「せいっ!」
二人は転倒したアケノシルムに突貫し、斬撃と打撃を交互に浴びせていく。ハルトの剣が左翼を裂き、羽鱗の奥の地肌が露出する。その一方で、アリスは狩猟笛で頭部を殴り続ける。三音演奏で自分達を強化しつつ、傘鳥のトサカの部位破壊に成功した。
アケノシルムが起き上がると、ハルトはアリスに目配せをする。彼女はその視線に気付くと、首を横に振り否定の意を示す。アオアシラの攻撃とハンター二人の連撃を受け、さしものアケノシルムもかなり疲弊しているらしく、嘴から涎を零していた。
ハルトが追撃を加えようと足を進めると同時に、アケノシルムは彼らに背を向けて走り出し、翼を広げて別のエリアへと飛び立つ。
「行ったか…………止めてくれてありがとうな。正直、あれ以上攻撃をするのは、体力的にもフロストエッジの切れ味も厳しいところだったし」
「ええ、アケノシルムもそろそろ移動するところだと思いましたし。次のエリアで畳み掛けることにしましょうか」
二人は砥石を使い、武器の切れ味を戻すとエリアを移動し始める。
二人から逃れたアケノシルムは、エリア9にいた。既に日は落ち始め、夕陽が水面を橙色に彩っている。
ハルトが傘鳥を発見すると、持ち前の機動力を活かして気付かれる前に背後から斬り掛かり、先制攻撃を仕掛ける。アケノシルムは振り返り、翼で薙ぎ払うも、疲労からかその動きはかなり緩慢になっている。ハルトは難なく躱し、更に一撃を入れ、やや遅れて追い付いたアリスもボーンホルンで脇腹を殴る。
それに対しアケノシルムは炎ブレスを吐こうとするが、火炎液の分泌量が少なくなっているらしく不発に終わる。その結果、アケノシルムは無防備な状態になり、更なる追撃を受ける。アリスが震打を叩き込み、左翼に続き右翼も部位破壊される。ハルトも風車を繰り出し、無数の斬撃を身体中に見舞う。
「クワォォォォォオッ!!」
しかし、ずっと攻撃を受け続けたことに業を煮やし、三度アケノシルムは怒り出す。その場で咆哮を放ち、近くにいた二人は耳を塞いで動きを止めてしまう。その直後、飛び上がって尻尾攻撃をハルトに喰らわせる。ハルトは正面から攻撃を受け吹き飛ばされるものの、翔蟲受け身で体勢を立て直す。そして彼は自分を見るアリスに気が付き、頷いて返す。
「行きます!」
攻撃を終えた後の隙を突いて掛け声と共にボーンホルンを振るい、三音演奏で二人を強化する。だが、それだけでは止まらない。アリスは更に全身を捻り、身体ごと狩猟笛を力強く振り回してアケノシルムを打ち据え、吹き鳴らすと全身に力の滾りを感じる。そして、その旋律を耳にしたハルトにも同様の効果が現れる。
狩猟笛の秘技、気炎の旋律である。何度も攻撃を重ね、特殊な音色を奏でることで自分と周囲の味方の攻撃力を大きく上昇させることができるのだ。
アリスは一度武器を納め、ハルトの元に走り出す。アケノシルムは愚直にも走るアリスの後を負い、そして………
「クァァァ!?」
突如、傘鳥の全身を黄色い電気が包み、アケノシルムは身体を痙攣させて動きを止める。その足元には、金属の円盤が回転しながら光の粒を放出していた。
これはシビレ罠と呼ばれる道具であり、円盤の中に雷光虫という電気を出す昆虫を仕込むことで、罠を踏んだ大型モンスターを一時的に麻痺させることが出来るのである。先程二人が話し合っていたのはこれのことであり、アケノシルムの攻撃を喰らい距離をとったハルトが仕掛けたのだ。麻酔玉を使えば捕獲することも可能だが、二人は持っていないのでそのまま攻撃に転じる。
気炎の旋律の効果が乗った攻撃は強力で、二人は確かな手応えを感じている。息は上がり、武器を持つ手は痺れているが、それでもハンター達は剣を、打撃を止めない。ここで仕留めることが出来なければ、勝算はないと思っていたからだ。
しかし、無情にもアケノシルムは麻痺から脱出し、足元に仕掛けられたシビレ罠は煙を上げて動作を止める。罠は使い捨ての為、壊れてしまったものはそれ以上使うことができない。
「そんな、もうこれ以上は…………」
「まだだっ、諦めて、たまるかぁっ!!」
バキィッ!!
「クオォォ!?」
ハルトは声を上げ、剣を握る左手ではなく盾を持つ右手を引き、アケノシルムの頬を殴り付ける。これまでのアリスの打撃も重なり、盾の殴打を受けたアケノシルムは目を回して転倒する。その隙に、ハルトはバックステップで後方に下がり、剣を引いて力を込める。そして足のバネを利用し、突進と共にフロストエッジを叩き込んだ。
「うおぉぉぉぉぉお!!!」
その勢いのまま、片手剣の必殺連続攻撃・ジャストラッシュを繰り出す。斬るというよりは力任せに剣を叩き付けているような感覚だったが、それでも荒々しい連撃はアケノシルムの羽鱗を裂き、体力をどんどん削る。一方、アリスも演奏で味方の攻撃力を高めつつ的確に打撃を当てていく。
「これで、どうだっ!!」
「やぁぁっ!」
そして、ハルトの
「クォォォォオーーーー………」
そして、アケノシルムが唸りながら首をもたげ、炎ブレスを仕掛けて来るかと思い二人は身構える。だが、次第にその身体から力が失われていき、傘鳥はその場に倒れ伏した。
「や………やった、のか?」
「そう、ですね…………何だか、実感が湧かないですけど………」
生気を失い、動かなくなったアケノシルムを前に二人はぺたんと地面に座り込む。同時に、さっきまで表に出すまいとしていた疲労感がどっと押し寄せる。
「ふーっ、疲れたな。今までの狩りとはまるで手応えが違ったぜ」
「はい、ですが私達もその分ハンターとして成長できたということですね」
「じゃあ、早速剥ぎ取りといきたいところだけど…………
もうしばらく、休んでいようか」
「そうですね、私もまだ動けそうにありませんし」
アケノシルムとの戦いで、お互いヘトヘトになったハルトとアリスは座ったまま笑い合う。
同時に、アリスの脳内には一つの思いが生まれていた。
元々自分は旅の途中でカムラの里に立ち寄っているだけ。里に、家を貸しているハルトにいつまでも迷惑はかけられない。
夕暮れの中、アリスは里を去ろうと決意していた───
次回へ続く