ハルトがハンターになってから、早いもので一ヶ月が経っていた。
この間に、ハルトは火玉ホオズキの納品をはじめ、特産キノコの納品、ジャグラスの討伐クエスト等をこなしていた。
何度かハンターが里を訪れることもあり、里全体に少しずつ活気が出てきた。
そして、今日はイズチと呼ばれる小型モンスターの討伐に向かうところだ。しかし、ハルトには一つ気になる点があった。
「それにしても、まだイズチの討伐依頼が出てるのか。もう4回目にはなるぞ」
「そうなんですよ、ここのところイズチの数が減らないみたいで。
大量発生しているとはいえ、私もさすがに多すぎるとは思うのですが」
そこまで聞いて、ハルトの中に一つの推測が浮かぶ。
「………ミノト。今、大社跡の辺りのモンスターの出現状況は?」
「今のところは、前回のクエストと変わっていないみたいですね。
ブンブジナ、ブルファンゴにケルビと、後はブナハブラがいるそうですが」
「………そうか、だったらいいんだが」
ただの杞憂だったかと思うと、ハルトはポーチの中のアイテムを確認し、クエストに向かう。
「ハルトさん、心配性ですねえ。クエストをこなしていけば、そのうちイズチ問題も収まるかと思うんですけど」
大社跡に向かうハルトを見送りながら、ヒノエは先程のやり取りを思い返していた。
「……姉様。ひょっとしたら、ハルトさんは何かの異変を察知しているのかもしれません。例えば、大社跡で予期せぬ出会いがあるかのような」
「大社跡………そういえば、一時間程前に旅のハンターが探索ツアーに向かっていたゲコね。何でも、この辺りに来るのは初めてだからフィールドの情報を覚えておきたいとかで」
「そういえばそうでした、まだハルトさんは会ってない方ですよね。
もう少ししたら入れ違いになって戻って来るか、ひょっとしたらハルトさんとすれ違うかも」
依頼地となっている大社跡は、高低差があり草木が生い茂る平原である。昔は神職者が祈祷する場所だったらしく、そこかしこに古い建築物の残骸が残っている。
「うし、さっさと終わらせるか。
ゴコクのじっちゃんは旅のハンターが来てるって言ってたし、帰ったら挨拶しとかないとな」
ギルド本部を通して出された公認の依頼は、このように支給品が手配されることになっている。ハルトが手に取ったもののうち、瓶に入った液体は体力を回復させる応急薬、紙包みはスタミナを一時的に増やす支給用携帯食料と呼ばれるものだ。他には空きビンやボウガンの弾など、ガンナー向けのアイテムも入っており、依頼の内容によっては、解毒薬やウチケシの実など別のアイテムが支給される場合もある。
近くにあった薬草を採取し、拠点から伸びる下り道を降りると、広大な原っぱが広がる。
そこはエリア1と呼ばれる場所で、ウチケシの実やホオズキが自生する他、ハチミツの採取も可能となっている。
エリア1を駆け足で移動するハルトの視界に、何匹かの狸獣ブンブジナが映る。
ブンブジナはほとんど人間を襲うことのない穏やかな性質をしており、今はのんびりと草を
エリア1を北東に進み、細い上り坂を抜けると木漏れ日の差すエリア3に出る。
「あれ?」
エリア3に入ってすぐ、ハルトは異変に気付く。
通常、このエリア3ではジャグラスと呼ばれる鳥竜種が見られるのだが、今日はそれらが一匹もいない。
多少の違和感を覚えながらも、何かのモンスターの骨の残骸を幾らか拾いエリア3を足早に去る。坂を駆け上がり、エリア7へと向かう。
そうしてエリア7に到着すると、前方に何匹かのモンスターの姿が見える。
首と尻尾は長く伸び、前脚は小さく退化していたが後脚はその分発達しており、鳥竜種特有の「丁」の字を思わせる体型をしている。その体はオレンジと白の体毛で彩られ、尾の先端には湾曲した一本の長い棘が生えていた。
今回のクエストの
「やっぱりここにいたか、さっさと片付けるぜ」
言うが早いか、ハルトはカムラノ鉄片刃を抜くとイズチ達に向けて切りかかる。
既にハルトはイズチ討伐のクエストを三回もこなしており、イズチの習性や行動パターンはほとんど理解している。だからこそ今回は前回までと同様にエリア7にイズチがいると踏み、真っ直ぐ向かって来たのだ。
イズチの一匹がこちらに気付くと、甲高い声を上げて仲間を呼ぶ。ハルトはその隙を見逃さず、勢いそのままに声を上げていたイズチに向けて二度、三度と斬撃を繰り出す。
刃がイズチに当たるたび、切られた体毛が舞い散る。攻撃にイズチは一瞬驚くも、すぐに持ち直す。ハルトに噛み付こうと口を開けるも、ハルトは既に横転してイズチの横にいる。そしてもう何度か片手剣を振るい、イズチの一匹を沈黙させた。
そこへ、新たに三匹のイズチがやって来る。先程のイズチの加勢に来たのだろう。
仲間が来たのを見計らい、既にその場にいたイズチが飛びかかる。距離があった為、ハルトは難なく避けると、イズチの勢いを利用しカウンター気味に斬りつける。一太刀で皮と肉が裂け、今度は一撃で動かなくなる。
仲間の声に駆け付ければ、自分達を呼んだであろう一匹は既に亡骸となり、もう一匹は目の前で屠られた。人間が只者ではないと察した三匹のイズチは、声を上げて更なる加勢を呼ぶ。
「隙だらけだ、行くぞ!」
と、ハルトが再び特攻を仕掛けようとした時、ザッザッと草を踏む足音が聞こえる。
イズチにしては大きく重い足音であり、もしやと思いエリア7の更に奥を見ると、その予感──更に言えば里を出る前から考えていたことが的中した。
イズチと体型はほとんど変わらないものの、大きさはその倍以上。そして尻尾の棘は鎌のように長く鋭くなり、
イズチの群れを束ねるそのモンスターの名は、
「オサイズチっ!」
予想はしていたものの、まさか本当に現れるとは。
現状、ハルトの手元にあるのは支給品の応急薬と携帯食料に、回復薬が四本と採取したハチミツや骨。更に片手剣はイズチとの戦闘で少し消耗してしまい、満足に戦える状態ではない。
かと言って逃げられる状況ではない。周りをイズチに囲まれてしまったのだ。鳴き声で指揮を取っているのか、イズチ達の間に統率が生まれている。
「ウォォオーーーーーッ、グォォオーーッ」
「くそっ、もっと回復薬を持って来るべきだったか」
今更後悔しても遅いが、次からは簡単なクエストでも準備を怠らないようにしようと決める。そんなことを考えていると、目の前のオサイズチがこちらへ走って来る。
「やべ………!」
咄嗟に横っ飛びに転がり、その直後にハルトが立っていた場所に尻尾が突き刺さる。深々と抉られた地面が、その威力を物語っていた。
「くっそ、どいてろ!」
回避行動を行ったことで相対的に自分の近くに来た1匹のイズチにカムラノ鉄片刃を叩きつける。
毛が数本散らばるが、致命傷には至らなかったようだ。
群れの一匹が攻撃を受けたことで、他のイズチも反撃を開始する。まるで軍隊の陣形のように一匹が攻撃したら後退し、別の一匹が攻撃を仕掛ける。オサイズチがいるからこその連携だろう。
イズチからの猛攻の合間を縫って、どうにか群れの一匹を仕留める。ふとオサイズチを見ると、身体を屈めて尻尾を振り上げている。危機を感じ、ハルトはすぐさま盾を構える。
刹那、鎌鼬竜が太刀の奥義・気刃大回転斬りのように尻尾を振り回しながら突撃する。ヒュンヒュンと風を切る音と共にオサイズチがすぐ近くまで迫り、盾からガリガリと金属を擦る音が鳴る。
しかし片手剣の小さな盾では威力を殺しきれず、右手ごと盾を弾かれ、ハルトは体制を大きく崩して後ずさりする。
何とか持ち直し、盾の表面を見るとオサイズチの鎌の一撃を受けたであろう箇所が一直線に削られていた。盾を構えるのがあと一歩遅れていたら、今頃ハルトの身体は一刀両断されていたに違いない。
「あれは……絶対に喰らっちゃダメだ」
どうにか立ち直るがイズチが眼前まで迫っており、噛み付こうとするも回避する。しかし、その隙を狙い鎌鼬竜は体当たりを仕掛けて来た。これは避けられず、まともに受けてしまう。
「がは………!」
何度も地面を転がり、崖の壁面に背中を打つ直前でようやく勢いが止まる。体制を立て直そうとするが、既にオサイズチは次の行動に移っていた。体を低くして尻尾を振り上げる、先程も見せた回転攻撃の構えだ。
「くそ…………俺、ここで死ぬのかな………。
久しぶりに里のハンターが生まれたって期待されてたくせに、随分呆気なく終わるんだな」
今、彼にはそれを避ける体力も盾を構える余裕もない。
オサイズチが低くいななき、ハルトは死を覚悟した。
ドガッッ!!!
「ギャオォォォ!?」
しかし聞こえて来たのは風切り音ではなく、何か硬いものがぶつかり合う音と鎌鼬竜の鳴き声だった。すかさず視線を上げ、オサイズチの方を見ると、そこにはハンター用の防具を身に付けた人物が自分と同じくらいの大きさの鈍器を振り下ろしていた。恐らく、先程はそれでオサイズチを殴り付け、予期せぬ方向からの襲撃にオサイズチが怯んだのだろう。
鈍器を持ったハンターはハルトに気付き、武器を納めると駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?」
その人物の声を耳にし、更に近寄って来た顔を見て、ハルトは驚いた。そのハンターは少女だった。それも、自分と歳がほとんど変わらないように見える。
「あのモンスターの攻撃を受けたのですね……立てますか?」
「あぁ、何とか…………いてて」
少女に手を借りながら、ハルトはようやく起き上がる。更に応急薬を飲み、ダメージもある程度は回復する。
「ここは私が食い止めますので、その間に逃げてください。私も後から追い付きますから」
「えっ………そんな、だったら俺も残って戦う。
あいつらと一人で戦うなんて、そんなこと」
「それができるのは万全な状態ならの話です。生憎、私も回復薬はほとんど残っていませんし、それにここで二人とも果てれば元も子もありません」
ハンターとはいえ会ったばかりの人物を一人残して去るのは気乗りしなかったが、その少女は冷静に自分達の現状を把握していた。それに、その眼差しは反論を許さないと言わんばかりに力強い。
「………分かった、エリア1で合流しよう。
必ず来いよ!」
と言い残し、ハルトは通過点であるエリア3まで走り出す。それを見て、少女は自身のポーチから球状のものを取り出し、イズチ達目掛けて投げ付ける。その直後、眩い光が辺りを覆い、視界が一瞬ホワイトアウトする。
閃光玉を投げたのだ。
閃光玉はカプセル状の球の中に光蟲という昆虫を閉じ込めたアイテムで、投げ付け、割れると刺激を受けた光蟲が強い光をほとばしらせ、しばらくの間モンスターの視界を奪うことができる。しかし、中には著しく効果が薄いものや、一切効かないものもいる。
イズチとオサイズチには効果を発揮し、目を開けられず狼狽していた。その間に少女もモンスターの群れを抜け、ハルトと同じルートを辿りエリア1へと向かうのだった。
次回へ続く
皆様、前回ぶりです。作者・たつえもんです。
ということで、ハルトの初めての大型モンスターとの戦いはクエスト中の乱入、あえなく敗走という形に終わりました。
そして、ハルトに助太刀したハンター少女は何者なのか?
察しのいい方なら気付いてるかもしれませんが、そういうことです。
あと、次回はハルトの隠された特技がちょっと分かったりもします。お楽しみに!
さて、そろそろお別れの時間が近付いて来ました。
読んでる方の中には「今回、後書き短くね?」って思う方もいらっしゃるかもしれません。
今回は戦闘中の描写を書き込んだのもあって本文がかなり長くなったので、その代わりに後書きを短めにしました。
では、最後まで読んでくださってありがとうございます!
また次回お会いしましょう。