倒れたまま気絶し、動かないハルトに歩み寄るフルフルと、それを遮るように立ちフルフルをじっと見つめるアリス。その目には涙が浮かび、脚は震え腰が引けており、フルフルに怯えているのは明白だった。
「(怖い、怖い、怖い、怖いぃぃぃぃっ……………!
でも、ここで私が逃げたら、ハルト様が………!)」
だが、すぐ後ろのハルトを守らねばという精神でアリスはどうにか正気を保つ。そしてフルフルは全身に電気を纏い、気絶させたハルトをアリス諸共仕留めようと飛びかかる。
「っっっ!!!」
迫り来る恐怖に、アリスは堪らず目を瞑る。
ズデェェェ………ンッ!!
「グゴォォォ!?」
「ほえ…………?」
しかし、アリスの身には痛みも何も訪れず、大きく重い物が落ちる音とフルフルの悲鳴が聞こえ、ゆっくりと目を開けると、目の前でフルフルが両脚をばたつかせながら起き上がろうともがいていた。そこへ、弾丸がフルフルの頭に着弾し爆発する。それはユーリのライトボウガンの徹甲榴弾のものであり、恐らく先程も徹甲榴弾で頭部を狙撃し、その衝撃で奇怪竜を気絶させたのだろう。
「すみませんユーリ様、助かりました!」
「こっちこそありがとうな、予め頭を攻撃しとってくれたアリスはんのおかげやで!」
互いに感謝を述べるとアリスはフルフルに意識を戻し、ボーンホルンでの打撃を再開するべく武器を構える。その直後、突然身体に力が漲る感覚を覚えた。ふと足元を見ると、水面の下で色とりどりの烏賊が並んで泳いで行くのが見えた。
あれはシラヌイカと呼ばれる、寒冷群島にのみ生息する環境生物であり、触れると体色により異なるメリット効果を得られるのだ。
クロームもシラヌイカによる強化を受け、一同は勢いよく攻める。アリスは頭部を殴り、クロームは刺突と砲撃で背中を攻撃し、ユーリは遠距離から翼を狙い撃つ。
そしてアリスが震打を放ったタイミングで奇怪竜は起き上がり、その場で翼を広げて飛び立つ。フルフルに接近していたクロームとアリスは風圧に煽られて動きが止まってしまうが、エリアを移動すると分かり砥石を出して武器の切れ味を回復させていると、ようやく気絶から立ち直ったハルトも合流した。
「すまん、ほとんど何もできなかった。首が伸びるってのは聞いてたけど………あんなに伸びるなんて思わなかったよ」
「ホンマ、どこまでも初見殺しなモンスターやで。クロームはん、竜撃砲の放熱はどない?」
「…………いや、まだかかりそうだな。どのみち、フルフルはまだ倒せそうにないから問題はない」
クロームは短く返事をし、各々が武器の仕度を終えると立ち上がりフルフルを追う。
一同は奇怪竜の足取りを追い、エリア7で交戦していた。ここまで来ればクローム以外のメンバーもフルフルの動きに慣れたようで、冷静に対処できるようになっていた。
「ユーリ!そっち、電撃ブレス行ったぞ!」
「よっしゃ!」
「放電が来る、剣士は離れろ」
「はいっ!」
そうして交戦しているうちに、フルフルは口から涎を垂らし始める。これまでのダメージが重なり、疲労したのだろう。
「ブゴォォッ!」
フルフルは前脚を地に付け放電を試みるも、少量の電気を発したのち、身体を震わせるだけで空振りに終わる。
ハルトはその隙を逃さず、素早く接近して連続して剣撃を叩き込み、迫る尻尾を躱すとすかさず風車で反撃する。他の三人もハルトに続いて攻め込み、四方八方から攻撃を受け続けた奇怪竜は再び怒り出し、口から電気を零す。
怒り状態に移行したフルフルはまたしても咆哮を上げる。フルフルの大音量の叫び声は何度聞いても慣れることはなく、一同はその場で動きを止めてしまう。
ようやくバインドボイスから解放されると、フルフルが立ち上がって口元に帯電しているのが見えた。アリスとハルトはすかさず横転し、その直後にフルフルの口から雷球が放物線を描いて飛来する。それは二人が立っていた場所に着弾し、目の前に意識を戻すとフルフルはユーリに向けて電撃ブレスを放つ体勢を取っていた。
それを見たアリスはチャンスとばかりに奇怪竜に接近し、三音演奏から気炎の旋律に繋げてパーティ全体を強化する。
「ありがとな、アリス!よっし、一気に………」
言いかけたところでハルトの動きが止まる。アリスとクロームは何事かと思い、彼の視線の先を見ると、ユーリがその場でフラフラと倒れるのが見えた。
「そんな、ユーリ様、どうして!?」
「………あいつだ。俺が行く」
と、クロームが向かった先にはバギィがいた。おそらく、フルフルに夢中になっている隙に背後から睡眠液をかけられたのだろう。
そして、ユーリの危機によりアリスとハルトは目の前の標的から注意を逸らしてしまい、それはフルフルからすればまたとない好機となった。
「ゴワォォォ!」
「がぁぁぁっ!」
フルフルは首を伸ばして噛みつき攻撃を繰り出し、それを喰らったアリスは衝撃で吹き飛ぶ。
「くぅ……………!」
何度か地面を転がり、アリスは牙を受けた右肩を押さえてうずくまる。フルフルの唾液には酸が含まれている為、その影響でより深く歯が刺さったのかもしれない。そして、フルフルはその隙を逃さず電撃ブレスで追撃を狙う。
「くそっ、させるか!」
それを見たハルトがブレスの射線を遮るように立ち塞がり、ガードの構えをとるものの、地を這う電撃は盾を無視して足元からハルトを感電させた。
ハルトもその場に倒れてしまい、現状フルフルを攻撃できるのはクローム一人だけとなってしまう。しかし、そのクロームはバギィの眠り攻撃を受けたユーリの元にいた為、フルフルから離れた場所にいる。
今からハルト達がフルフルの餌食になる前に攻撃を加えるのは無理があるかと思われたが、クロームの脳裏にはとある過去の記憶が浮かんでいた。
『お前、本当にチームを抜ける気なんだな』
『何度も言わせるな。俺はもう、パーティは組まない。生涯
『そうか、それがお前の決断なら否定はしない。
だが、これだけは言わせてくれ』
『私は、お前をそんな悪い奴だと思っていない。きっと、あいつもそう言うだろうさ』
「ギル…………
俺は………………」
クロームは小さく呟き、フラムエルハスタを後ろに向ける。
「もう、目の前でハンターの命を失わせはしない!」
その言葉の後、爆発音が鳴り────
クロームは、宙を舞っていた。
最近新たに生まれたガンランスの技能、ブラストダッシュ。超圧縮した砲撃を地面に向けて発射することで、その反作用でジェット噴射の要領で空中を高速移動できるのだ。
クロームは高速でフルフルに接近すると、その勢いと落下重力を活かしてガンランスの砲身を思い切り首に叩き付けた。
「ゴガァァァッ!?」
思いもよらぬ打撃を受けたフルフルの頭部の皮が破け、内側の赤い肉が露出する。そのまま手元の引き金を入れ、装填されていた全弾薬を纏めて放つフルバーストに繋げ、それを受けた奇怪竜は横倒しになる。
「クロームさん!」
「すげえ…………ガンランスがあんな機動力を見せるなんて」
行動不能に陥っていた三人も身体の自由を取り戻し、クロームの暴れっぷりに舌を巻いていた。その時、フラムエルハスタの砲身の一部がガチャリと音を立てて閉じる。竜撃砲の放熱が完了したのだ。
それを確認したクロームは、すかさず盾を構えて銃槍の柄を握り締め、先端をフルフルに向ける。砲口に凄まじい熱量が集束し、小規模な蜃気楼が周りに発生する。
「
クロームの掛け声の直後、轟音と共に放たれたエネルギーの塊がフルフルの体を直撃する。その衝撃でフルフルは一度立ち上がり、フラフラとよろめいた後に白い巨体が音を上げて倒れ、そのまま動かなくなった。
「……………討伐、完了だ」
亡骸となった奇怪竜から剥ぎ取りをし、アリスが肩に受けた噛み跡の治療を済ませた一行は、ポポ車に乗り里への帰路へ着いていた。今回の狩猟はハルト、アリス、ユーリにとってはかなり精神的に疲労するものだったらしく、疲れの混じった顔を見合わせていた。
「しかし、フルフルってやつは本当に妙な攻撃ばかりしてくるもんだな」
「はううぅ………………本当に怖かったですぅぅ」
「まぁ、気持ちは分かるよ。帰ったら思い切り寝て休もうぜ」
「せやけど、どないする?あんな顔のモンスター、夢に出て来たら……………」
「やめてくださいっ!思い出したくないぃぃ………」
そんな三人を見ていたクロームが、不意にジュラSヘルムに手をかけると、留め具を外しておもむろにヘルムを脱ぐ。その様子にハルト達は少し驚き、クロームの素顔をまじまじと見ていた。長めの黒髪をオールバックにし、日に焼けた色黒の顔は少し頬がこけ、鋭い両目は先程まで見せていた実力を想像するに難くない歴戦の狩人らしい面構えだった。
「………何か俺の顔についてるか?」
「いや、クロームはんのヘルムの下の素顔、初めて見るんで」
「む………そうだったか」
それからクロームはしばらく沈黙した後、
「パーティを組むのも悪くないかもな」
と、小さく呟いた。
「………?クローム様、何か仰いましたか?」
「いや、個人的な話だ。気にしないでくれ」
その後、クロームは自身の拠点を置く村に帰ってから、村民達に雰囲気が変わったと噂されたという。
次回へ続く
皆様、こんにちは。作者・たつえもんです。
ということで、フルフル編クライマックスです。クロームが上位ハンターの格を見せつけ、ずっと無双し続けた回でした。
さて、話は変わりますが、近いうちにハーメルンで新しい小説を投稿し始めるかもしれません。
今度の小説はモンハンみたいな他のゲームやアニメを題材にしたものではなく、完全オリジナル設定に挑戦してみようかと思ってます。まだ構想段階で色々と不確定な部分も多いですが、ストーリー全体の流れや細かい設定が固まって来たら上げてみようと思います。投稿した際は活動報告とライブドアブログでも報告しますね。
それでは、今回はこの辺で失礼します。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
また次回お会いしましょう。