東方黒殲鬼   作:弥識

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オリキャラ主って言ってんのに未だに登場していない事実。
キャラの発言に若干の不自然さを感じるかもしれませんが、元を書いたのが『輝針城』どころか『心綺楼』より更に前だったので……ご了承ください。


2章:入って来たモノ

○再思の道入口―――

 

藍が指定していた合流場所で二人を待っていた助っ人は、確かに慧音の知った顔であった。

 

「あ、来ましたね。慧音さん、お久しぶりです。」

「君は確か……冥界の?」

 

そこで待っていたのは、背中に長刀、腰に短刀を携えた銀髪の少女であった。

 

「はい、魂魄妖夢です。こうしてお会いするのは『永夜異変』以来になりますか」

「あぁ、そうなるかな。久しぶりだ、少し髪と背がのびたか?」

「……慧音君、君は親戚の叔母か何かかい?」

「い、いや……いつも子供を相手にしてるからつい…そ、それはそうと、君が件の助っ人か?」

 

ナズーリンの苦笑を避けて取りあえず確認を取る。

 

「そうです。此方でも独自に冥界を調査していたんですが、藍さんから連絡がありまして。そちらはナズーリンさんですね?」

「おや、ナズーリン殿、妖夢と面識があるんですか?」

「いや、直接会うのは初めてだが、彼女は以前命蓮寺に来たことがあるからね。ぬえやマミゾウ辺りから聞いたんだろう」

「それもそうですが、香霖堂の店主さんからも」

「む、そうだったか。という事は、君も彼に吹っ掛けられたクチかい?」

「えぇ、まぁ色々と」

 

と、慧音はもう一人の助っ人が見当たらない事に気付く。

 

「妖夢、もう一人の助っ人は?もう此方に着いている、と聞いたが」

 

まさか背後にフワフワと浮いている半霊がもう一人の助っ人、というわけではあるまい。

 

ナズーリンと偏屈店主の話に花を咲かせていた妖夢に尋ねると、

 

「あぁ、あの人は一足先に無縁塚に偵察に行ってます。直ぐ戻ると言ってましたが」

 

と返ってきた。なんとも気の短い助っ人だ、とも思うが危険ではないのだろうか?

 

「大丈夫なのかい?無縁塚は此処からそれなりに離れているし、現在かなり不安定と聞いたが」

 

ナズーリンも同じ事を考えたらしい。少し心配そうに尋ねる。

 

「軽く様子を伺ってくるだけみたいでしたし、そもそもあの人にとって、『距離は関係ない』ですから」

 

関係ないとはどういうことか、と慧音が尋ねようとしたところに、三人とは違う陽気な声が聞こえてきた。

 

「お、漸く来たみたいだね。あんまり来ないもんだから一足先に向こう覗いてきちまったよ」

「戻ってきましたね。慧音さん、ナズーリンさん。あちらがもう一人の助っ人の方です」

 

二人が目を向けると、其処には身の丈程もある大鎌を担いだ赤髪の少女がいた。

 

「あたいは小野塚小町。三途の川で船頭をやってる、まぁ、死神さね」

「……死神、ですか。私は上白沢慧音。人里で寺子屋をやっています。此方はナズーリン」

「へぇ、先生さんか。そちらさんもよろしくな」

「あぁ、宜しく頼む。時に妖夢君……」

 

小町と軽く挨拶を済ました後、ナズーリンは声を落として妖夢に近づく。

 

「彼女、船頭とか言っていたが、腕はたつのかい?」

「えぇ、かなり強いですよ。私も以前手合わせした事がありますが、あの細腕で普通に大鎌振り回します」

 

妖夢もナズーリンにしか聞こえないように声を絞る。当の小町は、慧音と何やら話をしているようだ。

 

「死神は伊達ではない、という事か。そういえば先程言っていた『距離が関係ない』とは?」

「それも言葉の通りですよ。あの方は『距離を操る程度の能力』を持ってるんです。本来は三途の川を渡るときに使うものだそうです」

「成る程……それは確かに強力な能力だ」

「えぇ、味方なら心強いですが、正直敵には回したくない方ですね。私は特に相性が悪いですし。」

 

剣術を基本戦法とする妖夢にとって相手との距離、すなわち『間合い』を自在に操れる小町はある意味『天敵』なのだろう。

 

「確かにな。しかし……そうか、ふむ」

「ナズーリンさん、どうかしましたか?」

 

何か小さく呟きながら考え込むナズーリンを見て、怪訝そうな顔をする妖夢。

 

「あ、いや大したことじゃ―――」

「さて、合流も出来た。そろそろ行こうじゃないか」

 

ナズーリンが言葉を返そうした時、小町が声を掛けてきた。後ろには慧音もいる。

 

「む、そうだね、そろそろ行こう。あまりのんびりしていても、皆が心配する」

 

それまでの思考を頭の隅に追いやり、ナズーリンはロッドを担ぎなおす。

 

「再思の道を越えれば直ぐ無縁塚です。何が潜んでいるかも分かりませんし、気をつけて行きましょう」

 

妖夢も剣に手を掛け、いつ不測の事態が起きても対応できる体勢をとる。

すると、小町が後ろにいる慧音を指しながら言った。

 

「あーその事なんだがね、先生さんに良い考えがあるらしい」

「先生さん……まぁ良いでしょう。ちょっとした保険みたいな物です」

 

なんだか妙な覚え方をされたなぁと思いつつ、慧音は残りの二人に簡単な説明を始めた。

 

 

 

 

 

○無縁塚入り口―――

 

「ふむ、確かに何時にも増して不穏な空気が漂ってるね」

 

ペンデュラムを手にしたナズーリンが呟く。

 

「あぁ、いつもより嫌な感じだ。それにしても、大した能力だねぇ先生」

 

小町も大鎌を手に周囲を警戒しつつ、慧音に声を掛ける。

 

先ほど話していた慧音の『考え』とはこうだ。

 

藍の情報によると、無縁塚には『外部』からの侵入者がいる可能性がある。

しかし今回はあくまで調査、無駄な戦闘等のトラブルは出来るだけ避けたい。

そこで、『彼女達が無縁塚に来た歴史』を慧音の『歴史を食べる程度の能力』で消し、周囲に認識されにくくした状態で調査をする、という方法を取った。

 

「以前人里を見えなくしたのもこの能力なんですよね?」

「あぁそうだ。尤も、君の主や妖怪の賢者には通じなかったがな」

 

妖夢の問いに慧音が応える。

確かにこの能力は上位の妖怪には通じない事があるが、今回はサーチ能力に長けたナズーリンがいる。此方が気付かずに接触、という事はないだろう。

そもそも紫や幽々子レベルの妖怪がいた場合、彼女達だけでは手に負えないのだが。

 

「さて、どうだいナズの字?」

「ナズの……まぁ良いか。今のところは特に……おや?」

 

小町の妙な呼び名に苦笑しつつ周りを探索していたナズーリンが、驚いたような声をあげた。

 

「なにかあったんですか?」

 

剣の柄に手をそえながら、妖夢が声を掛ける。

 

「……たった今、何かが無縁塚に入って来た。しかも複数だ」

「なんですって!?」

 

突然の侵入者に慧音も驚く。

 

「そんな事が在り得るのかい?」

 

驚いたように小町が問うが、ナズーリン自身も信じられないような顔をしていた。

 

「確かに私のダウジング精度は百パーセントじゃない。しかし今まで何も無かった所から急に複数の反応が出た…それに」

 

彼女が手を掲げると、ペンデュラムは無縁塚の奥を指している。

 

「我々が現在いるのは無縁塚の入り口付近。そして反応が出たのはこの先……恐らく結界が緩くなってる所だろう、『外』から来た可能性が高い」

 

ナズーリンの仮説を聞いた三人は顔を見合わせた。

 

「……とにかく、行ってみましょう」

 

最初に声を上げたのは慧音だった。

 

「相手が何であれ、『幻想郷』に入って来たのは間違いないようです。情報は必要でしょう」

 

彼女の言葉に、他の三人も頷く。

 

「私も賛成です。危険かも知れませんが、私達は此処の調査に来たんですから」

「そうだねぇ。正直嫌な予感もするが、他所もんをほっとくと後々面倒になるかもしれない」

「よし、行ってみよう。しかし何がいるのかも分からない。十分に警戒していてくれ」

 

 

 

○無縁塚奥地―――

 

「皆、気を付けろ。反応が出たのはこの辺りだ」

 

ペンデュラムを手にしたナズーリンが三人に声を掛ける。

四人が現在いるのは無縁塚でも少々奥まった一角だ。

 

「うぅ……なんだか嫌な感じがします」

 

妖夢がしきりに周囲を警戒しながら呟いた。それを聞いた小町も頷く。

 

「ここいらはこの辺でも特に不安定な場所だ。見てみな」

 

彼女が示したところには、何体かの無縁仏がいた。かなりの時間が経っているのか、損傷も酷い。

 

「ここらは目にも付き辛いし、頻繁に結界の緩みが起きてるみたいだね。コレもいつからいたのやら」

 

そんな時、ナズーリンが小さく声を上げた。

 

「皆、隠れろ―――何か来る!」

 

咄嗟に四人は近くの物陰に身を隠す。其処は大きな岩を木の根が覆っており、四人が隠れつつ様子を伺うのに丁度よかった。

 

「……何者でしょうか?」

「分からない、だがこの匂い……少なくとも人間ではなさそうだ」

 

物陰から伺う妖夢の呟きに、スンスンと鼻を鳴らしながらナズーリンが応える。

此方に近づいて来る何かは―――強い獣の匂いを発していた。

 

 

 

 

「……なんだいありゃ?」

 

思わず小町が呟く。現れたのは、全身を灰色の毛で覆われた化物だった。

全体的な見た目は二足歩行の犬の化物、といったところか。

細長い顎には大きな牙が覗き、膝近くまである長い腕には鋭い爪が生えている。

大きさは2m近く、四人の中では長身にあたる小町よりも、更に大きい。

 

「妖獣……ですかね。それにしては随分獣臭い気もしますが」

 

様子を伺いつつ、妖夢が呟く。

此処幻想卿において、ある程度の知能と力を持った妖怪は人間に似た形をとる事が多い、と言われている。

しかし目の前にいる化物は一応二足歩行をしているものの、見た目は獣のそれに近い。

 

「おや、どうしたんだい先生さん」

 

先程から一言も発さずに化物を食い入るように見つめている慧音に気付き、小町が声を掛ける。

 

「え?あ、いえ、その……恐らく……いや間違いないでしょう。…アレは私と同じ存在です」

「君と同じ……ということは奴は獣人なのか?しかし、君とも随分違うし、それに今夜は満月じゃないだろう?」

 

慧音の言葉を受けたナズーリンが首を傾げながら問う。

彼女が半獣なのは有名な話だ。(※阿礼乙女が編纂した『幻想卿縁起』にも記載されている)だが彼女は満月の夜にしか変化しないはずだし、変化した姿も人と左程違わなかったはずだ。

 

「私は後天性の獣人……彼は先天性なんだと思います」

 

獣人には大きく分けて「先天性」と「後天性」に区別される。

「後天性」は人が何らかの理由で獣人になってしまったもので、慧音はこれにあたる。

後天性の獣人は人の形を保ったものもいる。実際に、獣人化した慧音は角と尻尾が生える位しか外見の変化はない。

それと比べて「先天性」は見た目が大きく変わることが多いと言われていた。

 

「獣化の切欠はその固体によって様々です。彼は外から来たようですから、私とは違うのかも」

 

例えば、外の世界には『水に濡れるだけで変化する獣人』がいるそうだ。……実に不便そうな話である。

 

「……やはり外の世界から来たんですかね」

「恐らくな……以前読んだ『幻想卿縁起』にも、あんな姿をした獣人がいる、という記載は無かったし」

 

妖夢の言葉に、複雑そうな表情で応える慧音。こんな形で同属に逢ったのだから、動揺も大きいのだろう。

 

獣人は、頻りに辺りを伺っていた。

 

「こっちに気付いてる……って訳じゃなさそうだねぇ」

 

岩陰に隠れつつ、小町が呟く。

 

「此方を捉えているわけではないですが、何かが居るのは気付いているのかも知れません」

 

四人はあくまで慧音の能力によって『認識され難く』なっているだけで、彼女達の存在その物が消えているわけではない。

 

「そういえば、反応は複数あるってナズーリンさん言ってまし……!!」

 

ナズーリンの言葉を思い出した妖夢がそれを口に出した途端、新たな影が現れた。

 

 

「な!?もう2体?」

「やはり複数居たか……」

 

新たに現れたのは二体の獣人だった。見た目はほぼ同じで、片方は黒い毛、片方は茶色の毛で覆われている。

どうやら三体の獣人はお互いを仲間として見ている様だ。群れなのだろうか。

彼らは何度か唸り声を上げて互いに何か言葉をやり取りした後、揃って何かを探し始めた。

 

「何を探してるんでしょうか?」

「これは……恐らく、見てれば解ると思うぞ」

 

不思議そうに問う妖夢に対して、彼らが何を探しているのか気付いた慧音は呻くように答えた。

事実、彼らが探していたものは直ぐに見つかった。

 

どうやら彼らは腹が空いていたらしい。そして彼らが見つけたのは―――付近に転がる無縁仏だった。

彼らはその中でも比較的損傷が少ないものを引きずり出す。若い女性、どうやら自殺体らしい。手首に大きな傷があった。

三体の化物はその死体を囲むと、一斉に其れを喰らい始めた。

 

 

 

 

ぐちゅ……ちゃぐ――ぼぎり―――ぐちゃり……ごきん

 

 

 

辺りに内臓を貪り骨を砕く音が響く。化物が喰らいつくたび、死体の四肢がびくんとはねた。

 

 

 

「……うわ」

「妖怪が人間を喰らうのは摂理…って分かっちゃいるけど、見ていて気分の良いモンじゃ無いねぇ」

 

妖夢が呻き、小町が眉を顰めながら呟く。

そう、『妖怪が人を襲う』のは自然の摂理だ。だがそれは現在の幻想卿において、最早形骸化した摂理でもあった。

 

「妖怪ネズミだって人肉は好きだが、それにしたってもう少し品の良い……っと、すまない、失言だった」

 

その様子を見ながら吐き捨てるように呟いたナズーリンだったが、隣にいる半獣の少女の顔を見て、気まずそうに目を背け、謝罪した。

隣にいた半獣の少女―――慧音は今にも泣きそうな顔をしていた。

 

 

 

 

そう、分かっている。それは当然の事なんだ。妖怪が人を喰う事は『悪』ではない。

そもそも自身にも、その妖怪の血が流れている。獣化した自分は、いつもより少々好戦的になる事も分かっている。

でも、それでも、自分は人間が好きなのだ。だから傍にいる。だから守るのだ。

 

 

 

 

「さて、何時までもこうしちゃいられないね。とにかく何が入って来たのかは分かったんだ。一度戻って、後は巫女なり何なりに…」

「……退治しよう。今此処で」

 

この場の空気を変えようと、ことさら陽気に帰還を提案した小町の言葉を遮るように、人里の守護者は呟いた。

 

「慧音さん……」

「しかしそれは……良いのかい?」

 

妖夢とナズーリンが、慧音に問い直す。『今此処で退治する』とは、彼女の目の前で彼女の同胞を殺す事に他ならない。

 

「これまでの行動を踏まえると、今の彼らは人としての心を完全に捨てている」

「そして彼らを人に戻す方法が現時点では分からない。言葉での説得は不可能だ」

 

慧音は俯いたまま一言一言確かめるように呟く。

 

「そうなると彼らが幻想卿の『スペルカードルール』を受け入れる事は無い」

 

肩を小さく震わせながら、淡々と続ける。

 

「後は退治されるのが遅いか早いかだ……犠牲者が出てからじゃ遅すぎる」

 

そう締め括った。握り締めた拳には血が滲んでいた。

 

確かに小町の言う通り、自分達の目的は『無縁塚の調査』である。

何故かは分からないが、慧音は彼らが自分と似た存在であると確信していた。何も進んで同属を退治することも無い。

あくまで『対岸の火事』として、後は巫女達や魔法使いに任せるのも一つの手だ――だが。

 

だが自分は半獣であると同時に、『人里の守護者』なのだ。

彼らは人肉を喰らう。今は此処の死体を貪っているが、もしそれがなくなったら?

 

―――『火消し』が『火事場』を見て見ぬ振りは出来ない―――

 

人里を、幻想卿の人間を襲う可能性のある存在を、自分が見逃すわけにはいかないのだ。

 

 

「……分かりました。では、行ってきます」

 

慧音の言葉を聞いてまず動いたのは妖夢だった。刀を抜き、戦闘態勢に入る。

 

「な、ちょっと待て妖夢!?」

「以前にも妖獣を斬った事はあります。たった三体なら……まぁ私一人でも何とかなるでしょう」

 

驚く慧音を特に気にした風もなく、こきこきと首を鳴らしながら妖夢は応える。

 

「そうかもしれないが、何も君一人で……」

「慧音君の言う通りだよ妖夢君。私も手伝わせてもらうよ。しかし本当に血の気が多い事だ……マミゾウ達が言ってた通りだな」

 

今にも斬りかかりそうな妖夢に対し、肩を竦めながらナズーリンが声を掛ける。

 

「ナズーリン殿……」

「これでも一応毘沙門天の部下でね。ああいう存在を放っておく訳にはいかんのさ」

「よし、話はまとまったみたいだね」

 

最後にそう締め括ったのは小町だ。慧音の肩を叩きつつ、穏やかに笑う。

 

「連携されたり逃げられても厄介だ。あたいの力で奴らを分けるから、サシで仕留めよう。妖夢は灰色の、ナズの字は茶色の、先生とあたいで黒いのってことで」

 

小町の提案にナズーリンと妖夢が頷く。

 

「承知した。ところで何で君のところが二人なんだ?」

「決まってるだろ?あたいがラクしたいから♪」

「あー、そういえば貴方はそういう方でしたね……まぁ良いでしょう」

 

サボり癖のある死神の発言に苦笑しつつ、それぞれに戦いの準備を始める。

 

「皆……すまない。恩に着る」

「堅いねぇ先生。もっと肩の力抜いて生きなよ」

「君の立場は理解しているつもりだ。此処でどんな選択をしようと、誰も非難なんてしないさ」

 

慧音の生真面目さに苦笑する三人。しかし、だからこそ彼女は人里で慕われているのだろう。

 

「さて、それじゃぁ行こうかね」

 

そういって、小町が構えた。それに合わせて、慧音が皆に注意を呼びかける。

 

「彼らと接触した場合、新しい『歴史』が生まれて私の能力は解除されてしまうからな」

「成る程、という事は小町さんが能力を発動して、彼らに干渉した時点で慧音さんの力は解除されるとみていいですね?」

「あぁ、そうだ。恐らく不意打ちは出来ないから、気をつけてくれ」

 

冷静に分析する妖夢に慧音も応える。さぁ、後は戦うのみ―――

 

 

 

その時だった。

 

 

「待て!!また何かくる!!」

「な!?っとと!!」

 

突然ナズーリンが声を上げ、慌てて小町が能力発動をキャンセルする。

 

「今度は何ですか!?」

 

焦れた様に妖夢が問う。対するナズーリンは驚愕に目を見開いていた。

 

 

 

「なんだこれは……!?こんな反応は初めて見るぞ!」

 

 

「皆さん、妖獣の様子が!」

 

妖夢の言葉に目を向ける。彼らも何か異常に気付いたのだろう。頻りに辺りを警戒している。

 

「不味い、気付かれたか!?」

「いや、まだ私の能力は解除されてない!これから来る何かを警戒してるんだ!」

 

思わず毒づく小町と、それに応える慧音。しかしそうは言ったものの、周囲に大きな変化は無い。一体何が起こっている?

 

「ナズーリンさん、反応は何処からですか!?」

 

妖夢が問うと、ナズーリンは掠れた声で言った。

 

「場所は近い…すぐそこだ。でも今其処には何も無い…しかし反応がある…どういうことだ?」

 

 

その時だ。

周囲を警戒していた獣人たちが、ある一点に目を向けて唸りだした。

その一点とは何も無い空間。彼らの目線からすると、地表から1.5m程高い所だ。

其処は慧音たちが隠れている岩陰と、獣人達ががいる地点を丁度三角形を結んだような地点で、彼女達からも良く見えた。しかし其処には何も無い。

 

「……?何も居ないじゃないか」

 

小町も思わず首を傾げる。奴らは一体何を警戒している?

 

「違う…場所は其処なんだ…まだ来ていないだけ…だが彼らはそれに気付いている…来るぞ!!」

 

ペンデュラムを見つめてうわ言のように呟いていたナズーリンが叫んだ、その時だった。

 

 

 

 

 

何も無い空間が、ぐにゃりと歪む。

続けてその場の空間が小さく震えた、次の瞬間。

 

 

 

―――ぴきっ――ぱきぱき―――かしゃん!

 

 

 

 

何も無い空間に亀裂が走り、乾いた音を立てて大きく割れた。

 

 

「なッ……!」

「おいおい…マジか…!」

 

絶句する妖夢と、思わず顔を引きつらせる小町。その頬には一筋の冷や汗が。

 

「空間の…亀裂?」

「スキマ妖怪の仕業……じゃなさそうだねぇ。あいつの作るスキマとは大分違う」

 

慧音の言葉に応える小町。彼女は以前紫の創り出した空間の亀裂、通称『スキマ』を見たことがあるが、確かもっと綺麗に切れ目が入り、端をリボンの様な物で結んでいた筈だ。

 

亀裂の中は真っ暗で、中を見ることは出来ない。しかしよく見ると、亀裂の中は黒い液体のようなもので満たされて(水面?は地面と垂直なのだが、零れる事はなかった)いた。

どうやら獣人たちは、亀裂の中にある『何か』を警戒しているようだ。

 

「というかコレは…色々と不味いんじゃないですか?」

 

不安そうに妖夢が呟く。そう、目の前にあるのは空間の亀裂だ。

つまりその空間が壊れ、不安定になっているという事。

微妙なバランスで成り立っている幻想卿において、あの亀裂は危険極まりないもではないのか?

 

「しかし…我々だけでアレを何とかする方法は…」

 

困り果てたように慧音が呻くと、それまで黙ってペンデュラムを見つめていたナズーリンが声を上げる。

 

「漸くお出ましだ…さぁ、何が出るか――来るぞ!」

 

その声に、四人の目が一斉に亀裂の中の黒い空間に集まった。

 

 

ナズーリンの言葉に応えるように、先程まで穏やかだった亀裂内の黒い物体が、小さく波打つ。

そしてずるりと出てきたのは―――

 

 

 

 

 

「人の……腕?」

 

 

慧音が呟く。

 

亀裂から出てきたのは、人間の―――恐らく男の右腕だった。




はい、出ました、主人公。右腕だけ。(ネタバレ)

因みに加筆修正前は慧音さんが『私以外の獣人は幻想郷にはいない』的な趣旨の発言をしてました。影狼さん涙目。

さて、このままストックを放出するか、ある程度の期間を置いて更新するか……
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