スキマにこき使われ、九尾に教えを乞い、化け猫に笑われながら、幻想郷を駆け巡る 作:エアロスミス
「アハハハハハwwww!!」
海堂を指差しながら、橙は笑い転げる。褐色の肌は白い包帯で覆われており、目、口、鼻、耳以外の全ての部分に包帯が巻かれているため、海堂の姿はさながらミイラのようだった。
あぐらをかいている海堂は目を細めてため息を吐く。
「笑わないでくれよぉ」
「というか、よく生きてたよね。あそこなんて言われてると思う?」
魔法の森の奥地。そこには怪物がおり、今まであの地に向かって帰ってきた人間はいない。万屋の仕事の時に蕎麦屋の店長に聞いた話だ。
「さぁ?奥地じゃないの?」
「食糧庫だよ。あそこに行けば、瀕死の人間がごろごろ転がっているの♪」
「…」
もしかしたら自分も食われていたのではないのか?そう考えると身震いが止まらなかった。橙は俯いている彼を見て後ろから抱きつく。
「うわぁ!?や、やめろ!藍さんにまた誤解される!」
突然の橙の行動に驚く海堂。橙は海堂の首筋に顔を近づけたと思えば、強く歯を立てた。巻かれている包帯の隙間を縫って歯を立てられた柔肌には傷が付いて、赤い血が流れる。橙は海堂の血液を少し吸って、味を確かめるように口内で舌を転がす。
「うーん?」
「急に本性出すのやめてくれ!怖い!」
急に噛みつかれて、海堂は顔を青ざめる。しばらくすると、橙は噛み付くのをやめると話を始めた。
「うん。不味くはないけど…妖怪はこの味嫌うから食われることはないよ」
「え?そうなの?てか、さっきのアレってそういうことかよ」
「それでね〜」
その後も橙による食レポが続いた。普通の人間と違って海堂の血液には常に魔力が流れ込んでいるので、かなり癖が強いらしい。しかし、このクセがある味が八雲紫のような大妖怪には好まれる味らしい。
「そもそも、カイドーは人間じゃないからね。何か理由がない限り、妖怪には襲われないよ」
「こんなんでも一応人間だ。断言しないでくれ」
「…言わせてもらうけど、
橙の言っていることは正しい。海堂は元は人間だ。
しかし、元が人間であるだけであり、今はホムンクルスなのだから、人間ではないと言い切れてしまう。
その言葉を受けて海堂は黙り込んでしまう。
「そういえばルーミアの事。そろそろ答えを聞きたいな」
そして結論を後回しにしていた話を今ここで掘り返される。海堂には見えていないが、橙の今の顔は人間を誘惑できるような妖美な笑顔を浮かべていた。そして、その言葉には確かな重みがあった。
「なんで連れて帰ったの?そろそろ話してくれないと…」
そう言って橙は再び海堂の首に噛み付いた。先ほどは甘噛みぐらいだったが、今は肌にしっかりと跡が付く力で噛み付いている。
どうやら、誤魔化せば殺すという警告をしているだった。
橙は別に海堂を好きではないが、嫌っているわけではない。しかし、八雲の従者として、人間でも妖怪でもないどっちつかずな存在が気に食わないだけであった。
「お、俺は…」
今まで気づかなかった。いや違う、気づかないふり、見てみぬふりをしていただけだ。自身を人間と思っている自分。自身を妖怪と思っている自分。
今回は前においておいた話の掘り下げです。何気にこの作品の根幹でもあります。今回も例によって前後半に分けます。
では、後編でお会いしましょう