同僚さんに殺される話です

1 / 1
同僚(女)さんが何かとキレては俺達兄弟を殺してくるんだけどそんな彼女が愛おしいです

  #

 

    俺達はバナバ兄弟は双子である。そして魔族で

   あった。地上に「人間」と呼ばれる種族があるよ

   うに俺達は「魔」という種族であるのだ。

    俺達魔族には個々に役割がある。それは生まれ

   ながらに定められたものだった。その役割は存在

   意義と言っても過言でない。例をあげれば我らが

   魔王様、かの御方は魔族の頂点に君臨する者とし

   て魔族の秩序を保つ役割を持っており、それを基

   点に行動される。

    俺達兄弟もまた同様だ。俺達にも誰ともわから

   ないものに与えられた役割がある。……そう。役

   割がある。……なんだたったかな? 俺は忘れたの

   で我が兄に聞いた。なぁ、俺達今から何するんだ

   っけ?

 

  「あ? ……なんだったかな?」

 

    兄も忘れているようだ。俺達はすべきことを忘

   れた。

    ぎゃははははははははは。俺達は笑った。口腔

   をキチキチと鳴らす。魔族は忘れっぽいのだ。そ

   して楽観的である。

 

 

  #

 

 

  「お前ら何をしていた? 死ねッ」

 

  「ぎゃば!?」

  「ぎゃきょ!?」

 

    俺達は突如上記質問にて返答の余地もなく回し

   蹴りを食らうという理不尽を得た。俺達魔族は暴

   力的であった。それは俺達魔族が個々に程度の差

   はあれどみな等しく強靭な肉体と並みならぬ再生

   機能を保有するからであると、一説には唱えられ

   ている。

    現に俺達は強烈な一撃をもらい、痛みはあるも

   のの肉体的には大きな支障はない。俺達は一体何

   事かと理不尽な蹴りを放った首謀者へと視線をや

   った。

    ……その者は同僚であった。シロリロという女

   性である。シロリロさんはギチギチと濁った音を

   大顎で鳴らした。神経質な彼女にはよくある癖だ。

   イライラしているようだ。

    しかしだからなんだというのだろう。俺達はあ

   えて近寄った。おいおい、いきなり物騒だなぁ?

   シロリロさん。あんたの中じゃ唐突に回し蹴りを

   食らわせるのが最近の挨拶ってことかい?

 

  「黙れッ」

  

  「こペッ!!?」

  「弟よおおおおおおッ!?」

 

    再びの暴力が俺を襲った。俺の頭部は完全に吹

   き飛ばされ胴体とお別れになって宙を飛んだ。彼

   女の頭部から生える髪に擬態した数本の肢脚によ

   る回し蹴りであった。髪のビンタとも言える。俺

   の胴体頚部より血飛沫が飛び散り、兄の悲鳴が木

   霊した。

    ……なるほど。彼女は相当のストレスが貯まっ

   てるようだ。首が転がり視界が反転する中俺は納

   得した。過激な女は嫌いじゃない。俺を蹴ること

   で不満が解消されるならそれでいい。俺は寛大だ

   った。

    シロリロさんが眼前に踏み立つ。俺はグフッと

   軽く吐血した。緑色の血液が地面を汚す。

 

    よぉ? いい蹴りだったぜ? さすがはかの魔

   王直属…………

 

    ……俺は最後まで言葉を残せなかった。何故なら

   シロリロさんが台詞を言いきる前に俺の頭部を踏

   み潰したからだ。理不尽ここに極めり。俺は殺さ

   れた。この惨状を目にした兄は再度俺の名を叫び

   慟哭が響き渡った。

    俺に悔いはなかった。

    シロリロさんの下半身は各所、皮膚甲殻にて覆

   われてはいるものの、トップシークレット部位は

   ローアングルから覗ける仕様である。

    つまり、俺に悔いはなかった。

 

 

 

  #

 

  「なんで集合場所に来なかった?

   言え。早く言えば楽に介錯してやる」

  「いや、あの……」

  「もう介錯されたんですがそれは……」

  「だまれッ!!」

 

  「へぶッ」

  「へばッ」

 

    俺達は再三に渡る理不尽に晒されていた。…

   …否、理不尽ではないか。一応理由はあった。要

   は約束を破ったことにシロリロさんはお怒りなの

   であった。なにか忘れているなと思っていたが、

   納得であった。俺達は仕事の都合で召集を受けて

   いたのだ。いわば自業自得であった。

 

    ……しかしである。この女、蹴りすぎではなか

   ろうか? 魔族は物理的に致命傷を負うことはな

   く、いかなるダメージもその再生力によっていず

   れは復活する。再生力は個々により差がある中、

   俺達兄弟は極めつけだ。さっきのような頭部破壊

   であろうと三分もすれば復活するのであった。故

   に俺達は殺しても基本死なないのだ。

    しかしいかに暴力を受けようと生体的に平気で

   はあるものの、痛いものは痛いし、ムカつくもの

   はムカつくのだ。

 

    俺達は非難した。

    暴力はいけないと。

    しかし無視された。シロリロさんの暴力が俺達

   を襲った。

    フッ。話にならねぇな。俺達はシロリロさんの

   圧倒的暴力を前に怖じけづいた。普通に敵わない。

   それだけの力の差が彼女との間に明確に存在した。

   女だから力が弱いなど、そんな理論この魔界にお

   いては通用しなかった。

    仕方がなく俺達は単純に約束を忘れていたこと

   を告げる。

    そして俺達は無事、殺された。

    この女、過激すぎる。

    ……だが嫌いじゃない。

    彼女の上腕から生える出し入れ可能式な鋭利な

   鎌爪による一撃で腹わたを切断され、血飛沫を上

   げて床に倒れ伏す中、俺は思った。

 

 

  #

 

  「猪を」

  「狩ってこい?」

 

  「……そうだ」

 

    シロリロさんは大仰に頷いた。魔王直属の部下

   である彼女は任務を言い渡されたようだ。同僚で

   ある俺達兄弟もまた当然、魔王直属の部下である

   故、俺達の任務でもある。

    それにしても猪かぁ。何故に猪?

    俺達は疑問を呈した。

    するとシロリロさんは道中、事の経緯を話した。

   とある村にて山から下りた猪が現れ暴走し、村が

   半壊。討伐を試みるも村の住民戦力じゃ太刀打ち

   できない。故に魔王直属部隊の自分達にお鉢が回

   ってきたとのこと。

 

  「魔界の秩序を守る一助を成すことが私達の役目だ。

   異論はないな?」

  「ある」

  「面倒くせぇ」

 

    シロリロさんの華麗なる裏拳が飛んだ。シロリ

   ロさんは大顎をギチギチと鳴らされる。無機質な

   白銀の目玉がギョロリと動く。

  

  「……ないな?」

 

    はい、ありません。

    俺達は即答した。

 

 

 

  #

 

    猪とは言わずもがな、獣である。いや、正確に

   は魔獣と言うべきであろうか。地上のそれとは類

   時点は多少あるものの、異形と化しており体格も

   違えば、姿かたちも大きく変貌している。猪一匹

   で村が半壊したと聞けば、その異常性がよくわか

   ることだろう。    

    いな、魔界においても猪一匹で村が半壊など滅

   多にないことである。この度の出現した猪は通常

   の個体とはまた大きく違うと言えた。

 

    ロコロロ村。この度、猪によって半壊した村の

   名称である。到着した俺達がみた光景はまさに惨

   状であった。木製建築の家々が軒並み壊れており、

   自然災害でもあっかのようだ。

    村の復興のため、村修繕に適性のある魔族達が

   あちこちで働いている。複腕を備える魔族達が木

   材を担いでいたりした。

 

  「……ひどいな」

 

    シロリロさんは遺憾を示すように独りごちた。

    ああ、確かにひどい有り様である。俺達は同意

   した。

    しかし俺はもっと気になることがあった。……

   兄も気になるらしい。俺達はそちらへと視線をや

   った。

    ……そこには幾人もの魔族達が墓標を立てて死

   んだ被害者達を弔っている様子を認めた。憮然と

   うつ向く者もいればすすり泣く者もいた。それは

   まさに痛ましい光景であった。

    シロリロは悔やむように拳を握りしめると言っ

   た。

 

  「……許せん」

 

    シロリロさんは使命感に燃えているようだ。死

   亡者が出たことに義憤を覚えていることが手に取

   るように伝わった。また魔王直属部隊である彼女

   にとって、秩序を保つ助けとなることが彼女にと

   っての役割。故に、その秩序を乱す敵に対し怒り

   を覚えるのも納得できるものだと言えよう。

    

    ……しかしである。俺達魔族に物理的致命傷など

   存在しない。如何に死んだように見えても基本的に

   は生き返るのである。

    故におかしいのである。

    なんで墓標を立てるの?

    なんで埋めるの?

    時間経てば生き返るじゃん? 

    まあ再生機能には個々により差があるものの、

   それは再生速度に限った話。俺達なら五分か十分

   くらいで再生できる損傷でも、一般の魔族ならば

   一ヶ月かかる場合もある。

    ……でも最終的には生き返るのである。

    無駄じゃん、これ。

    俺達は言った。しかしシロリロさんはまるで信

   じられないものでも見るかのようにこちらを一瞥

   した。その目には侮蔑の色すらあった。

    ……え? 俺達がおかしいの?

    しかしおかしいらしい。

 

    シロリロさんはこう述べる。

 

  「……お前達はこれを見てなんとも思わないのか?」

 

  「こんなに大勢の人が亡くなったのだぞ」

 

  「……悲しくないのか? 悔しくないのか? 種を同

   じくとする同胞達をこんなにも殺されて……」

 

  「同胞の命を、こんなにも安く浪費されて」

    

 

    ……いや、シロリロさん。あなた先程俺を躊躇い

   なく殺しましたよね? 

    散々蹴り飛ばしましたよね?

    しかしシロリロさんは俺達ごときの言葉など聞

   いちゃいなかった。憂鬱げにため息を吐くと首を

   ゆっくりと振って見せ、こう述べた。

    

  「……いや、これ以上言っても無駄か」

 

  「……いや、いいんだ。お前達に普通の感性を求めた

   のが間違いだった。悪かったな」

 

  「だが、これだけは忘れないでくれ。私達、魔王直

   属部隊は魔王様と同じく、治安を守ることを至上

   とする」

 

  「くれぐれも、今みたいな発言はしないでくれ。

   ……わかったな?」

 

    上記述べられると、シロリロさんは踵を返した。

   ……まるで一方的である。俺達は呆然とした。俺達

   には反論する時間さえ与えられなかった。

    しかしこんなこと、別に珍しいことではなかっ

   た。

    魔族とは暴力的である。それはつまり感情的と

   も言えた。魔族によっては何かしらの琴線に触れ

   るとこういう暴論がままあるのである。

    俺達はとりあえず彼女を呼び掛ける。

    ……お、おい、ちょっと?

    し、シロリロさん?

    しかしシロリロさんは今はもう話すことはない

   とばかりの空気を出して足を止めることはなかっ

   た。

 

  「急ぐぞ。いつまたヤツが村に現れるかわかったも

   のではない」

 

  「……もうこれ以上……」

 

  「犠牲者を増やしてはならないんだ……」

 

 

    …………。

    …………。

 

    シロリロさんはそう決意を新たにしたように述

   べられるとそのまま件の猪がいるであろう山へと

   足を進めていった。

    俺はもはや何も言えなかった。兄も何も言えな

   かった。

    だってそうだろう? こうまで儚げかつ悠然し

   た姿勢でそう言われたら何も言えなくなってしま

   うわ。

    俺達は頷き合った。

    ……まぁね? 仕方ないね。

    ああ、これはもう、うん。

   

    ……そう、仕方ないのである。俺達は悲しげに

   大顎をチチチチと鳴らすと、シロリロさんの後へ

   と続いた。

 

   

    ロコロロ山岳地帯。

    件の猪が凄む山岳地帯である。俺達はその山へ

   と向かった。

    ……ろくな準備もせずに。

 

 

    ……そう。魔族は感情的な故に。

 

 

 

  #

 

    

    件の魔獣。その猪は俗にボアノと呼ばれた。魔

   獣ボアノはロコロロ山岳地帯に生息するが、生息

   区域が広く、件の個体の捜索はひどく難航した。

    本来それなりの準備をしていれば、捜索自体は

   もっと楽にできたであろう。しかし、故あって何

   の準備もなく山に入ったため時間を酷く浪費する

   こととなった。

    労働、疲労を考えれば村で待ってた方がマシな

   まであった。俺達兄弟の触覚はまはやショゲショ

   ゲであった。

    そしてそれを見かねたシロリロさんが俺達を叱

   責する。

    俺達は文句を垂れる。

    暴力を振るわれる。

    さらに疲労する。

    さらにショゲる→叱責→文句→暴力→疲労など

   など、もはや悪循環であった。

    道中、イライラが爆発して何度か殺されたが、

   だがだからといって死んで疲労がリセットされる

   訳ではなかった。疲労は蓄積される。

    

    魔獣ボアノと遭遇したのは、山に入って2日が

   経過した頃であった。

    生い茂る山の木々の間より、その魔獣は姿を現

   したのだ。

 

  

    Moooooooooooooooooooooo

 

    

    ボアノの咆哮。

    俺達兄弟の鼓膜は大きく震えた。

    魔族の平均体長は1.7mに対し、ボアノの平均

   体長は2m。しかしこのボアノに限っては明らか

   に体長3mを越えていた。明らかな異常個体。

    この魔獣の圧倒的威圧感を肌で感じつつ、俺達

   兄弟はこの魔獣との遭遇に相反する感情を抱いて

   いた。

    ……そう。それは歓喜。圧倒的歓喜である。

    ようやく会えた。ようやくである。俺達はその

   歓喜を示すかごとく大顎をキチキチと鳴らした。

    ……会いたかった。……いや、マジで会いたかっ

   た。

    ようやく会えた。

    これまでヤツに会うために何度殺されたことか。

   それを思えば俺達兄弟はもはや敵意どころか愛お

   しさすら感じた。そんな自分達にゾッとする。

 

  「ふん、ようやくお出ましか。探したぞッ」

 

    シロリロさんもヤツとのようやくの遭遇にモチ

   ベーションを大きく回復したようだ。その白銀の

   瞳孔は大きく見開き大顎をキチチチチと鳴らして

   いる。絶好調であった。

    すると、シロリロさんはフンッと気合いを入れ

   るかのような挙動を示すと、体内に保有する「魔

   力」を爆発させるように体外へと発露させた。

    こ、これはまさか!?

    シロリロさん!?

 

  「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」

  

    今度はシロリロさんの咆哮だ。

    魔力解放である。

    魔族とはその見た目や特殊な肉体故に「魔」と

   表現されるが、何よりもその由来となったのは「

   魔力」と呼ばれる不可思議な力をその身に保有す

   る故である。

    魔力解放。それは魔力による肉体強化。元々身

   体の各部位に備えられた皮膚甲殻はより装着範囲

   を広げて禍々しく強固なものへと変貌する。

    頭部に一部のみに張り付いてた甲殻もさらに広

   がり、完全にその見た目は「蟲」へと化した。

 

    これはいける。 

    シロリロさんは本気だ。

    俺達は確信した。

    ただでさえ俺達よりもはるか格上のシロリロさ

   んが魔力解放までして本気だしたら大抵の魔族は

   一殺である。

    彼女はそれほどに強かった。

 

  「シロリロさんッ、いっけえええええ!!!」

  「やれええええええ!!!!」

 

    俺達兄弟はただの応援団と化した。何故なら他

   にやるべきことがないからだ。今下手に介入すれ

   ば間違いなく足を引っ張る自信があった。

    シロリロさんが地を蹴る。蹴った地面には大き

   な亀裂が生じた。それほどの脚力から生み出され

   るスピードは一体いかほどのものなのか。俺達は

   目を離せなかった。

    シロリロさんが吠える。ボアノの迎え撃つよう

   に再度咆哮した。勝負は一瞬であった。その巨体

   から生まれるとは思えぬ超スピードにてボアノが

   シロリロさんを一瞬で吹き飛ばし、その凶悪なま

   での衝撃にてシロリロさんの肉体は紙切れ同然と

   ばかりに虚空に飛び散り周囲へと散布した。

 

    魔族は魔族。魔獣は魔獣だ。いくら魔族の中で

   強靭なフィジカルを誇ろうと、魔獣の身体能力の

   前には誤差の範囲でしかなかった。

    人が力比べで猪に勝てないように、魔族もまた

   力比べでボアノに勝つことなどできやしなかった。

    ボアノ討伐において何よりも重要視されるのは

   武器の装備である。俺達はそんな簡単なこともわ

   かっていなかったのだ。

    俺達魔族は暴力的である。そして感情的であっ

   た。つまりはそういうことである。

    

    えっ!? ……あ。

    あ!? うん。……ふーん? そういう? そ

   ういう展開的なやつね?

    ……あるある。

    俺達はあまりのあっけなさになんともコメント

   に困った。

 

  「まあね、所詮魔族だものね。そりゃ無理だわ」

  「だな」

 

    俺達は笑って逃げ帰った。

 

 

  #

 

 

    後日、装備を整えた俺達兄弟はボアノ討伐を成

   した。

    そしてさらに数日、肉体を散布するという非業

   の死を遂げたシロリロさんが復活し、なぜ笑って

   帰ったのかと彼女には聞くことはできない筈の事

   実内容を問い詰められ俺達は首チョンパされて死

   んだ。

    罪状はシロリロさんを笑った罪。不敬罪であっ

   た。

 

    魔族は暴力的である。

    しかしそんなシロリロさんが俺達は嫌いじゃな

   かった。

 

 

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。