夜道を散歩するのが趣味の少女が、口止めされる話。

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楽しい神話生物 液状生物その名は太郎!

ドルルと鳴いた黒い液状生物が、体をたゆませて人の体に飛び掛かる。ビチャリと濡れた粘質な音を出して全身を包み込み、臭い黒い煙を吐いて体を完全に取り込んだ。

 

「ビューティフォー。」パンパンと拍手する男の子が讃える。

 

「あわわ。」その過程を見届けて情けない声を出してしまった。次は私だ。

 

「あれ、君も食べられたいのかな?」

 

そんなわけがあるはずもないが言葉が出ない。

 

「あわわわ。」

 

「言葉がしゃべれないのかな?それとも鳴き声?」

 

狼狽しているだけですが、聞いてのとおり説明ができません。

 

「太郎、あの子も食べる?」黒い液状に向かって男の子は太郎と呼びました。太郎、名前だけ聞くと平和な生物が思い浮かびます。

 

「お腹いっぱいか、それじゃあ帰ろう。君もこんな時間だし早く帰った方がいいよ。」

 

右手首に巻いた腕時計は20時過ぎを指しています。家の親は共働きで帰ってくる時間も遅いので急ぐ必要もありません。でも、もう夜に出歩くのはやめようと思います。

 

食べられたくありませんから。

 

「あっ、口止めしないとね。」男の子がくるりと振り返ります。

 

太郎と呼ばれた黒いのが触手状になり、私の喉に触手を突き入れました。帰れと助言をしておいてこの仕打ち、血をコポリと吐きながら恨みました。

 

「あわわ…あ…、あわびゅっ!」血の塊を吐いて、倒れ込みました。意識を失う寸前。

 

「漫画かよ。」って男の子が言ったような気がしましたがそんなことはなかった。そうなかったのです。

 

「ま、いっか。」おのれ小僧……ガクリ。

 

 

 

 

さて、目が覚めるてみると私は白い寝室に居ました。窓から光が射し込み清々しい朝の気配を伝えてくれます。

 

傍ではやつれた顔をした母が顔に涙の跡を残しながら椅子に座って居眠りをしていました。

 

申し訳ない気持ちでいっぱいですね。

 

物音を立てないように上半身を起こして首に手を当てます。包帯が巻かれていましたが、強く押してみても痛くありません。麻酔でも効いてるのでしょうか?

 

カララと音がして、白衣のお姉さんが入ってきました。看護婦さんですね。目が合うとにっこりと笑います。母もその音で目を覚ましました。

 

ギュッと手を握られます。

 

「良かった……、良かった。」母に嗚咽混じりに強い力で片手を掴まれます。しかし、落ち着いたら間違いなく説明を求められるでしょう。

 

「曽野さん。具合はどうですか?」看護婦さんはクールに体調を聞いてきます。今はそっとしといてやるといった気遣いはしない方のようです。

 

「…………。」ぱくぱくと口を動かしました。カフーと空気が口から出ます。

 

「曽野さん?」

 

「夏枝?」

 

あわわわ、看護婦さんが顔色を変え母が心配しています。ええ、口封じ、そういうことですか。

 

「……。」看護婦さんがお医者さんを呼びに行きました。母が黙って私を抱きしめます。

 

ええ、喋れませんとも。痛みもまったくありませんが、きっとこの先声を出すことは出来ないのではないでしょうか。そういえば喉のあたりにしこりのようなものが有ります。原因はこれでしょうかねぇ……。

 

母に付き添われてお医者さんに説明を受けます。声を出せない原因が不明との事。もしかしたら怪我をした時のショックで心因性失声症になったのではとおっしゃいました。

 

母が筆記用具を出してどうして怪我をしたのか聞き出そうとします。これはお医者さんの見解にのっかるしかないでしょう。説明しにくいし。

 

"覚えてない"

 

あの少年文字通りの口止めには成功してますが、あんまり意味ないのではないでしょうか。これじゃあ不便になっただけじゃないか。

 

そんな風に思った時期もありました。トイレにて包帯を外し傷を観察。傷は浅くすぐにも退院できるとの話も納得です。そして気になっていたしこり。見た目も違和感なく、触っても異常は見受けられません。ですが確かにしこりを感じるのです。

 

手を喉に突っ込んでみました。激しい嘔吐感に襲われますが我慢してそれに触ろうとします。端から見ると奇行ですが、幸い人の目はありません。

 

確信していたのかもしれません。それの存在を。

 

指が何かに触り、迷わず掴み引きずり出します。

 

粘液にまみれたそれはズルリと音立てながら出てきました。

 

太郎です。

 

私の右手に掴まれて、細い紐のような太郎が出てきました。凄い抵抗を感じ手を離すとシュルンと口の中に引っ込みます。

 

きっとあの太郎の分身みたいなものなんでしょう。口封じというより監視にあたるのでは?と疑問に思いますが命がある分マシです。

 

もう一回引き出してみようと口に手を突っ込みましたが、太郎が嫌がり何か胃のあたりに移動したのを感じました。やりたい放題ですね。喉の違和感がないので喋ってみます。

 

「あわわ……。」ちゃんと声が出ました。胃の中のものが慌てて喉まで上がります。

 

「………。」声が途端に出なくなり、一応太郎の使命は口止めなことが確認できました。

 

誰に抗議したらいいんでしょう?

 

テケリ・リと喉から鳴き声がしました。人の中で鳴くんじゃない!っと脳内抗議をすると太郎がシュンとしました。

 

あっ、考えてることが分かるんですね。……曾野夏枝13才、どうやら道を踏み外したようです。


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