注意事項
本小説はVOCALOID楽曲「祝福のメシアとアイの塔」とホロライブを掛け合わせた小説です。
キャラ崩壊や、読むに人によっては不快感を得る可能性があります。
作者によるキャラ設定や楽曲設定の一部創作設定があります。
以上の注意事項をご了承いただけた上での閲覧をよろしくお願い致します。

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cast
メシア:潤羽るしあ
淑女:不知火フレア
剣士:白銀ノエル
姉:宝鐘マリン
妹:兎田ぺこら
僧侶:大神ミオ
詩人:角巻わため
踊り子:癒月ちょこ
双子姉:雪花ラミィ
双子妹:獅白ぼたん


その【アイ】は誰がために。

「神託は下った。そなたがこの国を救うメシアである。」

ある日、私の村を訪れた国の使いの人が、村人を全員集めて私にそう告げた。

この国の中心にある、通称【アイの塔】。そこから1番近い私たちのこの村には、数十年から数百年に一度、メシアと呼ばれる存在が生まれるという。彼、あるいは彼女は、ある年齢になるとメシアとして塔に登り、神からの9つの祝福を受けて、この国に恵みをもたらすという誉れ高き役を与えられるという。

それが、今回は私というわけだ。

「旅立ちは一月後である。この村からも歩きの長旅になる故、準備を十分にして旅立つがよい」

国の使いの人はそう告げて村を去っていった。

 

 

淑女「いやぁしかし、るしあがあのメシアに、なんてねぇ…」

メシア「何?不満なの?」

剣士「そうじゃないんだって。フレアも嬉しいんだよ、私達のるしあがそんな栄誉ある役を任せてもらえるなんてさ?」

旅立ちの1週間前、私は昔から一緒に遊んできた皆と夜中に話していた。村を旅立てば少しの間帰れない。私は1人で行くことになるため、皆はお留守番だ。

僧侶「栄誉ある仕事を、まさかこの目で見れるなんて思わなかったよ。」

詩人「帰ったらこの旅を歌にしたいですねぇ。」

姉「でも寂しいんだワ〜…少しの間だけでもるしあに会えないなんて…」

妹「本当ぺこねぇ。気をつけて行くぺこよ?」

メシア「うん!お土産話、楽しみにしててね!」

踊り子「お土産話………って、別に観光に行くわけじゃないんだから…」

双子姉「お酒持ってく?」

双子妹「いや、いらんだろ…」

 

 

いよいよ旅立ちの日。昨日は村総出で祝ってもらった。おじいちゃんやおばあちゃん達は泣いて喜んでくれた。皆にこうして送り出して貰えたんだ。しっかりと役目を果たさないと…。

村に伝わるメシアのトーチを持ち、私は村を出た。ここから3日間、私はメシアとして塔に向かって旅をする。…マリンはたった3日のことを寂しがっていたのか……。

姉「なーんて!1人で行かせるわけないじゃん!」

メシア「うわぁっ!?何!?」

突然後ろから誰かに抱きつかれた。…聞き覚えのある声…。

淑女「全く……まぁ、意見はマリンと同じなんだけどさ?」

剣士「ねぇ?るしあ1人で塔に行かせると、寂しさで塔を壊しかねないし…」

失礼な。

踊り子「そういうわけだから、私達も行くわ?」

僧侶「メシアの役目を語り継ぐなら、着いていくのが1番だからね」

双子妹「それに、一人で行かせたら夜不安だろうし」

双子姉「ね、寝れなくて絶叫しそう…」

失礼な。

詩人「大丈夫ですよぉ、るしあの事を襲う男の人はいませんから〜」

妹「胸ないs」

さて、それじゃあ皆と塔に向かおう。…約1名、地面に人参みたいに埋もれてるけど。

皆と行けば、何も怖くない。

 

一夜を野宿で明かし、私達はようやく塔にたどり着いた。

剣士「うわぁ…高い塔………」

踊り子「登るの疲れそうねぇ…」

見上げるほど高い塔。これを登ると考えると、少し嫌になってくる…。

メシア「それじゃあ、行こうか…」

塔の入口の扉は思ったよりも簡単に開き、私達は中に入る。塔の中は思った以上にシンプルで、螺旋階段と、正面に大きな扉が1つ。これが、祝福の扉……。

淑女「さぁみんな、行こうか…」

メシア「うん、早く終わらせて、村に帰って美味しいご飯でも食べよ!」

双子妹「そう……だね………」

私は手を伸ばし、祝福の扉を開いた。

 

第1の祝福

【華やぐ波】

淑女「あれが…祝福……」

扉の先には祭壇と、その上に浮かぶオーブのようなものが。水色に輝くそれは、波の模様が描かれている。

メシア「確か…このトーチをあのオーブにかざすんだよね…?」

私は祭壇へと一歩足を進める。と……。

淑女「一緒に行こうか、るしあ」

メシア「うん…」

私はフレアと一緒に歩みを進める。後ろからノエルの目線を感じるが、気のせいにしておこう…。

メシア「えっと…これを………」

オーブの…祝福の前まで来て、トーチを掲げる。

淑女「ごめんね、るしあ」

その時、私の体は背後に突き飛ばされた。

メシア「え……?フレア…?」

淑女「……こんな栄誉ある役目、独り占めなんてずるいじゃない!るしあは皆にちやほやされて!ねぇ!?私達友達でしょ!なら分け合いましょうよ…!」

目の前に立つフレアは、目に涙を浮かべ、笑顔のまま、しかし怒気を孕んだ声で私に言う。え…?どういうこと…?

淑女「あぁ…これが祝福…栄光………」

フレアが祝福に触れた瞬間、私は部屋の外へと突き飛ばされた。同時に祝福の扉が、音を立てて勢いよく閉じる。

最後に私が見たのは、蔑むような笑みを私に向ける、フレアの姿だった。

 

 

 

「そうよ…」「独り占めは許さない…」「私も………」「私も………!」

 

 

 

誰でもなく、皆がそう呟き始める。

メシア「皆………?」

 

 

 

「「「「「「「「独リ占メハ、許サナイ」」」」」」」」

 

第2の祝福

【炎の宴】

呆然とする私を置いて、皆は塔の階段を駆け上がっていく。2つ目の祝福の扉の先には、既にノエルがいた。

メシア「ノエ…」

剣士「来ないで!」

ノエルはその目を血走らせ、愛用のメイスを私に向けてくる。そして、そのまま祝福に触れた。

剣士「フレアも言ってたでしょ?独り占めなんてずるいよ、るしあ。」

私にメイスを向けたまま、敵意の籠った目を向けたノエルを扉の向こう側に残し、祝福の扉は音を立てて閉じた。

 

第3の祝福

【恵みの陽光】

次の階では、姉妹が言い争っていた。

姉「あたしがこの祝福を貰うの!」

妹「嫌ぺこ!ぺこーらがこの祝福を貰うぺこ!」

掴み合い、いがみ合う姉妹。あんなに仲のいい姉妹だったのに、どうして…。

メシア「2人ともやめて!祝福は…!」

姉「るしあは黙ってて!」

マリンはそう叫ぶと、ぺこらを突き飛ばして扉の中へと入った。そして、間髪入れず祝福に触れる。

妹「マリン!」

姉「悔しかったら次の階へ急いだら?るしあに取られちゃうよ?」

妹「………!」

ぺこらが悔しげな顔で立ち上がり、階段を駆け上がっていく。そして、扉の先にマリンを残し、扉は閉じた。

 

第4の祝福

【安息の闇】

次の階に急いで駆け上がると、既に扉は閉じかけていた。

妹「ぺこーらも祝福が欲しいぺこ!るしあの独り占めじゃずるいぺこ!」

既に祝福に触れている。もう止められない。

メシア「なんで!皆あんなに仲良かったじゃん!」

床を叩きそう叫ぶも、目の前の扉は無常に閉まった。

 

第5の祝福

【揺蕩う大地】

ミオは既に扉の先で、私が来るのを待っていた。

メシア「ミオ!」

僧侶「あぁ…これが祝福…素晴らしいです……。私にふさわしい………神の恵み……!」

メシア「なんで!選ばれたのは私なのに!!!」

僧侶「それが良くないと、分かっているでしょう?独り占めは許さない……私達も国を救う英雄になりたいの…」

あぁ…こんなにも欲は人を変えてしまうのか………皆優しかったのに…。

僧侶「さぁ!我らが神よ!愛すべき神よ!私に恵みを…!祝福を………!!!」

ミオは恍惚な笑みを浮かべ、祝詞を叫びながら祝福に手を触れる。

扉は無情にも、音を立てて閉まった。

 

第6の祝福

【雷鳴の囃子】

詩人「わためは悪くないよねぇ……?独り占めしようとしたるしあが悪いんだから、わためは悪くないよねぇ…?」

メシア「もうやめて!なんで皆!どうしちゃったの!?」

詩人「国を救いたいのは皆一緒、るしあだけじゃないんだよぉ?だから、わためもその1人になりたいの」

もう、皆に叫びは届かないのかな。こんなに、喉が枯れるくらい叫んでいるのに。

詩人「さぁ…祝福にわための歌を捧げます……!どうか…!世界に祝福を…!」

悦びの歌を歌いながら、わためは扉の向こう側に消えていった。

 

第7の祝福

【旋風のロンド】

信じ合える仲間はどこに……。もう、みんなが敵なの…?

踊り子「そういう事。もう分かるでしょう?皆祝福が欲しいの。私達も英雄になりたいの。」

メシア「ちょこ先生…!」

踊り子「私からの、最後の授業よるしあ。断ち切りなさい、そんな、過ぎた愛なんて。もうそんなものを持っていても無駄なの。私達は栄光をあなたから奪い取る。私達が、祝福を得て英雄になるために…。だから、ごめんなさいね…。」

メシア「嫌だ!るしあ皆が大好きだもん!そんなこと出来ないよ!」

踊り子「るしあ!………もう、手遅れなのよ。」

私の叫びも虚しくそう告げると同時に、ちょこ先生を残して扉は閉まった。

 

第8の祝福

【白銀の園】

双子姉「………ごめんね、ぼたん」

もう祝福は残り2つしかない。きっと、上では双子がもう……。

そう思いながら、重い足を動かして階下に上がると、扉の前に双子がいた。

まだ、祝福に触れてはいない………!

メシア「ダメ!もうそれ以上は……!」

双子妹「ラミィ!!!」

ラミィはぼたんの体を押しのけ、扉の先に駆け込む。…ぼたんの方が体格はいいのに、ぼたんはラミィに押し退けられ、地面に尻もちをついた。

双子姉「あははっ…!妹に譲るわけないじゃない…!それに、あなたは優しすぎるの、ぼたん…。やっぱり祝福を奪う事はやめよう…なんて…。」

ラミィは扉の向こうからぼたんにそう告げる。

メシア「ぼたん…本当に………?」

双子姉「本当にそう思っているなら、最後の祝福くらいるしあに譲ってあげたら?あなただけ、祝福を得られなかった人間になるけど…」

ラミィは笑顔のまま悦びの涙を流し、祝福に触れる。

双子妹「ラミィ!!!」

ぼたんは扉の向こうに手を伸ばす。しかし、その手は届かないまま、扉は閉まった。

最後に見たラミィの顔。その頬を流れる涙の雫は、零れ落ちる間もなく凍てつき、割れた。

 

第9の祝福

【マグマの胎動】

双子妹「………」

メシア「ねぇ!ぼたん!なんで皆あんななっちゃったの!?答えてよ!ねぇ!」

私はぼたんの肩を掴み、揺さぶりながら叫ぶ。

双子妹「………私も目を覚ましたんだ。行こう。」

ぼたんは呆然としながら立ち上がると、階段へと足を伸ばす。そうだ、彼女もまた、姉に裏切られたばかりなのだ。責めるのは間違っている。

階段を昇った先にある、最後の部屋。扉の先には、真っ赤な祝福が浮かんでいる。

双子妹「行こうるしあ。何も灯ってないままのトーチじゃあ、塔のてっぺんに登っても意味無いだろうし」

メシア「………うん…」

よかった、ぼたんだけはまだ冷静だった。私はぼたんと一緒に祭壇の前まで歩む。

双子妹「……………ごめん。」

祭壇の前まで行った瞬間、ぼたんは短く、そう呟いた。そして、私がトーチをかざすより一瞬早く、祝福にその手を触れる。

メシア「ぼたん!!!」

双子妹「やっぱり…やっぱり私も、祝福が欲しいの……。ごめん、るしあ。」

どんっ!と、何か不可思議な力で部屋の外に突き飛ばされる。ぼたんは私の方を向くと、誇らしげに笑った。

…最後の扉も、静かに閉じられてしまった。

 

 

 

「なんで!なんで!皆……!るしあ…どうしたらいいの……!」

光の灯らないトーチを片手に、塔の頂上へ上がる。信じた仲間…皆に裏切られ、祝福は1つ残らず横取られた。こんな状態で、どうやって、何を捧げればいいのだろう。

塔の頂上、祈りの祭壇。九つの石像と、中心に1つの大きな祭壇。そしてその傍には、影のみの人型が立っている。

「………初めてです。まさか、灯らぬトーチを持ってくるメシアがいようとは。しかし、あなた達には感服しました。まさか、その身を捧げてまで、あなたを守ろうとするなんて…」

メシア「………どういう事…?」

「全てをお話しましょう。あなたは、それを知る義務がある。権利がある。塔の中に封じられた祝福、あれは、神からの罰。本来メシアは、世界に祝福を与える代わりにその身に神からの罰を受けて、トーチを灯しながら塔を登るのです。本来は世界に降り注ぐ罰を、その身に一身に受けて。そしてそれに耐えられるのは、メシアだけ。どれだけの苦痛を受けようと、メシアは死なず、倒れず、塔を登ることが出来るのです。そうして、世界の贖罪をその身で償い、次の世界にまた恵みを齎すのです。」

メシア「そんな……それじゃあ…………!!!」

「【贄】と共に、この贖罪を乗り越えたメシア。あなたは知る必要がある。あなたの代わりにその身に罰を受けたもの達の最期を…。そしてその果てに、その命を持って、新しき楽園の命を繋ぎ足しなさい。」

 

 

 

………時は少し巻き戻り、メシア出発の2日前。

私達9人は、長老の家にいた。

淑女「そんな………!」

剣士「それじゃあ、るしあは……」

私達が知らされた真実。それは、祝福という名の罰という真実。

姉「じゃあるしあは…」

妹「塔に登って、たくさん痛い思いをして、最後は命を捧げるってことぺこ…?」

長老は村に伝わる1冊の古書を私たちに見せてくれた。そこには、『メシアは9つの世界の罰を贖罪としてその身に受け、最後に、贖罪によって清められた命を捧げ、世界に祝福を齎す』と書かれていた。

僧侶「そんなのあんまりです…!」

詩人「るしあは何も悪くないのに…!そんな理不尽なことないですよ!」

踊り子「何とか出来ないんですか!?るしあが死なずに済む方法は!」

長老は静かに首を振る。メシアとなってしまった以上、その命を捧げて国に恵みをもたらすのが仕事であり、そしてそれこそがメシアの生まれた意味であり、目的であると。そして、その役目を果たさなければ、国はあらゆる神の罰を受けて滅ぶ…と。

双子姉「………どうしようもないの…?」

双子妹「けど、こんなことるしあに話せないよ………こんな事知ったら、るしあは…」

私達は真実を知って、なおもどうしたらいいか分からなかった。

るしあに真実を話せば、それは『国のために死ね』と言うのも同じ。

だけど、話さずに行かせるのはあまりにも酷だ。

一体、どうしたら………。

 

 

 

第1の罰

【狂える荒波】

「あーぁ、今頃村は大混乱だろうなぁ…私たちがいなくて…。」

私達9人が出した答え、それは、私達もるしあに同行する事だった。そして、るしあの代わりにその罰を受けて、少しでもるしあの苦痛を無くすこと。

「……もう少し、生きたかったな。けど、るしあ1人で行かせるなんて、そんなこと出来ないよ…」

扉が閉まった直後、部屋の天井から水が流れ出る。メシアのみが唯一、罰を受けても死なないという。つまり裏を返せば、私達のような普通の人間が罰を受ければ…。

『贄よ。メシアの代わりに罰を受け、その身を捧げよ』

水はどんどん部屋を満たしていく。まるでそれは、荒れ狂う荒波のように。

「ごめんね、ノエル…。生まれ変わってもまた出会って、今度こそ………」

私の言葉は最後まで響く事無く、部屋は水で満たされ、私は溺れ沈んだ。

 

第2の罰

【業火の海】

「やっぱり、これから死ぬってわかってても怖いなぁ…」

扉が閉まった直後、部屋の隅から炎が立つ。燃え盛る炎は徐々に祭壇へと近付いてくる。

「フレア……怖いよ……傍にいてよ………。」

目の端から涙が零れる。決めていたはずなのに、やっぱり怖い。

膝が震える。歯が音を立ててガチガチと鳴る。そして………。

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!熱いっ!熱いよぉっ!!!」

私の体に火が灯る。あっという間に全身を包み込み、私は床をのたうち回る。

さながら、業火の海を舞うように。

「フレ……ア…………。」

私の手は何を掴むことも無く、力なく床に崩れ落ちた。

 

第3の罰

【無慈悲な干天】

「………妹に、こんな辛い罰、体験させる訳にはいきませんよ…!」

あたし達は事前に、9つの罰について教えられていた。そして、誰がどの罰を受けるかも。だけど、あたしとぺこらは最後まで話が合わなかった。どちらがこの罰を受けるか…。

「お姉ちゃんなんですから、船長は…!だから…!」

体が乾いていく。手や肌がカサカサに…そして、細くなっていく。身体中の水分が奪われていくのがわかる。

「船長の…自慢の胸も…カサカサのシワシワで…すよ……。あ……ぁ………る……し…………ぁ…」

次第に喉も乾き切り、声すら出なくなる。そして、干からびたあたしの体は、音を立てることすらなく、そして弾むことも無く、まるで枯れ木が地面に落ちたかのように、床に倒れた。

 

第4の罰

【永遠に明けぬ闇】

「マリンの馬鹿………!あんな時ばっかりカッコつけて…!」

どれだけの時間が経ったのだろう。私の視界はもう何も写っていない。真っ暗な闇。一筋の光すらない、暗闇。

手探りで周囲を探すも、手は何にも触れない。祭壇にも、床にも、壁にも。そして、私の体にすら触れることが出来ない。

「いやぺこ……!何も見えないぺこ…!ぺ………」

その内、私の声すら聞こえなくなってしまった。いや、そもそも感覚という物がなくなってしまった。

物理的な苦痛はない。だけど、永遠の暗闇は、こうも簡単に人を狂わせてしまうのか。

………最後に、私の絶叫が聞こえた気がした。それを最後に、私は意識すらも失った。

 

第5の罰

【呑み込む大地】

「みんな、大丈夫かなぁ………。」

これから死ぬというのに、なんで私はこんなに呑気なのだろう。

既に、床からせりあがってきた土は膝まで来ている。もう動くことすらかなわない。

「もっと皆と遊びたかったなぁ………僧侶でも、そのくらいの欲はあるのに…」

後悔していないと言えば嘘になる。本当はもっと、皆と一緒に遊びたかった。遊んで、笑って…。

しかし、その間にも無情に土は増えていく。腰が埋まり、胸が埋まる。もう、残された時間は多くない。

「……いやだよぉ…死にたくないよぉ………。るしあ…みんな………。」

ガラガラ…と音を立てて天井が崩れる。同時に、頭の上に土が雪崩込む。

最後まで上へ伸ばしていた右手も、最後は土の中に埋もれてしまった。

 

第6の罰

【裁きの雷】

「わためは悪くないのに、裁きっておかしいよねぇ…」

竪琴を弾きながら祭壇に寄りかかり、ふとそんな事を呟いてみた。できるなら、一瞬で終わらせて欲しい。

「るしあはメシアだから、きっともっと痛いんだろうなぁ……。わためは…どのくらい耐えられるのかなぁ……。…っ…!」

突如、右手に痛みが走る。まるで静電気のような痛み。耳を澄ませば、部屋のあちこちから、バチ、バチ…と放電する音が聞こえる。

「最後に1曲くらい歌おうかなぁ……」

なんて、死ぬ間際になってなお、呑気な言葉が出る私は自分でも凄いと思う。

誰も聞いていない、たった1人での弾き語り。

それを終えた直後、一筋の落雷が私の体を貫いた。

…竪琴は、音を立ててバラバラに砕け散った。

 

第7の罰

【風神の刃】

「最後の授業があんなのなんて、先生失格ね…」

部屋の中は、既に風が吹き始めている。きっとこれから罰が始まるのだろう。

「………るしあ、あなた一人で逝かせはしないわ。今まで姉妹のように仲良く過ごして来たのに。こんな理由であなた一人を逝かせるなんて、出来るわけないじゃない…。」

バシッ…という音が響く。見れば、服が破かれ血が滲んでいた。

「なるほど…鎌鼬、ね。風の罰にお似合いじゃない……。」

私の体にどんどん切り傷が増えていく。自慢の胸にも、腕にも足にも、顔にも。

「痛っ……。皆…さようなら……。また生まれ変わったら、仲良く遊びましょうね……。」

私の言葉は、段々と悲鳴へと変わる。しかし、その悲鳴も、風がかき消してしまう。肌が切り裂かれ、髪は引きちぎれ、血と肉片が宙を舞う。

…コト、と、角が1つ、床に落ちた。

 

第8の罰

【全ての凍結】

「残してきたお酒、なかったよね…?」

確か、家にあったお酒は全部飲んできたはずだ。もう戻れない、それが分かっているから、皆で旅立つと決めた次の日からひたすら飲み続けた。

「…最後のお酒、もう終わっちゃうなぁ…。」

手元には、唯一持ってきた小瓶のお酒とお猪口。最期の晩酌には少し少ないけれど。

「……お酒、もっと飲みたかったなぁ……。」

もう、体の芯まで冷えてきているのがわかる。そして、最後の最後までそんな感情しか湧かない私は、心まで凍らされてしまったのだろうか。

私は酒瓶を逆さにして持ち上げ、その下で口を開ける。瓶の中の最後の1滴を飲むために。

…最後のひとしずくは、私の口の中に入る前に凍りついた。

 

第9の罰

【灼熱の海】

「あっつ………。」

もう既に、部屋の中は煮えるように暑い。足元は、まるで熱々の鉄板の上に立っているような気分だ。

「皆、本当に不器用だなぁ………。」

私は苦笑しながらそう呟く。最初、フレアがあの行動をした時に、私達は全てを悟った。あぁでもしなければ、るしあを祝福から守れないと。だから、私達は悪を演じた。奪い取るという形で、るしあを祝福という名の罰から守るために。

「ごめんねるしあ…最後まで……騙して………。」

皆が命を賭けてるしあを守ったのに、自分だけ生き残るなんて出来ない。

「………頭もボーッとするし、そろそろ寝ようかな………。」

私はそのまま、床に崩れ落ちる。

ジュウ…………という音だけが、部屋の中に響き続けていた。

 

 

メシア「あぁ…あぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!」

私は絶叫と共に涙を零す。皆が命を賭けて、私を守ってくれていたこと。皆の最期の想い、全てを見てしまったから。

メシア「なんで!どうして!どうして私たちがこんな目にあわなきゃいけないの!?」

私は目の前の影に向かって叫ぶ。

「恨むならば人間を恨め。お前達人間は、我らが与えた恵みを過信し過ぎた。自分達の成果だと驕り高ぶり、我らへの感謝を忘れた。そしてお前達は過ちを繰り返す。愚かなる連鎖は永遠にな。」

影は淡々と告げる。それでも納得出来ない。なんで皆が死ななければならなかったのか…。

「それは、お前達が選んだ選択だ。お前の仲間は、お前に最後まで黙って、騙して、悪を演じてまで、お前を罰から守った。自分達が死ぬと分かっていながら、それでも尚、お前を罰の苦しみからまもったのだ」

メシア「そんなこと…頼んでないよ………!るしあは皆に笑顔でいて欲しかったのにぃ………!皆…みんなぁ………!」

涙が零れて止まらない。叫ぶ声も、誰にも届かない。影は尚も淡々と告げる。

「さぁ、最後の刻だ。尊き贄の果てに、導きの火を繋げ。その命を神に捧げ、世界に祝福をもたらすのだ。」

もう戻れない………抗うことも出来ない……。

「るしあ…」

メシア「……え…?」

その時、声が聞こえた、気がした。その声に、思わず周りを見回す。

…石像からは血が溢れている。それは、塔の床の溝を伝って祭壇へと流れてくる。きっとあの血は…皆の…。

「るしあ、私達が一緒にいるから」

「そうです、るしあは1人じゃありません!」

「あたしも、」

「ぺこーらも!」

「皆、るしあの傍にいるから」

「だから、立ち上がって」

「怖いかもしれないけど、それでも」

「るしあにしかできないことだから」

「頑張れ、るしあ。」

皆の幻覚が見えたような気がした。幻聴が聞こえた気がした。

皆が笑顔で、私に手を差し伸べている姿が、見えた気がした。

気付けば、トーチに火が灯っている。

「………なるほど、まだ人間にも、見捨てられないものがあったか。」

影が明らかに驚いている。私は9つの色に輝く火を、祭壇へと高く掲げる。

祭壇に、黒い雷が走る。何処からか、鐘の音が聞こてくる。それは栄光の調べのように…。

「メシアよ、神の威はそなたに授けられた。そなたという最後の贄を持って、この世界に祝福をもたらそう」

影はそう告げると、姿を消した。

メシア「あは……あはは……あはははははははっっ………!」

私は思わず笑っていた。これから私達が生きていく訳でもない世界のために、私達は命を賭けたのか…と。

だけど、それでも。皆の命を無駄にしたくない。

石像に灯る炎と、祭壇の巨大な炎はどんどんと強さを増す。黒い雷もまた、激しさを増す。

メシア「さようなら…皆…さようなら……世界…」

9人を失った【哀】と、9人から受けた【愛】。その2つの感情が入り交じり、私は涙を流しながら、それでも笑みを浮かべる。隣には、皆がいる気がした。

皆がいてくれるなら、私は勇気を持てる。

 

私は立ち上がり、祭壇に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わったのね。」

塔を眺めながら、1人の少女が呟く。

彼女は、太古の昔から世界を生き続けてきた。

そして、何度も世界の終わりと始まりを見てきた。

塔の頂きが一際輝く。それまるで、世界を照らす灯台のように。

そして、世界を包んでいた暗闇が払われ、天変地異は終わり、大地に緑が戻った。

愚かなる連鎖は永遠に繰り返す。きっとこれからも、人間は過ちを繰り返すのだろう。

そしてその度に神は怒り、その怒りを鎮めるためにメシアはまた生まれ、【アイの塔】に登り、贖罪を受け、世界を救う贄となるのだろう。

私はそれを、ただ見ていることしか出来ない。影となり、見届けることしか出来ない。

なんて残酷な役目だろうか。

私はそれを、ただ見ていることしか出来ない。

私はそれを見届け、語り継ぐことしか出来ない。

死にゆく彼女達に手を差し伸べることも出来ず、ただ、神から与えられた使命の通りに、彼女達を見届けることしか出来ない。

…街に戻ったら、またこの物語を語ろう。

人が、なるべく少しでも過ちを起こさないために。

10人の少女の、悲しき物語を。【アイの塔】の話を。

永遠に語り継ごう。この世界が滅びるまで。



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