東方黒殲鬼   作:弥識

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一応、キリの良いトコまでは載せることにしました。
もうちょっとだけ、続きます。


3章:幻想入り

『彼』が何時から其処に居たのか……それは本人にすらわからない。

刹那のような、それでいて永遠のような時の中、不意に『彼』の意識に光が灯る。

 

 

『彼』の中で一番初めに浮かんだ思考は、簡潔なものだった。

 

 

 

ここは―――何処だ?

 

いや、その前に―――俺は―――誰だ?

 

 

 

彼が目を開ける。しかし、何も見えてこない。瞼が開いているのはわかるのに、視界に写るは『黒』ばかり。

……違う、見えていないんじゃない。『それ』しか見えないんだ。『それ』?それとはなんだ?

少し思考がクリアになる。意識を集中する。……俺は一体、何を知っている?

 

自身に纏わり付いている…いや、俺が『黒い何か』の中に浸かっているのか。そして俺は『それ』を知っている?

 

奇妙な浮遊感を感じる。俺の体は何処を向いている?何処に向かっている?

 

 

 

 

わからない―――何もわからない。頼む―――誰か―――誰でもいい―――教えてくれ―――

 

 

 

 

『俺』は―――何だ?

 

 

 

 

その時、今まで何も捉えていなかった自身の聴覚に、奇妙な音が届いた。

 

 

―――ぴきっ――ぱきぱき―――かしゃん!

 

何かが砕ける音。その音がした方向に目を向ける。

 

視線の先には、自身が通れる程の大きさの亀裂があった。その亀裂から、薄く光が漏れている。

迷わずその光に手を伸ばす。とにかく『此処』から出たい。そう思った。

奇妙な浮遊感が強くなる。亀裂に向かって自身が浮かび上がっていくのを感じた。

 

光の中に水面?のようなものが見える。…アレが出口なんだ。きっとそうだ!!

 

 

亀裂の中に手を突っ込む。光の中―――水面の向こうに出た自身の腕が、確かに『此処』とは違う何かを感じていた。

 

 

 

○無縁塚奥地―――

 

「人の……腕?」

「その……ようですね。恐らく」

 

思わず漏れた慧音の言葉に、妖夢が応える。

 

亀裂の中から現れたのは、人間の右腕だった。見たところ、男性のもののようだ。

 

「腕だけ……ってわけじゃぁ、ないだろうね」

 

十分に警戒しながら、小町が呟く。

実際には『腕だけの妖怪』もいるかもしれないが、今回は違うようだ。というか、違うと信じたい。色々な意味で。

 

「安心したまえ。ほかの部分も出てくるぞ」

 

ナズーリンが呟いた。警戒していた獣人たちも、亀裂から出てきた腕を遠巻きに囲んでいる。

 

右腕は亀裂から垂直に突き出されていたが、重力に負けたのか、そもそも力が入ってなかったのかやがて地面に向かってだらりと垂れさがる。

そして、そのまま重さに負けるようにほかの部位もずるりと亀裂から這い出てきた。

腕の次に出てきたのは黒髪に覆われた頭だった。下を向いているので顔はよく解らないが、やはり成人男性のようだ。

そのまま肩、上半身と続き、やがて全身が亀裂から吐き出され、そのまま地面にどさりと倒れこんだ。

 

「幻想入り……」

 

そこに居る誰もが目の前で起きた現象の名を思わず口にする。

『幻想入り』そのものは決して珍しい現象ではない。しかし実際に目の前で見たことがあった者は、少なくともこの場にはいなかった。

 

「あ!見てください、亀裂が……」

 

妖夢の声に目を向けると、亀裂が小さな音を立てながら徐々に小さくなっていくのがわかった。

砕け落ちた部分が覆われると、残っていた空間の皹の様なものも次第に薄くなっていき、最後には跡形もなく消えた。

 

ナズーリンがペンデュラムの反応を見つつ口を開く。

「取り敢えず……これ以上の空間の崩壊はないようだね」

「となると、問題はあいつか」

 

小町がそう言って亀裂から吐き出された男を示す。

 

「先程から動きませんが、息はあるんでしょうか?」

「少なくとも死臭はしないから生きているとは思うけど……こっからじゃ意識があるかは分からないねぇ」

 

妖夢の言葉に、小町が応える。死神の彼女が言うのだから恐らくそうなのだろう。

 

 

亀裂から出てきた『彼』はうつ伏せに倒れたまま微動だにしない。

うつ伏せなので顔は分からないが、身体つきからして成人男性なのは間違いない。

着ている服は妙に軽装で、無地で丈が短い浴衣か甚平の様なものを着ている。

裾から見える手足は白く、更に裸足の様だ。それによく見ると手首に何か巻いてある。

 

「随分変わった格好をしていますが、彼は何処から来たんでしょうか?」

「何処から……というのはともかく、あの格好どこかで見たことがあるような…」

 

慧音の言葉に、ナズーリンが首を傾げる。

 

 

アレの様な物を何処で見たんだったか……?

 

……そう、確か自分達が幻想卿に来てすぐの事だ。

あの時は某『毘沙門天の代理』が色々とやらかして、自分はその尻拭いに東奔西走していた。

そして運悪く(良く?)見つけた悪徳古道具屋でひと悶着あって、そのあと店内で目に付いた何かの書物に……

 

 

ナズーリンが大切な何かを思い出そうとしていた、その時だった。

 

 

それまで事の成り行きを遠巻きに見ていた獣人たちが、突然唸り声を上げたのだ。そして―――

 

「がっ…けほっ…こふっ……うぁ…」

 

先程まで微動だにしなかった『彼』が小さく咳き込み、声を上げた。

 

「動きました!」

「あぁ、しかしもう少し様子をみよう」

 

思わず、といった様子で刀の柄に手を掛ける妖夢を慧音が抑える。

……というか何故彼女は刀に手を掛けたのだろうか?斬りたがりにも程がある。

 

『彼』は少しもがいたあと、ゆっくりと体を起こし始める。

しばらく四苦八苦した後(四肢に上手く力が入らないのだろうか?)、立ち上がり、顔を上げる。。

 

「お、ようやく顔が見え……る?」

やれやれ、と『彼』の顔を見た小町が、彼のある部分を見て言葉が止まる。

 

「……ふむ、取り敢えず、『只の人間』ってセンはなくなったみたいだね」

 

同じく『彼』のある部分を見たナズーリンが呟く。

 

 

 

彼女達の視線は、彼の『眼』に集中していた。

 

 

 

彼の眼の色は『金色』――――間違いなく『人以外の何か』の色だった。

 

 

 

 

「金色の目……ですね」

「あぁ、何の妖怪かは判らないがねぇ」

 

妖夢の呟きに小町が応える。

 

因みにここで小町が言う『妖怪』というのは、『人間以外の何か』を指している。

厳密には妖怪ではない種族(例えば『神』や『亡霊』、『仙人』や『天人』など)も含まれているが、あらゆる物が集まる此処幻想卿では左程重要ではない。

事実彼女達も、現時点では『報告する事柄が増えた』程度にしか考えてはいなかった。

 

 

「それにしても……綺麗な人ですね」

思わず口にした妖夢の言葉に、他の三人も概ね同意していた。

 

『彼』の顔を見た彼女達の第一印象は、『綺麗』だった。

見た目は確かに男性のそれだし、身体つきも貧弱という事もなく寧ろそれなりに鍛えられてる様に見える。

しかし、その体の上には随分と整った顔が乗っていた。

 

 

 

 

「…………?」

 

『彼』は言葉もなく周りを見渡している。その目は少し虚ろで、意識や思考も其処までハッキリしていないようだ。

彼女達はなんとなく、『彼』が所謂『寝起き』の状態なのだろうと感じていた。

 

と、『彼』の目がスッと細められ、ある一点を向く。向けられた先は慧音達がいる方向ではなく、もう片方の集団がいる場所だ。

 

「グルルルル……」

 

亀裂から出ていた妙な気配が消えた為だろう。獣人たちは少々落ち着きを取り戻し、『彼』に向かって唸っていた。

 

 

「……これは助けに入った方が良いんじゃないんでしょうか?」

「いや、まぁ確かにそうかもしれんが……」

 

周囲に満ち始めた不穏な空気を察して妖夢が提案するものの、慧音達は助太刀を決めかねていた。

 

「うーん、確かに『只の人間』だったら結構なピンチだと思うんだけどねぇ」

 

小町がポリポリと頬をかきながらこぼす。

 

そう、『只の人間』ならさっさと獣人どもを片付けて人里なり何なりに連れて行き、あとでゆっくり本人に事情を聞けば良い。

しかし『彼』は恐らく『人間以外の何か』であり、その詳細は未知。

そもそもあの妙な『亀裂』から出てきている、という時点で色々と『想定外』だ。

果たしてこの場で下手に干渉して良い物だろうか?一度誰かを使いに出して、改めて指示を仰いだ方が…

 

「まぁ三体もいるが一匹の強さは大した事ないんだ、意外と『彼』があっさりと―――」

 

片付けてくれるかも、と続けようとしたナズーリンの言葉を切るように、一匹の獣人が『彼』に向かって突っ込んだ。流石は獣人、動きはそれなりに早い。

あっという間に『彼』との間合いを詰め、そのまま力任せにぶん、と棍棒のような腕を振るう。

一方『彼』は獣人の動きに全く反応できず、側頭部に獣人の腕が直撃した。

 

「っ!」

「グルァァァァァ!」

 

獣人はそのまま腕を振りぬき、『彼』を吹き飛ばす。

『彼』は数メートル吹き飛ばされ、その先にあった大きな岩に叩きつけられる。そのままズルズルと力なく崩れ落ちた。

見ると叩きつけられた岩にはべっとりと血が付いている。それは一目で『まずい』と分かる量。

一方の獣人たちは動かなくなった彼を囲み始めている。どうやら食事の再開のようだ。

 

「あらら……『あっさりと』やられちまったみたいだねぇ。さて、どうする?」

 

先程のナズーリンの言葉を引き継ぐように、小町が呟いた。

確かに、得体の知れない存在と下手に干渉すべきではないのだろうが…

 

「……助けましょう。このまま放っては置けません」

「まぁ、流石にこのまま見て見ぬ振りって訳にはいかないだろうね」

「私は斬れるのなら何でも良いです」

 

小町の問いに、三者三様の応え。因みに小町もほぼ同意見だ。

いくら得体の知れない存在でも、目の前で獣に生きたまま喰い殺されたら流石に目覚めが悪い。

今後のサボターj……休憩の質にも関わってくる。由々しき事態だ。

 

まぁ、早い話が皆『御人好し』なのだろう。……約一名は若干違う気もするが。

 

「よっしゃ、んじゃぁグロい画になる前にとっとと済まそうかね」

 

そういって小町が自身の能力を発動させる。

 

「内訳はさっきと一緒。妖夢は灰色の、ナズの字は茶色のだ。黒いのはあたいがやるから、先生はあっちの兄さんを頼む」

「了解です」

「心得た」

「分かりました、お願いします」

 

それぞれが頷くと、彼女達と獣人達の足元に奇妙な模様が浮ぶ。

獣人達も異変に気付いたようだ。咄嗟に距離を取ろうとするが―――

 

「ざーんねん、もう遅いよ」

 

小町の能力行使の方が早かった。




次回から続けて戦闘描写です。
…文字数大丈夫かな。

追記:タイトルを変更しました。
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