モンスターハンター 焔の心   作:たつえもん

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第6話:アリス、里を知る

「………ん、ここは」

 

 目を覚ますと、見慣れない天井がアリスの目に入って来る。そして上体を起こすと、天井だけでなく布団から部屋の内装に至るまで、ほとんどが初めて見るものである。外はまだ日が昇り始めた頃で、まだ朝早い時間だった。

「えっ………と、確か昨日は」

 昨日は色々なことがあって疲れていたのか、着替えて布団に入るとすぐに寝てしまった。しかし、朝日を浴びて脳が覚醒し始め、次第に昨日あったことを思い出す。

 

 

 昨日の昼頃にカムラの里に到着し、ギルドでしばらく滞在することを伝えた後、大社跡の探索ツアーに向かった。そこで素材をある程度採集し、里に戻ろうかという時、見たことのない大型モンスターがいた為、近くに行ってみれば一人のハンターがそのモンスターと戦っていて、しかも攻撃を受けて吹き飛ばされていたのだ。

 武器も防具も初めて見たものだった為その人物の力量は分からなかったが、直感的に危険を感じた為、強引に介入し逃げさせた。

 そして里に戻り、なんとかハルトを説得して彼の家に泊まることになったのだ。空き部屋の一つをハルトに貸してもらい、布団を準備するとすぐに自室に戻ってしまった為、里に戻ってからはハルトとあまり話せていない。

 

「そうでした、ここはハルト様のご自宅。

お部屋を貸してくださったのでしたね」

 記憶を整理し終わると、冷静になった頭の中に一つの雑念が浮かんで来る。

「わっ……私、他の方のお家に泊まるのは初めてなのに、それも男性の………!」

 昨日はハルトを納得させる為にああ言ったが、アリスは今まで他人の家に外泊したことはない。更に言えば同性ならまだしも、相手は男性。異性の家に泊まったことを急に意識してしまい、顔が一気に熱くなる。

 とりあえず、顔を覚ますついでに散歩に行こう。そう思い、着替えてハルトの寝る居間に向かうと彼はまだ寝息を立てて眠っていた。

「ハルト様も疲れていますよね。少しだけ、風に当たって来ます」

 小声で言い残し、机に書き置きをして起こさないよう静かに戸を開けて出る。

 

 外に出ると、まだ早い時間にも関わらず人々がせわしなく働いていた。息を深く吸い込むと、朝の澄んだ空気が肺に取り込まれ心が軽やかになってくる。

 アリスは伸びをすると、目の前の少年が店番をしている露店に立ち寄る。露店には白い三角形の塊が並んでおり、アイルーの顔を模したものもある。

「あ、昨日のハンターのねーちゃん!いらっしゃい。おにぎり、食べていく?」

「これはオニギリ、という食べ物なのですか。私の地元では見たことありませんでしたね…おひとついただいてもよろしいですか?」

 と言って代金を払い、少年からおにぎりと呼ばれた物を受け取ると一口頬張る。感動的な程美味しいというわけではないが、米の味と程よい塩気が体のスイッチを入れてくれるような気がした。

「美味しいですね。ここのご飯はどれも美味しいです」

「気に入ったらまた買いに来てよ、今度はハルトと一緒でもいいんだぜ」

「あら、セイハク。朝からアリスちゃんとお話とは羨ましいねぇ」

すると、通りかかった女性が茶々を入れて来る。

「なんだよ、別にいいだろ。アリスさん、ウチのおにぎり美味しいって言ってくれたんだぜ」

「そうかい、良かったねぇ。コミツちゃんからやきもち妬かれないようにしなよ?」

「なっ……ちげーし!別に、そんなんじゃねーから!」

 既に完食していたアリスは、二人の会話を微笑ましげに聞くとその場を後にする。

 

 おにぎり屋を離れたアリスは、カゲロウが営む雑貨屋と通路を挟んだ向かい側にあるベンチにヒノエと二人で座って話していた。どうやら二人は馬が合うようで、昨日のうちにすっかり打ち解けたらしい。

「それにしても、アリスさんは早起きですのね」

「いえ、実家では親が厳しかったこともあって、もっと早い時間にはもう起きていましたよ。ところで、ハルト様は起こさなくてもよろしいのでしょうか?」

「ハルトさんなら、昼前までには起きて来るんじゃないですか?」

「そうですか……あまり、他の人が起きる時間というのを気にしたことがないのですが、男性とはそんなに長く寝るのですか」

「ハルトさんは特別ですよ、元々起きるのが遅い方ですし。

そうですね、まだ朝も早いですから、良ければ里を案内しましょうか?」

「はい、是非お願いします」

 ヒノエの提案に、アリスは快く返事をした。

 

 

 それから、ハンターズギルド集会所、カゲロウの雑貨屋、ハモンの加工屋、コミツの林檎飴屋、ヨモギの茶屋と見ていった。既に日は高くなり、もう昼になったところだ。

 そして、今二人がいるのはオトモ広場。たくさんのアイルーと、ガルクと呼ばれる大型犬のような姿のモンスターがおり、海に面した橋では緑色の異国の服を来た交易窓口を担当する女性・ロンディーヌの指示のもと、アロイネコシリーズを着用したアイルーが重そうに木箱を運んでいた。

 広場にいるアイルーとガルクは、前髪で左目を隠した心優しい少年、イオリが世話をしている。

 イオリは加工屋のハモンの孫で、ハモンは加工屋の家系に生まれながら軟弱な孫だと言ってはいるが、本心ではイオリをとても心配していた。

「ヒノエさん、こんにちは。それと、昨日来たアリスさんだよね。オトモをクエストに連れて行きたい時は僕に言ってね」

 アイルーとガルクと戯れていたイオリは、二人に気付くと笑顔で挨拶する。

「ありがとうございます、ではまた後日頼りにさせてもらいますね」

 

「お、いたいた。オトモ広場に来てたのか」

 背後から聞こえる声に振り向くと、ハルトがこちらに歩いて来ていた。

 昨日はカムラノ装シリーズを着た姿しか見ていなかったからか、私服姿のハルトは少し新鮮に見える。

「あら、ハルトさん。おはようございます……と言っても、もうお昼ですが」

「ハルト様は、いつもこんな時間まで寝ていらっしゃるのですか」

「いや、今日は特に遅いかな。昨日、色々とあったからさ」

 言いながら目を擦るハルトを見て、彼も自分と同じように疲れていたのかと笑みを零す。

「そうだ、あと一箇所案内していない場所がありますが……ここはハルトさんが案内した方がいいですね」

オトモ広場(ここ)に来てるってことは、あそこか。

よし、行こうぜアリス」

 と言って停めてあったボートに目をやると、ハルトはアリスと二人乗りでボートを漕ぎ、ヒノエはそれを手を振って見送る。

 

 

 そうして、二人を乗せたボートは広い空洞に辿り着く。

 手前には大きな箱の中に何本もの武器が立ててあり、奥の広い空間にはヨツミワドウと呼ばれるモンスターを模した巨大なカラクリが設置されている。

「ここはウツシ教官とフゲンのじいさん、加工屋のハモンさんが造ったハンター向けの修練場だ。その箱に入ってる模造武器で動きの練習だったりとか、あのカラクリは攻撃を仕掛けるよう設定できるから防御の特訓もできる」

「すごいですね……こんなに手の込んだ練習場も珍しいと思います」

 そう言いながら、アリスはあちらこちらへと興味深そうな目を向ける。

「でも、ハルト様はそれだけ期待されていたんですね。羨ましいです」

「別に……俺だけの為に造ったわけじゃないだろ?」

 そのまま、「アリスはハンターとして期待されなかったのか?」と聞こうとしたが、やめた。

 ハルトがアリスの方を見ると、彼女はどこか悲しそうな目をしているように見えたからだ。

 

 

 それから時間が過ぎ、空には夜の帳が掛かり始めている。

 二人のハンターはハルトの家に戻っており、台所でハルトが夕飯の支度をしていた。

「すみません、食事まで用意させてしまって」

「気にすんなって、俺がやりたくてしてるんだから。

もうすぐできるから、もう少し待っててな」

 

 そして、食卓には米と味噌汁、特産キノコとホワイトレバーの炒め物という献立が並ぶ。味噌汁には野菜を多めに入れており、シンプルながらもバランスの取れたメニューだ。

 ちなみに、アリスは箸で食事をしたことがない為フォークを出そうかとも提案したが、本人が箸を使うのに慣れたいと言った為そちらの意見を尊重した。

「もうちょっとで俺も座るから、先に食べてていいぞ」

「では……いただきます」

 と言うと、アリスは味噌汁を一口すする。

 彼女はこれを口にするのは初めてのはずだが、どこか懐かしさを覚える味だった。喉を通ると体の内側から安心感が広がり、ふぅと息をつくと、感じていた緊張も幾分か和らぐ。

「不思議ですね。初めての味なのに、なんだか心が落ち着くような感じがします」

「味噌汁はそういうもんだよ、作る家によって具とかも変わるらしいけどな」

 ハルトも向かい側に腰掛け、食事をとり始める。

 続けて、レバーとキノコの炒め物をアリスは慣れない箸を使って小皿に取り、手先を震わせながらも口に運ぶ。そうして何度か咀嚼をすると、彼女は目を見開いて言葉を失った。

「ど、どうした、硬い物でも混ざってたか!?」

「あ……いえ、食べたことのない味付けだったので、少し驚いてしまって。とても美味しいです」

 そう、美味しかったのだ。

 以前、旅に出て間もない頃に自分も同じ特産キノコとホワイトレバーの炒め物を作ったことがある。だが、今食べたものは自分が作ったそれよりもずっと美味しい。

 女性として重要な要素である料理の腕で、しかも男性のハルトに劣っていると分かったアリスは少し落ち込んでしまった。

 

 食事を終え、二人で食器の後片付けをしている時にアリスは一つ質問をしてみる。

「あの、ハルト様はよくお料理をされるのですか」

「そうだな。家に自分しかいない時も多かったし、ハンターは体も資本だからな」

 それを聞いてアリスはそういうことかと納得する。

 あの時、自分はまともに料理なんてしたことが無かった。かと言って、今でも出来るようになったとは言えない。長年の経験と練習があそこまでの差を作ったのだ。

 自分が旅を再開するまでに、ハルトに料理を少し教えてもらおうと決意したアリスであった。

 

 

次回へ続く




 皆様、前回ぶりです。たつえもんです。

 突然ですが、前までの話に少し手を加えました。と言っても、文頭を1字分開けたり、改行のバランスを少し変えた程度ですが。

 今回は、アリスがカムラに詳しくなった回です。モンハンの小説のくせに全然モンスターとの戦闘シーンがありませんが、次回ついにオサイズチとのリベンジマッチが訪れます。ご期待ください!
 そして、以前後書きで書いたハルトの特技。何とも羨ましい限りですね。私も料理はそれなりに出来る方ですが、自信があるメニューは2つくらいしかありません(苦笑)。

では、最後まで読んでくださってありがとうございます!
また次回お会いしましょう。
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