深海棲鑑の脅威から人々を守っている艦娘、そんな彼女達もしっかりとしたお給料をもらっている。それも一般のサラリーマン達が羨むほどの金額である。
深海棲艦に対して有効的な手段が他に無く、彼女達がストライキや反抗を起こそうものなら人類が滅亡する可能性すらあり、また年端もゆかない少女達しかなれないために批判も多く、そのため待遇には特に気を配られていた。
しかし世間では子供として扱われる彼女らがそんな多額なお金を持てば、倫理観が崩壊し却って批判を生みかねないのも事実であった。
そこで寮費や天引きされた生活費、艦娘達が自分で決めた金額(最高月8万まで)を除いた金額のすべてを給料用とは別の口座に強制的に貯蓄されるようになっていた。
駆逐艦以下の艦娘はその貯蓄の引き出しには提督の許可が必要なため、中々引き出しが出来ずに、半ば忘れていられる存在でもあった。
しかし駆逐艦の中でも秘書艦に選ばれた艦娘達(吹雪、電、秋月、風雲、親潮)はその口座を自分で管理が認められていた。ただそれでも普段から使うものでは無いのでやっぱり忘れられていることが多かった。
駆逐艦娘秋月もその一人であり、その貯蓄用口座から国が立て掛けている両親の借金の返済をしていたため、見てもしょうがないものと思っていた。
ただ年の瀬の迫ったある日、掃除中にその口座の通帳が出てきて、せっかくだから記帳だけでもするかと思ったところから、この物語の歯車が動き始める。
秋月の贅沢
掃除が一段落したこともあり、秋月は記帳のために鎮守府にあるATMに来ていた。のだが普段、酒保からの天引き分しか使っていなかったこともあり、普段使わないATMの操作にどうしても孫ついてしまっていた。
そこに
「あぁ、吹雪さん」
「あ、親潮ちゃん!。親潮ちゃんも引き出し?」
「えぇ、年末はどうしても入用ですから」
親潮と吹雪がやってきていた。
「先客は、…秋月ちゃんか。珍しいね」
「そうですね…、秋月さんがATMにいるなんて初めて見ましたよ」
二人は珍しい光景に少しおどろきつつ、ATMのある小屋の外で一緒に待つことにしていた。
「でも秋月ちゃんぐらいになると、相当もらっているんだろなぁ。あれだけ活躍してるから」
「そうでしょねぇ…、防空に関しては右に出るものはいませんからねぇ…」
過去にはたった一戦で数十機にも及ぶ敵航空機を撃ち落とし、演習では相手役に空母を配置すると提督がいやな顔をする程の実力を秋月は持っていた。
「しかもあれだけ倹約してるんだから、相当な金額の貯金がありそうだなぁ」
「まぁ、私たちもあまり使わないから、ある方だとは思いますけど…」
吹雪も親潮もあまり派手に使う方ではなかった。親潮の方は定期的に記帳を行っていたため、貯蓄額を把握できていたが、吹雪はあまりそう言ったことをしていなかった。そのためこの間久々に記帳をしてあまりの金額に提督に「間違っていませんか!?」と真っ青になって聞きに行ったほどであった。
その事件以降、少しは自分のためにお金を使おうと思い、給料用の口座に残す金額を増やし、記帳もこまめにする様にしていた。
ただ・・・、
「でも、秋月ちゃんほどには倹約してないし…。どうしてあそこまで倹約してるのかな?」
「どうなんでしょねぇ…、秋月さんなりの事情があるんでしょう…」
秋月の倹約ぶりは少々度が過ぎてないかと思えるほどで、他の艦娘も気にかけていた。だがプライベートの話でもあるのでなかなか聞くことは出来なかった。
今度、なんとか聞き出せないかなと吹雪が言おうとした時に、事件は起きた。
「(バターン!)」
「!?、なに!?。誰か倒れた!?」
「吹雪さん!、秋月さんが!!」
人が倒れる音を聞いて、周囲を見渡す吹雪に親潮が叫んだ。見るとATMの前で秋月が倒れていた。
「秋月ちゃん!!。大丈夫!?」
「…、脈拍に異常はなさそうです!」
小屋の扉を開け、秋月に駆け寄る吹雪と親潮。その時にすぐに脈拍や顔色、体の様子を観察していた。この淀みない動きこそ、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた二人の練度を垣間見ることができる一瞬である。
「とにかく医務室に運ぼう!。親潮ちゃん!、左をお願い!」
「わかりました!。…よいしょ!。・・・?、…!!、吹雪さん!これ!」
「どうしたの、おやs、…なにこの金額!?」
秋月の左肩を担いだ親潮はたまたま、秋月の手に握られていた通帳を目にしてしまっていた。その金額は吹雪ですら、驚きを隠せない金額であった。庭付きの一軒家が余裕で建てられるほどの金額がそこにはあったのだ。
「しかしびっくりしたねぇ・・・」
「気を失っていただけでしたから、良かったですよ・・・」
医務室に秋月を運んだ後、二人は気持ちを落ち着かせるために間宮でお茶していた。
「でもまさか、あそこまで貯めていたなんて・・・」
「えぇ・・・。でも意識的に貯めていたのなら気絶することはないと思いますけど・・・。」
「そうだよねぇ・・・」
二人の疑問は尽きなかったが、そこに提督からの呼び出し放送がかかり、再び身を固くすることになってしまっていた。