スキマにこき使われ、九尾に教えを乞い、化け猫に笑われながら、幻想郷を駆け巡る 作:エアロスミス
第零話 森の取引
これは海堂が幻想郷に来る少し前のお話。
空が闇に包まれ、雨がザーという音を立てながら幻想郷を濡らす。さて、魔法の森という場所が幻想郷にはある。木々がうっそうとしており、人間に害のある胞子が蔓延している地だ。
そんな森で紫の式神である藍が何かを監視していた。彼女の視線を追うとそこにはボロボロの家があり、人が住むには風通しが良すぎる小屋がある。
普通ならこんなところに住んでいる者はいない。しかし、実際にはいるのだ。
しばらくすると、竹の傘で雨を凌ぎながら家に帰ってくる者が現れた。背丈は低く髪色は白い。その人物は少年であった。
いたいけな子供がなぜこのような場所にいるのかというと、その少年はかつて博麗の巫女がいなかった時期に、勝手に人里の住民がただ強いからという理由で巫女に祭り上げられたからだ。それだけならまだしも少年は目立ちすぎてしまった。
当時、幻想郷を蝕んでいた悪霊がおり、それは散り散りとなって分散し、なおかつ取り憑かれると、どんな生物でも凶暴化して人を襲う化け物になる。だが、少年はソレに取り憑かれても特に影響はなかった。その結果を聞いた主人はその少年を依代にして、少年ごと悪霊を祓うという計画を立てた。
それからというもの、計画は滞りなく進んだ。その少年を臨時の博麗の巫女として働かせ、次の巫女に交代できる頃に、紫はバレないように、人里を妖怪に襲わせ甚大な被害を出し、その責任を少年に擦りつけるように行動をして、里の民に憎悪の対象として見なされるようにした。そして、臨時とはいえ仮にも博麗の巫女だったので、妖怪にも恨みを持つ者を多かった。そして極め付けは生き残った少年の家族に、その少年が自分たちの家族だったという記憶を忘れさせ、退治屋だった少年の妹からは復讐の対象として剣を向けられた。彼に居場所はなくその頃から目に光は消えてなくなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんな経歴のある少年だが、近頃は様子がおかしくなった。
いや、様子だけではない。行動も戦い方も変わった。
最初に気づいたのは二週間前の出来事、徒党を組んで少年を襲ってきた妖怪を相手に汗一つかかず、一息に瞬殺してみせたのだ。
その際、少年の右目は赤く輝き、獲物を槍ではなく、白い光の刃が印象的な剣を使っていた。
藍は少年に博麗としての技術と教授したが、あのような剣術は教えていない。しかし、その腕は並大抵のものではなく、いわゆる極限の領域までに熟練されていた。
それからというもの、少年は独り言が多くなった。最初は精神的な症状だと考えていたが、赤い眼、謎の剣術、独り言といった要素が絡まり、少年に別の何かが取り憑いているという仮説が生まれた。もしくは二重人格かのどちらかだと。
そして現在に至る。藍は主人からの命に従い、定期的に彼を監視する事になった。今日も手帳に日誌を書いていく。雑草を当然のように食べ、殺しにきた人間をぶちのめした。そのままほっといて倒した人間が妖怪に食われるというパターンが生まれている。いつものように書き終えた藍はさっさと帰ろうと手帳を懐にしまう。
「な!?」
殺気を感じ取った藍はすぐさま木の上から降りて地面に着地する。それと同時に元いた場所に剣が飛んできて通過して行った。そして、ブーメランの要領でこちらに戻ってくる剣を藍は最低限の動きでひらりと避ける。剣は家の方へ飛んでいき、少年の手元に収まった。
「オレを殺しにきたわけじゃあなさそうが…何しにきた?」
「答えるつもりはない」
「なるほど。じゃ、直接聞かせてもらうか」
少年は剣を左手に移したと思えば、右手に真っ赤ナイフを握りしめていた。そのナイフを自身の眼に近づけていき…
「
少年は右目を切りつけた。藍はその行動に身構える。少年の眼はハイライトがない黒い眼であったと記憶していた。切り裂かれた眼は失明しておらず、藍は監視を始めてから何度も見てきた目の色に変わった。それと同時に雰囲気も変わり、本当にあの少年なのか疑うほど変貌していた。ただ、
「さ、どうする。やるか?」
「…戦う気はない。少しお前に聞きたいことがあるだけだ」
「えぇ…先に言えよ…」
少年は呆れたように剣を消す。藍はここで戦うことはできたが、メリットがなさすぎると判断した。少年は傘を拾い、雨雲を見て言う。
「こんな天気だ。オレの家で聞いてやる」
そうして藍は少年のナニカに家に招待された。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これは…」
「どうだ。結構すごね?」
廃墟同然の家の中は外見と大きく異なり、西洋のゆとりのある空間が広がっていた。
「生前、ロンドンに住んでた頃を思い出して作ったんだ。いやー空間拡張とか物質生成とか上手くいくもんだな。魔術嫌いだけどよ」
「そうか…ん?生前ということはお前は…」
「幽霊とかじゃないぜ?もっと別の存在だが、今は関係ない…だろ?」
この数行の会話で分かったことは二つ。一つはコレはこの少年に取り憑いているということ。二つめは魔術などの神秘に熟知しているということだ。そもそも空間拡張とかは結界関連の力だ。もちろん藍にもできるが、外見は変わってしまうだろう。少年はソファに座り、タバコに火をつける。
「んで。聞きたいことって?なんでもは無理だが、大抵のことは話すぜ」
「そうか、ありがたい…では、お前は何者だ?」
「何者?んー…地上に遊びにきた観光客?」
「とぼけるな!お前は高橋優希ではない。お前のことを聞いているのだ!」
「んな怒んなって。でも実際そんな感じだ。18ぐらいの人体使って人間として日本のノガミあたりをうろうろしようとしたら、バグって魂だけの状態でここに来ちゃったの。それでコイツの体に居候してるわけ!これでいいか?」
少し叱責したらかなりの情報が手には入ってしまった。やはりコイツ只者ではない。こんな時主人がいればと藍は唇を噛む。
「そうだ。コイツの体にとんでもないモノ憑いてるけど何?」
取り憑いているからかやはり、悪霊の存在にも気づいているようだ。隠しても仕方ないと思い少しだけ説明した。一部嘘を混ぜたが趣旨は伝わったようだ。
「なるほど。ソレを祓うためにユウキごとまとめてか…」
「他に方法はない。一つずつ潰す労力も無いからな」
ソイツはうーんとうめき、少し間があいて口を開く。
「普通の霊ならいいが、
「どういうことだ!」
「まった。喉渇いたからお茶持ってくる。紅茶でいい?」
「ムッ…緑茶は?」
「ある。待っとけ」
そういって強引に話を打ち切り、キッチンに向かった。なぜアイツは今の方法を悪手と言ったのか?他に方法があるとでもいうのか。しばらくすると湯呑みとティーカップを持って帰ってきた。
「さて、話の続きだがちょっと取引をしたい」
「断る」
「事務的すぎる!!あんたらがユウキを殺しにくるのはやめてほしいだけだ」
「ユウキごと祓う計画なのだ。どのみち飲めん」
ソイツはため息を吐き紅茶を口に含む。
「それは悪手だっての!」
「なぜ?感情論は聞かんぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すっかり日が上り、目にはクマができた。藍は自身の主人である紫に今日の事を報告した。少年に取り憑いたアイツを除いて。自分はどうすればわからない。もしかすると、これは我々が想定している規模よりはるかに大きいのでは無いのかと考えてしまう。しかし、式神としてクヨクヨはしていられない。だが、珍しく藍に睡魔が襲ってきた。とりあえず、少し寝よう。今日ばかりは許されるはずだ。
さていかがでしょうか。なかなか長いですな。さて次は第一話です。海堂は何をしているのか?次の話で会いましょう。
「能力なんぞ、目覚めない方がいい。目覚めた時には必ず何かを失っている」