スキマにこき使われ、九尾に教えを乞い、化け猫に笑われながら、幻想郷を駆け巡る 作:エアロスミス
さて第十話をお楽しみください。
海堂と藍は襖を開けて居間に入る。そこには座布団を敷いて茶を飲んでいる紫の姿があった。紫は海堂に気づいて、飲んでいたお茶を置いて彼に話しかける。
「起きたようね。待っていたわよ」
「すいません…取り乱してしまって」
「構わないわ。藍、彼にお茶を」
「分かりました」
藍は部屋から出る。海堂は敷かれた座布団に座り、机越しに紫と対面する。
「では、改めて自己紹介しましょう。私の名前は八雲紫。この幻想郷を作り、管理している賢者の一人です。妖怪でもあるけどね」
「じゃあ…海堂です。海堂直也。人間…です」
シン…とした静かな状況に海堂は重圧感を感じる。紫は気にせず話を続ける。
「さて、私から話すことは二つ。一つ目は今の貴方について、二つ目は
「ッ!…はい」
海堂はふと湧き出た衝動を何とか封じ込める。今ここで問いただしても意味がないと考え、話を聞くことにする。
「まず、貴方の体についてだけど、貴方がここに運ばれたときすでに肉体は死んでいた」
「でも、入れ替えたから自分は生きている。そうですよね」
藍は神妙な顔で海堂と向き合い話す。
「そうよ。貴方は生きている。
ホムンクルス。それは魔術の叡智の結晶とも言える技術の一つである。難しいことは省くが、確実に言える事はそれは限りなく人間に近い人形であるということだ。もちろん海堂はその単語で紫のいうことがわかる。
「俺は人間じゃないということですか」
紫は顔に一切の変化を見せない。しかしその顔には同情、憐れみという感情が浮かんでくる。短い時が過ぎ去り、紫が口を開く。
「…そうよ。でも重要なのはここからなの」
「長く生きられないんですか?」
「それに関しては心配はいらないわ。むしろ人間より長く生きられるし、身体能力にも影響はないわ」
「え?じゃあ…あ」
海堂は思い出した。幻想郷に来る前に誰かに何かされた。その誰かは自分を殺そうとしていたのではないかという仮説が思い浮かんだ。そして、海堂がそれに気づくのを確認すると、紫は口を開き話を続ける。
「気づいたみたいね。貴方は何者に命を狙われている。そいつが貴方が生きていると知れば、外に出ても、ここにいても遅かれ早かれ貴方は殺されてしまう」
「つまり、いずれ殺されるということだ。ほらお茶だ」
藍がお茶汲みから戻ってきて海堂の前に湯呑みを置く。湯呑みからは温かな湯気がのぼっている。
「あ、ありがとうございます」
「礼なら紫様に言っておくといい」
そう言って藍は紫の隣に座る。式神の彼女は優しいんだか、厳しいだか、分からない。
「他にもあるけど、とりあえずこの辺ね。何か聞きたいことはあるかしら?」
「どうすれば殺されなくて済むのですか?」
「まぁ、落ち着け。そこは後で言う。他はあるか?」
「特には」
海堂は聞きたいこともなかったので、さっさと次の話をしてもらうことにした。
「では、二つ目の両親についてなのだけど…」
紫曰くまだ、確定ではなく、考察の域を出ていないということらしい。海堂は別に構わないからさっさと言ってくれと、何か棘のある言い方で紫を急かした。
「貴方のことを調べた時にあることがわかったのよ」
「あることとは?」
「貴方の家系はどうやら昔から代々伝わっている魔法使いの家系であることがわかった」
海堂は驚いた。自分が魔法使いの一族?まるでフィクションのような真実が明らかになって海堂は動揺もした。
「しかもタダの魔法使いの一族ではない。お前の先祖はかつて悪魔を討ち滅ぼした魔法使いだったのだ」
「え?…それとこれと何が関係している?」
「つまり、貴方の両親を攫った犯人は貴方を殺した奴と同一人物の可能性がある。家族全員に干渉するほどの動機がそいつにはあるはずなのよ」
さて、今までの話をまとめるとこうなる。
このままではいずれ殺されるということ
海堂の家系は先祖代々伝わる魔法使いの一族ということ
海堂の両親を攫った人物は海堂を殺そうとした人物と同一の可能性があるということ
この4つだろう。海堂は湧き出る何かを押さえつつ質問をする。
「ソイツは今どコにいるノォ?」
「分からない。わかっても今の貴方では同じてつを踏むことになるわ」
「見過ごせっていうんですか!!」
海堂は机を叩き叫ぶ。藍は海堂の異変に気づく。さっきから海堂は両親の話になると、感情が昂る傾向がある。海堂の火を消すために藍は言い宥める。
「待て、そうは言ってないだろう。考えてみろ。なぜお前の家を火事にして両親を攫ったのか」
「俺を狙った理由?…俺が邪魔だったから?」
「そうよ。だけど、奴の情報は少ない。そして幻想郷が抱えている問題も多い。だから…
「…え?」
突然の提案に海堂は困惑する。しかし自分の状況を知っているのはここにいる紫と藍だけだ。この提案を断ってもいいみたいだが、海堂にとってこの提案は今の所最善とも言えなくもない。また、提案を断っても生きることはできるが、その場合いずれ殺しに来る存在から身を守れなくなる。そもそも自分の両親を攫った犯人から逃げるということを海堂が考えるとは思えない。つまり、このことから海堂の次の返事は容易に予想できる。
「いいんですか?いや、俺は別に構いませんが、体は変わっても一応人間ですよ。役に立てるかどうか」
「そこは大丈夫だ。むしろ素質はあるから、安心して紫様の役には立てる」
「じゃあ提案を受けるということね?」
不自然なほど話が早い。海堂は思わず異議を唱える。
「待って、待って、本当にいいの?価値観は変えられないから、人は殺せないよ?」
「そんな甘ったれた考えで、お前の両親の仇は打ちたくないか?」
「そ、それは…だが、そのために不必要な命を奪う必要はない。アイツさえ殺せばいいから」
「む…だがな」
「話し合いはいいけど、それは後でも良いわ」
海堂と藍の話し合いが熱を帯びてきたところだが、紫がストップをかけて話を戻す。藍は少し不服そうだが、海堂はホッとしている。
「では、改めて聞きます。海堂直也、私の従者になりませんか?」
「はい。喜んで」
返事は即答だった。もはや、海堂に迷いはない。
「分かりました。貴方を私の従者として幻想郷に受け入れることを許可します。では最後にこちらを」
「あ、はい」
海堂の前にペンと一枚の契約書が差し出される。ここまで来てハメられることはないと思うが、一応全て目を通すことにする。
①この契約によって結ばれた主従関係は主人と従者の同意のみ取り消せる
②従者は主人に忠誠を尽くす。また主人は従者を思いやること
③従者は主人の命に原則従うこと
④この契約書は両者の総意で書き換えることができる。
八雲紫
④が少し気になるが、とりあえず大丈夫みたいだろう。契約書を入念に読んでいる海堂の姿を見て、紫は自分が胡散臭いということ改めて認識した。海堂は契約書に署名して紫に渡す。
「これで私たちと貴方は縁が結ばれました。頼りにさせてもらうわよ。海堂」
「精一杯やらせてもらいます」
「紫様の期待に応えれるように頑張ってもらいたい」
今日この日、ここに主従が結ばれた。
八雲紫は幻想郷を守るために
海堂直也は両親の仇を打つために
「それでは、私は巫女の元に戻ります。海堂、これから頼むぞ」
「さて、とりあえず雑務を任せるわね♪修練はそれからよ」
「あ、はい…」
さて、物語は一旦区切りがつく。だけど、海堂の旅路はまだ始まったばかり、しかし運命の歯車は回り出している。先は長くなりそうだ。まぁ、どうせならゆっくりと行こう。物語は逃げやしないのだから。
第一章 崩壊する日常と台本なき物語 終幕 To Be Contended ……
さて第一章が終わりました。キャラ紹介を近いうちに投稿します。さて次は第二章です。本格的に物語が動き出します。大丈夫です。今度こそ動きますので、ご安心ください。では、次の話でお会いしましょう。