「おんや?もう向こうはケリがついたみたいだねぇ」
獣人の攻撃をのらりくらりとかわしていた小町の耳に、別の場所に飛ばした獣人の断末魔が届く。
その前に聞こえた大きな音と言い、結構荒っぽい事をやっているようだ。
「一番乗りはナズの字かな?妖夢ならあんな音はたたないだろうし」
妖夢の戦法は良くも悪くも刀一本だ。あんな岩を砕くような音はしないだろう。まぁあいつなら岩くらい斬るだろうが。
「さて、そんじゃこっちもケリつけようかね」
そういって、肩に担いでいた大鎌を改めて構えなおす。
彼女の纏う空気が変わったことを察した獣人は、より一層警戒を強める。
それを見た小町は小さくため息をついた。
「……それが間違いなんだよ」
先程から何度かやり合って、此方の言葉が通じていないというのは分かっている。しかし言わずにはいられなかった。
彼がどれほど警戒を強めようと、彼女の能力の前には無意味。そもそも彼我の力の差が圧倒的なのだ。
「いくら言葉が解らなかろうと、戦えばどうなるか解らんわけじゃないだろう」
むしろ本能で動いている獣ほど、そう言うことは解るものだ。奴らは無駄な戦いをしない。
いや、慧音の話からすると、彼らはかつて『人』だった。それが故の行動だというのだろうか。
本来は『さっさと逃げるか降参する』が正解。彼がやっているのは自殺と同意だ。
確かに小町の職業は死神だが、別に好き好んで命を奪ったりはしない。
そもそも『死神』といっても、彼女の担当は三途の川の船頭。魂の回収役ではない。
それに正直言って、小町にとって『人の死』とはさして重要な事ではなかった。
『寿命がくれば死ぬ』それだけの事だと思っている。
妖獣に喰われたとしても、それがそいつの寿命なのだ。特に感慨はない。
しかしコイツは他所から来た存在で、当然幻想郷の人間の寿命には関わっていない。
そんなコイツが人里に現れたら?本来死ぬべきではない寿命の人間にも影響が起きるかもしれない。
それは幻想郷の理を侵す事に他ならない。
「なら、こっちも斬るしかないだろうが……!」
搾り出す様にして呟いた。もう間も無く、彼の寿命が尽きる。自分が、絶つ。
此方の気に中てられたのか、獣人が突っ込んでくる。それを感情のない目で捉えながら能力を発動。と同時に大鎌を振るう。
とん、と音を立てて獣人の後ろに降り立つ。そして大鎌を軽く振り、刃についた血を落とした。
「あんたがコッチの仕来りに習うのかどうかは解らない。でももし、あたいの船に乗るようなことがあったら……」
後ろに目を向けぬまま、小町が呟く。すると獣人に何本か赤い線が入り、ずち、と音を立てて幾つかの肉片に崩れた。……生死など、確認するまでもない。
「それも何かの縁だ。特別に、最短距離で渡してやるよ……こいつはその渡し賃だ」
そういって背を向けたまま、手に持った銅銭を指で弾く。
きぃん――と音を立てた銅銭は、獣人『だったもの』の上にぽとりと落ちた。
若干小町さんが真面目です。
だが其処が良い。
さぁ、次は妖夢さんですよー。