子供なクズでしかないんだけど)

 

 霊夢が考えごとに耽っている横で、五条がイボ痔に対してどーでもいい教師理念を講釈している間に、硝子は器具を揃えて解剖に取り掛かろうとしていた。

 

「どうでもいいけど、きみたち、そこで見てる気?」

 

 硝子の暗に退出を促す台詞に、その場の人間は誰も答えず絶句する。

 なぜなら、彼女の後ろで死んでいたはずの虎杖が、今まさに上体を起こしていたからだ。

 

 

 

 死んでいたはずが、生き返った虎杖悠仁。

 間違いなく宿儺の仕業に他ならないが、目的は不明。虎杖も死んでいる間の出来事は覚えていないという。虎杖の内にある己が消えることに頓着していなかった呪霊の唐突な改心に、不気味な目論みを察せずにはいられないが、とにかく五条は好意的だった。

 諸々の報告と準備のため、五条と家入は安置所を退室。

 あとは、簡素な衣服を着込んだ虎杖、霊夢・・・・・・眼鏡が残される。

 

「ありがとな」

 

 少年は、なんとなく出どきを見失って壁際に背を預けていた紅白巫女にそう言った。

 

「何が?」

「ちゃんとお礼言えてなかったかなって。あんたが止めてくれなきゃ、俺は伏黒を殺してたかもしれないからさ」

「・・・・・・結局、あんたは切り捨てたでしょ」

「そっちは仕方ない。俺のせいだ。俺が弱かったばかりに、宿儺の好き勝手を許しちまった。アイツがどんだけヤバイもんか、俺は本当の意味で理解できてなかったんだ」

 

 慢心してた、と虎杖は省みる。

 千年に一人の逸材。宿儺の器という特異・・・・・・否、異常体質。それが呪術に一切関りを持たない家系から突発的に産まれたという未曽有の事態。

 よく知りもしないまま、免疫があったからと劇薬を摂取し続けた報いだと、霊夢も解釈し、虎杖自身も猛省している様子だった。自分が死ぬだけならまだしも、友達を殺しかけたことこそが、もっとも許せない悪であると、本心から考えているらしい。

 

「あんた・・・・・・イカれてるのね」

「え?」

「ほんの少し前まで呪いとも、ましてや本気の殺し合いなんかとも無縁だった高校生が、実際死ぬような目にあって、それでも他人を巻き込まなかったのが嬉しい? 誰も殺さなくてよかった? 馬鹿じゃないの」

「・・・・・・そりゃ、痛いのも、苦しいのも、死ぬのも怖くて、嫌で逃げ出したかったけど」

「・・・・・・・・・」

「逃げたせいで、後悔したくなかったから。・・・・・・学長に言われたみたいに、じいちゃんの遺言を、呪いにしたくなかったから」

「遺言?」

 

 人を助けろ。手の届く範囲でいい。迷っても、感謝されずとも気にするな。お前は大勢に囲まれて死ね。俺みたいになるな―――。

 亡き祖父の言葉を理由に高専の門を跨いだ虎杖に、夜蛾は『そのままでは祖父を呪うことになる』と評した。その末に、宿儺を食うという、誰にも代わりが務まらない役目をできるのは、自分だけ。そこから逃げれば、のちの生涯をずっと後悔すると。

 

「それに、寂しがりなのも本当だからさ。死ぬ間際に誰にも看取ってもらえなかったら、ちょっとへこむなって」

「・・・・・・・・・」

「だからさ、最期に伏黒と話させてくれたのもさ、結構嬉しかったんだ」

「・・・・・・はぁ~」

 

 肺の空気をカラにするかのごとく、深ぁ~い溜息を落として。

 霊夢は壁から背を離し、出入口に向かう。

 

「えっ、あ、あのっ」

「帰る。虎杖のことは、誰にも漏らさなきゃいいんでしょ。また狙われたら面倒だものね」

 

 眼鏡が狼狽えて引き留めようとするので、端的に言い捨てた。

 押し黙った男を尻目に、霊夢は再度虎杖に首を向ける。

 睨みつけるの表現が正しい視線の鋭さに、虎杖はわずか息を呑んだ。

 

「あんたは馬鹿。そんで、悟とは別路線であたしの嫌いなタイプだわ」

「えぇ・・・・・・」

「これからも呪術師やってく気なら肝に銘じなさい。その善人的な皮を被った自己犠牲道、さっさと見直さないと、あんた将来、絶対どっかで致命的なやらかしをするわよ」

「・・・・・・・・・」

「じゃ。もう会わないことを祈るわ」

 

 一方的に不平を突き付けて、霊夢は部屋をあとにする。

 廊下を進み、地上へ戻る最中も、少女は不明瞭な苛立ちに支配されていた。

 自分でも分からない。なぜ、こうも虎杖の善性が神経を逆なでするのか。

 彼が何を動機にどのような道を歩もうと、霊夢にはてんで無関係だというのに。

 

(ああ、良くない。良くない兆候だわコレ。あたしのほうこそ、こんなコンディションじゃやらかしそう。・・・・・・今日は寝るか)

 

 こうして誰にも言えぬ秘密を抱えたまま、京都に帰る道すがらを寝て過ごした霊夢は、わだかまった感情を胸の奥底に残留させたことを忘れ、日々を過ごしていくこととなる。

 その正体を明確化するのは、まだ未来のことだ。

 

 

 




読了感謝!

次回から少し京都組との交流やろうかな。そこまで深く掘り下げれないかもですが、交流会までの箸休めとして。

日常回って修羅場みたく分かりやすい山作れなくて結構しんどいんですけど。

また書きあがるまでお待ちください。


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