『みょん』は本当に迷言だと思います。
そう遠くない場所から、大きな音が聞こえた。続けて届いたのは妖獣の断末魔。
「先を越されてしまいましたか…」
長刀を構え油断なく目の前の獣人を睨みながら、妖夢は呟いた。
音の規模からして、恐らく一番乗りはナズーリンか。小町の獲物は大鎌だから、あんな岩を砕くような音はしないだろう。
しかしナズーリンがやったとしたら大した者だ。自分や(恐らく小町も)岩程度なら斬れないことは無いだろうが、砕く事は出来ない。
……もっと修行したら出来るだろうか?『岩をも砕く剣』……何それカッコいい。
「っとと!」
つい雑念で隙が出来てしまった。迫ってきた爪をギリギリでかわす。
先程『三匹いても一人で余裕』発言をしていた妖夢だったが、意外と接戦していた。
まぁ他の二人と違い、爪と牙しか攻撃手段がない相手に剣で真っ向勝負しているのだからある意味当然ではある。
『いけないいけない、もっと集中しないと……』
雑念を捨て、集中する。―――もっと疾く、もっと鋭く。
「この楼観剣は斬れないものはあまりない、といわれています」
剣を中段に構え、切っ先に意識を集中させる――何よりも鋭く。
「あなたは―――さてどちらでしょうね?」
体は半身、余分な力を抜き、体の強張りを捨てる――誰よりも疾く。
「まぁ―――斬れば分かりますか」
そして遂にその時がきた。
「グルァァァァ!」
獣人が突っ込んでくる。それに合わせて妖夢も突っ込む。『爪』と『剣』、真っ向勝負だ。
「はぁぁぁぁぁ!」
ギィィィィン!!
激しい金属音と共に獣人の鈎爪が砕けた。そしてバランスを崩した相手に、妖夢の返す刀が襲い掛かる。
「これで終わりです!!」
袈裟懸けに一閃。一撃で切り伏せた。そのまま絶命した獣人が、ゆっくりと崩れ落ちる。
「ふぅ……どうやら貴方も、『斬れる』側だったようですね(き、決まった……!)」
剣を振って血を払い、ドヤ顔で背に担いだ鞘に剣を収め……
「お、そっちも終わったみたいだね」
「みょん!!!!」
ようとした所、急に後ろから声を掛けられ、妖夢はみょんな……もとい妙な奇声を上げて文字通り飛び上がった。
慌てて刀を構えて振り向くと、其処には小町が立っていた。
全く気配を感じさせなかったところを見ると、能力を使って近づいたらしい。
「こここ小町さん!いきなり後ろに立たないで下さいよ!お化けかと思ったじゃないですか!」
「いや、あたい死神だし……てか、たとえお化けだったとして、半霊のあんたが何を困るんだい……」
呆れる小町に対し、涙目で怒る妖夢。……彼女が『一人前』になるのは、もう少し先のようである。
「こほん……ところで此処にいる、という事は小町さんも?」
「あぁ、こっちも済ませた。さっきの音は恐らくナズの字だろうから、あとは先生と合流して……」
とりあえず咳払いしつつ訊ねる妖夢に応える小町。その時だった。
「二人とも!ここにいたか!」
「え?」
「お、噂をすれば」
二人の下に飛んでくる影が一つ。勿論ナズーリンだ。何故か随分焦っている様に見えるが……?
「詳しいことはこれから話す!急いで慧音君の所に戻るぞ!」
「え、どういうことですか?」
「おいおい、どうしたんだい」
ナズーリンの尋常ではない焦り方に戸惑う二人。
「最初から複数いるのは分かってたんだ。あの時三匹もいたからそれで『全部』だと思った。だが違ったんだ!」
「なっ!それって!?」
「おいおい、まさか……!?」
二人の疑問に応えるように叫ぶ。
「あぁ、奴らはもう一体いたんだ!そしてそいつは気配を消して警戒する知恵を持ってる!恐らくそいつが一番強い!」
妖夢さんは半人前可愛い。
半人半霊なのにお化けが苦手。
だが其処が良い。
次回は慧音さんと、お待たせしました主人公のターンです。