映画に誘われて見に行ったが、何も刺さなかった。けど、誘ってくれた君は泣いていた。きっと自分は、あの頃から――

 何の変哲もない映画を見た感想戦を交えた対話劇風な話。日常はこんなものかもしれない。

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大人になりすぎた、けど

 大人になりすぎた――映画を見た感想がそれだった。

 学生の青春を描いた作品だったが、どうにも感動しなかった。ただ物語として流すだけ。

 もっと違う角度で映し出された光景だったら、きっと刺さっていたかもしれない。それこそ涙を流して、みっともない顔になっていたのだろう。

 と、映画に誘ってくれた隣人の嗚咽を耳にしながら、ぼんやりと考えをまとめてみる。

 

 気が付けば、青春を駆け抜けた日から随分と時が経っていた。もうその時を過ごした校舎はなくなり、かつて騒いで遊びまわっていた友人たちも、近くにはいない。

 隣にいる人も、目の前にいる人も、背後にいる人も皆変わっていく。自分が認知しているよりも些細に、けれど急速に。

 変わらないのは自分だけかと思っていたら、自分も変わっていた。今見た映画で涙一滴すら零してないから。

 昔だったら、確実に隣にいる人のように泣いていたと思う。けど、全然泣いていない――顔の筋肉一つも動いていないことさえ自覚していた。

 ああ、大人になりすぎた。どうしても心が揺さぶられない――むしろ、それが正解だと裡で囁かれる。

 だけど、それでいいのかと猜疑し始めていく。心が揺れないということは、もう死んでいると同然なのではないだろうか。

 思考が巡りに巡って、すとんと何かが落ちる音がした。既に感受性という感受性はなくなり、ひたすら感性の鈍い人間に出来上がったことを今さらながら納得する音。

 そんな人間なのだから、どうせ何見ても面白くないし、面白い話も何もできやしないのだと結論づけて隣人を見やる。

 まだ泣いている様子がだったが、幾分か落ち着いてきてはいる。――映画を見て涙を流せるその感性を、羨ましく思っていたのは内緒だ。

 

 ごめんと隣人は謝る。映画が終わった後もずっと泣いていただけあって、目は赤く腫れていた。

 別に問題ないということを告げ、行きつけの喫茶店にて感想戦を開く。と、言っても大した感想を持ち合わせていないのだが。

 目の前で繰り広げられる彩り鮮やかな感情表現を、ただじっと見ているだけで何も言わない。時折、何かを求められるが、その度に適当なことを言ってごまかす。

 だが、話を振られる内にぽつりと言ってしまった。あの映画を見て泣ける君が羨ましい、と。

 相手はきょとんとするが、すぐに花開いたように笑った。大丈夫、泣けなくてもいい。同じ場所にいても見ている風景は皆違うから、と大らかに。

 そんなものでいいのかとすぐに疑い出してしまい、君みたいに感性は豊かじゃないから泣けないんだと泣き言を口走っていた。大人になりすぎたと言った癖に、こんなところでは子供かと自分に対して嫌悪感の音を鳴らす。

 それは違うと首を振って、君は言い返す。その風景に心が動く経験がなかったから、泣かなかっただけだよ。でも、違う角度で見ていたら、あなたの心にある一枚の絵と重なっていたかもしれない。言葉がいつもよりも力強くて温かい。

 辛辣とも取れる言葉、自分と考えていたことと同じことだと何故か感動した。

 まだ言葉は続く。大人になればなるほど、重ねらている色の種類は増えていくが、その中で消えていく色もある。その色のことをいつまでも追いかけても仕方ない。だから、新しい色を作り出していくことで、いつかまた出会えるかもしれないと。

 その言葉に、沈みかけていた心の色がまた一つ付け足されたような気がした。ずっと真っ黒だと思っていたものさえ、ちゃんとした色だと認知し始めて、彩りが少しずつ生まれていく。

 今は泣けない。けれど、きっといつかは――君の前で泣いている未来があるのだろうか。

 君はまた笑う。その時は泣き止むまで待っているし、その時の感想を聞いてあげるから。


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