スキマにこき使われ、九尾に教えを乞い、化け猫に笑われながら、幻想郷を駆け巡る 作:エアロスミス
「…わからない」
「…本当に?」
海堂が紡いだ言葉はたったそれだけだった。橙はその言葉に不快感を覚えながらも、海堂に問いかける。
「キミは自分のことを人間だと信じてるんでしょ?ルーミアは妖怪。海堂が人間なら、やみくもに人間を襲う野良妖怪なんて見過ごさず、退治するでしょ?」
海堂が本当に人間なら、人を害する妖怪を人里に連れてくるマネなんてしない。人間なら妖怪を退治する。この時点で海堂は人間とは考え方が違うのだ。
「……」
海堂は口を閉ざしたまま、喋ろうとしない。それに嫌気が差した橙は再び首筋に噛みつき、そのまま肉を噛みちぎった。
「アッッ…ッ!ッ…ッ」
激痛が走り、海堂の首筋からは血が絶え間なく溢れ出す。しかし、出血はやがて止まり、傷が塞がっていく。
「…ねぇ、わかったでしょ?もうこっち側なの。私としてはその方がいいな」
橙は海堂に噛み付くことで、彼の体が人間の体ではないことを改めて確認させたのだ。ホムンクルスの体は人間よりも頑丈で、治りも早い。事実、イオとの戦いでボコボコにされても、包帯ぐるぐる巻きだけで済んでいるのだ。
「自分の体が人間じゃないのはわかってますよ…」
「なんだ。だったらすぐに言ってよ」
「でも、妖怪でもないと思うんです」
「は?」
橙は海堂の言葉に一瞬思考が止まった。この女…いや、ホムンクルス何言ってんだ。人間でもなく妖怪でもないのなら、橙の目の前にいる生物は一体何なのか?
「…どういうこと?」
「妖怪は人間を捕食するか、恐れさせなければ存在することができない。妖怪にとって恐れは栄養だ」
海堂は、妖怪という存在についての話を始めた。もちろん、橙は化け猫の妖怪なのでこの事は知っている。
「急にどうしたの?妖怪の私にそんなこと教えるなんて」
「つまり、ルーミアが人間を捕食する行為は生きるために必要な行為…だよね?」
「そうだけど…まさか、そのために人間が犠牲になっても構わないとでも言う気?」
藍様から海堂は死にかけていた人間であり、その魂をホムンクルスに入れた存在であると聞いた。さっきは妖怪だと認めさせたが、その根幹は人間には違いない。
「えっ?そうだけど?」
しかし、その考えは海堂の返答によって打ち壊された。しかも、顔色一つ変えずに言ってのけた。今まで会ってきた人間の中で、人間としての重要な物が欠けている。だが、今の橙では何が欠けているのかわからない。とんでもない異例人物を前に頭を抱えた。
その時、玄関から戸が開けられる音が鳴る。
「橙〜♪海堂はちゃんと働いて…」
藍はカゴを片手に万屋に室内に入る。藍が入るとそこでは、橙が海堂をアスナロ抱きをしており、海堂の首筋に歯を立てていた。その様子に藍は持っていたカゴを落として、絶句した。
「あっ、藍さん違うんです藍さん!これは…わ、訳があって」
「藍様!海堂は悪くないの!だから…」
海堂はアワアワと弁明をし、橙は必死に誤解を解こうとする。しかし、今の藍は冷静さを欠けようとしていた。
「おい、海堂。お前…私の橙に何をやらせた?」
まるで地震のような威圧。海堂は涙が溢れそうになるのを堪える。
「違うんです!本当に違うんです!」
「…何が違うんだ?」
まさに修羅場。藍の氷のような真顔は見ただけでブチギレていることがわかる。
「藍様。誤解なの!海堂は悪くない!」
「……」
橙が海堂の弁護をする。流石に誤解されて色々拗れるのも橙としては良くない。藍は真顔のまま橙を見つめる。もし、嘘をついて誤魔化そうとしても橙は藍の式神なので、一瞬でバレる。しかし、今回は嘘も何もないので、橙の言っていることが正しいことがわかるのだ。
「…話を聞こうか」
藍はため息を吐き、そう言った。二人は安堵する。もし、このまま誤解されたままだったら、大変なことになっていただろう。
そうして、突如、発生した修羅場をくぐり抜けて今までの話を藍に話すことになった。
定期試験が近づいてきたので、この話は中編になりました。後編は近日中に投稿しますので、少々お持ちください。