登場人物
時雨 ようやくいろいろ聞かされたけど…………
夕立 ハンモックを張ってでも、戦うよ!
提督 出番は後書きだけ。
川内 名前だけ登場。夜間警備部署リーダー。
利根 吾輩の黒歴史が晒されてゆく……
朝潮 名前だけ登場。夜間警備部署メンバー。
若葉 驚異の逃げ足。
瑞鶴 後書きだけ登場。
「わっ、すごいね!」
部屋の中に入った時雨は、自身が思ってた以上に部屋の中が広かったことに驚いていた。特に天井は廊下の1.5倍ほどの高さがあり、物理的にあり得なくないかと思いつつも、それを言ったところでどうせ意味がないだろうと、気にしないことにした。
「部屋に洗面台とシャワールームは付いてるけど、トイレは各階の廊下の端と端にあるやつを使って。お風呂は6階に大浴場があるけど、今日は我慢して欲しいっぽい」
「へー、大浴場もあるんだね。…………あれ?ここ6階なんてあったっけ?」
「ここは屋上もあわせて全部で8階建てっぽい」
「…………そうなんだね」
この建物に入る前に外から見たときは、明らかに3~4階建てに見えたことを……時雨は気にしないことにした。
「今日はまだやることがあって、間に合わなくなるから、シャワーで済ませるっぽい。大浴場は、明日案内してあげる!」
「それは、楽しみだね」
大浴場を楽しみにする時雨であったが、彼女はそれが妖精さんがいなくなり、入渠施設として維持できなくなったものを改造した産物であることを、まだ知らないのであった。
「広くて、大きなクローゼットも付いてるし、なかなか快適そう………………あれ?」
ここで時雨があることに気がつく。
「この部屋って、洋室だよね?」
「?見ればわかるっぽい。この建物は全部屋洋室よ、どうしても和室が良かったらチケット貯めて提督さんにお願いするっぽい」
「いや、別に和室にこだわりは無いからそれはいいよ」
そう、時雨が気になったのは、ここが洋室なのにベッドが置かれていないことだ。これだけ広いスペースがあり、ベッド二つなら楽に置けそうなのに何故無いのだろうか?自分が嘗て在籍していたあそこでさえ、寝床はまともなものが用意されていた。ひょっとしてそれに関してはここの方が酷いのかとも思ったが……きっとここは、洋室だけど布団を敷いて寝るのだろうと、……………………気にしないことにした。
「それなら、さっそくこれを張るから時雨も手伝うっぽい」
「…………………………なんだいこれ?」
「ハンモックよ」
「…………………………ハンモック……」
「ちょっと急がないと、今夜寝るのに間に合わなくなったらまずいっぽい」
「…………………………今夜寝る……」
なるほど、布団を敷くのではなくハンモックで寝るようだ。遊び心を大切にした鎮守府では、こういうこともあるだろうと、気にしないことに……
「できないよ!!」
「うわっ!……急に大声出してどうしたっぽい?」
「さっきから頑張っていろいろスルーしてたけど、もう限界だよ!何で寮の中でハンモック使って寝るんだよ!おかしいよ!」
いろいろと我慢していた時雨がついに限界をむかえたようだ。ため込んでいた分、何時よりもツッコミに力が入っている。
「…………言いたいことはわからなくもないけど、ホントに間に合わないとまずいからとりあえず設置するのが先っぽい」
「まだ焦らされるの!?」
「提督さんが言ってたことを思い出して。先輩の言うことは絶対っぽい!」
「……いや、ちょっと違ったよね!………………………………………………はあ、わかったよ。……その代わり、終わったらちゃんと説明してよね!」
「了解っぽい!」
時雨Side
「設置完了!」
「や、やっと終わった」
何故か壁じゃなくて、天井から吊り下げるような構造になってたから、かなり時間がかかっちゃったよ。何でこんなに天井が高いのやら……でも、これでようやく僕の質問に答えてもらえるね。
「さあ夕立、いろいろ説明してもらおうかな」
「もともと準備ができたら説明するつもりだったっぽい。最初に今日の予定を説明したときに、そう言ったでしょ」
「む……」
そう言われると、そんなことも言ってたような気がするね。
「たしか……、夜間に絶対注意することだったっけ?」
「そう。ハンモックを張るのも、全部その話が関係してるっぽい!」
「提督が夕立に聞けって言ってた、ヤツらとやらの話もかい?」
「そもそもこのハンモックは、そいつらへの対策の一つっぽい」
「対策?」
「あいつらは高いところ……厳密には床や壁伝いじゃないところにはこれないから、空中で寝られるようにハンモックを天井から吊してるっぽい」
「………………………………?」
夕立は、いったい何を言ってるんだろう?……いや、言っている意味が理解できないわけではないけど、そもそも僕はあいつらとやらが何かわかってないんだよね。
「ねえ、そもそもあいつらっていったい何なの?」
「あいつらが何なのかは、夕立も知らないっぽい。たぶん、この鎮守府でも誰も正確には知らないんじゃないかしら?」
「え」
「提督さんとか川内さんの話を聞いてると、悪霊みたいな何からしいけど、確実に実体はあるし、結局よくわからないっぽい」
「は?悪霊?………………冗談じゃなくて?」
「冗談じゃ無いっぽい」
「深海棲艦じゃなくて?」
「深海棲艦は深海棲艦よ。あれはいつも倒してた、ただの敵っぽい」
……どうやら夕立は、本気で言っているようだ。ある意味僕らも船の霊のようなものだけど、僕らは大戦時代の艦の想いが、金属有機生命体として構築されたものだと判明したはずだ。決して単なる幽霊なんかでは無い。深海棲艦にしても、それらの想いの中でも負の感情が、海底で構築された際に発生するものであり、それ故に人類や艦娘に対して強い攻撃性を有しているらしい。
………………………………………………………………そういえば、一時期艦娘が轟沈すると深海棲艦になる、なんて説が唱えられていたらしいけど、あるとき急に大本営が公式に否定したらしい。それまで、回答を控えていたというのに、何があったのか明確に否定したらしい。…………あれに関しては、艦娘を実際に轟沈させて実験したとかいう、眉唾物の噂があったけど…………もしかして実験は本当に行われていたとしたら、…………そこで艦娘が轟沈した後に深海棲艦以外の別のものが生まれていたとしたら、…………それなら大本営が説を否定する根拠にもなり得る………………………………………………………………………………その生まれた別の何かっていうのがもしかして………………………………………………
「時雨?」
はっ!…………少し1人で思考しすぎてたみたいだね。夕立の声で我に返ったけど、この話を1人で考えても結論は出ない気がするよ。それより、本当にそんなのが現れるなら、ちゃんと特徴や対処法を聞いておかないとまずいことになりそうだね。
「……なんでもないよ。それより、そいつらに捕まるとどうなるの?」
「実際に何をされるかは、わからないっぽい。でも、忠告を聞かずに下で寝た人や、夜間に出歩いた人は誰も生きて帰ってこなかったわ」
「……夜間にだけ現れるってのは、絶対なのかい?」
「それは、はっきりしてて、フタフタマルマル(夜の10時)からマルロクマルマル(朝の6時)までの間に出没するっぽい。……あ、でも鎮守府外周の霧がかかってる範囲のうち海上部分では、昼間でも何かそれに近いものが蠢いてるらしいっぽい」
時間がはっきりしてるなら、その時間だけ気をつければ良さそうだから、少しは安心かな?
「その時間に、ハンモックの上にさえいれば、安全なんだね?」
「……一応、縄梯子を引き上げるのは忘れないように注意するっぽい。それが垂れてると、上ってくることがあるらしいから」
「あ、それであんなところに縄梯子を入れる袋が付いてるんだね。…………あれ?そういえばトイレに行きたくなったらどうするの?」
僕らは摂取した水の排出を止める機能は無かったはずだ。
「これにするっぽい」
「え?」
「ほらっ」ポイッ
そう言って空のペットボトルを渡してくる夕立。…………え?本気で言ってる?
「のんきにトイレなんか行ったら、捕まって死ぬだけよ。利根さんなんか、“こんなの恥ずかしくて無理じゃぁー!!”って言って、トイレに向かって結局あいつらに襲われて漏らしちゃったっぽい」
「え゛!?利根さん大丈夫なの?……というか、そこからどうやって助かったの?」
「その時はホントに運良く、夜間巡回中の朝潮が通り掛かって助けてもらったっぽい」
あれ?
「朝潮は夜間巡回なんてやってるの?どうやって?」
「そういえば、まだ言ってなかったわ。この鎮守府では、あいつらに対処できる人が3人だけいるの。提督さんと川内さんと朝潮、この3人はあれを撃退したり上手くいなしたりできるっぽい!若葉も逃げるだけならできるみたいだけど、追い払ったりはできないから、もし万が一時雨が襲われちゃったら、その3人を探すっぽい」
「う、うん。できるだけそうならないように気をつけるけど、……もしそうなったらどうやって探せば良いの?」
「提督さんは、基本執務室かその隣の私室にいるわ。川内さんと朝潮は、日替わりで巡回してるから、遭遇するのを祈るしかないっぽい」
それはもう探す方法とは呼べないような…………もしもの時は提督のところに向かうしか無さそうだね……
「とりあえず、何があってもその時間帯は下に下りないように、気をつけることにするよ」
……そういえば、夕立は最初に会ったときに1階の廊下のソファーで寝ていたね。この時間じゃないと下で寝られないとか言ってたけど、そういう意味だったのか。
「最後にもう一つ注意事項があるっぽい」
「まだあるのかい!?」
僕としては、もう今の話で既にいっぱいいっぱいなんだけど…………
「ある意味これが一番大事なことっぽい。時雨は真面目な性格みたいだから、あいつらに直接襲われることに関しては、そんなに心配してないわ。危険なのは、あいつらの声を聞いて引き込まれちゃうことっぽい」
「声?」
「あいつらは、ほとんどいつも何か囁くように言ってるっぽい。何を言ってるかは、夕立にはよくわからなかったけど、聞き取れる人もいるっぽい。……鈍い人は、そもそも声自体が聞こえない人もいるっぽい」
「人によって差があるんだね」
……あれ?そういえば提督が僕のこと、割と敏感な方とか言ってたような………………
「……声を聞いて引き込まれるっていうのは、具体的にどうなっちゃうのかな?」
「具体的にはわからないけど、慣れてない状態で聞き続けると、危険らしいわ。あいつらに同調しちゃって、同じような存在になっちゃうとか言ってたっぽい」
…………絶対まずいヤツじゃないか!何か対抗策は……
「な、何か対策はないのかい?」
「一番簡単なのは、さっさと寝ちゃうことっぽい。眠ってしまえばわからないようになるわ!…………でも、今日は時雨が早く眠れるかわからないから、これを使うっぽい!」
そう言って夕立が差し出してきたのは、大きめのヘッドホンだった。……………………これでどうしろと?
「提督さーん♪歓迎会の残り物、いっしょに食べるー?」バーン
「ぬわー!! …………瑞鶴か。………………歓迎会は無事に終わったのか?」
「うおー!お主がそこでいなくなると、吾輩だけでは……って、あー!!」
「えっ、うん。時雨ちゃんも楽しそうだったわよ。…………ねえ、若葉。この2人なんで執務室でゲームしてんの?」
「利根は、熊野を怖がって食堂に入れない。提督は、暇つぶしに付き合ってる」
「提督さんは付き合ってるんじゃなくて、自分がやりたいだけじゃないの?」
「……提督が付き合ってるという表現は、やはり気に入らないか?」
「……やはりってなによ。満潮といいアンタといい、いったい何が言いたいのかしら」
「ふっ」ニヤリ
「馬鹿にしてるのかしら。…………というか、あの2人であのゲームって、クリアできないんじゃないかしら?」
「ああ、無謀だ。現に1-2すら突破できていない」
「えぇー…………アンタも見てないで手伝ってあげれば良いのに」
「また、この手を汚せと言うのか…」
「………………なんでそうなるのよ」
今回は説明みたいな会話が多くなってしまいましたね。