「ついに来たか」
「そうですね………」
ハルトとアリスは、神妙な面持ちで集会所のクエストボードに貼り出された一枚の依頼書を見つめている。既に二人共それぞれの武器と防具を身に付け、アイテムの用意も万端だ。
二人の目線の先には、オサイズチの狩猟依頼が出されていた。依頼地は、前回と同じ大社跡。
鎌鼬竜オサイズチ。
先日戦った時は準備不足だったこともありとても歯が立たず、戦線離脱を余儀なくされた相手。そのモンスターと、今一度決着をつけるチャンスが来たのだ。
「オサイズチによりブンブジナ等の小型モンスターは隠れてしまい、イズチも群れのボスが現れたことで活発化して非常に危険な状態です。
ハルトさん、アリスさん。こちらのクエストをお受けになられますか?」
ミノトの問いに、二人は一度顔を見合わせ、同時に言う。
「「 はい 」」
大社跡の
前回のようなイズチ討伐や探索ツアーとは違い、今回は本格的な大型モンスターの狩猟クエスト。当然、回復薬や食料等のアイテムの類は二人共十分な量を用意して来た。
「ハルト様、今回は………勝ちましょう。私達二人で」
「あぁ、勿論だ」
短く言葉を交わし、二人の狩人はエリア1へ向かう。
エリア1に着くと、ハルトはすぐに周囲の様子を伺う。オサイズチが現れた影響からか、いつもならここで暢気な姿を見せるブンブジナがいない。
「どうする?ここからどのエリアに向かおうか」
「以前、私達がオサイズチに遭遇したのはエリア7。今回も、その辺りにいる可能性が高いかと。私はエリア3から7へと向かうルートを提案します」
「そうだな、確証はないけど、俺も同じ意見だ。決まりだな」
アリスの言葉に同意を示し、二人は坂を駆け上がりエリア3へ、そして続く坂道を登りエリア7を目指す。
エリア7に着くと、そこには三匹のイズチがいたがオサイズチは見当たらない。
「どうしますか、ハルト様。あのイズチを倒しますか」
「どうせオサイズチは子分のイズチを呼んで来るんだ、ここで減らしておくのもいいだろう。
それに、俺が前に行った時みたいにイズチが親玉を連れて来るかもしれない」
「では、討伐しますか」
というやり取りの後、ハルトはカムラノ鉄片刃を、アリスはボーンホルンを構えて突貫する。丁度イズチ達は余所見をしていた為、気付かれることなく不意打ちに成功する。
ハルトは一番手前にいたイズチの首元目掛けて剣を振るう。それは見事に決まり、皮を裂きイズチを怯ませる。そのまま二撃、三撃と斬りつけ、反撃の隙を与えずに絶命させる。
その一方で、アリスは別のイズチに狩猟笛を叩きつける。更に体ごと捻るように笛を振り回し、近くにいた二匹のイズチにまとめて攻撃をヒットさせた。一匹が噛み付こうとするも、アリスは転がって回避、その勢いを乗せた重い打撃を喰らうとそのイズチは吹き飛ばされ動かなくなった。
数で不利になったと判断すると、残った一匹はさらに奥、エリア9へと走り去って行った。二人共深追いはせず、一度呼吸を整え砥石で切れ味を戻すことにした。
「よし、とりあえず二匹倒したな」
「あのイズチの行動………恐らく、エリア9か隣の10にオサイズチがいると思います」
「そうだな、間違いないと思う。剥ぎ取りをしたらエリア9に行こう」
アリスとハルトはそれぞれイズチの死骸に近付くと、腰に収めたナイフを取り出し毛皮や尻尾の棘を取り、普段から携行しているアイテムポーチとは別の袋、臨時ポーチに入れていく。
ハンターはモンスターを討伐するだけでなく、倒したモンスターの素材を活かし新しい武具を作る。モンスターから素材を採取することを「剥ぎ取り」と言い、ハンターと殺戮者を分ける明確な要因である。
残った骨を地面に埋めると、二人はかつて門であったであろう木組みを通り、隣のエリア10にかかる大きな水溜まりが中央に存在するエリア9に入る。
そして、その水溜まりのほとり、ブルファンゴの死骸の近くに奴はいた。
「やっぱり……ここにいたな」
「ハルト様、オサイズチと交戦していて気付いたことがあれば私に伝えてください」
「分かった、アイツの挙動をよく観察しておく。それじゃ………行くぜ!」
「はいっ!」
ハルトの掛け声と共に二人は走る速度を上げ、鎌鼬竜目掛けて突撃する。
その二人に気付いたオサイズチは、バシャバシャと水溜まりを蹴りながら近付いて来る。そして、鮮やかなオレンジ色の体毛を逆立て、低い声を上げ威嚇する。
「ヴォォオーーーーーッ!」
先制攻撃を仕掛けたのはアリスだった。ボーンホルンを構え、走っていた勢いそのままに頭部を殴り付ける。そのまま何度も振り回し、繰り返し鎌鼬竜の頭に打撃をぶつけていく。狩猟笛が振るわれる度、風切り音とは違うぶぉん、ぶぉんという低い音が鳴る。少し遅れてハルトも攻撃に参加し、握り締めたカムラノ鉄片刃で後脚に斬り掛かる。刃が当たり、切られた毛が数本舞い散る。
オサイズチもいつまでも喰らいっぱなしでいる程馬鹿ではない。アリスの方に顔を向け、噛み付こうと口を開く。しかし彼女は予備動作を見るとすかさず後転、噛み付きは失敗する。その攻撃でオサイズチの体の向きが変わったことでハルトの剣刃は尻尾の先、曲がった鋭い刃尾に当たる。しかしそこは金属のように硬く、ガキッという音と共に弾かれてしまう。
「チッ………やっぱり尻尾の先は硬いか」
今度はオサイズチはハルトに狙いを付け、振り上げた尻尾を地面に叩きつける。すんでのところでハルトは横転で躱し、彼の立っていた場所に刃尾が突き刺さる。そこへ再び剣を振るうも、硬い刃尾に弾かれる。
その間、アリスはリーダーのオサイズチの声に反応して集まって来たイズチを掃討していた。少しくぐもった音を鳴らしながら、自分とほぼ同じ大きさのボーンホルンで群がるイズチを殴り飛ばしていく。
程なくしてアリスも鎌鼬竜への攻撃を再開する。オサイズチを挟むように、ハルトが後ろ側、アリスが正面を攻撃する。二人の連続攻撃に翻弄されていたオサイズチだが、アリスの方を見ると体制を低くし、尻尾を振り上げる。それを見たハルトは、前回の狩りの光景を思い出す。
「来るぞアリス、避けろ!」
その声を聞いたアリスは一度ボーンホルンを背負い、真横に飛び込むようにして回避、直後に体ごと尻尾を振り回しながらオサイズチが物凄い速度で通り過ぎて行った。
「あ、あれが前回ハルト様が見たというオサイズチの大技ですか………でも、今なら!」
顔に少し泥が付いたが、それを気にする暇もなく立ち上がったアリスはオサイズチに向かって駆け出す。回転攻撃を繰り出した鎌鼬竜は、その威力の分身体への負担も大きいのかその場で威嚇の為に声を上げる。
今度はハルトが斬りこみ、オサイズチの首に斬りつける。皮を少し切った感覚が伝わり、僅かだが攻撃が効いているのを実感する。そこへアリスも追いつき、構えたボーンホルンをその場で自身の体と一緒に振り回し、オサイズチの脇腹を何度も殴りつける。そして、狩猟笛を縦に構え柄に開けられた穴から息を吹き込むと、朗々とした笛の音が鳴り、それを聞いたハルトは自分の体に力が湧くのを感じる。
これこそが狩猟笛の真骨頂、演奏による自分と味方の強化である。狩猟笛は振るわれることで中の複雑な隙間に空気を取り込み、音色と共に溜めた空気を放出し自身や周囲のハンターに有益な効果をもたらすのだ。特に今アリスが行ったのは三音演奏と呼ばれる技で、笛の種類ごとに違う三つの強化効果をいっぺんに発動することが可能である。
ボーンホルンは地形ダメージの無効化、攻撃力上昇、防御力上昇の効果を付与できる。このうち、特殊な足場のない大社跡では地形ダメージ無効化は無意味だが、攻撃力と防御力を上げる効果は確かに二人に効果を与えていた。
息つく間もなく、二人掛かりでオサイズチに打撃と斬撃を浴びせていく。すると、オサイズチは周りの鬱陶しい連中を追い払おうとハルトに体当たりを喰らわせる。攻撃の最中だったので回避もガードもできず、まともに受け吹き飛ばされてしまう。
「ハルト様っ!」
しかし、地面に倒れる直前にハルトは手から緑色に輝く大型の羽虫を飛ばし、その虫の尻から伸びている糸を握るとその糸を手繰り寄せるかのように空中を
ホムラ地方には
その一つが、今ハルトが見せた翔蟲受け身である。空中で体制を立て直し、地面にぶつかる衝撃を回避すると同時にすぐ反撃に向かえるのだ。
「ってぇ、やりやがったな」
着地したハルトは応急薬を飲み干し、ビンを雑に投げ捨てる。先程の狩猟笛の演奏で防御力が上がっている為か、前回より痛みは少ない。
既にオサイズチは子分のイズチを連れて別のエリアに移動しており、二人の間に束の間の静寂が訪れる。アリスはハルトの元に駆け寄ると、不安そうな表情を浮かべる。
「ハルト様、大丈夫ですか?いくら防御力が上がっているとはいえ、真正面から体当たりを受けたのですよ」
「平気だ、心配すんな。アリスが演奏をしてくれていなかったら、もっとヤバかったな。ありがとう」
「ほえっ………ど、どういたしましてっ」
唐突に感謝の言葉を述べられ、アリスは思わず上ずった声が出てしまう。
「しかし、俺は複数人でクエストに行くのは初めてだが、なんだか一人の時よりフィールドがよく見える気がするな」
「そうですね、気持ちの問題かもしれませんが、やはり一緒に戦ってくれる人がいるのは誰だって心強いですから」
以前はオサイズチを初めて見たこともあって、動きもぎこちなかったが、今回は二度目の戦闘でしかもアリスという仲間がいる。前回と同じように体当たりを受けたとき、冷静に翔蟲受け身を取ることができたのはその為だろう。
二人は砥石で武器の切れ味を戻し、オサイズチを追って別のエリアに向かうのだった。
次回へ続く
皆様、前回ぶりです。作者のたつえもんです。
いやー、GWも終わりですね。と言っても、私の職場は祝日も仕事があるので「連休?何それ食べ物?」状態だったわけですが(苦笑)。
ということで、久しぶりの狩猟シーンが描かれた第7話でした。やはり、モンスターと戦うのがメインの回は長くなりがちですね。その為今後も大型モンスターの狩猟回は更新が遅くなるかと思います、ご了承ください。
また、今回のような狩猟メインの回は後書き短めか、もしくは無しで行きたいと思います。ただでさえ本文が長いのに後書きも長くては読んでて疲れるかなーと思いまして(本音は自分も疲れるから)。
では、最後まで読んでいただきありがとうございます!
また次回お会いしましょう。