「今日、秋月さんがATMの前で倒れていた件なんだけど…」
「は、はい!。その件ですが・・・」
突然鎮守府のエースが倒れたのだ、第一発見者がなにかしたのではないかと疑われるのも無理はなかったが、
「あぁ、大丈夫よ親潮さん。そんなに固くならなくても、個人的に聞きたいだけだから」
それを聞いた吹雪と秋月は少し気を緩めるとこができた。
執務室の応接セットに向かい合わせに座る提督(戦艦艦娘敷島)に吹雪、親潮はその時の秘書艦であった北上が気怠そうに入れたコーヒーを飲みながら当時の状況を説明し始めていた。ただそのコーヒーはお世辞なしで格別の味であった。
「…なるほどね、そんな事が」
「正直驚きました・・・、秋月さんがあんなに貯金していたなんて…」
「でもあそこまで倹約しているのも少し変でしたから、気になってはいたんですけど…。」「まぁ、中々聴ける話では無いからね」
医務室に運ばれた秋月ではあったが、あのあとすぐに目を覚ましていた。真っ青な顔をして執務室に来た秋月に提督は戸惑いを隠せなかった。「間違って入金されています!!」と強く主張する秋月に、正当なお給料によるものであると説明するのには、なかなか苦労したのであった。
「まぁ、なんとか秋月さんには納得してもらったけどね」
「提督が駆逐艦に狼狽るなんて、中々見れないから私は見てて楽しかったけどねw」
「…北上さん、趣味が悪いですよ…」
「なんのことかねぇ…w」
北上がその時提督を思い出してコロコロと笑う中、提督は二人にある話をし始める。
「それでね、秋月さんにはこんなこともあったし、急だけど明日お休みにしました。で、その時に休暇申請書と一緒に外出届も出してきましてね」
「秋月ちゃんが、ですか…」
「そこで二人にお願いなんだけど、明日の秋月さんの様子を見てきて欲しいの」
「秋月さんを監視して欲しい、と言うことですか…」
「言い方は悪いけど、そう言うことになるわね。信頼していないわけではないけどね…」
提督自身も第一線を退いてしているとは言え 艦娘であり、艦娘の評判を落とすのは上司の立場でもOGの立場でも避けたいことでもあった。ただその心配より個人的に秋月のことを思ってのことであった。
「個人的なことだから仕事としてはできないけど、私からお小遣いを出してあげるから」
「そ、そんな!、悪いですよ!」
「それに、二人とも有給を消化してないから、上から催促も来ているの、こうでもしないと有給使うこともないでしょうし」
「うぅ…」
「そ、それを言われると…」
大規模作戦時以外では近隣の海域に強力な深海棲艦が出現しなくなってひとしく、真面目なのか有給を取る事がほとんどない秋月、吹雪、親潮は、働き方改革に勤しむ上からも目をつけられていた。ちなみに風雲は秋雲の付き添いで取る事が多く、電は「認められている権利は使わないともったないのです」と見た目に似合わないことを言いつつ、適度に有給を使っていた。
「私を助けるつもりでやってほしんだけど…」
「…わかりました。この任務、お受けします!」
「司令官のために、私がんばります!」
「…そんなに固くならなくてもいいのよ…」
二人に感謝していたが、やはり少々不安になる提督であった。
「…別にさぁ、二人をつけなくてもよかったんじゃないの。秋月がなにをするかわかってるくせに」
「まぁ、一応ですよ。」
吹雪と親潮が帰ったあと、北上は提督にそう切り出していた。
「あの事も喋らなくてもよかったの?」
「私から言うことではないですよ。秋月さん自身の事ですから」
「結局、秋月から話すことになりそうなのに。提督も人がわるいなぁ」
「…さっき、うろたえてた人を笑ってた人には言われたくないですよ」
そんなやり取りをしていた二人ではあったが、それでも秋月を心配しているのには代わりはなかった。
「秋月さん、どこへ行かれるのでしょうか」
「鎮守府から出ているのは初めて見るからね~。わからないぁ・・・」
翌日、秋月は鎮守府の近くのバス停でバスを待っていた。それを二人は遠目に観察していた。二人は広報活動で三越とのコラボした際に着て、そのまま頂いた服の上に厚手の上着を羽織っていた。秋月はというと初月から借りたのだろうか、少々無骨なジャケットに最近人気を読んでいる元作業着専門店のジーンズという年頃の女の子としてはあまりに味気ないカッコであった。ここでも秋月の節約グセが出ていた。
「あのズボン、いつも履いてますよね。」
「どうも秋月ちゃん、あれしか持ってないようなの」
「えっ、一着だけですかぁ!?。そこまで・・・」
「本当、心配になってくるよ・・・」
二人の心配をよそに、やってきたバスに乗り込む秋月。それから少し遅れてバスの後ろ側に座る二人。
そこから、バスで街の中心街に向かうことになる。移動時間はわずか30分ほどではあったが秋月の顔はどこか嬉しそうであった。
「秋月さん、嬉しそうですね・・・。」
「調べてみたんだけど、一年近く秋月ちゃんから外出届けがでてなかったの。」
「一年ですか・・・。確かに必要最低限のものは鎮守府内で揃いますけど・・・」
「それだけで生活してる人はまずいないよ」
「そこまで節制して、なにがあるのでしょうか・・・」
二人の疑問は膨らむ一方であった。
バスに揺られること30分、降りたバス停から歩き始めて10分、秋月は脇目もふらずに道を進んでいた。
「スマホもなくて、よく迷わずく歩いてますね・・・」
「完全に道順を覚えているんだね」
「私、スマホないとよく迷いますから・・・。命綱でもありますからね・・・」
「結構ひどいからね、親潮ちゃんの方向音痴て・・・」
地図やサインシステムが充実している屋内でもかなりの確率で迷ってしまう親潮は外、特に始めていくところはスマホによる道案内がなければ目的地にたどり着くのも困難なほどの方向音痴であった。
「よく海上では迷わないね・・・」
「妖精さんの案内が優秀なおかげですよ・・・」
「それにしても秋月ちゃんは何をしようとしてるんだろね?」
「なかなか想像が難しいですね・・・。秋月さんの私生活は本当に慎ましいものですからね・・・」
そんなことを言っている間にも秋月は目的地についたようで、その目的地であろう店に入っていった。
「吹雪さん・・・、ここって・・・」
「・・・秋月ちゃん・・・」
秋月が入っていったのは、主に墓石などを扱う店である石材店であった。
「なかなか出てきませんね・・・」
「もうかれこれ1時間以上になるね・・・」
吹雪と親潮は、石材店に入った秋月が出てくるのをずっと待っていた。怪しまれないように時々場所を変えつつも、正面入り口が見える位置を常に取り続けていた。
「しかし、なんで石材店なんでしょうか?」
「なんだろうねぇ・・・」
二人とも秋月の行動がわからない、といった感じの会話をしていたが、薄々いやな予感を感じていた。
それは秋月が自分のために墓石を買っているのではないか、ということであった。確かに艦娘というのはいつなにがあるかわからない。たとえ万全の準備と訓練をしていても沈む可能性を排除することはできないものである。
そのため事前に葬式やお墓の準備をしている艦娘も少なからずいる。
ただ艦隊を守るためといい、矢面に自ら進んで行き、それが原因で入渠することも多い秋月がそれをするとなおさら歯止めがかからなくなることも考えられる。
二人の間に重苦しい空気が流れる中、ようやく事態は動き出す。
「あ!、出てきましたよ!」
親潮が店から出てくる秋月を指差した。その指の先、どこかスッキリとしている顔の秋月に一層不安を感じる二人は
「・・・よし、行くよ!」
「はい!」
秋月を追いかける。ついに二人は行動に出る。
「(ぽん)・・・?、・・あぁ、吹雪さんに親潮さん」
「奇遇だね、秋月ちゃん。秋月ちゃんも休みなの?」
肩を叩かれ、少しおどきつつ振り返ると、笑顔の二人がいた。秋月は二人と同じく笑顔で応対していた。
「はい、司令にお休みを頂きましたので」
「それで、何をしてたんですか?」
「・・・えぇっと・・・、買い物ですよ・・・」
秋月の返事が急にどことなくぎこちないものになっていた。疑惑がより深まった瞬間であった。吹雪と親潮はお互いの顔を見合い、合図をする。
「実はね、秋月ちゃんの後を付けてきてたんだよねぇ。鎮守府を出てきた所から・・・」「・・・、ぇ?・・・」
「それで秋月さんが石材店に入って行くのを見ていたんです」
二人は両側から秋月の腰にゆっくり腕をまわして、逃げられないようにしつつ、質問を続ける。
二人の表情は最初と変わっていなかったが、明らかに目の色が変わっており、驚きを隠せない秋月。その二人の目は夜戦に入る前の鬼神の目、そのものであった。
「秋月ちゃんがなぜ、石材店に入っていったか、私、気になるんだよねぇ・・・」
「え、え?」
「逃しませんよ、秋月さん・・・」
「あ、あのぉ・・・」
困惑する秋月を尻目に、逃げられないよに体を抑えつつ、3人は近くのカフェに入ってゆくのであった。
「さぁ、話してもらいましょうか・・・」
「秋月さんが、石材店で何を買ったかを・・・」
カフェの1番隅であろう席で、二人は秋月に詰問を始めていた。表情だけでいうと終始笑顔であったさっきとは違い、真剣そのものな表情である。
「えっと・・・、その・・・・」
困惑している秋月であったが、正面に座る二人からの言い逃れできない雰囲気だけは感じ取れていた。
「じっ・・・、実はですね・・・」
もう逃げれないと感じた秋月は意を決することにした。
「ぼ・・・、墓石を買ったんですよ。・・・恥ずかしながら・・・」
「・・・・」
「・・・・」
それを聞いた二人は、大きく落胆していた。秋月が沈んだ後のことを考えていることに。
3人の間に再び重い空気が漂いだして、いたのだが
「・・・それは誰のためのものですか」
親潮のこの発言が、事態を一変させる。
「りょ、両親のなんですよ。・・・恥ずかしいですよね、随分経ってるのにお墓もないなんて」「「・・・え、両親の(ですか)?」」
秋月は自身のために買ったと思い込んでいた二人からは思わず素っ頓狂な声が出てしまっていた。
「あ・・・、秋月ちゃん。両親のお墓て、どういうこと?」
秋月の両親が他界していたのは知っていた二人ではあったが、ナイーブな話題である以上それ以上のことは知らなかった。
「・・・えぇっとですね・・・、話せば長くなるんですけど・・・。いいですか?」
秋月の問に、顔を見合わせた二人は静かに首を立てに振る。
そして、秋月は語り始める。自身の過去、いままであまり話して来なかったことであった。