《完結》新たなHOPE! -もうひとりの戦士-   作:灰猫ジジ

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最終話です。
あとがきに色々と書いていますので、良かったらご覧くださいませ。



最終話 大団円

「悟飯くん! よかった……生きていてくれたのね……」

「はい。ご心配掛けてすみません、ブルマさん」

 

 カプセルコーポレーションに戻ってきた悟飯とトランクス。そこではブルマとマイが笑顔で出迎えてくれていた。

 人造人間が襲ってきた一週間ほど前。悟飯が一人で人造人間に立ち向かっていったのだが、全てが終わってトランクスが状況を確認しに来たとき、その場所には瓦礫のみが残されており、人造人間の姿はもちろん悟飯の姿もなかった。

 人造人間に関しては飛び去っていく姿を目撃されていたため生きていたのは分かっていたのだが、悟飯だけはどれだけ探しても見つかることはなかった。

 

「悟飯さんの気が感じられなくなってしまって……もしかしたらって……」

「トランクス……」

「何があったか説明してくれるわね? あなたの()()()()()のことも含めて」

 

 ブルマの言葉に悟飯は頷き、そして口を開く。

 

「実は、()は人造人間に殺されてしまったと思っていたんです……ですが──」

 

 淡々と何があったのかを説明していく。転移した先で死んでしまったはずのクリリンと出会ったこと。神の神殿に行ってデンデとピッコロと再会し、腕を治してもらって精神と時の部屋で修行をしてもらったこと。

 界王神界や界王星での出来事。そして、自分の父である悟空やブルマの夫、トランクスの父であるベジータとも再会したこと。

 

「そう……なの……ベジータ(あの人)にも会ったのね」

「僕の……お父さん……」

「トランクス。君の父さんはやっぱり誇り高きサイヤ人の戦士だったよ。()が前に話したときよりもずっと強く、厳しく、そして優しい人だった」

「悟飯くん……」

 

 トランクスに対し、ベジータの素晴らしさを語る悟飯。

 初めは気を遣ってベジータのことを良い風に言ってくれていたのだと思ったブルマだが、悟飯の目が嘘を語っていないことが分かって、ブルマは嬉しそうに笑う。

 

「それにしても悟飯くん、口調を変えたのね。いえ、元に戻したというのが正しいかしら?」

「あ……え、えっと……」

「別に責めている訳じゃないわよ。むしろ今のほうがずっと良いわ。前の貴方は、なんていうか自分のことを追い詰めているようだったか──」

 

 ブルマ達が話していると、突然ラジオが大きな音を立て始める。

 

〈緊急ニュースです! パセリシティに人造人間が現れました! 近くにいる市民は慌てずに避難をしてください!〉

 

 それは人造人間の襲来を知らせるニュースであった。その話を聞いて、悟飯とトランクスが反応する。

 

「悟飯さん!」

「……ああ、今度こそ人造人間たち(やつら)を倒すぞ!」

「悟飯くん! その……大丈夫なの……よね?」

 

 ブルマは心配そうに悟飯を見つめる。

 悟飯はそれに対し、薄く笑って答える。

 

「……ええ。向こうの世界で修行してきた僕は()()()()()()()()

「僕も、僕もついていっていいですよね!?」

 

 トランクスが今度こそ絶対についていくという意思を悟飯に告げる。

 少し考えた悟飯だったが、トランクスの顔を見て小さく頷く。

 

「ああ。トランクスもついて来い。この世界は僕と君で守るんだからな」

「────はいっ!」

 

 そして、この世界に残った二人の戦士は長年の決着を付けるべく、パセリシティへと向かうのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「あははははっ! ほらほら、さっさと逃げなよ!」

 

 人造人間20号は今までの鬱憤を晴らすかのように暴れまわっていた。

 

「なんだ、20号。今日はやけに遊びが少ないじゃないか」

「ふん、孫悟飯のせいでストレスが溜まっていたからね。あんただってそうじゃないのかい?」

「…………それもそうか。よし、俺もやろう」

 

 二人は悟飯との戦いで少なくないダメージを受けていた。そのため、回復するまで一週間以上の期間を大人しくしているしかなかった。

 20号の話に同意した人造人間19号は、腰を掛けていた瓦礫から立ち上がって20号の隣まで行き、逃げ惑う市民に向かって右手を伸ばす

 そして気功波を放とうとしたところに────

 

 

 

 

 

 

 

 現れたのは、孫悟飯とトランクスの二人であった。

 19号と20号は驚きの顔を見せていた。一週間ほど前に死んでいてもおかしくないダメージを与えたはずの孫悟飯が目の前にいたことに。

 そして、一切のダメージがないどころか、()()()()()()()()()()すら元に戻っていたからだ。

 

「まさか……生きていたとはな。これには流石に俺も驚いた」

「……お前達を倒すまでは死に切れなくてな」

 

 19号の素直な感想に対し、挑発するように返す悟飯。

 そのまま小さな声でトランクスへと話し掛ける。

 

「トランクス、ここは僕が一人でやる」

「え……でも……」

 

 トランクスは悟飯の言葉に対し、心配そうな声を上げる。

 一週間ちょっと別の世界で修行したとはいえ、その程度で本当に人造人間を倒せるようになったのかということまでは信じ切れていなかったのだ。

 

「大丈夫だ。ピッコロさんや僕の父さん、君のお父さんに付けてもらった修行がどれだけ凄かったのかを見せてやる」

「…………無理だけはしないでください」

 

 そう言うとトランクスは少し後ろへ下がる。この行動に反応したのは20号だった。

 

「なにごちゃごちゃ言ってるんだい!? 前回あれだけやられたってのに、もしかしてあんた一人でやるってのかい?」

「その通りだ。お前達の相手は僕一人で十分だ」

 

 その言葉に20号は青筋を立てて怒りの表情を見せる。

 

「いい度胸だ! 19号、手を出すんじゃないよ! コイツはあたしが──」

 

 

 

 

 

 

 これが人造人間20号の最後の言葉となった。

 

「────ッ!」

「…………な……」

 

 20号は決して油断していたわけではない。19号に話し掛けていたときも、悟飯の一挙手一投足を警戒していたし、実際に()()()()()()()()であれば、不意打ちを食らっても問題なく対処出来ていた。

 純粋に強さの桁が違った。ただそれだけで彼女はこの世を去ることとなったのだ。

 

「な、何が起こったというんだ……?」

 

 トランクスは悟飯の行動を追いきれていなかった。いつの間にか存在ごと消滅させられた20号は、悟飯によって行われたことなのだと気付き、目を見開いて驚いていた。

 そしてそれは19号も同じである。真隣にいた20号の姿形がいつの間にか消え去り、孫悟飯と入れ替わっていたのだ。驚かないはずがない。

 すぐにバックステップで後ろに下がり、現状の把握に努めていた。

 

「な、なにを……し……」

「……なんだ、見えていなかったのか? だが、お前の想像通りだ」

「そ、そんなわけがあるはずがないだろう! 貴様ごときに20号がやられるはずがない!」

 

 19号は珍しく感情を(あらわ)にしていた。

 不可解なことが起こったのだ、それも無理はないであろう。

 いつの間にか20号が消滅させられ、それを行ったのが目の前にいる孫悟飯と理解せざるを得ない状況なのだから。

 

(ご、悟飯さん……どんな修行をしてきたんだ……? 超サイヤ人にすらなっていないのに……)

 

 トランクスは黙っていたが、悟飯の底知れない強さにある種の恐怖を覚えていた。

 少し前にようやく背中が見えてきたと思っていた孫悟飯が、遙か先の遠いステージへと昇っていってしまったのだから。

 

「……はは。はははは! そうか、そういうことか! これは何かの間違いだ。そうに違いない! 俺達がこんなやつに負けるなど……そんなわけがないんだ!」

 

 19号は現実を受け入れることが出来ず、壊れた機械のように笑い続けていた。

 それを何の感情を見せずに見つめる悟飯。そして後ろにいるトランクスへと声を掛ける。

 

「トランクス、よく見ておけ。僕があっちの世界で手に入れた強さを!」

「ご……悟飯……さん……?」

 

 悟飯は気合いを入れ始める。まるで超サイヤ人に変身するかの如く、気を高め始める悟飯。

 しかし、彼の髪の毛や纏うオーラは黄金に変化することはない。それにも関わらず、彼の気は以前のそれとは全く違う存在へと変わっていったのだった。

 

「こ……これ……は……」

 

 トランクスは絶句していた。遥か先のステージへと行ってしまったと思っていたが、それは大きな間違いであった。

 ()()()()()──これが、トランクスが最終的に下した孫悟飯への評価だった。

 

「そうだ。何かの間違いであるならば、ここにあんなやつがいてはいけないんだ……ああ、そうだ。それなら俺が殺してやろう。孫悟飯、お前の存在をこの俺がなぁ!!」

 

 その一方で、気を感じることすら出来ない19号は未だ悟飯を受け入れることは出来ていなかった。

 それどころか狂ったかのように勝手に納得し、勝手に悟飯を倒せると勘違いし────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 一切の油断を見せることがなかった悟飯の手によって、何をされたかすら気付くこともなく、この世を去ったのだった。

 アルティメット化を解いた悟飯にトランクスが走っていく。

 

「悟飯さん! ついに……ついにやったんですね!」

「……ああ。だが、()()()

 

 

 

 

 

 ────僕達の世界を平和にするには、まだ倒さなくてはいけない人造人間がいるんだ。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 エイジ788。人造人間19号、20号の恐怖から解放された地球人は、この八年で大体の場所が復興し、元通りの生活を営むことが出来ていた。

 

「はああぁぁあ!」

「そうだ! それで良いぞ!」

 

 三十一歳になった悟飯と二十二歳のトランクスは、いつものように修行を繰り返していた。

 

「まったく悟飯ちゃんってば、悟空さみたいに修行ばっかして!」

「それは父親に似たのかもしれないわね。うちのトランクスもベジータみたいにトレーニングの鬼になってるもの。これじゃあマイが可哀想だわ」

 

 パオズ山で修行をしていた二人を、チチとブルマは呆れた顔で見ていた。

 八年前に19号達を倒した悟飯は、パオズ山に残した母であるチチの元へと帰っていった。

 夜に自分の家の扉をノックする音。多少の警戒をしていたチチが扉を開けたときに見た光景は、今でも忘れることは出来なかったであろう。

 

「人造人間がいなくなって、悟飯ちゃんが戻ってきた時は本当に嬉しかっただ。これで本当に平和が戻ったんだなって思っただよ」

「そうね。でも()()()()()()()()って聞いたときは、私も血の気が引いて倒れるかと思ったわよ」

 

 まだ終わりではない。その情報は平行世界で聞いた情報なのだと言う悟飯の言葉を鵜呑みにはしたくなかった。

 だが、たった一週間ほどで人造人間を倒すだけの力を身に着けていた悟飯が夢を見ていたとも思えなかったのだ。

 

「いつになったら現れるのかしらね? その()()ってやつは──」

「悟飯さん!!」

「……ついに来たか」

 

 ブルマの声を遮るかのようにトランクスと悟飯がなにかに反応を示した。

 そして同じ方向へと飛び去っていく。

 チチとブルマは()()()()()()()とお互いに目を合わせて頷く。

 

「ま、あの二人に任せておけば大丈夫ね。私達はのんびりしていましょ」

「それがいいだ。悟飯ちゃん達なら大丈夫だ。それよかもう三十一歳になるのに、彼女の一人すら出来ないのが心配だぁ」

「あら、こっちもマイが散々アピールしているのに、修行をするからって一切構わないのよ? 毎回落ち込むマイを見てると、流石に可哀想って思うわ……」

 

 サイヤ人の血を引く子供を持つ母親は息子の将来を心配し、二人してため息を吐くのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

(ようやくあの研究所から出ることが出来たか……まずは生体エネルギーを集めて、そのあとに19号と20号を吸収すれば、私は()()()へとなることが出来るのだ……)

 

 長い尻尾を生やし、全身緑色の虫のような姿をした物体は地下研究所で目覚め、地上へと登ってきた。

 自らが完全体へと進化するための手順を考えていたのだが、ふと何かがおかしいことに気が付く。

 

「19号と20号の反応が……ない……だと……?」

 

 19号達は人造人間のため、気で感じることは出来ない。だからこそドクターゲロが作った特殊な超小型装置によって居場所を把握できるようになっていたのだが、その反応が一切無かったのだった。

 何が起こっているのか分からず、戸惑っていると上空から声が聞こえてきた。

 

「それはもう()()()()()()()からさ、セルよ」

「──!? 誰だ!?」

 

 セルと呼ばれた存在が上を向くと、そこには悟飯とトランクスの姿があった。

 

「その気は……孫悟飯とトランクスだな? 19号達がいないというのはどういうことだ?」

「僕が倒してしまった、ということだ」

「……ふん。そんなこと信じられるわけがないだろう。スパイロボによってお前達のデータは八年前に揃っている。変身して戦闘力を上げるようだが、その程度の強さでは19号達に勝てるわけがない」

 

 セルは悟飯の言葉を鼻で笑っていた。八年前にスパイロボットによるデータ採取は終えており、ドクターゲロが作った機械はそれ以降、セル誕生までの最後の仕上げに注力していたのだった。

 

「……まぁそれはどちらでもいいさ。セル、お前を倒せばそれで全てが終わる」

 

 悟飯の言葉にセルは一切耳を傾けようとはしない。それ以前に彼からすると、悟飯達は格好の餌にしか見えていなかったのだ。

 目覚めたばかりで極上の生体エネルギーを味わえると思うと、それだけで涎が止まらなくなりそうでになっていたセル。

 そこにトランクスが前に出る。

 

「悟飯さん、ここは僕にやらせてください」

「……いいだろう、やってみろ」

 

 トランクスが単独でセルと戦うと言い出す。悟飯もそれを了承したことで、セルは内心喜びが隠せなかった。

 強さで勝っていていても、二対一。何が起こるか分からないのが勝負なのである。

 それをわざわざ弱い方から餌として差し出してくれるというのだ。セルからしても受け入れないはずがなかった。

 

「まずはトランクス、お前からか。見てみるがいい、これが私の真の強さ──」

「はああぁぁぁあああ!!!」

 

 セルがトランクスを驚かそうと気を高めていこうとしたところで、トランクスが先に超サイヤ人へと変身していく。

 

(ふん、その程度の戦闘力の上昇なら許容範囲内だ……な、なん……だと……!?)

 

 データにあった黄金の姿に変身したと思っていたセル。八年前から多少は強くなっていたとしても、それは許容範囲内であると()()()()()()

 しかし、トランクスはもう一段階の成長をしていた。髪は更に逆立ち、黄金のオーラは力強く、そして雷を纏ったかのようにスパークしていた。

 

「な……なんだそれは!? そんなものスパイロボのデータには無かったぞ!」

「行くぞ、セル!」

 

 トランクスが姿を消したかと思うと、次の瞬間にはセルの腹を殴っていた。

 

「ぐばぁぁ!」

 

 セルが悶絶する時間すら与えず、顎にアッパーを喰らわせ、そのままラッシュをしてセルにダメージを与えていく。

 超サイヤ人2へと変身できるようになっていたトランクスの一撃はとても重く、防御はおろか、躱すことなども到底出来るわけがなかった。

 

「ぬぅぅぅ! こうなったら、これでどうだ!」

 

 セルはトランクスから生体エネルギーを奪おうと、尻尾で突き刺そうとする。

 しかし、その攻撃は読まれており、尻尾を掴んだトランクスはセルを振り回して、その勢いで尻尾を引きちぎる。

 

「ぬ、ぬぐわあぁぁぁあ!!」

 

 尻尾を引きちぎられたセルは数m程吹っ飛び、倒れ込んでしまう。

 

「こ、こんなことが……こんなことがあるわけがない! 私はドクターゲロが作った人造人間セルなのだ! 完全体にならずに死んでたまるかぁぁ!」

 

 ピッコロの遺伝子を継いでいるため再生できるはずなのだが、激しく動揺しているためか再生をしようとせず、尻尾が生えていたところからは青い血が(したた)り落ちていた。

 そして、ゆっくりと浮かび上がっていく。

 

(今なら逃げられるぞ……青二才が油断しおって!)

 

()()()()()と、本当にそう思っているのか?」

 

 生まれたばかりのセルにとって、この世界の現実は甘くなかった。

 別の平行世界であれば、逃げられる可能性もあったかもしれない。しかし、この世界に残った二人の戦士には甘さも油断も一切無い。

 浮かび上がった後ろにいたアルティメット化している悟飯の姿を見て、セルは冷や汗を流していた。

 

「く、くそぉぉぉぉぉ! くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 セルは自身の最期を悟り、絶望からか叫ぶしか出来なかった。

 だが、彼にもプライドというものはある。己の死を覚悟したからこそ、最後の攻撃に打って出ようとする。

 

「こうなったらお前達も道連れにしてやる……この地球ごと道連れにしてやるぞぉぉぉ!!!」

 

 空中で急に風船のように膨らみ始めたセル。

 だが、今の悟飯にはそれすらも通用しなかった。

 

「爆発しようとしても無駄だ。お前はここで死ぬんだ。()()()()()()()

 

 膨れ上がっていくセルを両手で掴む悟飯。

 

「や、やめ……やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

 何をされるのかに気付いたセル。しかし、膨れ上がった彼には抵抗は一切出来なかった。

 そして、思い切り上空へと放り投げると、右腰に両手を持っていき、気を溜め始める。

 

「かめはめ…………波ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 悟飯の両手から放たれた青い閃光。それは亀仙人が生み出し、その弟子である孫悟飯に継承され、悟飯の義孫である孫悟空も得意としていた技。

 彼らの思いも込めて、全てを終わらせる一撃が宇宙空間にまで吹き飛んだセルへと直撃する。

 

「ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ…………」

 

 セルは悟飯のかめはめ波によって完全に消滅してしまう。

 再生するために必要な頭の中にある核すらも消滅してしまったので、文字通りチリ一つ残っていなかった。

 

「悟飯さん……やりましたね」

「……ああ!」

 

 悟飯の隣に来たトランクスは悟飯に声を掛けて拳を突き出す。

 そして、悟飯は返事をし、トランクスの拳に自らの拳を合わせる。

 

(これで……これでようやく終わったんだ……やりましたよ、お父さん……!)

 

 こうして、人造人間セルを倒した悟飯達の世界にようやく本当の平和が取り戻されたのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ほら! 蝶ネクタイがズレているわよ!」

「え……か、母さん……恥ずかしいな……」

 

 セルを倒してから一年の年月が流れていた。

 この日、西の都にある教会では結婚式が開かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トランクスよ、あなたはマイを妻とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、妻を愛し敬い、慰め合い共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「は、はい! 誓います!」

 

「マイよ、あなたはトランクスを夫とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、夫を愛し敬い、慰め合い共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「それでは指輪の交換を」

 

 神父に促され、指輪の交換をするマイとトランクス。

 

「それでは誓いのキスを」

 

 照れながらも誓いのキスを交わす二人。

 その直後、出席者からは大きな拍手と歓声が沸き上がるのだった。

 

「おめでとう!」

「ちゃんとマイちゃんを大切にするんだぞ!」

「マイちゃん……結局金持ちのイケメンに取られてしまうのか……」

「いや、人妻のマイちゃんも……悪くない……」

 

 やや方向性がズレた歓声もあったようだが、ほとんどが祝福の声であったため、誰が発したのかは分からずじまいであった。

 

 マイはブルマのアドバイスを参考にして、強引にトランクスへと迫ることによってその心を射止めることに成功していた。

 しかし、それは初心(うぶ)な彼女にとって苦行であり、今思い返しても良くあそこまでの行動が出来たものだと自分を褒めてやりたいとマイ自身も思っている。

 愛はその人の行動も変えてしまうということなのであろうとマイは結論づけることで、あのときの行動を正当化することにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、二人の今後の幸せな人生を祝して、かんぱーーーーい!」

 

 ブルマの声で、全員がグラスを上げる。

 この九年で以前よりも会社としての規模が大きくなったカプセルコーポレーション。彼らが所有する広すぎる土地の一角に披露宴会場を設置し、様々な著名人が招待された披露宴が盛大に執り行われていた。

 

「お坊ちゃんのご結婚、おめでとうございます。つきましては、今後とも弊社とのお付き合いもよろしくお願いいたします」

「トランクス坊ちゃまのご結婚、おめでとうございます。これで子供も出来れば、跡継ぎも安泰ですな!」

 

 様々な思惑を持った者も、純粋に祝福したいと思っていた者もたくさん集まっていたのだが、そこには一風変わった者ももちろんいた。

 

「ちょっと、パパ! 飲みすぎよ!」

「なんだぁ? 良いじゃないか飲んだって! 世界チャンピオンのミスター・サタンはこれくらいで酒に飲まれるわけがなぁぁ……むにゃむにゃ」

「あ、ちょっと、パパってば!」

 

 人造人間がいなくなってから娯楽に飢えていた者たちによって、久々に開催された天下一武道会。

 そこでチャンピオンとなったミスター・サタンも披露宴に呼ばれていた。

 横には酔い潰れた父を健気に介抱しようとする娘。

 

「ああ、もうどうしよう! せっかくおめかししてきたのにぃぃ!」

 

 未だ独身であった彼女は、今回の披露宴で何か良い出会いがあるのではないかと期待し、一生懸命化粧をして、綺麗なドレスを身に纏っていた。

 実際にその姿は見惚れるものがあり、何人もの男性がいつ声を掛けようかとチャンスを伺っていた。

 そして、そのチャンスが来たとばかりに男どもが群がって来たそのときだった。

 

「……大丈夫ですか?」

「え、あ、はい。父が酔い潰れてしまっ……」

 

 声を掛けられて振り向いたとき、彼女は固まってしまった。

 スーツに身を包んだ男性。細身ではあるが、服の上からでも鍛え上げられているのが分かる身体。

 そして傷は付いているが、その顔は整っていた。

 

「では医務室に運びましょうか。僕が運ぶので」

「え、あ、でも、父は格闘家なので、こう見えて結構重い──」

 

 重いので一人で運ぶのは難しいのではないかと言おうとしたのだが、軽々とミスター・サタンを持ち上げる男性。

 やせ我慢をしているわけではなく、本当に軽々と持ち上げていたのだ。

 

(え、嘘……な、なんで……?)

 

 その男性の身体がいくら鍛え上げられているとはいっても、ミスター・サタンも世界チャンピオンになるレベルで鍛えている。

 彼の鍛えた筋肉でできた身体は、常人の男性では持ち上げることなど決して出来ないほどの体重はあったのだ。

 

「それでは行きましょうか」

「え、でも会場から勝手に出ても大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 そう言いながら勝手に会場から出ていこうとする男性。

 今回招待されているとはいえ、ここは機密情報が多い世界一の大企業。

 勝手にうろつくことなど許されるはずがなかったのだったのだが──。

 

「こんにちは。ちょっと医務室まで連れて行きますね」

「かしこまりました! 自分が代わりに運びましょうか?」

「僕が運ぶので大丈夫ですよ。それよりもこんな日にまでご苦労さまです」

「いえ! ありがとうございます、悟飯さん!」

 

 警備員とも仲良く話す悟飯と呼ばれた男性。そのまま黙って医務室まで付いていく。

 

「よし、これでちょっと寝ていれば大丈夫かな」

「あの……本当にありがとうございます」

 

 いびきをかいている父親の横で、改めて頭を下げる。

 悟飯は「気にしなくて大丈夫ですよ」と笑顔で返事をしたが、その顔を見て更に自分の顔を赤くしてしまう。

 

「それじゃあこの後はどうしましょうか? お父さんに付いていますか?」

「えっと、その……」

 

 次の言葉が出てこない。何を話して良いのかが分からない。今までなかった経験にミスター・サタンの娘は戸惑うが、それでも何か話さなければならないと口を開く。

 

「私はビーデルといいます! よろしくお願いします!」

「……え、あ、ビーデルさんですね。僕は孫悟飯といいます」

 

 悟飯の質問に対し、自分の名前を名乗るというよく分からない返事をしてしまったビーデル。

 それに対し、悟飯は多少戸惑ったものの、自分も自己紹介をしてないことに気付き、名前を名乗っていた。

 

(……って、私ってば何言ってるのよ! 悟飯さんが聞いてくれていたのに、なんだか頭が真っ白になっちゃって……)

 

 一人で、悶えているビーデル。その様子を見ながら、悟飯も考え事をしていた。

 

(ビーデルさんってもしかして……!)

 

 どこかで聞いたことがある名前だった。それは平行世界で悟空が語っていた自身の妻の名前。

 同じ名前など世の中にたくさんいるであろう。だが名前が同じということで、悟飯も少しずつ彼女を意識し始めてしまっていた。

 

「「あ、あの!」」

 

 何かを話さなければならないと同時に口を開く二人。

 お互いに「先にどうぞ」、「いえいえ、そちらが先にどうぞ」という応酬が始まる。

 

「ぷっ」

「ふふっ」

 

 何回かのやり取りのあと、どちらがともなく吹き出す。

 

「「あははははははっ!」」

 

 

 

 

 これがこの世界での孫悟飯とビーデルの初めての出会いとなった。

 そして更に一年後、この二人もめでたく結婚することとなるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 こうして本当であれば生まれるはずがなかった世界が一つの結末を迎える。

 彼らは新たな希望を手に、これからも地球を守り続けるのだろう。

 悟空から受け継いだバトンを絶やすことなく。

 

 

 

 

 

〜Fin〜

 




本話にて「新たなHOPE! -もうひとりの戦士-」の物語は一旦完結を迎えました。
短いお話でしたが、ここまでご覧いただき、本当にありがとうございました。

この話を書くきっかけとなったのは、やはり未来悟飯の不遇さが悲しいと思ったからです。
そして、未来悟飯のことをご存知であれば、幸せな未来があっても絶対にいいだろうと思うでしょう。
それを拙い文章ではありますが、私が書きたいと思った次第です。

あとはツンデレさんをちゃんとツンデレさんとして書きたいと思ったんです。
ピッコ……ツンデレさんってああいう感じだから好きなんですよね。

この後の話についてはプロットは用意しているのですが、書くかどうかでまだ悩んでいます。
ただ正直に言うと、私って結構おだてられると頑張ってしまうタイプなので、高評価をたくさん頂けたり、嬉しい感想をたくさん書いてくださることで、執筆意欲もかなり増すと思います。

ですので、アンケートを答えてくださった皆様、お気に入り登録をしてくださった皆様。
どうか高評価やご感想を頂けたら幸いです。

感想欄は少しの間だけですが、非ログインユーザーも書けるようにしておきます。
これからもぜひ応援をよろしくお願いいたします。

改めまして、ここまでご覧いただいたことに感謝申し上げます。
本当にありがとうございました!

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