ひゅうひゅう、と風が駆けてゆくのが聞こえる。
さあさあ、と木の葉が擦れるのが聞こえる。
誰も、いない。
此処には誰もいない。
ふと、彼方を見やる。
人里、人間が群れて暮らす集落がある。
人間は弱い、今すぐにでも私が仕掛けたなら、私でも半数くらいは持っていけそうだ。
しかし、そこまで。
すぐに腕の立つ、例えばあの巫女あたりが駆けつけて、私など祓われて終わるだろう。
だから、別に人間に攻撃しようなどこれっぽっちも思わない。
そうは言っても、人間は私にないものを持っている。
それが、『仲間』だ。
私は一人、ずっと一人だ。
しかし、あちらの誰も、『孤独』ではない。
今度は別の方向を見てみる。
そこにあるのは、神社。
あの我ら妖怪の天敵ともいえる巫女がいる神社。
奴も、『一人』ではあるが、『孤独』ではない。
あそこにはさまざまなものが集まる。
しかし、私の元には誰も来ない、来る者などいない。
どうやらこの幻想郷では、弱ければ『孤独』になってしまうらしい。
人間は弱すぎて別としても、弱い者に近寄ろうとする者など、普通はいない。
私は天邪鬼だから、嫌われるのはいい。
不快に思われるのは嫌じゃないし、むしろ好きだけれども、『孤独』だけは耐えられない。
誰からも何も思われないのでは、もはや死んでいるのと同じではないか。
そうすると、今度は憎い、この世界を作った、強者どもが憎い。
私のような弱者だけが、こんな辛い思いを味わうのか、
いや、違う、こんなのは正しくない。
どうにかして、ひっくり返してやりたい。
そうして、私の下剋上は始まったのだ__
どこでだったかは忘れてしまったが、打ち出の小槌の話を聞いた。
どうやら小人族だけが使える、望みを叶える万能機だとか。
私は実に幸運だった。
嘘には自信があったし、何より小人族はそう賢い種族ではない。
しかも、誰も小人族を利用してはいなかった。
もう少し、もう少しで私は幻想郷をひっくり返る。
はやる気持ちを抑えながら、私は騙った。
「やあ、一緒にこの幻想郷をひっくり返さないかい?」
そうして、私は異変を起こしたのだ。
まあ、結果は大失敗。
結局、何も変えられなかった。
そう、思っていた……
「なあ、正邪よ、」
話しかけてきたのは針妙丸の方だった。
「次はどうやってやろうかね」
「次って、また異変起こすのか?」
「当たり前だ!このままじゃ負けっぱなしだろ。そんなのはいやだね!私に合わない!」
「はいはい、それじゃがんばってね」
「何言ってんだ正邪、お前もやるんだよ、私たちで勝つんだぞ!」
不意に、私のどこかが熱くなる。
ああ、確かに私は弱い。
けど、たった一つ勘違いをしていたらしい。
仲間は、弱者も強者も関係なく作れるものだったんだ……
風の音は、もう聞こえない。