「すまん、クエストの達成報告………ん?」
ギルドに入ると、鎧を着込んだアイルーを連れた見慣れない服装の人物がクエストカウンターに立ってミノトと話していた。だが、その人物はハルトを見るとすぐに場所を移動した。
「はい、クエスト完了です。お疲れ様でした」
「ああ、どうも………って、そう言えばその人は?」
報酬金を受け取ったハルトが、横に退いた人物についてミノトに尋ねると、
「おや、ハルトさん。チームメンバーのお顔をお忘れですか?」
「チームメンバー………………って、ひょっとしてアリスか!?」
「はい、ハルト様」
そう答える声を聞き、ハルトは彼女がアリスだと確信する。確かに肩辺りまで伸びた金髪や、明るい緑の瞳はアリスのそれだ。しかし、今まで長い間レザーシリーズを着用していた為、そのイメージが定着してしまったのだろう。
そして、彼女が連れていたアイルーは、ハルトと同じ日にオトモとしてアリスがスカウトしたのだ。橙色の虎毛をしたこのアイルーはヒグラシという名を付けられ、先日討伐したアケノシルムの素材を使ったアケノネコシリーズを身に付けていた。
「そうか、アリスも新しい防具にしたんだな」
「はい、さすがにずっとレザーシリーズだと厳しいので」
二人はオトモ広場へ向かいながら、新しいアリスの装備について話していた。
アリスの防具は、掻鳥クルルヤックの素材を主に使ったクルルシリーズ。全体的に橙色を基調とし、袖やズボンの裾は丸みを帯びており、今は外しているが頭用装備の目元から下を隠した布や頭の羽飾りも相まって、異国の踊り子のような見た目だ。一見すると防御力が低いようにも見えるが、内側は骨や牙で補強してある上に丈夫な掻鳥の鱗を使用している為、見た目よりもかなり頑丈に出来ている。
更に防具としての実用性の側面で言えば、このクルルシリーズにはKO術やスタミナ奪取の他、笛吹き名人のスキルも付与されている。狩猟笛を扱うアリスにとって、クルルシリーズは最適だった。
「なるほどな、まさに狩猟笛のための装備ってこったな。アリスにぴったりじゃないか」
「ありがとうございます、ですが、まだ着慣れていなくて…………ちょっと恥ずかしいです」
と言って、腹部を手で隠すアリス。防具としての性能は高いものの、要所要所からは地肌が見えており、レザーシリーズよりも肌の露出は多くなっている。
これから着ているうちにアリス自身が慣れていくだろうと思いながら、ハルトは自分の目にも慣れさせていかないとな、と思っていた。
そうこうしているうちに、オトモ広場に到着した二人。今回、二人の目的は交易窓口にあった。
「ロンディーネさん、センテイガキの納品終わったぜ」
「私も、狐火ホオズキを納品してきました」
「うむ、これで交易先の方々もこちらに協力してくれるだろう。次からは交易がより捗ると思うぞ」
前回ハルトが寒冷群島を訪れたのは、ウルクススの狩猟だけではなく、ロンディーネからの依頼でセンテイガキを採取する目的もあったのだ。もう一つの要求である狐火ホオズキは大社跡でしか採れない為、アリスは別のクエストを受けていたのだ。
「ご主人、ボクも頑張ってきたニャ。いっぱいハチミツを貰ってきたのニャ」
「ありがとうワカバさん、お疲れさまです」
ワカバと呼ばれた緑色の毛をしたアイルーは、スバルとヒグラシと同じようにイオリに紹介されたアイルーなのだが、狩りは苦手だと言っていたので交易で活躍してもらっている。アリスはワカバから受け取った布の袋の中を覗くと、瓶詰めのハチミツが大量に入っている中に、一つだけ見慣れない桃色の昆虫が入った瓶を取り出す。
「これ、交易で頼んでないですよね?交易先の方が入れてくれたのでしょうか」
「おお、それはハナスズムシではないか!ハンターの武器にもなる珍しい虫だぞ」
「武器?これを使って作れる武器がないかハモンさんに聞いてみようぜ」
そう言い、二人はハチミツをハルトの家の収納庫にしまうと、ハナスズムシの入った瓶を握り締めて加工屋に向かう。
そして、一時間後。
「ほえぇ…………可愛いですっ!」
「正直な感想としちゃ、あんまり武器には見えないけど………ハモンさんが言うなら、期待できそうだな」
アリスは、新しい武器に目を輝かせ、ハルトは興味深そうな目を向けていた。
ハナスズムシを素材として作られたその狩猟笛───マギアチャームは、まるでおとぎ話の魔法少女が持つ杖をそのまま巨大化したような見た目をしていた。一見すると狩猟笛には見えないが、ちゃんと演奏もすることが可能だ。
一説によれば、とある狩猟笛使いの女性ハンターが強い要望を村の加工屋に出し、試作品でクエストに向かったところ、チームを組んでいた流れのハンターがそれを広めたことでハンターと加工屋の間でよく知られる武器になったらしい。現在では、実用以外にもコレクションとしての需要も高まっているという。
「そういえば、さっきアリスはクエストカウンターにいたよな。何か依頼を受ける予定だったのか?」
「あぁ、それなんですが…………」
「狩猟依頼がない、か」
「はい。最近はモンスターの動きも落ち着き、わざわざハンターが出る程の依頼も少ないんです」
加工屋を後にした二人は、ミノトの元に向かいクエストを確認していたが、めぼしい依頼は出ていなかった。平和なことは本来喜ばしいことなのだが、ハンターとして仕事がないのは致命的だ。
「それならば、二人共別の地域に出向いて依頼を受けて来てはどうゲコ?」
すると、話を聞いていたゴコクが二人に提案をする。
「確かに、それも選択肢には入りますが…………ゴコク様、ハンターが里に全くいないというのは安全という点でどうなのでしょうか?」
「この里にはウツシやフゲンもおる、既に本業を引退したとはいえ、仮にモンスターが出ても余程でない限り狩猟は可能でゲコ」
「あぁ、並大抵のモンスターにやられる程落ちぶれてはいないさ。ここは俺達を信じて、行っておいで」
「そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
更に本人からの後押しも受け、ハルト達は大人しく提案に従い遠征へ行くことにした。
「それで、肝心の行き先だが……かつて俺やハルトが在籍していたハンター養成校があった辺りの、ドンドルマなんてどうかな。あそこにはハンターズギルド本部もあるし、ルーキーから上級者まで幅広いハンターが受けられる依頼が揃っているはずだよ」
ウツシの言葉に、アリスは「ドンドルマですかっ!?」と目を見開く。
「私、実家の近所の養成校に通っていたのでドンドルマには行ったことなかったんです。楽しみになってきちゃいました」
「それじゃ、決まりだな。今日の残りの時間を使って準備をして、明日には出発するぞ」
そして、翌日。二人は朝早くに住民に見送られ、定期船でドンドルマまで向かう。
そこでは、二人の記憶に刻み込まれる新たな出会いが待っていることをまだ彼らは知る由もなかった。
次回へ続く