アケノシルムから逃れ、二人はエリア1で負ったダメージを回復させ、疲れを癒していた。近くにブンブジナが数匹いるが、特に気にせず草を食べたりしている。
アリスは沈んだ表情のまま俯いており、先程から一度も言葉を発していない。
「ハルト様………すみません。私の不注意で、オサイズチの時に続いて二回も助けていただいて」
「いいんだよ、俺がしたくてやってることなんだから。アリスの防具に風圧耐性は付いてないし、大した怪我もなかったんだろ?」
「ですが、いずれも強力な技ばかりで、ハルト様も危なかったはずです。ご自身を危険に晒しながら守っていただいて………申し訳ない限りです」
「過ぎたことを気にしても仕方ないって、前にも言っただろ?それに、ハンターである以上、俺も危険は覚悟してるよ」
「ハルト様は…………優しすぎます。片手剣はガード性能が高くないのに、無理して助けていただかなくても……」
何度も励ますが、アリスはなかなか立ち直ることができずにいる。ふと顔を上げると、ハルトは悲しそうな表情を浮かべていた。それを見て、彼女はまた俯く。目尻には涙も浮かんでいる。
「ハルト様……………私、パーティメンバー失格ですね。こんなに迷惑をおかけして………」
「アリスっ!!!」
突然、強い口調で呼びかけられ、驚いてアリスはビクッと肩を強張らせる。彼は、ハルトは怒っている。彼女と出会って以来、初めて彼は怒りを露わにしていた。
「お前、いつからそんな意気地無しになっちまった?なら、ここでクエストをやめて里に戻るか」
一瞬、本当にそうしようかという思いがアリスの頭をよぎる。本来、途中で諦めることは許されないが、今の彼女にそんなプライドはない。
「諦めるのは、嫌です、けど…………でも、このままハルト様に迷惑をかけるのも」
「俺は一回も、アリスを迷惑だなんて思ったことはない。いつもクエストでは助かってるし、今回の依頼にも一緒に来てくれて有難いと思ってる。もしアケノシルムとの戦闘をここで諦めると言っても、俺は止めない。アリスが決めたことだから、アリスを信頼してるから」
ハルトの口から発せられる言葉を、アリスは涙を流しながら黙って聞いていた。しかし、その涙は先程とは違う。
「ハルト様…………ありがとうございます。私、そんな風に人から頼りにされたの、初めてで」
「それで、どうする?ここで里に戻るか、もう一度アケノシルムに挑むか」
彼の問いかけに、手の甲で涙を拭い、両手に握り拳を作って力強く答える。
「勿論、もう一度挑みます!先程は失態を犯しましたが、今度はしっかり名誉挽回してみせます!」
「よし、その意気だ。絶対にあいつを討伐してやろうぜ」
二人が次にアケノシルムを発見したのは、エリア6と呼ばれる、上流にあるエリア12から流れ落ちる大きな滝が特徴的な場所である。
ハルトは投げクナイを投擲し、こちらへ注意を向けさせる。思惑通り、こちらに気付いたアケノシルムは咆哮を上げ威嚇するが距離があった為二人共影響は受けなかった。
咆哮を止め、トサカを伸ばした頭を突き出してハルトに向けて突進を繰り出すアケノシルム。今度はしっかりと動きを見て最後まで避け、停止した傘鳥に向けて無傷のまま攻撃に転じる。扇形の尻尾をフロストエッジで斬りつけ、返す刀で更に一撃。片手剣の攻撃速度を活かし、アケノシルムが起き上がるまでの間に何度も何度も斬撃を加える。
その一方で、アリスは三音演奏で溜めていた旋律を解放、自身の強化と共にハルトにも演奏の効果を与える。アケノシルムが立ち上がり、振り向いて炎ブレスを三発連続で放つ。二人は既に距離を取っていた為、これもあっさり躱す。その隙に、アリスが横からボーンホルンでアケノシルムの頭を思い切り殴り付ける。
「クァァァア!?」
頭部を振り抜いた一撃は、傘鳥をダウンさせ転倒させた。二人はこの隙を見逃さず、アリスは引き続き頭を、ハルトは翼を攻撃していく。次々に繰り出される攻撃に、起き上がったアケノシルムは咆哮で二人の動きを止める。嘴からは火が漏れており、再び怒り状態になったのが見てとれる。
アケノシルムは空に舞い上がり、羽ばたき空中で静止する。そのまま嘴から火の球をあちこちに発射する。射線上にいたアリスは火炎液を喰らってしまう。
「熱いっ、熱いっ!」
火炎液はレザーシリーズに燃え移り、あちこちが火を上げている。手で火を払うが、アケノシルムの体内で生成された火炎液の火はなかなか消えず、熱が少しずつアリスの体力を蝕んでいく。そこへアケノシルムが嘴を突き刺そうと迫り、それに気付いたアリスは横っ飛びに回避する。足元の川に頭から飛び込んだせいで全身水浸しになったが、それが功を奏し防具の火は無事消えた。
その時、エリア8へ繋がる通路から何者かが現れる。丸みを帯びた体つきで、体毛や甲殻は青みがかっており、鋭い爪の生えた前脚の甲殻には棘が生えている。
「アオアシラ!?」
青熊獣の別名を持つ牙獣、アオアシラ。二人は一度アオアシラを討伐したことがあるものの、ただでさえアケノシルムに苦戦しているのに、今から同時に相手をしなくてはならないのか。
「グォォォォオッ!」
そんなことを考えていると、二本足で立ち上がったアオアシラが両腕を振り上げて威嚇する。しかし、その矛先はアケノシルムへと向いていた。傘鳥もそれに答えるように低く唸り、お互いに突進しぶつかり合うが、体格の大きいアケノシルムに軍配が上がり、アオアシラは足を止めて狼狽する。それを見たハルトは、
「ひょっとしたら………いけるかも!」
アオアシラに向けて翔蟲を放つと、鉄蟲糸を括り付けて背に飛び乗ったのだ。アオアシラはハルトを振り落とそうと暴れるが、ハルトは鉄蟲糸を巧みに操り、アケノシルムに向けて走らせる。
複数の大型モンスターを相手にする際に役立つ、操竜と呼ばれるカムラ独自の戦法だ。特定の攻撃を受けることで隙を見せたモンスターに鉄蟲糸を絡ませることで、まるでモンスターを操るかのように暴れさせることが可能なのだ。
「行けっ!」
「ガゥゥ!」
鉄蟲糸を握ると、アオアシラは腕を振るい引っ掻き攻撃を繰り出す。それらは全てアケノシルムにヒットし、翼の羽鱗を裂きダメージを与える。モンスターは人間より遥かに力が強い為、ハンターの武器による攻撃とはまるで比べ物にならない威力を発揮していた。アオアシラは続けて突進を行い、正面から喰らった傘鳥を仰け反らせる。これらは鉄蟲糸の束縛から解放されたいが為の行動だろうが、一見すると手綱を握るハルトに操られているかのようにも見える。
その後、アオアシラが引っ掻きを何度か喰らわせたタイミングでハルトは振り落とされてしまうが、空中でバランスを取り上手く着地する。鉄蟲糸から解放されたアオアシラは逃げ出す一方、アケノシルムは相当な痛手を負ったのか、横倒しになってもがいていた。
「ハルト様、すごいです!初めてで操竜を成功させるなんて」
「あぁ、土壇場だけど上手くいったな。このまま攻めるぞ!」
二人は未だ起き上がることのできないアケノシルムに向けて、各々武器を構えて走り出すのだった。
次回へ続く
皆様、どうもこんにちは。作者です。
ということで、今回は初めて操竜の描写を入れてみました。あれ、ゲームでは簡単そうにやってますけど、実際かなり体幹を使いそうですよね。運動の苦手な私が真似したら5秒でギブアップすると思います。
そして、前回の狩りから窮地をハルトに助けられてばかりのアリスが立ち直るシーンもありました。人間、誰でも「頼りにしてる」って言われたら嬉しいですよね。
あと、本編に出てないところでもハルト達は大型モンスターを討伐したりしています。さすがにゲームに登場する全ての大型モンスターとの戦闘を書くのは大変なので。一応、初登場のモンスターは全部狩猟シーンを出す予定です。
では、今回はこの辺で失礼します。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
またお会いしましょう。