モンスターハンター 焔の心   作:たつえもん

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第28話:夜のカムラで

 ユーリがカムラに駐在し、ハルト達のチームに正式に加入すると決めたことは里にすぐに知れ渡った。その後、やはり同じチームのハンターは同じ場所で過ごすべきという意見が出たので、ユーリもアリスと同じように、そのままハルトの家に居候することになった。

 そして、あれから1ヶ月程経ったある日の夜。

 

 

 

 

 

 

「……………寝れない」

 

 畳の上に寝転がりながら、ハルトは呟いた。

 もう何度も寝返りを打っており、眠れたかと思いきやすぐに目が覚めてしまう。

 この不眠の理由はハルトにも分かっている。ドスフロギィの討伐依頼を受けた日の早朝のことを思い出していたのだ。

 

 

 あの日、ハルトは思わぬ事故でアリスの一糸纏わぬ裸体を目撃してしまった。

 全身の白い肌に、「少女」から「女性」へと成長する過程を表したような、全体的に細身ながらも要所要所は柔らかそうに程よく膨らんだ身体。彼女の全身が少し火照っていたのも相まって、チームメイトのアリスが初めて見せる無防備な姿は彼の目に強烈に映り、しっかり脳裏に焼き付いてしまった。普段は大人びた態度を取ることも多いハルトだが、そういう部分はまだまだ思春期の青年であった。

 

「はぁ……………ちょっと外に行くか」

 ハルトは気分を変える為、外気を吸いに出ることにする。アリスとユーリを物音で起こさないよう、できるだけ静かに戸に向かうと、

 

 

「あら………ハルト様」

 

 偶然、こちらの部屋に向かっていたアリスと鉢合わせた。

「アリスか。なんだか寝付けなくてな、ちょっと外に行こうかと思ってな」

「実は私もなんです、お水を飲む為に来たのですが、私もご一緒してよろしいですか?」

 その言葉にハルトは二つ返事で頷き、二人で夜の里を散歩することにした。

 

 

 

 

 

 夜の里は、見慣れた昼間の様子とは違う顔を見せている。いつもなら多くの人が行き交い賑わいを見せる通りも、今は住民は一人として外に出ておらず、店は全て閉まっている。篝火(かがりび)を焚いている竜の頭を模した2本の灯台を除けば、今明かりは月だけである。

 

 辺りを少し歩いて見た後、二人は今ハンターズギルドの手前のベンチに並んで座っている。

「それにしても、いつもの里とは随分雰囲気が違って見えますね」

「そっか、アリスは夜に出歩くのは初めてだっけか」

 アリスは微笑み、静かに頷く。

 

「ところで、ハルト様。先程、寝付けないと仰っていましたが」

「あ、ああ」

 例え冗談であっても、アリスの裸を思い出して寝れませんでした、なんて本人に言う度胸はハルトにない。少し返答に困っていると、

「覚えていますか?ユーリ様が、私達と初めて会った日のことを」

「え………いや、その」

 まさか、アリスは今まさに自分が考えていたことを話す気ではないかと危惧する。もしそうなれば、自分は何て反応をすればいいのだろうか、などと考えていると、アリスはゆっくりと口を開き、彼の予想だにしていなかったことを話し始める。

 

 

「私あの時、悪い夢を見たと言ったんですが」

「あぁ…………そういえば、確かにそんなこと言ってた気が」

 あの日、彼女が服を着ていなかったのは、着替えの途中だったのではないか。アリスはいつも起きる時間よりもずっと早くに目を覚ましていたし、悪夢のせいで寝汗をかいていたとするならばそれも当然である。

「実は、その夢というのが……………はぁっ、ハルト、様が…………」

「お、おい、どうしたアリス?大丈夫………じゃ、なさそうだけど」

 話していると、突然アリスは息が荒くなり、自身の視界がぐるぐると回り出すのを感じる。だが、目を瞑ってどうにか言葉を紡ぐ。

 

「ハルト様が、得体の知れないっ、モンスターに……………殺されていた、夢だったのです」

 

 

「な………………!?」

 

 アリスの口から発せられた言葉に、ハルトは目を見開いて驚く。彼女は俯いたまま、震える声で続ける。

「夢だというのは、分かっています。でも……………私には、それがただの夢であるようには思えないんです。もしかしたら、いつか本当になってしまうんじゃないか、って………」

 ハルトは、神妙な面持ちで黙ってアリスの話を聞いていた。

「ハルト様は、これまで何度もクエスト中に私を助けてくださいましたよね?それは、とても嬉しいんですが……………

 

先日のドスフロギィ討伐の時は、少し怖くて、不安だったんです。あの夢を見たすぐ後だから」

 泣きそうな声で言い終わると、アリスはハルトの胸元に顔を埋め、ハルトは背中に手を添えてやる。彼女の体は、小さく震えていた。

「アリス…………ありがとう、俺に打ち明けてくれて。

 

 

それと、アリスが、チームメイトがそんなに悩んでるのに…………気付いてやれなくて、すまなかった」

 ハルトは優しい声色で話すが、その表情は悲しさと悔しさが混ざった、彼女の心情を理解できていなかった自分を責めるような顔をしていた。

 

 同時に、彼は今の自分の戦い方に疑問を抱いていた。

 

 生まれ育ったカムラの里を守るため、そして里の住民だけでなく、困っていそうな人は助け、守ってやりたい。彼はそんな志を抱いてハンターになった。

 だからこそ、攻守において万能な片手剣を選んだ。だが、片手剣のガード性能は高いとは言えない。それはハルトも理解しているのだが、武器や戦闘スタイルを変える気にはなれない。

 

「アリス…………俺は、今のままでいいんだろうか」

「えっ……………?」

 アリスは顔を上げ、ハルトと目線が合う。ハルトはたった今頭に浮かんでいたことを話すと、アリスは少し考えた後で、

 

「私は、ハルト様が決めたことなら、その意見を尊重します。だって、貴方を信頼していますから」

「アリス…………………」

 まさか、かつて自分がアリスに言ったことをそのまま言われるとは。

「ハルト様は、一人で抱え込みすぎです。たまには、私やユーリ様のことも頼ってください。だって……………仲間なんでしょう?」

 

 アリスの言葉を受け、しばしの沈黙の後ハルトは頷き立ち上がる。

「今日はありがとう、少し気持ちが楽になった気がするよ」

「いいえ、私こそ、ありがとうございました。

 

ところで、ハルト様はどうして眠れなかったのですか?」

 ハルトに続いて立ち上がりながら訊くアリスに、ハルトは悪戯っ気な表情で振り向き「秘密だ」と言う。

「もう、私はあんなに話したのに…………ハルト様はいじわるです」

「へへ、言ってろ。俺にだって言いたくない秘密くらいあってもいいだろ」

 二人は晴れやかな表情で言い合いをしながら家へと戻る。

 

 今夜は、よく眠れそうな気がした。

 

 

次回へ続く

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