秋月の贅沢   作:マツケン-2

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この章には地震や津波の描写があります!。苦手な方はご注意ください!!。


第三章

駆逐艦娘秋月、これは鎮守府内での一種のコードネームのようなものであり、普段こそ艦娘たちはコードネームで呼び合っているが、艤装を扱えること以外は普通の少女達であり、艦娘になるまでは普通の生活をしていた以上、自身の本当の名前は当然持っている。

”秋谷 汐里(あきや しおり)”、これが彼女の本来の名前である。

 

彼女は宮城県のとある海産加工業を営む若き社長の長女として生まれていた。若くして両親から引き継いだ会社を妻と十数名の社員と一緒に切り盛りしていたのだが、なかなか子供が生まれこなかった。そこに生まれた彼女は二人の大切に育てられた。

幼い頃から物分りがよく、素直であった彼女は周りの人間からの心情も厚く、将来は父の会社の後取りとも期待されていた。事業自体はうまくいっていたが、派手な生活ができるほどではなかったが、それでも幸せと言える家庭であったといえた。

 

そう、あの日までは。

 

汐里が小学4年生もあと僅かとなったある日、通っていた小学校の卒業式があり、両親からデジタルカメラを借り、卒業生とクラスのみんなを撮影していた。本来は持ち込みは禁止ではあったが、学校のカメラが壊れており、また学年通信で使うため特別に許可されていた。

卒業式のあと、高校生の姉を持つ友人の家にあそびに行っていた。汐里とは仲がよく、また日中働いている両親の変わりを友人の親が努めていたこともあり、よく来ていたのであった。その友人の家は高台にある高校の少し下がった近くで、汐里の家は高校に後ろにある高台の住宅街の中にあった。

 

汐里はその時友達と春休みの計画を話し合っていた。その時、もうすぐおやつの時間だったでの一息入れようという話なっていた。しかしその日はおやつを食べることはできなかった。

突然、彼女の持っていた携帯電話がブザーのような音を出し始めた。びっくりした彼女は慌てて携帯をみると、「緊急地震速報」という文字が出ていた。なんのことかわからないうちに一階から「机に潜って!!」と友人の母親の叫び声が聞こえていた。よくわからないまま机の下に行こうとした次の瞬間、わずかに家が揺れ始めていた。

なにかを感じ取った二人は机に急いで潜り込もうとした直後、大きな揺れが襲ってきた。二人は叫び声を上げつつなんとか机に潜ることができていた。それからは部屋の真ん中にあったテーブルの上のコップが倒れ、飲みかけのお茶が溢れ、家具や棚が音と立て、乗っていたいくつかのものは床に落ちる、そんな様子を手を取りながら机の下で見ているしかなかった。

しばらくして揺れが落ち着きはじめ、安堵の表情を浮かべる。しかしこれでまだおわりというわけではなかった。

次の瞬間、いきなり大きな揺れが襲った。その揺れは今までものとは比べ物にならないものであった。部屋の家具は容赦なく倒され、色々なものが飛び、辺りに散乱する。

もはや声をあげることもできないまま、揺れに翻弄され、何もできないまま時間が過ぎるのを待つしかなかった。

 

ようやく揺れが収まり、机の下から出ることができた汐里とその友人。友人は泣きじゃくり始めたが、汐里は泣くこともできずに呆然とするしかなかった。変わり果てた友人の部屋を見渡していると、友人の母親が床に散乱していたものを払い除けつつ二階に上がってきて、すぐに高校に避難するから準備して!と言って汐里らを促した。その時、汐里は慌ててきた上着のポケットに無意識に携帯と一緒に両親のカメラを押し込めていた。

 

当初、この地震は以前から想定されていた宮城県沖地震であるとされていたが、実際には地震の規模があまりに巨大すぎて、国内の地震計が振り切れてしまい正確な規模の把握には海外のデータを使うほかなく、正確な情報を出すのには時間がかかっていた。それほど過去にない規模であった。

この地震は後に東北地方太平洋沖地震と呼ばれ、地震の規模を示すマグニチュードでMw9.0という世界で過去に観測された地震の中でも5本の指に入る規模であり、3つの震源がわずかな時間の間に同時に揺れる連動型地震と合わせて、近代日本では経験のないものであった。

そして地震が収まった直後には「大津波警報」が東北を中心とした太平洋に面した広い地域に出されていた。しかしこのときは、まだ去年に起きたチリ地震(2010)で大津波警報が出たものの大きな被害ななかったことが頭にあった人も多く、楽観視されていた。

しかし、これが第二次世界大戦以降で最悪の自然災害となる原因の一つに他ならなかった。

 

汐里と友人、その母親と姉は貴重品をなんとか持ち出して、家の上にある高校に避難していた。避難までには30分ぐらいかかっていた。貴重品に混じって、地震直前までアルバムの整理をしていた友人の母親は気が動転していたのか、アルバム一式を入れていた紙袋まで持ち出していた。

 

その高校は地区の中心街が見下ろせるほどの高台にあり、海も見えていた。

高校に到着してまもなく、誰かの叫び声を聞き、後ろを振り返る汐里。目にしたのは街の中心街から上がる茶色の煙であった。

火事でも起きているかと思ったが、それでは白か黒の煙のハズである。そしてその間には水のような物が見えていた。

それは中心街が津波に襲われて、舞い上がった土煙であった。

見えた煙は津波により壊された家のからのものであり、それが向かいの丘を包むかのように漂っていた。それほど多くの建物が被害にあっているということを如実に示していた。

しかし中心街とこの高校は何百メートルも離れており、他の人達も対岸の火事のようにその光景を見ており、興奮したように早口でしゃべる人までいたほどであった。

汐里も両親のことを心配しつつただ静かにその光景を見ていた。

 

しかし徐々に煙の発生源が近づいて来ているのがわかるとその声は恐怖に染まってゆく。それと同時にはっきりと、家や船、それを押し流している津波が見えてきていた。中心街と高校の間には盛土されて壁のようになっている鉄道の線路があったのだが、その市街地側の近くにあった家が流され始めると、周りには悲痛な叫びしか聞こえなくなっていた。

 

それでも津波は止まらない。

 

線路脇のホームセンターの看板が流され始めたと同時に線路をアンダーパスする道路から津波が流れ込み始める。それから数秒も立たないうちに壊れた家の木材や家そのものが線路を乗り越えて流れ込み始めていた。

周りの人の家族の心配する声が聞こえてくるなか、高校近くの田んぼは瓦礫を含んだ津波で染められ、あたりには津波の咆哮や建物が崩れる轟音が響き渡っていた。田んぼ近くにいた逃げ遅れていた人を促す悲鳴にもにた怒号も周囲にこだまする。修羅場としか説明のつけられないような壮絶な光景が広がっていた。

その最中、ついにさっきまでいた友人の家にまでも津波が押し寄せ、流されてしまっていた。

後ろでは友人の涙混じりの悲鳴が聞こえていたが、汐里は振り返ることもできないまま、ただ呆然とその光景を見るしかできなくなっていた。

 

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