呪い満ちるこの空を -flying MIKO-   作:甲乙兵長

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お待たせ。

日常回その1。

京都校の連中に女子女子した会話をさせたかった。




【第伍話:紅白巫女は語り合う】

 

 

 カーンカーン―――。

 

 

 年季を感じさせるチョコレート色。古びた鳩時計が定刻の鐘を鳴らす。

 日差しの入らない照明のしぼられた薄闇の室内。縦長に伸びる広めの廊下じみた空間には紙の匂いが満ちていた。

 圧迫感すら催す大きな書棚。それが両側壁面を横に縦に占領し、スペースが足りずあふれ出た分厚い古書がそこかしこで積み重なって無数のタワーを形成している。一歩間違えば圧死する物量と混沌ぶり。けれど、雑然とした光景に比して埃っぽさはなく、カビ臭さもない。

 重厚な本の山岳を避けて通り、床板を軋ませ奥へ進む。

 一室の最奥に、図書館のカウンターのような机が据えられ、人がひとり、座って本に目を通している。ページをめくる音と、卓上に置かれた蓄音機から発せられるノスタルジックな環境音が、部屋の雰囲気と合致していた。

 読書に耽る人物を見ようとするも、顔をうまく認識できない。

 眼鏡をかけた金髪の女。

 それ以上の要素が、まるで検閲をかけられているかのように読み取ることができなかった。

 知らず、前のめりなった際、ギシ・・・・・・自らが踏みしめた床の軋みが、どこか寂しげに完結していた部屋の調和を乱し、本を読んでいた人物の指を止める。

 つい、と視線を向けられたのは分かるのに、目鼻立ちは変わらず靄がかっている。

 

「あら。迷い込んでしまったの? 仕方のない子ね」

 

 書を閉じ、卓上に置くと、女の膝から一匹の猫が飛び上がる。

 茶色の体毛。尻尾は二又に分かれ、先端は粉雪を散らしたように白い。

 

「まだ、貴方は此処に来るには早いわ。もう少し、試練が必要」

 

 女の優しげな声音が、浸透するように脳に響く。

 

「そうね。どうやら『器』と接触したようだし、『あの男』が本格的に動くのも時間の問題。いい小手調べになるでしょう。とはいっても、貴方は直接彼をどうこうできはしないでしょうけど」

 

 世界が揺れる。景色がひずむ。

 書棚が、本の山が、カウンターが、猫が・・・・・・目に映る全てが、水面に反射した風景のごとく、揺らめきひずみ、形を崩れさせていく。

 ほろほろと原形を失って、色が白く褪せていく中、女は歪んだ口を一層歪め、微笑んだ。

 

「思うままに進んでみなさい、()()。その先で、いずれまた逢えるわ」

 

 その名を耳にしたとき、ようやく女が誰だったのかを思い出して。

 しかし言葉はこぼれないまま、博麗霊夢の『夢』は終わりを迎える。

 

 

 

 

 寝覚めはよろしくなかった。

 記憶にないが、何か夢を見ていた気はする。眠りが浅い証だった。

 

「ふぁ~あ・・・・・・」

 

 はしたなく、欠伸を漏らして寮の廊下を歩く。

 学生ながら特級という格に割り振られた霊夢。その多忙さは他の学生と比べるべくもないほどであり、高専にいるときのほうが珍しいと言えてしまうレベル。寮の自室で眠るのも、もはやいつぶりになるだろうかと顧みる必要があった。

 出張も悪いばかりではない。海外に出張る機会の多い五条や東京校の乙骨(おっこつ)なんかとは違い、活動範囲は日本に限定されている霊夢。代わりとばかりに津々浦々巡らされるものの、ご当地産の食や文化をこっそり堪能する特権は、存外気に入っている点でもあった。

 かといって、高専の自室を懐かしく感じてしまう感覚はややショックでもある。なんというか、単身赴任などで家を空け気味なサラリーマン気分というか、知らぬうちに近所の小学生が中学に上がっていたときのような気分というか。年月の儚さに虚しくなる。

 

(あたし、働き過ぎじゃね?)

 

 将来は旦那に養われて云々かんぬん。いつぞやか歌姫に吐露した未来像だが、どっちかといえば、今の自分は日夜忙殺される仕事一筋の寂しい独身女そのものではなかろうか。

 まだ若い、と楽観視できるほど能天気ではない。

 なにせ呪術界に女の絶対数は少なく、霊夢の認知する限り独り身ばかり。

 そも、呪いという根絶されないマラソンゲームに日々追われる中で、真っ当な良い出逢いなどそうそうあるはずもなく、まして呪術師として生き残っている男どもは、頭のネジが何本かはじけ飛んでいるかのようなイカレ具合。補助監督も大体が一回り上の年代だ。これでは、運命の相手探しより、まだツチノコ探しのほうが現実味がある。

 霊夢は辿りついた先、高専女子寮の食堂で、各々朝餉(あさげ)を口に運ぶ女子一同に興味本位で理想のタイプなどを訊ねてみた。

 

 

 

 禪院真依の場合。

 

「別にどうでもいいわよ。元々、家系的に私は恋愛の自由なんてあってないようなものだし」

「でも伏黒のこと気にしてたんじゃなかった?」

「そりゃ、他の男どもと比べれば・・・・・・ねぇ、なんで伏黒くんのこと知ってるの?」

 かいつまんで事情を説明。だが、妙に視線が刺々しい。なんでもない風を装っているが、意外とマジな感じなのか。

 

 

 

 西宮桃の場合。

 

「わたしはタイプで言えば頼り甲斐のある人がいいかな~。精神的にも肉体的にも」

「意外でもないけど高望みね。っていうか、セバスチャン・スタンが好みって言ってなかった?」

「まぁねー。やっぱガタイ良くて適度に筋肉なのは憧れでしょ。モヤシっ子よりは」

「じゃあ東堂―――」

「あれはない。絶対」

 目が死んでいた。だろうな、とは分かっていたけども。

 

 

 

 三輪霞の場合。

 

「えー。わたしはそのぉ~・・・・・・やっぱり人並みにカッコいいっていうか~。別に顔立ちが全てとかの話じゃなくて、一緒にいて楽しいなぁ~って思う人というか~。ドキドキしつつも安心する気の知れた人というか~・・・・・・」

「いっちばんフワフワでいっちばん乙女な抽象的解答ありがとう。ぜんっぜん参考になんないけど」

 三輪はやはり三輪だった。もっとも普通。そこらの女子高生とたぶん相違ない。なんで呪術師やってんだろコイツ。

 

 

 

 結論、身近な男の好みは案外普通。ゆえに、難易度はルナティック。

 

「そういうアナタはどうなのよ?」

「養ってくれる男」

「霊ちゃんらしいと言えばらしいけど・・・・・・」

「それで抽象的って言われたくありませんっ」

「んー。最悪、女でもありっちゃあり」

「えっ」

「ちょっと、ここにきておかしなカミングアウトしないでくれる?」

「なんというか、節操なさすぎて普通に引く・・・・・・」

 

 八割冗談だったのだが、さりげなく距離を取られる霊夢。進んで百合に走りたいわけじゃないのだけど。

 

「なんだか盛り上がってるわね。一体なんの騒ぎ?」

「婚期の話」

「ぐふッ」

 

 入室と同時に言葉の刃が歌姫を襲う。

 庵歌姫。すでに三十路。婚期という台詞が凶器になり得る残酷な年齢。本人が気にしないタイプだったらどうということはないんだろうけど、反応からして違うっぽい。

 

「いやでも、歌姫先生は結構いい物件に思うんですけどね」

「ま、ちょっと趣味がオヤジ臭いのがキズだけど」

「いかにもできる女な雰囲気なんだけど、いじるとなかなかカワイイし。ツンデレってやつ?」

「あんたら好き勝手言ってんじゃないわよ・・・・・・あと真依、スポーツ好きをオヤジ趣味とかいうのは偏見もいいとこだから。女ならヨガとかインスタとか好きでしょぐらいの間違った認識だからね」

 

 ふら付きながら立ち上がり、ウォーターサーバーから水を汲む。

 実際、客観視しても歌姫は美人の部類だ。顔の傷跡は仕方ないにしても、世話焼きだし気が利くしスポーツ趣味も人によっては共通の趣味を元に気が合うメリットになり得る(なお推しチームなどが相反していた場合は除く)。

 ただ、腰に手を当ててビールか風呂上りの牛乳みたいな飲み方を水で実践するのはちょっと不安。女だらけの場で細かなところに意識を配ってなんかいられないかもしれないが。

 

「っていうか、本当になんの話だったの?」

「まぁ結婚願望の有無とか、男のタイプとか。女子女子した話題をたまにはするべきかと」

「・・・・・・霊夢は高専にいないときのほうが多いものね。いいんじゃない? 年頃の女の子っぽくて・・・・・・あ」

 

 声を上げた歌姫。そういえばと思い出したように向きなおる。

 

「結婚といえば霊夢、アナタ宛てに見合い写真が届いてたわね」

『・・・・・・・・・・・・・・・』

「ああ、アレか」

 

 絶句した様子の級友たちと裏腹に、霊夢は冷めた調子で湯呑をあおる。

 

「どっどどどっ、どういうこと? 霊ちゃん?」

「霊夢さん、お見合いするんですか!」

「んなわけないでしょ。上のジジイどもが勝手に自分とこの息子とか孫の写真送りつけてくんのよ。年齢の遠い近い関係なくね。あたしって、由緒正しい呪術家系でもないのに、突発的に特級にまで上り詰めた稀有な例だから、血筋を残そうと・・・・・・あるいは、家に取り込んで発言力の足しにしようとする連中がわんさかいるのよ。真依なら、分かるんじゃない? そういう思考回路」

「まぁ・・・・・・よくあることよね」

 

 御三家の一角、禪院という歴史ある家系の嫡子からすれば、政略婚くらい狼狽えるに値しない些事である。ただでさえ呪術、術式という異能は生まれ持った才能が評価の八割に直結する。ならばこそ、優秀な遺伝子は後世に継がせて当たり前というのが、呪術界上層部の共通認識だ。そうでなくとも、古式ゆかしい家柄なんて大概そんなものだろう。

 

「縁談なんて体裁を取ってるけど、ようはさっさと種馬を見繕えって言ってんのと同じよ。あたしを優秀な赤子を作る揺りかご扱いしてんのが見え見え。そんなのに、いちいち構ってんのも馬鹿らしい。いつも通り捨てといて」

「はいはい。ちなみになんだけど、今回の中には御三家の子息も含まれてたみたいよ」

「は? 誰?」

禪院直哉(ぜんいんなおや)。それから・・・・・・加茂憲紀(かものりとし)くん」

「ブッフォ!」

 

 思わぬビッグネームに真依が吹き出す。

 禪院直哉は真依の親戚筋にあたる男。性格は禪院という家柄を煮詰めた男尊女卑主義にして自己中心主義。端的に評せばクズ。誰もを見下しみなに嫌われる最低な輩だが、実力だけはほどほど高いゆえに表立って逆らえる者は少ない。

 そして加茂憲紀。言わずもがな、現在高専に所属する三年。御三家・加茂家の嫡男でもある。ただ、どうにもお堅く融通が利かない。また、細かい事柄をちくちく訂正したりするナチュラル煽りスト。よって型破りで身勝手なタイプ、東堂や霊夢なんかとは根本的に反りが合わない。

 断言できる。絶対に霊夢も加茂もお互いゴメンだろうと。

 

「うわぁ・・・・・・ラインナップ最悪じゃん」

「ええと、まぁ、その、直哉ってひとはよく知りませんけど、加茂さんはほら、付き合ってから見えてくる意外な側面とか、なきにしも・・・・・・うん」

 

 どちらも知っているからこそ西宮は絶望を漏らし、仮にも仲間であるからフォローを入れようと頑張ったイイ子の三輪は、尻すぼみ。

 まぁ、つまりはそういう面倒な連中の見本市なわけである。

 

「・・・・・・本当に身近な男連中はまともなのがいないわね」

 

 なんというか、ただただ暗澹たる気持ちばかりが湧きおこる朝であった。

 ちなみに、二年のメカ丸。一年の後輩は素で忘れられているため、お察しである。

 

 





読了感謝!

日常回じゃねえのって? 冒頭? 気にするな。

思わせぶりなシーンを日常に混ぜたくなっただけだ。

男のタイプは「じゅじゅさんぽ」と設定資料を参考に。

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