登場人物
時雨 2話にして早くもツッコミ役になることが確定する。
提督 割と適当な人。提督さえこの鎮守府の全容は把握していない。
夕立 その心に潜む残虐性が顔ににじみ出ている。
山風 名前だけ登場。案内はできない。
瑞鶴 名前だけ登場。割とまともなヤツ。
霧の中を車で駆ける提督と時雨。幸いにも霧は10メートル程先までは視界が確保できるので、スピードを出さなければ走行可能であった。このノロノロとした動きは多少ストレスのたまるものではあったが。
「それじゃあ改めて、僕は白露型駆逐艦、「時雨」。これからよろしくね」
「なんだ?その定型文っぽいのは」
「さあ?なぜか言った方が良い気がして」
「……俺は、お前がこれから配属される鎮守府の提督だ。名前は秘密。うちには提督は俺しかいないから、提督と呼んでくれれば問題ない」
「名前は教えてくれないのかい?」
「もう少し好感度を稼いで、イベントをこなしてからだな」
「そんなシステムだったんだね……というか、この車もうちょっとスピード出せないのかい?」
「霧のせいでこの林の中じゃ無理だな。もう少ししたら霧を抜けるから、それまで我慢してくれ」
「何でわかるんだい?」
「この霧は鎮守府の周囲を囲うように発生してるからな」
「ん?どういうこと?」
「俺にも詳しいことはわからん」
車内では比較的和やかに自己紹介が行われていた。その後5分ほどたわいもない会話が続けられた。
時雨Side
提督が言っていたように本当に霧が晴れたところで、提督から着任にあたっての説明が行われた。
「さて、これからうちに所属してもらう訳だが、基本的に最初のうちはお前のことは案内係の艦娘に任せることになっている」
「そっか、提督が案内してくれるわけじゃないんだね」
ちょっとだけ残念だね。
「悪いな、俺もそれなりにやることが多いからな」
「あ、うん。そういえば提督は一人だけだって言ってたね」
実は提督がそんなに忙しく無いことを、この時僕はまだ知らなかった。
「案内係というか世話係というかは、夕立に任せてある。姉妹艦の方がお前もやりやすいだろ」
「夕立が居るのかい?確かに姉妹艦の方が僕としては嬉しいね、ありがとう」
「他にも白露型は山風が居るが、…………うちの山風に案内係とか無理だろうからな…………さて、もうすぐ鎮守府に到着するわけだが、お前に最初の任務を与えよう」
「えっ、う、うん」
なんだろう?いきなり任務だなんて。
「とりあえずまずは1週間生き延びろ」
「え?」
「それができれば改めてお前を歓迎しよう。願わくばこれが君への最初で最後の任務にならないことを祈ってるよ」
そう言うと提督は車を倉庫のような場所に止め車を降りる。どうやらいつの間にか目的地に到着したらしい。慌てて僕もそれに続く……ってなんか車が自動で倉庫の奥にしまわれてるんだけど!どうなってるんだろう?妖精さんがなにかやってるのかな?
「こっちだぞ、着いてこい」
「あ、うん」
1週間生き延びろってどういうことだろう。ここはそんな激戦地なのかな?でも車でここまで来たわけだから、ここはまだ本土のはずなんだけど……。今は本土沿岸部の安全はほとんど確保できているはずだ。…………結局僕は提督にさっきのセリフの意味を質問するタイミングを逃してしまっていた。
「結構綺麗なところだね」
鎮守府の様子は至って普通のものだった。それなりに築年数は経っていそうではあるが、掃除が行き届いているのか小綺麗なものだった。少なくとも外観上は、これから安心してここで生活していけそうなものであると言えるだろう。……この肌を刺すような異常な不気味さを除けば。
「ねえ提督、この不気味さは一体何なんだい?正直車に乗ってたときから感じてはいたんだけど、ここに着いてから余計に酷くなったんだよね」
「ふむ、……お前は割と敏感な方みたいだな。特別にこのお守りをやろう」
そう言って提督が手作り感あふれるブレスレットのようなものを渡してきた。…………なんとも言えないデザインだね。
「あっ、だいぶましになった。ありがとう……ってそうじゃないよ、これは何なのさ」
「そのあたりは夕立に聞いてくれ、あとそのお守りは感覚が多少ましになるくらいで、ヤツらに直接効果は無いから過信するなよ」
「過信も何もさっきから意味のわからないことだらけなんだけど、…………ヤツらって何さ?」
「だからそのあたりは夕立に……っと着いたか」
そう言うと提督は僕の疑問には何も答えてくれず、この鎮守府で一番大きい建物の裏口と思われる扉を開ける。……何で裏口からなんだろう?その中は、入ってすぐ廊下になっており、そこには廊下に置かれたソファーの上で気持ちよさそうに眠る1人の艦娘の姿があった。
「おい夕立、何のんきにそんなとこで寝てやがる。案内係やるんだろうが」ユサユサ
そう言って提督が寝ている娘を起こす。彼女が夕立みたいだね。…………というか、夕立のことは夕立って呼んでるんだね。僕のことはさっきから名前で呼ばずにお前って呼んでるくせに…………
「んー、あっ提督、遅いっぽい。それに昼間じゃないと下で寝られないから、今のうちに寝てたっぽい」
「良いからさっさと案内係の役目を果たせ。自分でやりたいって言ったんだろ」
「わかったっぽい。こんにちは、白露型駆逐艦「夕立」よ。よろしくね!」
「俺に挨拶してどうする、あっちだあっち」
「あっ、時雨っぽい。会えて嬉しいっぽい、ソロモンの悪夢、見せてあげる!」
「出会い頭になぜ!?」
「おっと、間違えたっぽい。とにかく歓迎するっぽい」
「う、うん。僕の方こそよろしくね」
明るい笑顔で握手を求めてくる夕立の手を取る。何やら物騒なことを言っていた気がするけど、歓迎はしてくれているみたいだね。前に演習で見たことのある他鎮守府の夕立より、少し目つきが悪いというか、目がつり上がっているように見えるけど、これくらいは個体差なのかな?制服が改二仕様になっているし、練度も高そうだね。
「顔合わせは問題なさそうだな。それじゃあ夕立、後は頼んだぞ」
「任せるっぽい。時雨がちゃんとここに適応できるようにしておくっぽい」
僕はいったい夕立に何をされるんだろう。
「なら俺はもう行くぞ。さて、俺からここで生き延びるためのアドバイスを一つやろう。それは、『先輩の話はよく聞くこと』だ」
「えっ、そんな怖い人たちがたくさんいるのかい?」
「そういう体育会系の話じゃない。ここにいる奴らは、少なくともお前よりは長くここで生きている。別に全部の話を鵜呑みにしろってわけじゃねえ、…………頭のおかしいヤツも何人かいるからな。けど、多少なりとも聞いておいた方が自分のためになるぞ」
「わ、わかったよ。…………ん?頭のおかしいヤツ?」
「言っといてなんだが、こいつは真面目そうだから大丈夫そうだな」
「これなら夕立も楽そうっぽい」
「ここ最近ろくに人の話を聞かないヤツばっかり送られてきてたからなぁ…………」
「あれは仕方ないわ、瑞鶴さんがあんなイライラしてるの初めて見たっぽい」
「連続で案内係任せて悪かったな、しばらく休ませるか」
「それより、今日みたいに哨戒に出てる方がストレス発散できて良いって言ってたっぽい」
「ああ、あいつはそういう奴だったな。それじゃあ今度こそ俺はもう行くぞ」
そう言って提督は奥の階段を上に昇っていった。
「あれ?どうしてそこのエレベーターを使わないんだろう?」
「そのエレベーターは使っちゃいけないっぽい。さっき言ってた話を聞かない人の一人が、忠告を聞かずに乗って帰ってこなかったっぽい」
「えっ……」
「そんなことよりまずは時雨の歓迎会をするっぽい」
「今そんなことで流しちゃいけない話が聞こえた気がするんだけど……って歓迎会?」
「良いから早く来るっぽい」
「あっ、待ってよ夕立」
そう言って、前を行く夕立の姿を追いかけるのだった。正直疑問が尽きない、というより詳しく聞かないとまずい話が聞こえたような気がしたけど、夕立の言っていた歓迎会という言葉に柄にもなくわくわくしてしまい、僕はそのことばかり考えてしまっていた。
「ところで、提督が僕のことを全然名前で呼んでくれないんだけど、どうすれば良いかな?」
「あ~、それはとりあえず1週間生き残ってから考えるっぽい」
「またそれ!?1週間生き残るってどういうこと?」
「たぶん1週間生き残ったら自然に名前で呼んでもらえるから、気にする必要ないっぽい」
「ここに来てからまともに質問に答えてもらえてない…………、マイペースでいいんだ。うん、僕もそうさ」
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