カムラの里には、長らくハンターと呼ばれる人物がいなかった。
では、今までは誰がモンスターから里を守っていたのか?
それが、今ハルト、ヒノエ、ミノトの三人の前にいる老翁、カムラを治める里長・フゲンである。
かつて彼は名うてのハンターだったらしく、老人らしく頭髪と顎髭は白くなり、ペイントを施した顔には深い皺が刻まれているが、首から下の身体は引き締まった体型をしており、まだまだ老いぼれてはいない様子が見てとれる。
既にハンター稼業は引退しているものの、その実力は未だ衰えてはおらず、引退後も後継のハンターを育てる為積極的にモンスターや武具の知識を吸収している。
強さと、細かいことをいつまでも悩まない豪快な性格、そして住民全員を家族のように思いやる優しさ。これら全てを兼ね備えたフゲンは、里の民から絶大な信頼を得ていた。
「里長、ハルトさんをお連れしました」
「うむ、ご苦労。ハルトよ、ハンターとして認められたことを改めて祝福しよう。本当におめでとう」
「ありがとう、じいさん。俺、この里で育ったことを誇りに思うよ」
「カッハッハ!誇りも何も、お主は儂の家族同然!いつかはハンターになること、とうに分かっておったわ。今更他人行儀なことを言うでない」
「(なんかさっき、ミノトも同じようなこと言ってた気がする)」
「でも、このようなタイミングでこの地に新しいハンターを認可するということは、何か重要なことでもあるのですか?」
とヒノエが問うと、フゲンは口を閉ざし頷く。
「『百竜夜行』」
里長の口からその言葉が発せられた途端、三人は身構え、重い空気が流れる。
フゲンは彼方の記憶を思い起こすかのように目を細め、静かに続ける。
「50年前に里を襲った悲劇、決して忘れはせん。それが此度、このカムラの地に再び訪れるやもしれんのだ」
百竜夜行とは、何体もの大型モンスターの大軍勢が里に押し寄せる怪奇現象である。
特に50年前の百竜夜行はかなりの大規模で、カムラを壊滅寸前の状態に陥れたという。当時フゲン率いる人々は果敢にもモンスターの群れに立ち向かい、多大なる犠牲を出しながらも里を死守した。
幾年もの時が経った今でも、何故大型モンスターの大群は襲撃して来たのか、モンスター達の目的は何だったかなど、詳しいことは分かっていない。
カムラの里は最近まで発展途上の寂れた里だったと言うが、実際には百竜夜行による被害があまりに大きく、里の発展に手を回す余裕がなかったというのが正しい。
「………来るのですか。あの、伝承で見聞きしただけでも恐ろしい百竜夜行が」
「いつ、それが現実になるかは分からん。だが、ここ最近の大型モンスターの活発化からして、百竜夜行は確実に起こるそうだ」
四人の間に重い沈黙が続く。しかし、それを打ち破らんとする明るい声音で、ヒノエが片方だけに付いた髪飾りを揺らしながら言う。
「心配いりません。我々カムラの民が修行を積んで来たのは、寧ろこの為!今こそ、我ら里の民で手を取り、この地を守り抜きましょう!」
それに感化されたのか、ミノトも続ける。
「姉様の言う通り。いくら百竜夜行が恐ろしいとはいえ、隠れて震えているだけでは何も始まりません。私達は私達に出来ることをするまでです」
「それでは、私達は住民の皆様やハンターズギルド本部に百竜夜行のことを伝えて参ります」
そう言って、双子の姉妹は去っていった。
ハンターでもないあの二人が、百竜夜行を恐れないはずがない。だが、双子は冷静かつ前向きだった。絶望的な現実を受け止め、その上で里を、民を守る為に手を尽くす。自分なんかより余程できた人物であると、ハルトは自覚していた。
ヒノエ、ミノトの背中を見届け、フゲンは大きく口を開け笑い飛ばす。
「いやあ、頼もしくなったものよ!やはり、この里の者は逞しいわい。時にハルトよ、お主はどう考えるかね」
「俺は………せっかくハンターになったんだ、モンスターを狩りまくる。少しでも百竜夜行の被害を抑えなきゃ」
「その心意気、大いに結構!しかし、お主はまだハンターになったばかり。何事にも順序というものがあろう。
まずはギルドで登録を済ませ、装備を整えるのが先ではなかろうか?」
「…………そうだね、まだ今すぐに百竜夜行が来るわけじゃない。それまでにハンターとしての腕を磨いておかなきゃな」
「うむ、ではハンターズギルドに向かうがよい。ゴコクがお主を待っておるはずだ」
この里のハンターズギルドは、里の奥地にある赤を基調とした絢爛たる建物である。茶屋を兼ねており、オテマエという名のアイルーと呼ばれる猫に似た姿の獣人が女将を務めていた。
その入口近く、赤い大きな蛙のようなモンスター・テツカブラ(幼体)に乗った男性が手にした紙に筆で何かを凄い勢いで書き記していた。
その男性は小柄で太っており、尖った耳の下部、人間の耳たぶにあたる部分は膨らんで垂れ下がっており、どこかご利益を感じさせる風貌をしている。
彼こそカムラの里のギルドマスター・ゴコクである。
「おーう、ハルトや。遅かったでゲコね」
「まあ、昨日あんだけ飲み食いすりゃ寝るのも遅くなりますよ」
「お前さんがここに来た目的は分かっとる、ハンターズギルドへの登録ゲコ?そんなもんは済ませといたゲコよ」
「え、それ本当ですか?」
「ハルトのことは赤ん坊の頃から肉親のように面倒を見てきたゲコ、お前さんの実力はよく理解しているつもりでゲコ」
ハルトに両親はいなかった。厳密に言えば、彼が幼少の頃にこの世を去ったのだ。
母親はハルトを産んで約一ヶ月に病気で亡くなり、ハンターであった父親もその一週間ほど後にクエスト中に殉死。
フゲンとゴコクは親の顔を知らずして孤児となったハルトを哀れみ、親代わりとして彼の面倒を見ることを決めたのだった。
「そう、ですね。フゲンのじいさんやミノトも言ってました、里の民は家族同然だと。俺はこんないい里のハンターになれて幸せです」
「よくぞ言った、愛弟子よ!」
どこからともなく勇ましい声が聞こえる。ふとギルドのテラス席を見ると、逆立った髪と目元の傷が印象的な男性が腕を組んでこちらを見ていた。
カムラ出身のハンター教官、ウツシ。かつてハルトが在籍していた養成校では学年主任を務め、彼に狩りの基礎を教えた恩師である。ハルトの卒業と同時期に里に赴任し、フゲンと共にカムラ独自の戦術を編み出したのも彼だ。
「教官。今までどこ行ってたんです」
「ちょっと用事があってね。それより、ハンターになったとあれば使う武器を選ぶ必要があるけど、もう決めてるのかい?
もしそうならば、ハモンさんに言って見繕ってもらうといい」
「はい。少し悩んだんですけど、決めてあります。」
と言い、ハルトはギルドを出て加工屋へ向かう。
加工屋を訪れると、頑固そうな面構えの老人が真剣な面持ちで刀を研いでいた。
彼はハモン、この里で加工屋の店主を務める職人である。
若かりし頃はハンターをしており、フゲンと共に狩場へ赴いたこともあるという。
「……来たな、ハルト」
加工屋は武器や防具の製造・販売を行う店であり、ハンターにとって無くてはならない施設であった。
多くの地域では、竜人族と呼ばれる亜人種が加工屋を営む。
竜人族は古くより人間と友好関係を結んでおり、特徴として尖った耳と長い寿命、そして高度な技術や豊富な知識を持っている。その技術を活かし、人間には加工が難しい鉱物やモンスター素材を武具に仕立てることが可能なのだが、古くから製鉄業が盛んなカムラでは人間のハモンが加工屋を営んでいる。
しかし、里に竜人族がいないわけではなく、雑貨屋のカゲロウやヒノエ、ミノト姉妹、更にはゴコクも竜人族である。
「はい、今日は俺の武器を作って欲しくて」
「この里にハンターが産まれるとなれば、必然的にワシの仕事も増えるということだ。武具を粗末に扱うということは、カムラの製鉄技術を、里の伝統を侮辱することだと思え」
「はい、重々承知しています」
「……うむ、それで武器だったな、どうするんだ
「ほほう、そいつを選んだか。悪くない選択だ」
「養成校でも、ハルトは片手剣を多く使っていたからね。何となく分かっていたよ」
ハルトが選んだのは、カムラノ鉄片刃Ⅰ。片手剣と呼ばれるタイプの武器で、切り出し小刀のような菱形の剣と、角張った形の盾がセットになっている武器である。
片手剣は剣と盾を用いることで、攻撃と防御のバランスが取れている武器だが、双方共に小さく軽量な為、剣の一撃は強くなく、盾も防御性能は高くない。
しかし、片手剣の本懐はその機動力にある。動きを阻害しない為、武器を構えた状態でも軽快な動きを可能とし、一発の威力は低くとも繰り返し命中させることで効果的に敵モンスターの体力を削ることができる。
これにより、敵の攻撃を躱す、盾で受ける等でいなし、隙を見て急所に連続攻撃を叩き込むという立ち回りが可能なのだ。実際、片手剣を使うハンターの中には、盾によるガードはほとんど行わず、どうしても攻撃を避けられない時だけ盾で防ぐという戦法を取る者も多い。
「さて、武器もアイテムも揃ったことだし、クエストに向かうかい?」
「そうですね。ヒノエ、今届いてるクエストはどんなのがある?」
「んー、そうですね。今は火玉ホオズキの納品にジャグラスの討伐、探索ツアーならいつでも行けますよ」
「ま、初日から大層なクエストが届くこともないか。なら、素材の採取も兼ねてホオズキの納品クエストにでも行くとするよ」
そう言うと、ハルトは幾らかの小銭をヒノエに手渡す。ヒノエはそれを受け取ると、書類にハルトの名前を書き込み押印する。
ハンターがクエストを受けるには、その難易度に応じた契約金を支払う必要がある。ギルドから認められた正当な依頼である証明になるし、ルーキーがいきなり上級のクエストを受けるのを防ぐ意味合いも込められているのだ。
「はい、クエストの受注承りました。気を付けて行ってらっしゃいませ」
ハンター就任後の初仕事というには地味だが、新人のうちは下積みが重要なことはハルト自身よく理解している。住民に盛大に見送られながら、ハルトは依頼地へ向けて出発するのだった。
次回へ続く
皆様、前回ぶりです。作者のたつえもんです。
2話では、原作ゲームのテーマの一つである百竜夜行に触れ、ハルトが武器を選びました。
ハンターにとって武器の選択は重要で、ハンターとして戦う我が身の延長のようなもの………らしいですね。
ライズをプレイされている皆様は、どんな武器を使っていますか?
私は毎回、「今作はこの武器一筋でいく!他の武器に浮気はしない!」と決めるのですが、プレイを進めるうちに別の武器も気になり、結局色々な武器に手を出してしまいます。
今作は片手剣→太刀→チャージアックス→ランス→ハンマー→双剣→大剣と触れていき、現在はランスに落ち着きました(今でも大剣はたまーに使います)。
そして、今回のお話を投稿する一日前にライズのアップデートが実装されました。今回はテオ・テスカトルやクシャルダオラ、オオナズチなど古龍がメインに追加され、ヌシモンスターと通常のフィールドでも戦えるようになったとか。
ちなみに私はまだ戦ってません(HR6)。
さて、そろそろ皆様とお別れの時間が近付いて来ました。
少しだけ予告をすると、次回ハルトがついに大型モンスターと初戦闘を繰り広げます。まだハンターになったばかりの彼は、いったいどのような戦いをするのでしょうか?
では、最後まで読んでくださってありがとうございます!
また次回でお会いしましょう。
※追伸
この小説の登場人物のプロフィールも掲載していく次第です。
ひょっとしたら、3話より先に投稿するかもしれません。